第六章 二つの顔
翌月、クレメンスはオットーに側近役を打診した。
宰相の諮問役。名目上は末席だったが、実質的にはクレメンスの十二進法政策の相談相手としての要請だった。
オットーは驚いた。
この男のことは、守旧派の長だと思っていた。
議場ではこの一ヶ月、オットーの主張はクレメンスによっていなされ続けた。
そして、隣国からの十二進法の流入を、会議を踊らせ拒み続ける男。以前からそう認識していた。
しかし、執務室でオットーに初めて発せられた言葉は、議場のそれとは違った。
「十二の度量衡を内陸に広げる手順を考えろ。ただし、十四の『慣習』は壊すな」
クレメンスは平然とそう言った。
オットーは気づいた。この男は自分の主張をいなしこそすれ、遮ることなく最後まで聞いていた。
そしてその言葉は、十二を入れること自体に何の抵抗もないように聞こえた。
クレメンスの傍で、オットーは「踊り」の裏側を見た。
この男が議場で守旧派の顔をしているとき、執務室では十二の導入計画を進めていた。港湾の度量衡を十二進法に沿って制度化し、商人への規制を緩め、十二個入りの梱包を事実上推奨していたと聞いた。
「議場では反対し、執務室では推進する。それは矛盾ではないのですか」
オットーが問うと、クレメンスは書類から顔を上げずに答えた。
「矛盾か。十四が七と七で成り立っているように、政治も二つの顔で成り立っている。片方だけでは倒れる。そもそも、私が一度でも反対したか?」
「いえ、そういうわけでは。ただ、受け入れないのはつまり反対なのだと……」
クレメンスはオットーが言い終わる前に返した。
「考えすぎだ。今、何が必要なのかだけを考えろ」
その年、もう一人の若い男が議場に入った。
アウグストといった。官吏の家の出身で、法学を修めていた。
オットーより二つ年上。議場での発言は少なかったが、書類の処理は誰より速かった。数字を扱わせれば、十二でも十四でも正確だった。
そして、周囲に十二進法の優位性を説いて回った。
オットーとアウグストは、自然に隣り合うようになった。
改革を志す若手という括りで、周囲がそう並べた。
オットーはアウグストの実務能力に一目を置き、盟友と称した。
ほどなくしてアウグストもクレメンスに呼ばれ、オットーと共に諮問役に加えられた。
アウグストは、クレメンスの政治家としての巧みさを評価していた。
「あの方は巧い。あの舞踏会の一件。ガリエンの使節の心理を読んで、七拍子で揺さぶった。見事な戦術だと思う」
オットーは黙って聞いていた。戦術。その言葉に、かすかな違和感があった。だが何が違うのか、まだ言葉にできなかった。
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