第十ニ話「死ねる?」
「……出した罰として…」
囁く声は耳の奥をくすぐるように甘く、それでいて冷酷だった。
「お預けだよ…♡」
“罰”という言葉。
そして“お預け”という宣告。
その二つが耳に落ちた瞬間、司の心臓は締め付けられるように激しく高鳴る。
耐えがたい屈辱と、それを上回る快楽が胸を焼き、全身を駆け抜けた。
そして──ゆりはするりと身体を回転させ、司の腰に跨り直した。
覆いかぶさっていた影が逆転し、司の視界いっぱいに広がるのは、彼女のなまめかしい下半身。
わずかに揺れる艶やかな腰つきと、そこに覗く敏感な箇所が目の前に迫り、司の呼吸は一気に浅くなる。
一方で、ゆりの唇は司の下半身へと降りていった。
「……よしって言うまで……触っちゃだめだよ?」
耳に落ちる甘すぎる囁き。
吐息混じりの声と同時に、ゆりの唇から漏れる熱い息が司の昂ぶりへと降りかかる。
力を失ったはずの司のものは、その瞬間に再び鼓動を打ちはじめた。
濃く熱い液にまみれたその先端へ、ゆりの舌が、ゆっくりと、ねっとりと這う。
ぬるり……。
自分の液と、ゆりの唾液が絡み合い、まとわりつき、滑る。
全身の神経がそこ一点に集中するような強烈な感触に、司の身体は自然と跳ね上がる。
視線の先、目の前にあるのは、艶やかに濡れ、わずかに開いたゆりの最も美しい場所。
吐息とともに甘やかな香りが鼻をくすぐり、目に映るその光景が司の理性を再び掻き消していく。
「っあぁ…ゆりさんっ…ああっ…はぁ…はぁ…っ!」
喉の奥から洩れる苦しげで甘い声。
司の先端がゆりの口内に包み込まれ、熱と柔らかさが絡み合う感触に、下半身が痺れるように震えた。
舌先が這う度に、息を整える余裕もなく、司の胸は大きく上下する。
目の前、わずかに揺れるゆりの腰、露わになった秘めた場所。
光を反射して艶めくそこを、司は目を見開いて隅々まで凝視する。
それだけで、意識が飛びそうになるほどの誘惑だった。
「……っはぁ、あぁっ…!」
ほんの数瞬で、先ほど熱を吐き出し萎えかけていた司のものは再び力を取り戻し、みるみるうちに硬さを増していく。
その変化を舌先で確かめるように味わいながら、ゆりは静かに笑みを浮かべた。
そして、ずぶっ…と奥へ奥へと司の昂ぶりを受け入れ、喉奥まで押し込む。
その後はわざと緩急をつけて、深く沈め、浅く抜く。
ゆっくりと、また強弱をつけて、じわじわと支配するように頭を上下に動かしていく。
濡れた音が控えめに、しかしいやらしく室内に響いた。
(…軽く吸って…)
蓮の言葉が再びゆりの頭の中に木霊した。
その記憶に導かれるように、ゆりはほんの少し口内に吸引力を込め、舌と唇で司をきゅっと包み込む。
「…おぉ…っふぅっ…はぁっ…ああ…っ」
司の喉から、今にも泣き出しそうな切羽詰まった吐息が溢れる。
胸は大きく上下し、熱い呼吸がゆりの下半身をじかに撫でていく。
くすぐったいほどに熱い。
ゆりは下半身に司の興奮を感じ取ると、わざと焦らすように、ほんの少し腰を落とした。
敏感な部分を司の顔へ、ぎりぎりの距離まで近づける。
その時、記憶が蘇る。
あの夜、蓮の眼差し。
蓮の指によって、閉じたり、開いたり、わざと視線を絡めるように動かされた自分の入口部分。
ゆりはその感覚をなぞるように、片手の指を伸ばす。
司の眼前で、濡れた花びらを指で閉じ…そして開く。
くぱっ…くぱっ…と湿り気を帯びた音が、狭い空間に淫靡に響いた。
赤く腫れた突起は露わになり、溢れる蜜が絹糸を引いて艶めく。
司の鼻先に触れそうで触れない距離。
甘酸っぱい匂いが立ちのぼり、司の嗅覚を容赦なく犯していく。
「スーーっはあぁーーっ…スーーっはあぁーーっ…!」
鼻から必死に吸い込み、口から荒く吐き出す。
理性を失ったその呼吸音は、獣のそれのように荒々しい。
甘美な匂いに頭の芯まで侵され、先程まで限界まで見開いていた瞳は、ついに虚ろに揺らぎ始めた。
ゆりの口内に含まれていた司のものが、びくびくとさらに脈打ち始めたのを舌先で感じ取った。
その反応を見逃さず、ゆりは上下の動きを急に速め、わざと強弱をつけながら攻め立てる。
視覚には露わになったゆりの花びら。
嗅覚に濃い甘酸っぱい匂い。
聴覚には閉じて開く粘膜の濡れた音。
そして下半身に伝わる熱と舌の刺激。
司の五感すべてが容赦なく支配され、頭は今にも狂い落ちそうだった。
必死に自制しようとする理性とは裏腹に、身体は勝手に動く。
無意識に唇がわずかに開き、停止する思考の中で自然と伸びた司の舌が
目の前にあるゆりの敏感な突起に触れてしまった。
「……んっ!」
その瞬間、ゆりの身体がびくんと跳ねる。
けれど次の瞬間には、バッと勢いよく腰を浮かせて距離を取った。
そして膝立ちの姿勢で司の横に移動すると、抜き取ったベルトを振り下ろす。
パシンッッ!!!
「あぁ…っ!!」
鋭い音が室内に響き渡り、司の胸に焼けつくような熱が走る。
「まだよしって言ってないっ!!」
ゆりの叱責が雷のように落ちる。
身体に走る革の衝撃が、逆に強烈な快感へと変わり、司はもう辛抱できなかった。
ベッドに倒れ込んでいた上体を勢いよく起き上がらせ、そのまま無意識のままゆりへと縋りつく。
両腕でがむしゃらにゆりの太ももを抱きしめる。
頬を押しつけ、声を震わせながら必死に縋った。
「……お願いです…っどうか…っゆりさん…!」
まだ今日は一度も触れることさえ許されていない。
キスすら与えられていない。
なのに、目の前で晒され、香りを浴びせられた花びらも突起も、全てが脳裏に焼きついて離れない。
その光景を前に、与えられ続ける焦らしとお預け。
これ以上は、地獄だ。
耐えられるはずがない。
司の心は、哀願と渇望で壊れそうになっていた。
「…はぁ…舐めたいで…す…ゆりさんに…さわり…たいですっ…うぅっ…」
かすれた哀願の声が、熱と涙に震えて掠れる。
ベルトを振り上げていたゆりの腕が、空中でピタリと止まった。
頬を必死に彼女の太ももへ擦りつけ、唇を這わせるように縋りつく司。
もはや正気の欠片もなく、ただ欲望と屈服の色だけを滲ませたその姿は、権力者の顔などどこにもなかった。
ゆりの視界に映るのは、己の足元で跪き、惨めに崩れ落ちる男。
スッと、ゆりの手から力が抜けて、ベルトが静かに下ろされる。
「………もう、スタッフを見下したり…私たちの仕事を馬鹿にするようなこと…言わない…?」
その声音は、厳しさと優しさが入り混じった、試すような響きだった。
「……言いません…約束します…っ」
荒い息を吐きながら、司は必死に言葉を紡ぐ。
太ももにすがりついたまま、唇を這わせ、震える声で繰り返す。
ゆりはその頭に手を置くと、優しく撫で、指先で髪を梳いた。
撫でる仕草は、まるで主が忠犬をあやすようでそこにあるのは圧倒的な主従の構図。
「これから私の言うこと、何でも聞ける…?」
甘くも冷徹な声。
囁くようでいて、命令の響きを持った言葉。
「……どんなことでも…ゆりさんの…言いなりになります…はぁ…はぁ…っ」
吐き出すように告げられた言葉。
それは奴隷の誓いにも等しい。
なのに司の胸は、抑えがたいほどに高鳴っていた。
羞恥のはずの言葉が、屈辱のはずの宣言が、むしろ全身を熱で焼き尽くす。
その矛盾した昂ぶりに震えながら、司はゆりの太ももに唇を押しつけ続ける。
ゆりはその様子を見ると悪魔のような笑みを浮かべた。
「……私が死ねって言ったら……死ねる?」
その言葉は刃のように鋭く、しかし甘美な毒のように司の鼓膜へと突き刺さった。
あまりに強烈すぎる響きに、司は放心したまま頬を赤らめて、恍惚とした表情でゆりを見上げる。
「……すべてを……この命すら…ゆりさんに捧げます……」
声は震え、荒い呼吸に掻き消されながらも、その言葉は確かに空気を震わせた。
かつて数多の者を支配してきた男の姿はもうなく、今ここにいるのはただ一人の女にすべてを明け渡した従属者。
.
見ろ、この男のなんと情けないことか。
その惨めさが、なぜこんなにも甘美なのか。
.
胸の奥が焼けるように昂ぶり、ゆりはたまらず司の身体を押し倒した。
ベッドに沈む司の背。
その上に逆向きに跨り、先程の体勢へと戻ると、司の面前に艶やかに滴る自らの下半身を突きつける。
「……よしっ♡」
その一言は、まるで犬に与える号令。
だが、司にとっては待ち焦がれた祝福の鐘の音。
合図が響いた瞬間、司の両手は狂おしいほどの勢いでゆりの下半身に顔を埋め、指先で花びらを全開に開いた。
喉の奥から熱い息をもらしながら、夢中でしゃぶりつく。
大きな音を立てて吸い付く音が、部屋に生々しく響いた。
司は頭を激しく上下に揺らし、ときに左右に振りながら、舌を隅々まで這わせる。
視線は逸らさず、目の前に開かれた花びらを凝視し、自らの指を何度も抜き差しする。
「あっ…!…はぁ…っあぁっ!」
ゆりは堪え切れず声を張り上げた。
無我夢中で、羞恥も理性もかなぐり捨てて求めてくるその舌と指。
必死なまでに貪られる快感は、背筋を痺れさせ、この上ない甘美な刺激となって全身を支配する。
蜜は留まることを知らず、とめどなく溢れ出した。
司はそれを一滴も逃さぬように舌を目一杯突き出し、奥へ奥へと差し込んで、舌先で根こそぎ絡め取る。
濡れた花びらごと口の中に押しつけ、思い切り音を立てて吸引する。
その音があまりにも生々しく、ゆりの背中が大きく弓なりに反る。
ゴクッと音を立てて飲み干す司の喉が、ゆりの下半身から直に伝わった。
「……はぁっ…はぁ…っおいしい…ゆりさんの…おいしいです…」
虚ろな目で、狂気のように笑みを浮かべ、舌を突起に押し付けて回し、上下に舐め上げる。
蜜が新たに溢れれば、再び奥まで舌を差し込み、貪欲に吸い込み、飲み込む。
何度も、何度も。
夢中で舐め、啜り、飲み干し、全身でその味を堪能する。
止まらぬ刺激の奔流に、ゆりは一気に限界を超えた。
全身を波のような快感が駆け抜け、声を張り上げながら大きく痙攣し、あっという間に絶頂へと叩き落とされた。
ゆりの全身は、絶頂の余韻にまだ小さく痙攣を繰り返しているもその震えを抱えたまま、焦燥に駆られるように司の上に身体を翻した。
両手を司の顔の両サイドあたりにベッドに突いた。
熱くそそり立つ司を自らの入口に押し当てると、目尻を赤らめて甘い吐息を零す。
「…司ぁ…気持ちいよぉ…司…はぁ…」
目尻を垂らし、潤んだ瞳で見下ろしながら、片手で司の頭を優しく撫でる。
その仕草の甘やかさとは裏腹に、腰は確固とした意志を持って動いた。
「…逝く時は…はぁ…はぁ…ちゃんと言ってね…っ」
艶やかな笑みと共にそう告げると、ゆりはグッと両脚に力を込めた。
自分の腰を司の腰へ押し付けるように沈めて──
ずぷっ、ぐーーーっ……と奥底まで、司を根元から突き当たりまで強く押し込んだ。
自らの意思で深く押し込んだ瞬間、奥に突き当たる痺れと痙攣の波が一気に広がる。
ブルブルッとした震えが腰から全身へ駆け上がり、ゆりは堪らず付いている手の力が抜けるようにそのまま顔を落として、司の唇に自分の唇を押し当てた。
舌を絡めながら、なおも腰を前へ前へとぐっと押し付け続ける。
まるで、自分で快楽を掴み取ろうとするように。
「…あぁーーーっ…はっ…はぁ…っ」
舌を絡めたまま、堪え切れない快楽に声を漏らすゆり。
自らの中に司を奥まで押し込み、ゆりは自分で腰を小刻みに震わせる。
奥の突き当たり、子宮の入口付近を擦りつけるようなその動きは、自らを更なる快楽の沼へと追い詰める行為だった。
白目を剥きそうなほどの絶頂に飲み込まれ、限界を迎えたゆりは司から唇を離す。
力なく司の肩へ身体を預け、耳元へ荒い吐息をかけながら、布団に額を落とすように項垂れた。
ゆりの腰の上下の動きは止まる。
けれどゆりの内側は、ぎゅっ…ぎゅっ…と脈打つように司を締めつける。
まるで心臓の鼓動がそのまま奥で脈動しているかのように。
耳元で聞こえる深く熱い息遣い、ビクンビクンと自分の身体の上で力無く身体を震わせる痙攣。
その全てが、司の自制心を焼き切った。
司は両腕を伸ばし、震えるゆりの太ももを鷲掴みにする。
そして一気に左右へと全開に開かせると、司は勢いよく腰を突き上げた。
下から突き上げられた衝撃に、ゆりの身体が大きく跳ね上がる。
絶頂の余韻をかき乱すような力強さに、ゆりは再び声を張り上げた。
一心不乱に、解き放たれた本能のまま司は動き続けた。
先ほどまで強引に抑え込まれていた反動のように、止まらない衝動。
時に激しく、打ちつけるように。
時にゆっくり、ねっとりと奥から浅い場所へと往復するように。
その奥へ沈む感触を、浅く抜けていく感触を、ひとつ残らず味わい尽くすかのように。
「…ゆり…さんっ…!出ます…っ、い、逝きます…っ、ゆりさんっ…!」
「….はぁ……ああ…….あー…はあ……あん…はあ……」
熱に浮かされた声で吐き出す懇願。
それに対してゆりは熱く喘ぐだけで具体的な言葉を返さずだか、司は自分の頬に押し付けられたゆりの顔が、こくん、と小さく頷くのを確かに感じ取った。
最後の理性を手放すように、動きをさらに激しく加速させる。
突き当たりを叩くたび、ゆりの身体が小刻みに跳ねる。
そして、声を上げ、目の奥を反らしながら、司はゆりの奥の突き当たりで二度目の熱を放ち切った。
全身を痙攣させ、荒く息を吐きながら、ゆりの内側でその全てを注ぎ込んだ。
────────。
司はゆりを腕枕に抱え込み、二人は生まれたままの姿で布団に身を沈めていた。
互いの体温が布団の中で重なり合い、息づかいさえも一つに混ざっていく。
「あ……お薬を……」
司が思い出したように身を起こそうとした瞬間。
司の身体に回していたゆりの腕に力が込められ、すぐに彼の身体を抱き止めた。
「……大丈夫。」
「え……?」
司が目を瞬くと、ゆりは上目遣いに見上げ、柔らかな微笑みを浮かべた。
その仕草は、ほんの少し前まで狂気すら纏っていた姿からは到底想像できない、年相応に可愛らしい少女のような表情だった。
「ピル飲んでる。だって司、避妊しないんだもん。」
「──!」
胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
彼女の中で、自分は前回の一夜限りの関係じゃなかった。
継続的な関係の為、万全の準備をしてくれていた。
その喜びと同時に胸を締め付けたのは、自分の無責任さが、彼女に負担を背負わせているという事実。
苛まれるように、司は咄嗟に言葉を返した。
「すみません私のせいで…病院代も、お薬代も、もちろん手間代も多めに。全部、払わせてください。通院も必ず送迎しますから」
「手間代って…パパ活になっちゃうよ。」
「なんですかパパ活って。」
「援助交際ってこと!もー司はおじさんなんだから」
「そんなつもりはありません!」
「だからいいよ、そこまでしなくて。」
「……させてください。ゆりさんが、私のためにしてくれていることなんです。私の気が済みません。これはパパ活じゃありません。」
覚えたての言葉を無理して使う司に、ゆりは一瞬きょとんとし、そして思わず口元を緩めた。
真剣で必死なのに、どこか不器用でかわいらしい。
「……そこまで言うなら…もうっ、わかったよ。」
照れたように頬を少し膨らませ、子供のように呟く。
やがてふいに上体を起こすと、白い腕が司の後頭部に回され、そのまま唇が重ねられた。
先ほどまでの冷酷で妖艶な支配者の顔とはまるで違う。
甘えてくるような、可愛らしく柔らかな表情。
その落差に、司の心は一瞬で掻き乱され、抗いようのない愛しさと幸福感に呑み込まれていった。
まだコメントはありません。最初のひとことをどうぞ。