第7章 夢の村
たどりついた場所に、村があった。
壁の外に飛び出した子どもたちが集まってつくった村だ。きまりがない。絵描きがいて、音楽家がいて、料理人がいて、踊り子がいた。絵描きは壁に絵をかき、音楽家は朝から晩まで楽器をならし、料理人は誰かれかまわず食べものを配り、踊り子は雨の日でも踊っていた。
村のまんなかには、大きな木があった。幹が太くて、枝が空にむかって何本も何本ものびていた。みんなそれを「魂の木」と呼んでいた。木の下に座ると、地面の温もりが腰から背中にのぼってきた。
そこで僕は、一人の女の子に出会った。
その子は、木の根元に座って、目をとじて、耳をすませていた。風がその子の髪をゆらしていた。
「なにを聞いているの?」
「遠くの音だよ。ここに座ると、聞こえるの」
僕も目をとじて、耳をすませた。風の音。鳥の声。木の葉がこすれる音。そして——誰かが、何かを打ちつづける、小さな音。こつ、こつ、こつ。石と石がぶつかるような、微かな音。
「あれはなに?」
「わからない。でも、誰かがどこかで、言葉を探してるんだと思う」
「言葉をさがす音?」
「うん。言葉って、探しているときに音がするの。まだ見つかっていないときの音。でもね、探しているってことは、いつか見つかるってことだよ」
女の子は、みんなのために祈っていた。自分のためには、何も祈らずに。
「どうして、自分のことはいのらないの?」
「だって、誰かの言葉を聞いたとき、ここが温かくなるでしょ」
女の子は、自分の胸を触った。
「それだけでじゅうぶんなの。祈りって、自分のためにするものじゃないんだよ」
僕ははっとした。この子には、胸の中に壁がない。だから、遠くの音が聞こえるんだ。壁がないから、何も遮るものがなくて、世界のどこかで鳴っている小さな音まで、届くんだ。
まだコメントはありません。最初のひとことをどうぞ。