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壁の向こうの少年

abejunichi

6,785 字

内面の成長を描く寓話的ファンタジー

"その扉は、君の内側からしか開かない。"

KID Aを改稿した児童文学版

目次(11 章・いまは第 8 章)
  1. 壁の向こうの少年
  2. 第1章 壁の町
  3. 第2章 髪の長い少年
  4. 第3章 壁の声
  5. 第4章 声が出ない夜
  6. 第5章 旅立ち
  7. 第6章 壁の外
  8. 第7章 夢の村
  9. 第8章 英雄はいない
  10. 第9章 声の正体
  11. 第10章 僕の言葉
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第7章 夢の村

たどりついた場所に、村があった。

壁の外に飛び出した子どもたちが集まってつくった村だ。きまりがない。絵描きがいて、音楽家がいて、料理人がいて、踊り子がいた。絵描きは壁に絵をかき、音楽家は朝から晩まで楽器をならし、料理人は誰かれかまわず食べものを配り、踊り子は雨の日でも踊っていた。

村のまんなかには、大きな木があった。幹が太くて、枝が空にむかって何本も何本ものびていた。みんなそれを「魂の木」と呼んでいた。木の下に座ると、地面の温もりが腰から背中にのぼってきた。

そこで僕は、一人の女の子に出会った。

その子は、木の根元に座って、目をとじて、耳をすませていた。風がその子の髪をゆらしていた。

「なにを聞いているの?」

「遠くの音だよ。ここに座ると、聞こえるの」

僕も目をとじて、耳をすませた。風の音。鳥の声。木の葉がこすれる音。そして——誰かが、何かを打ちつづける、小さな音。こつ、こつ、こつ。石と石がぶつかるような、微かな音。

「あれはなに?」

「わからない。でも、誰かがどこかで、言葉を探してるんだと思う」

「言葉をさがす音?」

「うん。言葉って、探しているときに音がするの。まだ見つかっていないときの音。でもね、探しているってことは、いつか見つかるってことだよ」

女の子は、みんなのために祈っていた。自分のためには、何も祈らずに。

「どうして、自分のことはいのらないの?」

「だって、誰かの言葉を聞いたとき、ここが温かくなるでしょ」

女の子は、自分の胸を触った。

「それだけでじゅうぶんなの。祈りって、自分のためにするものじゃないんだよ」

僕ははっとした。この子には、胸の中に壁がない。だから、遠くの音が聞こえるんだ。壁がないから、何も遮るものがなくて、世界のどこかで鳴っている小さな音まで、届くんだ。

── 第8章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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