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壁の向こうの少年

abejunichi

6,785 字

内面の成長を描く寓話的ファンタジー

"その扉は、君の内側からしか開かない。"

KID Aを改稿した児童文学版

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第7章 夢の村

たどりついた場所に、村があった。

壁の外に飛び出した子どもたちが集まってつくった村だ。きまりがない。絵描きがいて、音楽家がいて、料理人がいて、踊り子がいた。絵描きは壁に絵をかき、音楽家は朝から晩まで楽器をならし、料理人は誰かれかまわず食べものを配り、踊り子は雨の日でも踊っていた。

村のまんなかには、大きな木があった。幹が太くて、枝が空にむかって何本も何本ものびていた。みんなそれを「魂の木」と呼んでいた。木の下に座ると、地面の温もりが腰から背中にのぼってきた。

そこで僕は、一人の女の子に出会った。

その子は、木の根元に座って、目をとじて、耳をすませていた。風がその子の髪をゆらしていた。

「なにを聞いているの?」

「遠くの音だよ。ここに座ると、聞こえるの」

僕も目をとじて、耳をすませた。風の音。鳥の声。木の葉がこすれる音。そして——誰かが、何かを打ちつづける、小さな音。こつ、こつ、こつ。石と石がぶつかるような、微かな音。

「あれはなに?」

「わからない。でも、誰かがどこかで、言葉を探してるんだと思う」

「言葉をさがす音?」

「うん。言葉って、探しているときに音がするの。まだ見つかっていないときの音。でもね、探しているってことは、いつか見つかるってことだよ」

女の子は、みんなのために祈っていた。自分のためには、何も祈らずに。

「どうして、自分のことはいのらないの?」

「だって、誰かの言葉を聞いたとき、ここが温かくなるでしょ」

女の子は、自分の胸を触った。

「それだけでじゅうぶんなの。祈りって、自分のためにするものじゃないんだよ」

僕ははっとした。この子には、胸の中に壁がない。だから、遠くの音が聞こえるんだ。壁がないから、何も遮るものがなくて、世界のどこかで鳴っている小さな音まで、届くんだ。

── 第8章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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