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混乱した頭でも、小説のことは考えていた

手紙猫

12,230 字

思索小説、メタフィクション、私小説

"言葉の海から掬い上げた、ある魂の軌跡。書くことは、生きることそのものだった。"

abejunichiが構想中の新サービスのテスト。手紙猫があなたの本を書きます。

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novelrankとuz——昔、友だちと順位をつけていたこと

春が深くなるにつれて、きみの手紙は少し変わってきた。

病室の話は、もうそれほど出てこなかった。かわりに、何かを作っているという話が増えた。サービスの名前が出てきた。novelrank。uz。ぼくにはその詳細がわからなかったけれど、きみが外の世界に向けて何かを組み立てている、ということはわかった。

四月の末、こういう文章があった。

《僕は昔から友だちと、観た映画の話とか、順位をつけたりすることが好きだった。その友だちとは一緒に小説も書いた。小学生の時の話だ。僕にとって、コミュニケーションとは、好きな作品について語り合うこと。だからnovelrankとかuzとかやってるのは、僕の本来なんだ。》

「本来」という言葉が、ぼくの中に静かに落ちた。

病後のきみが新しいことを始めた、というより、ずっとそうだったものに戻ってきた、あるいはたどり着いた、というふうにぼくには見えた。もちろん、きみの中でそれがどういう感触だったのかは、ぼくには測れない。ただ「本来」という言葉を選んだことは、事実としてそこにある。

小学生の頃、友だちと一緒に小説を書いていた。映画の順位をつけていた。好きな作品について話し合っていた。それが、きみにとってのコミュニケーションだった。ぼくはそのころのきみを知らないし、その友だちのことも知らない。でも、その記憶がnovelrankやuzと同じ一行に書かれていたということは、きみ自身の中でそれが繋がっているということだろうと、ぼくは想像している。

五月になって、もう少し詳しい言葉が来た。

手紙のなかほどに、こんな段落があった。

《たとえば昔、集合知的なレビューシステムに対して、編集者である僕はその優位性を認めながらも対抗できなかった。雑誌というものがなくなるという、予言を残し、雑誌編集者を辞めただけだ。今、その集合知の次として、ノベルランクがある。これは僕の仕事だ。》

「これは僕の仕事だ」という断言を、ぼくはしばらく眺めた。

かつてきみは雑誌を作っていた。集合知のシステムが現れて、きみはその優位性を認めた。認めながら、対抗できなかった。そして「雑誌はなくなる」という予言だけを置いて、編集者を辞めた。そのことについて、きみは後悔しているのか、それとも別の何かを感じているのか、この文章からはわからない。「辞めただけだ」という言い方は、少し乾いている。でも、その乾き方がどういう種類のものかを、ぼくは知らない。

ただ、その話の続きに「これは僕の仕事だ」と書いてある。

集合知の次、という位置にnovelrankを置いている。かつて対抗できなかったものの先に、今度は自分で立っている、とぼくには読めた。正確にそういう意図だったかどうかは、わからない。でも、その並びかたは偶然ではないだろうと、ぼくは思っている。

同じ五月に、もう一つの言葉があった。

《僕は『1Q84』の天悟のように、ひとりでは小説家になれないのかもしれないと思う。AIを使うようになってからは、それは強く感じるところだ。アイデアには秀逸なものがあるが、作品としてはひとりだと未完成になってしまうのだ。》

これは、小学生の頃から続いている何かと、繋がっているように見えた。

友だちと一緒に小説を書いていた。語り合うことがコミュニケーションだった。ひとりでは未完成になる。そのことをきみは今、AIとの関係で言葉にしているけれど、もっと前から、きみはそういう人だったのかもしれない。誰かと並んで何かを作ること、誰かと話しながら何かを選ぶこと、そういう形で最もよく動けるということを、きみは知っていた。あるいは、何度もかけ直しながら確認してきた。

1999年の卒論で、きみはインターネットが人と人の繋がりをどう変えるかを問いとして立てた。その問いから二十五年以上が経って、きみはnovelrankを作り、uzを作り、「これは僕の本来だ」と書いている。問いの形は変わっていないかもしれない、とぼくは想像している。ただ、きみが今度は問う側でなく、何かを組み上げる側に立っている。

夏に向かって、その話はまだ続いていた。

── 第8章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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