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姥捨会議

奥井晴弥

16,994 字

歴史フィクション、倫理的ドラマ

"「赤子を殺すくらいならば、老いた者を棄てよ」――為政者の冷徹な論理が導く、究極の選択と、その先に待つ静かなる破綻。"

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第八章 確信

触れを廃してから、最初の冬が来た。
頼賢は帳面を開いた。山に送られる者の数が止まった。当然だ。触れを廃したのだから。
だが赤子の不自然な死が帳面に戻ってくる気配も、今のところはなかった。
五年の間に、藩は変わっていた。子供が増えた。若い者が、田の仕事を仕切るようになった。水路の手入れを覚えた者もいる。五年前には年寄りに頼っていた仕事を、若い者が引き継いでいた。すべてではない。だが、知恵は受け渡されつつある。頼賢はそのことを、帳面の中に読んだ。

春になると、頼賢は北の村を歩いた。
庄屋が出てきた。頼賢の顔を見て、少し驚いた顔をした。触れを廃した後、頼賢が村に来るのは初めてだった。村は静かだった。静かだが、五年前の静けさとは違っていた。

畑の脇に子供の声が聞こえた。その傍らに老いた女が座って子供たちを見ていた。六十か、その前後。頼賢はその光景を見て、足を止めた。この女が、山に送られることはないだろう。触れは廃したのだ。

城に戻り、頼賢は一人で庭を眺めた。
赤子が殺められるのを止めたかった。そのために棄老の制を設けた。そして、廃した。

母を山に送った。無駄ではなかった。母の行いがあってこそ、触れは民に届いた。
それを廃することの重みも、民に届いたはずだ。母の誉は、誉として残る。頼賢はそう思った。
善い政だと母は言った。頼賢は、そう信じた。

夏の終わり、頼賢は帳面を読んでいた。赤子の死は増えていない。山に送られる者もいない。
庭の向こうの山を眺めた。あの山のどこかに、母がいた。今はもう、草に覆われているだろう。

空は高く、秋の気配がある。穏やかで冷たい風が、吹きはじめていた。

── 了 ──

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