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嵐過心月

20,765 字

正義を問う、慟哭のヒューマンドラマ

"そのスイッチは、正義か、復讐か、それとも愛か。"

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第六章 

由理恵と光希 ー喪失の入口
「ちょっと寒いかな」光希は今日、入学式で着ていく服を迷っていた。
「大丈夫じゃない。朝は部分日蝕みたいだから下るだけよ。」
由理恵は軽く答えた。
あの日、別の場所での入学式、別のドラマが始まった
朝倉光希。それが彼女の名前だった。
「お母さん、制服おかしくない?」
由理恵は、娘の肩を直した。少し大きかった。
おかしくない。似合ってる。
光希が、鏡を見た。少し不満そうだった。でも口元が笑っていた。
お母さんも来るの?
遠くから見てるだけ。
 光希が、小さく笑った。恥ずかしいから来ないでよ、と言いながら、嬉しそうだった。
由理恵は、その横顔を見た。
 正義感が強くて、勝ち気で、でも笑うと子供みたいになる。そういう娘だった。
みんな緊張していた。新しい環境でうまくできるのか、いじめられないか。光希も同じ。
隣の娘が話しかけてくる。「隣にいたのお母さん?」「そうだよ」「もしかして昨日テレビに出てた?」やっぱり。かっこいい いつも白いスーツを着こなして
でもあれは戦闘服みたいだよ。いいよ 家のおかんなんて兄ちゃんのお下がりジャージセットだもん
ありがとう。お母さんのおかげで友達が出来た。
入学式が終わった帰り道、光希が言った。
「隣の芳恵がね、お母さんの事見たって」
何処で。
「テレビでおじコメに負けてなかったってカッコよかった」
 昨日の仮想執行法の討論会でだ。死刑制度は廃止せよと言いたいのですか?」
「そうです。現在ゲームとして仮想空間へ旅行する人が増えています。これを刑罰として使用したら、ということです。脳内で死亡を体験させます。死についてなれてこないよう、個人別脳波を分析した苦痛度のダイアルが基本ですが、もう一つ幸福度のダイアルがあり、その差分が刑罰になります。ダイアルは被害者家族が決められた範囲内であれば調整可能です」言い切ったところでカメラは切り替わった。

 「芳恵にちょっと自慢しちゃった」。光希が笑っている。いつも有名人の母の事で喧嘩になる。生意気な女と。でも今日は違った。楽しそうね。うん

朝は忙しい
光希も学校慣れてきたみたいだ。
学校楽しい?
うん でもね。光希は、少し言い淀んだ。
クラスの雰囲気が、なんとなく微妙なの。何か大きなことがあるわけじゃない。でも、先生が少しずつずれていて、そのたびに教室の空気がうまく鳴らなくなる。そんな感じだった。

 最初は、小さなことだった。
 先生は名前を呼ぶとき、ほんの少しだけ間があった。
 「朝倉……光希」
 普通なら気づかない。でも光希は気づいた。
 黒板の字も、少しだけ違っていた。前にでない。隠れる。鬼ごっこで 見つからないよう自己を押し殺した、そんな 感覚
 給食の時間も、あまり食べなかった。
 「先生、食べないんですか」
 「少し苦手でね」
 笑っていた。でも目は笑っていなかった。
 学校猫のミイちゃんが入ってきたときも、違った。
 いつもは誰の膝にも乗るのに、その近くだけを避けていた。
 光希は、それを見ていた。
 おかしい。でも言葉にできなかった。
 母に言おうと思った。でもやめた。
忙しそうだったから。大したことじゃない気もした。
気のせいかもしれない、と自分に言い聞かせた。

── 第8章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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