第8章 英雄はいない
ある日、知らせが届いた。
世界の果てまで歩いていった旅人たちが、もどってきた。手ぶらで。疲れきった顔で。
「みんなが待っていた英雄は——初めから、いなかった」
村がざわついた。
絵描きは叫んだ。「じゃあ、おれが英雄になる! おれが世界を変えてやる!」
音楽家は楽器を置いた。「もう何も信じない。信じたって、何も変わらない」
村は、二つにわれた。戦おうとする子たちと、諦めた子たち。怒鳴り合い、睨み合い、そのうち誰かが誰かを突き飛ばした。魂の木の枝が、一本折れた。ぱきん、と乾いた音がした。
僕は、どちらにもはいれなかった。
英雄になるのは、新しい壁をつくることだ。「おれがいちばんだ」という壁。何も信じないのは、自分の中に壁をつくることだ。「どうせ何も変わらない」という壁。どっちも、壁だ。
女の子は、折れた枝の下で、まだ目をとじて耳をすませていた。
「まだ聞こえる?」
「うん。まだ、誰かが、言葉を探してる。こつ、こつ、こつって。——近くなってきた気がする」
僕は決めた。ほんとうのことを、確かめに行く。あの「壁の声」は、いったいだれなんだ。
女の子は目を開けて、僕を見た。
「行ってらっしゃい。わたしはここで聞いてるから。あの音が止まらないように」
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