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壁の向こうの少年

abejunichi

6,785 字

内面の成長を描く寓話的ファンタジー

"その扉は、君の内側からしか開かない。"

KID Aを改稿した児童文学版

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第8章 英雄はいない

ある日、知らせが届いた。

世界の果てまで歩いていった旅人たちが、もどってきた。手ぶらで。疲れきった顔で。

「みんなが待っていた英雄は——初めから、いなかった」

村がざわついた。

絵描きは叫んだ。「じゃあ、おれが英雄になる! おれが世界を変えてやる!」

音楽家は楽器を置いた。「もう何も信じない。信じたって、何も変わらない」

村は、二つにわれた。戦おうとする子たちと、諦めた子たち。怒鳴り合い、睨み合い、そのうち誰かが誰かを突き飛ばした。魂の木の枝が、一本折れた。ぱきん、と乾いた音がした。

僕は、どちらにもはいれなかった。

英雄になるのは、新しい壁をつくることだ。「おれがいちばんだ」という壁。何も信じないのは、自分の中に壁をつくることだ。「どうせ何も変わらない」という壁。どっちも、壁だ。

女の子は、折れた枝の下で、まだ目をとじて耳をすませていた。

「まだ聞こえる?」

「うん。まだ、誰かが、言葉を探してる。こつ、こつ、こつって。——近くなってきた気がする」

僕は決めた。ほんとうのことを、確かめに行く。あの「壁の声」は、いったいだれなんだ。

女の子は目を開けて、僕を見た。

「行ってらっしゃい。わたしはここで聞いてるから。あの音が止まらないように」

── 第9章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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