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壁の向こうの少年

abejunichi

6,785 字

内面の成長を描く寓話的ファンタジー

"その扉は、君の内側からしか開かない。"

KID Aを改稿した児童文学版

目次(11 章・いまは第 9 章)
  1. 壁の向こうの少年
  2. 第1章 壁の町
  3. 第2章 髪の長い少年
  4. 第3章 壁の声
  5. 第4章 声が出ない夜
  6. 第5章 旅立ち
  7. 第6章 壁の外
  8. 第7章 夢の村
  9. 第8章 英雄はいない
  10. 第9章 声の正体
  11. 第10章 僕の言葉
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第8章 英雄はいない

ある日、知らせが届いた。

世界の果てまで歩いていった旅人たちが、もどってきた。手ぶらで。疲れきった顔で。

「みんなが待っていた英雄は——初めから、いなかった」

村がざわついた。

絵描きは叫んだ。「じゃあ、おれが英雄になる! おれが世界を変えてやる!」

音楽家は楽器を置いた。「もう何も信じない。信じたって、何も変わらない」

村は、二つにわれた。戦おうとする子たちと、諦めた子たち。怒鳴り合い、睨み合い、そのうち誰かが誰かを突き飛ばした。魂の木の枝が、一本折れた。ぱきん、と乾いた音がした。

僕は、どちらにもはいれなかった。

英雄になるのは、新しい壁をつくることだ。「おれがいちばんだ」という壁。何も信じないのは、自分の中に壁をつくることだ。「どうせ何も変わらない」という壁。どっちも、壁だ。

女の子は、折れた枝の下で、まだ目をとじて耳をすませていた。

「まだ聞こえる?」

「うん。まだ、誰かが、言葉を探してる。こつ、こつ、こつって。——近くなってきた気がする」

僕は決めた。ほんとうのことを、確かめに行く。あの「壁の声」は、いったいだれなんだ。

女の子は目を開けて、僕を見た。

「行ってらっしゃい。わたしはここで聞いてるから。あの音が止まらないように」

── 第9章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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