primus=1:interior ∉ façade─内側にある建前
窓からの明るい日差しに、隣にいるのが旦那でないことに驚いて目が覚めた。
どうやら夢はまだ続いているらしい。
――現実なんだろうけど。
若干、薄まり始めたとはいえ、分類としては“黒”になる旦那の顔色に比べると、ヴィザーゴさんの顔は死人のように白い。
てか、美人だな。
美人は目を閉じていても美人なのか。
睫毛ながっ。
睫毛が影作るって漫画の中だけと思ってたよ。
……にしても白いなぁ。
血が通ってる感じがしないよ。
もしや、面の皮が厚いってことか?
「くっ、ぷっ……朝からそれかい?僕の顔をそんな風に評価するなんて……」
あ、プライドを傷付けてしまったかしら?
謝らねば。
「誘惑してみようか――?」
と、往年の少女漫画よろしく、顎をくいっとあげられた。
生まれて初めての顎クイですよ。
旦那には出来ない芸当だわ。
見つめ合った刹那(笑)、はたと我に返る。
「さすがに絵面がキツ過ぎます。美形悪魔と純日本人幼女とかって、それなんてファンタジー、ですよ」
「Fantasy……?Fabula mirabilis?」
日本のファンタジーは難しいようです。
「それはそうと、なんで裸なの?」
「休む時って、服着るの?」
や、まあ個人の好みだけど。
ヴィザーゴさんの適度に引き締まった体は、所謂細マッチョというやつで、女子ウケするよなーと……あれ?
ちらりと見えた、股間にはあるべきものがない。
凝視はしてない。
今のあたしと同じだ。
「そっちはヴェーロの担当。僕は必要ないんだよ」
そうですか。
ヴィザーゴさんで誘って、ヴェーロさんが実践ですか。
……怖くないか?それ。
「老若男女、利き目はあるねぇ」
そうですか。
ルーモさんとヴェーロさんも、すっかり身支度は整えていて、獣姿ではなくなってる。
残念。
いつか、獣の姿のルーモさんとヴェーロさんの間でもふもふしたい。
ふふ。――お二人の冷ややかな視線が向けられている……気がする。
「まったく、ルーモヴェーロは勤勉だよねぇ」
詠唱も、指くるくるも無く、陽射しとは違う光の帯で、昨日とは違う衣服を身に纏うヴィザーゴさん。
おお、魔女っ子変身バンクやね。
袖のたっぷりとしたドレスシャツに、スッキリしたスラックスで、昨日のじゃらじゃらはしていなくて、オフの日のV系バンドマンみたいです。
イメージだけど。
にしても、シンプルな装いもお似合いになる。
美人はいいなあ。
「アキラはどうする?poupée en biscuitとかどう?」
ぷぺ……ビスクドールってことですか?
日本人顔にロココなふりふりドレスはなあ。
「面白いと思うけど」
面白い、言ってるやんっ!
でも……なんだろう、悲しいな。
スーツしか浮かばない。
社畜ではなかったはずなんだけどな。
日常着ている割合が、断然スーツだからか?
そしたら、いつの間にか、某アイドルが着てそうな、創作派手制服な装いになっていた。
これはこれで可愛いですけど。
「魔法で作ったの?」
「んー……imitatio. かな?アキラの“ここ”の似た感じを構成したけど、違った?」
ヴィザーゴさんは、人差し指で自分の頭をつついた。
あたしの頭にあったものってことですか?
歌って踊る趣味はないのだけど。
ヴィザーゴさんが、なにかを作ってくれる時は気を付けよう。
額同士をこつんと当てて、ヴィザーゴさんは目を閉じる。
「……次はこの絵の中で、弓みたいのを持った耳の長い子の、着ている意味の無さそうな服はどう?」
イヤです。
さて、そんな漫才みたいなやり取りをしていると、「あさなぁさな」とチャルマさんです。
朝食の準備が出来たと、お迎えに来てくれました。
フィリーノさんって、チャルマさんをヴィザーゴさんから離そうとしてなかったっけ?
いや、眠そうな目で無精髭を生やしたフォルティオさんを従えてました。
一晩中、廊下にいらしたんでしょうか?
尤も、彼のお目当てはルーモさんでもあるようで、ちゃっかりチャルマさんをだしに使って……袖にされているようです。
それにしても、朝食ねぇ……食べたものは一体どうなって、どこにいくんだろう?
「動力かな?」
全部ですか?
「全部だねぇ」
よくわからん。
昨夜の夕食もしっかり食べたけどさ。
お腹がすいた、感じはないよな。
と、いうかあたしより随分と小さいチャルマさんが、一人で歩いてるのに、あたしは抱っこされているこの図は一体なんだろう。
喋ることに次いで、歩くことも忘れそうだよ。
あれ?
「あっ!あたしっ!顔洗ってない!」
唐突に気づいてしまった。
「気になる?」
なります。
乙女の慎みというやつですよ。
ま、余すとこ無く見られてるんだろうけど。
「おかおあらうの?こっちだよ」
チャルマさん、気が利きますね。
そのままチャルマさんの案内で、扉の前に着く。
「ここは?」
「おふろばだよ」
そうか、風呂場か。
なら、下ろして貰おう。
「一人で平気?」
って……こんな姿でも大人ですよ?あたし。
どういう扱いになるのかはわからんけど、既婚者ですからねっ!
――――浴室って言ってたよね?
湯船はなくて、板張り……簀の子の床。
その床の中央に……噴水かな?
陶器っぽい材質で、ヴェーロさんでも一抱えはありそうな器の中に、見たこと無い突起物。
何だろうね。
どんな風に使うのかしら?
北欧のサウナみたいだなぁと、しげしげと見入っていたら、チャルマさんに、
「おふろの日は、きょうですよぉ」
と言われた。
お風呂の日があるのか。
「そうなんだ。楽しみ」
と答えたら、はて?な顔された。
通じてないみたいですね。
困った顔のチャルマさんも可愛いのだけれど、ちっちゃい子を苛めてる気分にもなるので、口の両端を指できゅっと上げて、にこにこを表現してみる。
通じるかな?
あ、チャルマさんにこにこになった。
しかも指付き。
真似っこですね。
くぅ~!ういやつめ。
当初の目的をこなそう。
顔を洗う仕草をすると、チャルマさんが「こっちだよ」と手を引っ張ってくれた。
部屋の隅に洗面ボウルのような容器があって、やっぱり中央に突起。
部屋の中央にあるやつの小型版、なのかな?
どうすんだ?
迷っていたら、チャルマさんがつまみを捻ろうとしてる……けど力が足らないようです。
これ?と指差すと、チャルマさんがこくんと頷いた。
つまみを捻ると、中央の突起部分から水が吹き出した。
なんだっけ?あー公園とかにあった給水機。
下から上に水が出るやつ。
これが洗面台かあ。
あたしのいたところとは随分違うのね。
洗顔フォーム……は無さそうだから、水だけ洗顔。
なのに、幼い肌はつるっつるだわ。
「たおる、どおぞ」
チャルマさんがタオルっていうか、手拭いを差し出してくれる。
ええこや。
面と向かえば、幼児語でも頭に入るのに、お礼も伝えられないのかと思うと、もどかしい。
ヴィザーゴさんよ。
折角なら双方向の通訳機をつけてくれてもよかったんじゃない?
でも、ま。
通じなくてもいいや。
気は心よね。
「ありがとう」
というと、
「ありやと!」
とチャルマさん。
こてんと小首を傾げて。
あ、それはあたしの真似ですね。
ううっ!なんて愛らしい。
いとをかしだわ。
チャルマさんとお手々繋いで、廊下を歩いていたら、つい鼻唄が出てしまって。
チャルマさんが合わせて歌い出したのですが、歌詞が分かりません。
パンの顔した正義の味方のリズムを刻んでいたんだけど。
はや。
彼には人種の壁は無いも同然のようです。
食堂に着くと、ヴィザーゴさんは座っていて……なぜ膝をぽんぽんと叩いている。
……それって。
一人で食べたいって言ったよねっ!
とはいえ、席はヴィザーゴさんの隣なのだけどね!
食卓には、丸いものが浮かんでいるスープが用意されていて、一見すると御雑煮のようだった。
醤油とか、お味噌とかに似た香りがするけれど、何か違う。
何が違うのかは判らないのだけど、違うことだけが判る。
食卓に並んだ、先割れスプーンと蓮華をミックスしたような、陶器っぽいカトラリー。
お汁を掬えて、かつ具を切ることが出来るとかって、汁物には最適では?
お汁の入った、天使みたいな意匠のお鉢。
それをヴィザーゴさんに出すって、フィリーノさんたちも負けていないのね。
「いただきます」
って、手を合わせると、チャルマさんもやってる。
フィリーノさんやカヴァリーロさん、フォルティオさんも同じ様に手を合わせてるところを見ると、ここにも同じような食事の挨拶があるのかしらね?
ヴィザーゴさんたちにはなさそうですね。
で、食べてみると、丸いのは餅というよりは、お団子で。
キノコや山菜たっぷりで体によさそうだ。
と、いうかこのお団子。
水団というよりは、お米なのかな?
――米?……いやいやいや。
フィリーノさんたちにしろ、昨日の靴屋さんにしろ、ここの人たちは日本人離れした顔をしているじゃないか。
安直に、ここは日本かも?なんて、早計過ぎじゃないか?
「ねえ?ヴィザーゴさん?これは何?」
「oryza……えーと、イネ?」
イネ?稲は食えんがな。
でも、米なのか。
うるち米か、もち米か。
タイ米ってのもあるか。
潰してあるから判んないけど。
「口に合わない?不味い?」
って、作ってくれただろうフィリーノさんたちの前で、なんてこと言い出すんだっ!
ほら、睨んでるじゃない!
「美味しいよっ!」
「僕はお肉の方がいいなあ」
「黙れ」
悪魔の戯れ言は聞かないことにしておこう。
食事が終わると、フィリーノさん、カヴァリーロさん、フォルティオさん、チャルマさんは、両手のひらを上にあげたあと、合掌して、
「たまはれました」
と、唱えて目を閉じた。
賜る?なのかね?
ごちそうさまでした、ということなのだろうか?
合掌なのだよね、指を組むのではなくて。
まだコメントはありません。最初のひとことをどうぞ。