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○○がない

奥井晴弥

30,923 字

企業成長物語、群像劇、ヒューマンドラマ

"言葉にできない「らしさ」を求めて、中小企業が辿り着いた答えとは。"

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第九話 答えがない

「社長のやり方は、会長とは違います」
こないだの会議で、坂上さんが言いよった。
わしは得意先さんからの連絡があるかもしれんから、携帯を気にしとったけど、思わず顔を上げてもうた。
よう言うてくれた。そう思うた。
そのとおりや。
社長のやり方は、会長とは違う。会長のやり方は、社長には無理や。
それでも社長には、もっと頑張ってもらわなあかん。わしもそう思うわ。

せやけど、社長の顔がこわばったのを見て坂上さん、その後はしどろもどろになっとった。
本当のことを言えるのは坂上さんのええところや思うけど、言うた後に相手がどう思うか、言うまで気づかれへんのはなぁ。ま、気づいとったらそうそう言えへんか。

こないだの会議の前の、周りの三人と話すっちゅう宿題、わしは営業部長と、河田さんと話した後、倉庫にふらっと寄った会長をつかまえた。
部長も、河田さんも、今の社長に代わってからうちの会社は、面白うなくなった、言うとった。わしもそう思う。
会長にはそれをそのまま言うた。
会長はそれを聞いて、少し考えてから、言うた。
「田所。今の会社は、社長の会社や。あいつが、あいつのやり方で、やったらええ」
意外やった。同意してくれると思っとった。
わしは、思わず言い返した。
「会長、そんなこと言うとったら、潰れてしまいます、僕は経営のことはようわからんけど、そう思います」
会長はまた少し考えてから、言うた。
「……田所な。谷村さんにも同じこと、聞いた方がええで。それだけ言うとくわ」
会長はそう言って、帰った。

谷村さんは、営業部におる二十五歳の女の子や。社長が始めた新卒採用の一期生で、営業の仕事しながら得意先さんで使ってもらうPOPやら、商品のパッケージやらのデザインを担当しとる。谷村さんのPOPも、パッケージも、得意先さんからの評判はすこぶる、ええ。
営業をしとらんかったら作れへん、そういうものやと思う。
そやけども、最近入った、娘みたいな歳の子にうちの会社の何がわかるっちゅうねん。
そう思ってわしは、谷村さんとは話さんまま、こないだの会議に行った。
その会議で坂上さんが、社長のやり方は会長と違う、そう言うて、しどろもどろになった。
しどろもどろの後の、香田さんの回収は鮮やかやったな。あの人、さすがやで。
坂上さんの意見をさらっとまとめると、佐藤、黒木さん、わし、社長の順で話を聞きながら、あの凍りついた空気を、これまでと、これから。そういう話に持っていきよった。
それでも坂上さんは最後まで真っ青な顔、しとったけど。
それで、会社の将来像を表す言葉を考える、っちゅう宿題を出した。
その会議の終わり、わしはなんでか、谷村さんに話を聞いてみなあかん、と思うた。

今日、事務所でPOPを作っとった谷村さんをつかまえて、前から思っとったことを聞いてみた。
「谷村ちゃん、なんでうちの会社なんか入ったん?谷村ちゃんなら、もっとええ会社、行けた思うで」
「田所さん、それ、真面目に聞いてます?」
「さあ、ようわからん。どっちやろな」
「そうですね……前からムライ化工の商品良いな、と思ってたのもあるんですけど、社長が、悩んではるように見えたから、ですかね」
「なんやねんそれ。そんな会社、嫌やろ?」
「でも、その方が、面白そうじゃないですか」
「そんなもんか?若い子の考えることは、ようわからんわ」
「そういう言い方、良くないですよ。老害の始まりです」
「そらあかん、気ぃつけるわ」

──将来像か。答えがないわ。
いずれにしても「ええもん作って、欲しい人に届ける」ではなさそうやな。

── 第9章 了 ──

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