「ただいまー」
とだけ言って家に入る。私以外がいないことを確認するために。なぜこんなことをしているかといえば防犯対策の一環である。
一人暮らしをしていると色々と心配になるのだ。
私は去年大学に進学して、大学周辺のアパートで一人暮らしをしている。たまに大学の友人たちと自宅で遊ぶこともあるが、我が家は一人だ。
家を出るときも鍵を閉めたことを確認してから出ているし、家を出る前に室内の監視カメラをオンにしてから家を出ている。
こんな生活を一年も続けているもんだから、監視カメラの確認はすでに日々の日課となっているのだ。
今日もその日課を行うために映像が保存されているPCの電源を入れた。
映像を見ていたが何の違和も感じられなかったので、電源を切った。
「今日も平和だったなー、明日も平和がいいなー」
誰もいないとつい独り言が出てしまうものである。
少し疲れているようで、足取りは重かった。今日はサークルの後輩の歓迎会があったからしょうがないといえばしょうがないのだが。
そのうちに私は、冷蔵庫を開けていた。
「何してたんだっけ...?」
歓迎会で食べ過ぎたせいで何も食べる気にはならなかったのだが、いつも開けているときの癖で開けてしまったようだ。
習慣とは恐ろしいもので、一度体に染みつくと抜けなくなってしまう。
最近カギを変えたせいか、一度だけ鍵を間違えてしまったときもあった。習慣から外れたことをすると途端に、自分の行動が分からなくなってしまう。
「ピンポーン」
あまりにも唐突だったため、暫く固まっていた。ソファに腰を下ろし、くつろいでいる最中に、突然音が鳴り響くものだから、思わず体をこわばらせてしまった...、どうやらその衝撃で足を攣ったらしい。さらにに重い足取りでインターフォンの画面へと向かう。
画面に映っていたのは、帽子をかぶった宅配便業者だった。しかし、宅配便なんて頼んだ覚えがない、いや、そういえば本を頼んでいたのだった。
「加藤様でいらっしゃいますでしょうか?」
「はーい、少々お待ちくださーい」
玄関まで行くとさっき見た人が立っていた。このアパートの不便なところといえば、ポストがやたら小さいところである。
文庫本より大きい本は入り口を通らないせいで、こうやって受け取らないといけないのだ。家賃が安いので仕方がないのだろうけど。
不審者じゃないだけましか、と思いながら扉を閉め、鍵を掛けた。私は防犯対策には抜かりないのだ。
ふと時計を見ると11時を回っていたので、本を読むのはやめて、寝ることにする。
明日のことはまた明日考えればいい、わざわざ今日に明日のことを悩む必要はない、
誰に対してでもなく言い訳を並べながら、私はベッドに入り目を閉じた。
深夜、突然目が覚めた。理由はわからないが、再び目を閉じても眠れる気配がない。かえって目が冴えてしまうのだ。仕方がなく体を起こし、ベッドに座るような体勢になった。いつも見ている自分の部屋だが、深夜に見るとまたこの部屋が違う部屋な気がしてくる。私の部屋は、あまりインテリアなどを置いていないし、なんなら必要最低限の家具しか置いていないせいか、来た頃とあまり変わっていない。もし眠ってる間に違う部屋に移動されたところで気がつかないだろう。
私はとりあえず洗面所に行こうと思い立ち上がった。痛みは引いているようだったが、足がまだ少し痛い。
深夜というのは本当に静かなもので、私がゆっくり歩いているのにもかかわらずその足音が部屋中に広がっていく。普段から静かに歩くように心がけていたが、まだ足音が立っている事実に少し落胆した。ほどなくして洗面所についたようだ。正直、電気をつけるという行動を面倒だと思った私は、電気をつけずに鏡の前に立ち、蛇口をひねった。暗闇には目がなれていたのか、特に場所が分からないということはなかった。ただ、鏡はそうはいかないようで、私の姿が見えなかった。水を飲むと少し意識がはっきりとしたが、やはり夜ということもあってかいまだ霧がかかったような気分である。
そうやっているうちに、眠気が再びやってきた。あまりにも唐突な眠気に困惑しつつ、欲求のままベッドに向かい、眠り落ちた。
消えゆく意識の彼方から、誰かの声が聞こえた。
「ただいまー」
「『空き部屋』」
日常系ホラー、サイコサスペンス
"日常に潜む見えない侵入者。その声は、あなたの部屋にも響く。"
「おかえり」
まだコメントはありません。最初のひとことをどうぞ。