「いっしょに」
やわらかい暖かさが私を包む。
雲が流れる。鳥が一列に並んでる。
スカートを払い、鏡で確認。
よし。
ドアを開けていつもの速度で歩き出す。
後ろからドキッとする日常がやってくる。
「よっ、おはよう」
「おはよう、朝から元気だね。」
「もちろん、今日はガケ山がいないからな」
「いないんだ?」
「そうそう、研修だったかな」
「ふーん」
何気ない幸せ。私の朝。
しばらく思春期特有の周りの視線を受けながら進む。
空に雲が増えてきた。気持ち足が速くなる。
佐藤君は前を向いている。残念。
キチッとした襟元が、安心感を与えてくれる。
短髪が判を押した高校生を見せながら、
袖から見える手首に繊細さを発している。
心臓の高鳴り。
それとは別の顔を持ってしまったのは慣れかもしれない。
それでも学校に向かう理由には足りていた。
自然と歩幅が合う。合わせてくれてる?
俺が声をかけると、伏し目がちに返事をしてくれる。
その様子が頼もしい。
ここに並んでいいんだと思わせてくれる。
少し視線を下げると、髪が風に流れていた。
この差が、女の子だと思う。
パッと見ると欠点が見つからない。
髪が少しハネているところに、共感してしまう。
鈴木との間に空気が流れる。同じ。
ゆるやかな朝に一日の期待が高まる。
歩く速度を合わせて、思い出した。
「なぁそういえば今日って、行くんだっけ?」
「うん、こればかりはね。まぁ治療みたいなものだから」
「大丈夫か?毎回次の日休んでるけど」
「大丈夫、大丈夫。佐藤君が心配しなくてもやれるよ」
おばあちゃんからもらったお守りがそっぽを向いた。
「いつでも言えよ、鈴木は無理するから。」
そう言って速度を落とし、背低い背中を見つめる。
「うん、ありがとう」
横に並び見ると少し違和感。
鈴木の顔が陰っていた。
私に試練、体育かぁ、憂鬱。
クラスの中にやけにやる気がある人がいる。
はぁ。短くため息。
グランドには早くも体を動かし、
元気が有り余っている男子がいる。
やけに気持ちが乗らない。
体調が悪いのかな?
それに反して新記録。
校舎の窓に目を向ける。
目が合ったような気がした。
黒板に向かう中でも朝の違和感がぬぐえない。
何かが脆く崩れるような感覚。
第六感というやつか。
いや、まだまだだけど。
視線を感じた。外で騒いでいる男子生徒の声。
こちらに向けられる顔があった。
腕に確かに広がっていた。前より確かに広く。
昼休み鈴木に会おうとしたがすれ違い。
放課後に迎えに行ったがすでに向かった後だった。
親父の話が頭を過ぎる。
古文書を握りしめ、最悪を抱えながら。
聖域に急ぐ。
体育の後から背中から右腕に違和感が広がる。
周期的にはまだ余裕があるはず、なんで?
まぁ前と同じかと思っていた。
少しずつ心配が頭に上がる。
放課後に腕を見ると変色していた。
体が重い、みんなに笑顔を向ける。
学校から体を引きずり歩き出す。
ここではダメ。
半身が私に従わない。
いつもの儀式、定期な。ただそれだけ。
そのはずだった。
神棚の前で準備をしていたおばあちゃんが
服も着替えずに来た私を見て駆け寄る。
「大丈夫かい!」
「ごめん、わからない。」
制服のまま神酒を腕と背中にかけられる。
熱い。ぐぐもった声が聞こえる。
私の声?
それは自分から出ていた。
同時、体が裂けるのがわかる。
力強い足音。
「鈴木!大丈夫か!」
来てしまった。最初に頭によぎる。
安堵と共に、少し苛立ち。増幅される。
背中が盛り上がり。腕。
対峙し、祝詞を上げる、
おばあちゃんが飛ばされる。
やめて!声が出ない。
佐藤君が受け止めてくれた。
「大丈夫ですか?どうして……」
「結界がもたなかったんじゃ、逃げなさい。」
「いや、ここで俺が」
決して勝算があるわけじゃない。
ただの話、ただの本、ただの先走りかもしれない。
でも。
何ができるの?早く逃げて!
背中からの違和感が右腕に広がる。
裂けるように広がる皮膚から私でないものが。
首から亀裂。顔がゆがむ。
見られたくなかった。
「鈴木!待ってろ!」
ふぅー大丈夫、大体理解してる。
親父から聞いた話と、俺の体質。
全部あの本の通りだ。行ける。
お前にもできるかもな、まぁ俺の子だしな。
「畏くも御奉る。再主環根の理を持ち身体に授けたまえ」
奴を俺の体に閉じ込めてやる!
上半身が歪に膨れ上がり。物理を無視した立ち姿に戦慄する。
一歩ずつこちらに近づいてくる。
鈴木…
佐藤君、ダメ。体が止まらない。
私嫌だった。
こんなの。
顔が引きつっているのがわかる。
いや、嫌、イヤ!見ないで!
「大丈夫だぞ、鈴木!今助ける!」
右手に熱がこもる。ここまでは予想通り。
問題は……
いや違う、やるんだ!
地面を蹴り上げる。
慣れないことをするからと意識が飛ぶ。
わからなかった。
予想以上に背中から伸びる手が長く、早かった。
背中に衝撃。
くそ!もう一段。無理をするか。
「畏くも御奉る……御体を捧げ…理を新興する力を……」
動け、動け、あとはどうでもいい動け!
口に鉄の味が。痛みが。
しかし徐々に薄らいでいく。
不思議と呼吸と共に体が持ち上がる。
今度こそ。
向き直り駆ける!
体をねじり、奴の一撃を躱す。
鈴木の頬に右手が触れる。
時間が止まった。
激痛。流れる。
俺の腕が変色していく。
共に鈴木は戻っていった。
力が抜ける。終わった。
やわらかな感触に目を覚ます。
畳の匂いが色彩を取り戻させた。
体が重い、鈴木が泣いている。
重い。
動かないのは無理をしたからかわからない。
「佐藤君ごめん、ちゃんと聞けばよかったね。」
喉に力を入れる
「…いっしょに…背負うよ。」
君の顔の傷と、僕の右手が重なった。
いっしょに
青春ファンタジー、怪異と共生
"日常の裏に潜む異形と、二人で背負う覚悟の物語。"
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