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苦手克服大作戦!

洞施うろこ

7,891 字

オメガバース・家族愛コメディ

"愛と圧で育む、佐々木家の食卓革命!"

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「ちゃんと食べてくださいね、兄さま」
 ふん。と胸を張ってかいくんが言う。仁王立ちに近いポーズなのに愛らしいのは、どこか幼さの残る顔立ちと小さな体のせいかもしれない。
 その目の前――テーブルクロスの掛かったダイニングテーブルには、海くんお手製の料理が並んでいる。
「……全部、か……?」
 おずおずとくう義兄さんがピーマンの肉詰めを見つめていた。そんな実兄を見据えて、海くんは「全部です」と言い切る。
 俺の前にも海くんの手料理が並んでいるが、どれも美味しそうだ。というか、間違いなく美味しい。綿貫家で作ってくれていた料理も全部美味しかった。佐々木家に移ってからは専属の料理人がいて、手料理を食べる機会は減ってしまったんだけど。
一虎かずとらさんは好き嫌いもないし、僕の手料理を美味しいって食べてくれますよ。兄さまたちも我侭言わず食べてください」
 海くんの可愛らしい両目が完全に据わっている。いや、本当に愛くるしいのに迫力があるな……佐々木家次期当主としては頼もしいと思う。
 と、りく義兄さんから恨みがましい目を向けられた。ああ、陸さんも苦手な物があるのか……
「さあ、両兄さまともしっかり﹅﹅﹅﹅残さず﹅﹅﹅食べてくださいね」
 可愛い弟の圧を感じる笑顔を見てか、陸さんと空さんは諦めたように「いただきます」と呟いた。


 事の発端はいつもの何気ない会話だ。佐々木家αの兄弟と顔を合わせて即『佐々木家当主の番としての心構え』を説かれた。
 番になる前に海くんが巻き込まれたお家騒動を考えれば、番である俺に対する警告はどうしても必要になる。それが行き過ぎて毎朝の恒例になるのは仕方のないことかなとも思う。陸さん空さんからすれば、俺は可愛い末弟を奪った馬の骨に見えているだろうし。
 けどまあ、俺も義兄さんたちも『分かった』上でのやり取りではあるんだよなぁ……最近は『いつもの』話にもなっていることだし。
 けど、どうやら海くんからすると、俺が義兄さんたちからの『婿いびり』を受けているように見えたらしい。今朝のお説教を受けていたら、随分と可愛――迫力のある笑顔で「兄さまたちは僕の番にお説教できるくらい立派になったんですね。じゃあ、もう好き嫌いなんて克服してるに決まってますよね」と言った。
 その時にビクッと大きく震えた辺り、陸さんも空さんも海くんに嘘が吐けないんだろう。直後に使用人頭で海くんのお世話係でもある大倉さんに目を向けていたけど、大倉さんは涼しい顔で二、三度頷いていた。あれはもう、海くんとの間で話が着いていたに違いない。
「兄さまたちは、今日のお昼に時間取れますよね。僕もたまにはお料理したいので、お二人ともぜひ召し上がってください」
 目に入れても痛くない、というほどに可愛がっている末弟にそうお願いされて断れる兄がいるだろうか。俺が義兄さんたちの立場なら何を出されようが完食する。いや、番としての立場でもそうする。海くんは卑怯なくらい可愛い。なでなでしたい。
 と、それはさておき。
 テーブルに並ぶのはピーマンの肉詰めとカボチャのサラダ、青椒肉絲、きんぴらごぼう、筑前煮、麻婆茄子、根菜がたっぷり入った味噌汁と白ご飯だ。健康的で美味しそうな食事だな……品数が多いから、作るの大変だっただろうな。厨房でも手伝ってもらってたとは思うけど。
 一足遅れて「いただきます」と口にして、箸を手に取った。そこで大倉さんが青椒肉絲と麻婆茄子を大皿から取り分けてくれる。この対応にも慣れてきたな……綿貫家では各々好きなようによそってたけど、流石に佐々木家ではそうもいかない。ここで暮らすことになって半年か……ようやく落ち着いて座っていられるようになった。それまで給仕されるのが当たり前なんて生活してなかったからな。
「いかがですか」
 食べ進めていると、隣の海くんが小首を傾げて聞いてきた。こういう仕種も可愛い。俺の番はいつも可愛い。
「うん。どれも美味しいよ」
 これはお世辞じゃなく、本当に美味い。初めて作ってもらった時も驚いたもんな……Ωは家政学を履修すると聞いてたけど、こんなに料理上手なのは海くんの努力あってこそだろう。
「一虎さんは煮物好きですよね。たくさん食べてもらえるから作りがいがあります」
 ニコニコと嬉しそうな笑顔が眩しい。海くんと番になれるなんて、俺は果報者だな。
 幸せを満喫していると、海くんが義兄さんたちの方を向いた。
「兄さまたちもたくさん﹅﹅﹅﹅食べてくださいね」
 ――可愛いのに圧が強い……!
 あの様子だと、陸さんはカボチャと茄子、椎茸が苦手なようだ。空さんは明らかにピーマンを見て顔を強張らせている。それと人参は両者とも苦手みたいだな。
 とはいえ、作ったのが溺愛している末弟で、しかも本人同席じゃ残せない。
 頑張ってください、と心の中で義兄さんたちを応援していると、
「はい、一虎さん。あーん」
 海くんが口元にまで人参を持ってきてくれていた。いかにも新婚って感じで照れるけど幸せだ。海くんの可愛さが溢れて止まらない。後で抱っこさせてもらおう。
「美味しい?」
 ありがたくいただくと、甘い声で感想を求められた。じっくり味わいながら何度も頷く。料理は美味しいし海くんは可愛い。これが天国か……!
「……本当に苦手な物はないのか……」
 空さんから唸るような声で聞かれた。けどなぁ……
「ないです」
 小さい頃はそれなりに苦手な物もあった。実は空さんと同じくピーマンが食べられない子供だったのを覚えている。
 ただそれもα校に通う内に矯正されたんだよな。妾腹だから寮住まいだったし。好き嫌いとかできる環境じゃなかったんだ。
 実家通いの友達はどうだったかな。トキくんは辛いの全般ダメだけど、これは好き嫌いの問題じゃない。紬くんは好き嫌いはないって言ってた。那智兄さんはあまりキノコ類は好きじゃないらしいけど、あえて避けるほどじゃないって食べてはいる。
 というか、義兄さんたちは未だ克服し切れないのか。今回の海くんの行動を大倉さんが止めなかったのは、彼も好き嫌いはよくないと思ってるんだろうな。今は海くん専属のお世話係だけど、昔は兄弟の教育係でもあったんだし。
「陸様、空様ともに会食の機会が多くございます。その度に苦手だからと料理を残されては、佐々木家の名に恥じます。どうか克服なされますようお願い申し上げます」
 しれっと大倉さんが口を出してきた。うん。やっぱり義兄さんたちの好き嫌いは教育係として気になってたのか。
「そうですよ。僕だってちゃんと玉ねぎを克服したんですから、兄さまたちも頑張ってください」
 ほっぺを膨らませた海くんが大倉さんの尻馬に乗る。というか、海くんは玉ねぎ苦手だったのか。綿貫家にいる時は好き嫌いがないように見えたから、学生時代に克服したんだろう。
「さあ、好き嫌いの多い兄さまは放っておいて、僕たちは食事を続けましょう。一虎さんは次に何を食べますか?」
「えっと、じゃあ、サラダを……」
「わかりました! はい、どうぞ」
 と、海くんが俺の口元にサラダを運んでくれる。たぶん、義兄さんたちへの当て付けだろうな……でもまあ、役得だと思うことにしよう。海くんがあーんしてくれるのは単純に嬉しいし。
「……くそ……こんな甘ったるいところにいつまでもいられるか! さっさと食うぞ兄さん」
「…………黙って食え……海の手料理だぞ」
 意気込む空さんと唸るように応じる陸さん。これは成功……なのか?
「僕が腕によりをかけたんですから、残さず食べてくださいね」
 覚悟を決めたように料理を口にする義兄さんたちを確認して、海くんは笑顔でトドメを刺していた。


 昼食を終えて、陸さんと空さんは仕事へと戻っていった。俺の方は納期に余裕がある仕事しかないので、食休みを取っている。
「一虎さん、お腹苦しくないですか?」
 心配そうに覗き込んでくる海くんに、大丈夫、と手を振る。結構満腹ではあるけど、休めばどうにかなる程度だ。
「もう。兄さまたちが残した分まで無理に詰め込まなくていいんですよ。一虎さんをいじめた罰なんですから」
「罰って……」
 やっぱりそういうつもりで作ってたのか。とはいえ、俺はいじめられてるわけじゃないんだけどな。
「申し訳ございません一虎様。私も陸様、空様の偏食を正す良い機会かと思い、海様をお止めせずにおりました」
 大倉さんが申し訳なさそうに言うけど、反省はしてなさそうだ。『佐々木家』の教育係なだけあって、義兄さんたちにはもちろん、婿の俺にまで平等に厳しい。
「胃薬をお持ちしますので、少々お待ちくださいませ」
「ああ……はい。お願いします……」
 有無を言わさぬ口調で言い残し、大倉さんが夫婦の私室から出て行った。明らかに食べ過ぎたから、正直ありがたい。
 昼食が始まってからしばらくは、陸さんも空さんも苦手な物を頑張って食べていた。けどまあ、流石に量が量だったからな。段々と止まりかける手を見るに見かねて、俺がちょっと余計に食べた。空さんがあからさまに『助かった』という表情をしてたっけ……例え最愛の弟の手料理とはいえ、嫌いな物尽くしはキツかったに違いない。最後の方なんかげっそりしてたし。
「一虎様、こちらを」
 大倉さんが戻ってきて、胃薬と水を渡してくれた。受け取って飲むと彼は「では、ごゆっくりお休みください」と下がっていく。何というか、完璧なお世話係だよな……こっちが恐縮しそうだ。
「大丈夫ですか?」
「うん。薬も飲んだし、じきに落ち着くよ」
 心配そうな海くんの頭を撫でる。嬉しそうに目を細めてるのが可愛い。このままずっと撫でてたい。いや、やっぱり抱っこしたい。
 海くんが最強に可愛いと再々々々……々認識したとこで、ふと食卓に上った言葉を思い出した。
「そういえば、海くんって玉ねぎが苦手だったんだね」
 俺と一緒に暮らし始めた時も普通に食べていたから、全く気付かなかった。
 そう言うと、海くんは慌てたように手を振る。
「小さい頃の話ですよ。大倉によく叱られてたのを思い出しました」
「それは……怖かっただろうなぁ」
 大倉さんは普段穏やかな人なんだけど、佐々木兄弟を叱る時はかなり厳しい。傍から見ている俺も怖いんだから、叱られてる本人は相当だろう。たまに空さんが大倉さんに諌められて背筋を伸ばした姿を見たりもする。幸いにして、俺は未だそこまで叱られたことはないけど。
「それでもΩ校に入るまでは苦手なままでしたよ。流石に寮生活で我侭は言えないので、どうにか克服しました」
「そっか。確かに寮だとそうなるね」
 俺もα校では寮に入ってたからなぁ。集団生活となると我を通すわけにもいかない。あれはあれでいい経験だったと思う。
「一虎さんも苦手な物ありました?」
 そう聞いた海くんが、俺にぺたっとくっついて甘えてくる。可愛い……早く夜になってくれないかなぁ。明るい内からイチャつくのは佐々木家だと無理なんだよ……大倉さんの目があるから。
「苦手な物か……実は、空さんと同じでピーマンがダメだったよ」
「え? そうなんですか!?」
 答えると、海くんがその大きな目を丸くした。気付かなかった、と小さく呟く海くんに、そうだろうなと思う。俺の方も寮生活で克服してるし、さっきは全種類残さず食べてたから。
「α校に入る前の話だけどね。俺もα校では寮生活してたから、自然と好き嫌いは矯正されたよ」
 何せ、α校の寮母と寮長は怖い。寮母さんはβだったけど、以前はα家庭に勤めていたベテランの使用人で厳しいなんてレベルじゃない。そして寮長は毎年最高学年のαが務める役職だ。普段どれだけ好き勝手やっているαだとしても、寮長としてはきっちり規律を守ってくる。それもどんな手を使ってでも﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅
 その意味が分かってるから、皆大人しく従ってたんだよなぁ……本当にα校の寮は品行方正を絵に描いたような生活だった。まあ、俺は別に窮屈さは感じなかったけど。
「一虎さんも頑張って直したんですね。……それに比べて兄さまたちは……」
 ぷく、とほっぺを膨らませて海くんが怒っている。どうしよう。怒ってても俺の海くんつがいは可愛い。海くんが大正義過ぎて辛い。一応窘めないと義兄さんたちに悪いとは思ってるんだけど……
「うん。ただ今日のあれは、流石にお義兄さんたちが可哀想だったかな」
 仕事に支障が出ない程度だとは思うけど、やっぱり苦手なものだらけの食事は精神的にダメージが大きそうだ。
「でも、兄さまたちが悪いんですよ」
 むー、と口先を尖らせるのは待って欲しい。状況も弁えずにキスしたくなるから。
「海くんが庇ってくれるのは嬉しいけど、心配しなくても大丈夫だよ」
「それって、『わかってるから』ですか」
 拗ね顔なのは、仲間はずれにされている気分なんだろうな。αの兄二人と番の間で『わかってる』状況だ。Ωの海くんは入れないと思ってるのかもしれない。
「そうだね。みんな、海くんが大切だって思っての言動なんだ」
 これは海くんを護るための遣り取りなんだ。その一点で、義兄さんたちと俺は完全に同意の上連携してる。あのお小言もその一環でしかない。
 佐々木家の次期当主としてじゃなく、陸さん、空さんの弟として。俺の最愛の番として。義兄さんたちも俺も、海くんを大切に護りたいんだ。
「……お父さまのことがあったから、ですよね」
 そう呟いて海くんは俯いてしまう。自分が駒として扱われるだけではなく、α社会の勢力図を父親に握らせかねない状況でもあったからな……本人も知らない内にそんなことに巻き込まれていたなんて、相当にショックだったはずだ。
 佐々木家のΩは、α社会での縁結び役を担っている。この家の当主が代々Ωなのは、縁結び役としての権力を一人のαに握らせないためでもあり、立場の弱いΩを守るためでもある。Ωの気持ちを聞いて配慮できるのは同じΩしかいないだろうから。
 生まれたΩから一人当主を選び、αはレポグループの経営に携わるというのが佐々木家の決まりだ。そして、俺のような入婿は当主の役割をサポートするため、α側の状況を調べる。だから取り入ろうとするαを見極める目が必要になるし、懇意にするαへの贔屓は許されない。そして入婿はレポグループへの介入も、当主が運営する『みなづき』という老舗旅館への関与もできない。行動にかなりの制限が設けられるので、普通のαではまず入婿としての条件を満たせない。
 当代と先代の佐々木家当主――俺からすると義祖母と義母――には、αの兄弟がいなかった。そこで縁結び役のサポートは諦め、レポグループの方を入婿である義祖父、義父に託していたそうだ。やがて欲が出てきた彼らは佐々木家の役割を理解していた長子のΩ・華さんを他家に嫁がせ、まだ学生で事情を知らない海くんを傀儡にしようとしていた。
 海くんは大倉さんの目を盗んで忍ばせていた義父の手の者に、佐々木家は義父の物であると吹き込まれて育った。だから自分が次期当主になることも、義父が用意したαと番にさせられることにも気付かずに、佐々木家に閉じ込められていたのだ。
 当代がサポートもなしに忙しく立ち回っている間に少しずつ計画が進められていたせいで、大倉さんも事態に気付くのが遅れた。全てが明るみになったのは、海くんが家出をしたからだ。それまでは義兄さんたちが疑いを持った程度で、どうにか義父の尻尾を握らなければ、と手段を探っている状況だった。
 海くんが今こうして自分の意志で佐々木家に戻れたのは、幸運が重なった結果でしかない。
 あの時、海くんがふらっと家を飛び出さなければ。電車で俺に出会わなかったら。俺が『条件』を満たさないαだったら。義兄さんたちに協力者が現れなかったら。俺があの現場に飛び込むことができなかったら……
 何か一つでも掛け違えたら海くんは義父の手駒として扱われ、更に義父の息が掛かった佐々木家はやがて没落しただろう。それだけの危機に見舞われたのだから、俺に対する目が厳しいのも、事ある毎に戒めを受けるのも仕方ない。
「確かにそれは大きいと思う。ただ、今は義兄さんたちが何も言わなくても、俺が社交に出れば他のαから厳しい目で見られるんだ。寧ろ、面と向かってハッキリ注意してくれる義兄さんたちは優しい方だよ」
 α同士の社交では、穏やかな体裁を保ちながら互いの腹を探り合っている。相手と友好関係を結ぶメリットがあるか、逆に足元を掬われる可能性はないか、付け入る隙があるか、等々。それが分かってるから社交を好まないαも多い。俺も佐々木家の入婿にならなければ全力で避けただろう。妾腹でもあることだし。
 俺はそんなα社会の中で、次期当主の番として情報収集の役目を果たさなきゃならないαだ。更に当代の入婿がやらかした直後なのだから、俺に対する目が厳しいのは当然。おまけにその状況なら、周囲が厳しい目を向ける中甘い言葉で俺を上手いこと持ち上げ、佐々木家に取り入ろうと考えるαが出てきてもおかしくない。……正直、俺は平和主義でギスギスした空気は苦手なんだけどな……
 でも、
「本当ですか……?」
 隣で可愛く見上げてくれる海くんつがい。彼へのサポートが、彼を手に入れた俺の成すべき使命なんだ。そう胸に刻んでおけば乗り越えられる。
「本当だよ。だから、あんまり義兄さんたちに意地悪しないであげてよ。空さんなんか、ちゃんと食べたのにやつれたみたいになってたし」
「たまには良い薬です。大倉だって兄さまたちの好き嫌いに困ってたんですから」
 ああ、うん。大倉さんの気持ちは分かってた。
 とはいえ、俺が庇わなきゃ義兄さんたちの立つ瀬がないな……そう考えて海くんに笑顔を向けると、彼は溜息を吐き出した。
「……わかりました。一虎さんに免じて兄さまたちは許してあげます。いつまでも怒ってたら可哀想ですし」
 どうやら海くんは矛を収めてくれるようだ。ひとまず義兄さんたちは救われたか。
 そう安心した俺は、可愛い番を抱えてようやく幸せな午後を過ごした。


 昼食会の後から、俺が大っぴらに小言を言われることは減った。というか、海くんの目の届かないところでの注意に変わった。
 これを聞くのも入婿の仕事だと割り切っているので、別に俺は苦痛じゃない。改めて気合い入れ直すためには良いことだと思う。義兄さんたちも悪意あって言っているわけじゃないから。

 因みに、海くんの手料理で義兄さんたちの好き嫌いを克服させようという試みは、大倉さんの方針と見事に合致したらしい。それから月に二、三回の頻度で海くんお手製の食事会が開かれた。流石に苦手な食材尽くしではなかったけど、必ず何かしらは入っているという義兄仕様。佐々木家の教育係は厳しい、と俺は改めて認識したのだった。

── 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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