← 作品ページへ戻る

犬系彼氏

こうよう

1,375 字

現代ファンタジー、青春

"日常の裏側に潜む、甘くも奇妙な真実。"

← 右から左へスクロール

 私には犬系彼氏がいる。
 彼は米国か英国かどこかのヨーロッパ系の顔つきの、妙にほっそりとした、背の高い男だった。髪も金髪で、いつも癖っ毛に悩んでいた。その頸もとにはいつも銀のネックレスが輝いていた。彼とは高校に入学した時からの知り合いで、高校一年生の秋頃に付き合った。私は現在高校二年生である。
 初夏の休みの日、私は同じクラスの女友達二人と一しょに、或都会の駅前の大型量販店へ買い物に出かけた。その日は初夏には珍しい、やけに暑い日だった。往来には、既に夏らしい半袖の人もちらほらいた。昼休憩中の白いワイシャツ姿の男性、これからデートにでも行くのであろう袖のない真っ赤なドレスの女性、天使の羽をつけた麦わら帽子姿の赤ちゃん、──斯く云う私もその一人で、夏用の袖のない、ギンガムチェックのワンピースを着、腕に少し厚いカーディガンを引っかけていた。友達二人も上着を着けていたものの、いつか夏の半袖すがたとなって、上着は腕から垂れていたり、鞄の中に仕舞われたりしていた。一人は透明感のある白いシャツにデニム生地のオーバーオール、一人はベージュのワンピースと云った格好だった。既にいくつかの紙袋を手に提げながら、そろそろ帰ろうかどうしようかと駅前近くをだらだらうろついていた。
 気づけば私達は見慣れない道にはいっていた。どうやらうろついている内にどこかへ迷いこんだらしかった。まわりは閑静な住宅街と云うような感じで、家々が軒を並べていた。が、その中に一つ、明らかにその土地に似合わない、ガラス張りのビルがあった。その門の前にある生垣には、「××研究所」と云う磨いた石で出来た招牌があった。
 それを見た時私はふと、以前この駅の近くに自分の彼氏が住んでいるような事を聞いたのを思い出した。しかも彼の父は何かの研究をしているらしい話も風の噂で聞いていた。実際招牌には彼の苗字が書かれていた。だから咄嗟にこの研究所が彼の家だと確信した。
「これって〇〇君の家なんじゃない?」
 私は少し立ち止まって、友達二人にこんな事を言った。友達は二人とも私と同じ感想を持っていた。かと云って尋ねて見る勇気は私達にはなかった。私はぼんやりとビルを見上げながら、徐ろに又歩きはじめた。
 するとビルの下の方に金色の毛をしたレトリーバーが一匹いるのを発見した。犬はこちらには気づいていないようだった。尻尾を振りながら、その自分の尻尾を追いかけ回していた。
 そこに私は何故か自分の彼氏の姿を重ねた。確かに同じ毛色をしていた。くるんとした癖っ毛もあった。細い体格も彼に近いものがあった。顔つきもどこか彼に似ていた。が、そればかりではない、何かそう感じさせる或違和感がどこかにあった。どこかに?──私にはそれが何かわからなかった。
 いつの間にか私達は又、駅前の、まん中に四車線道路のある、賑やかな往来に返って来た。時刻はもう日暮にさしかかっていた。私達はもう帰ろうと駅の中の方へはいって行った。改札口には四つの改札が置かれていた。改札を通った時、不意に頭の中に或光景が浮び上がった。それは先刻のビルの中の大型犬の姿だった。そしてそれはその時にはどうしてもわからなかった違和感の正体だった。
 ──あの犬の頸にぶら下がって煌いていたのは、確かに彼の愛用していた銀のネックレスだった。

── 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

作品ページへ戻る

コメント

まだコメントはありません。最初のひとことをどうぞ。

しおりを挟みました