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寂れた神社の跡取り息子の俺、なぜ高速道路のど真ん中でHする美男子カップルの幽霊を退治しなくちゃいけないんだ?

haku

15,277 字

寂れて荒れる一方の荒石神神社。その跡取り息子の石崎 晴朗(いしざき はるあき)。しかし彼には退魔業という隠れた使命があった。ある日、そのもとにNEXCO西日本の担当者が訪れる。高速道路の中央分離帯に男同士のカップルの幽霊が現れて性行為をするため、それに目を取られて事故が多発しているのだという。幽霊退治の依頼をされた晴朗は出現場所に赴くが 彼がそこで目にしたものは……。

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亀岡の朝は霧深い。

鳥居の上部はかすんで見えない。

一応京都府なんだが……洛中となんて違うんだ……

こいつは酒呑童子とか鬼が出ると思われても仕方がない……

俺はそんなことをぼんやりと考えながら、眠い目をこすりつつ竹ボウキを手に取った。

「しっかり掃除するんじゃ!境内は神聖なところじゃからな!」

賽銭箱の前の木階段に座った忌々しいやつが俺に激を飛ばす。

「こんな広いところ……俺一人で掃除できるかよ!手伝ってくれよ!」

「阿呆吐かせ!お前はここの当主じゃぞ!」

「じいちゃん。俺は当主にしてくれと頼んだ覚えはない!」

「うるさい!泣き事を言わずにさっさと掃除をしろ!」

「ちくしょう……!」

霧に覆われている広い境内。

俺は無限に広がる落ち葉をかき集める。

「じいちゃん!参拝客なんてほとんど来ないんだから……掃除なんてたまにしとけばいいだろ!」
 
「晴朗!その性根がなっておらん。お前の父が生きておったら嘆き悲しむぞ!」

(ちっ!また親父かよ……)
 

俺の名前は石崎 晴朗(いしざき はるあき)。

神主だった俺の親父は昨年死んだ。

おかげで俺はまだ20歳を超えたばっかりなのにこの寂れ果てた神社を継ぐはめになっちまった。

この神社は荒石神神社という名前で、じいちゃん曰く1300年前に開かれた千歳町の出雲大神宮よりも古いという。

でも市内じゃすっかり影が薄くなり参拝客なんて滅多に来ない。

客が来ないから静かでのんびりできると思われるかもしれない。

ところがどっこいそうはいかないんだ。

あまり知られてはいないが神主というのは意外と忙しい。

神事に祭祀、お宮参りに七五三、本殿や庫裡の維持管理、氏子総代との打ち合わせ、建築工事があるたびに地鎮祭に呼ばれるし、何より表立って知られていない裏の仕事がある。

そいつが退魔師だ。

世間で意味不明な出来事やトラブルは大概人外の訳のわからない奴が絡んでる。

そんな時にお呼び出しがかかるってわけだ。

でも俺はまだ見習い中で、本格的な退魔行をやったことがない。

犬や猫、狐などの動物霊を祓ったことはあるが、こんなのはだいたい問題ない。

しかし難しいのはまだじいちゃん頼みだ。

朝の掃除が終わり霧が晴れだした頃、俺とじいちゃんは賽銭箱の前に座って一服していた。

その時鳥居をくぐり紺色のスーツ姿の細表の男性が姿を現した。

黒縁メガネのその男性の表情はひどく疲れているように見えた。

(細木さんか……また何かあったのかな……)
 
彼の名は細木 一夫(ほそき かずお)。

NEXCO西日本の総務担当だ。

まあ西日本の高速道路を運営してる会社の、何でも屋といえばわかるだろう。
 
ハイウェイは死亡事故が多いせいか心霊関係の面倒事も多いようだ。

うちにもちょくちょく顔を出してくる。

しかし今回俺はちょっと嫌な予感がしていた。

「いつも誠にお世話になっております」

彼は丁重に頭を下げる。

「総務長どの。また何か出たんですかな?」

「はい……お察しの通りで。大変厄介な事態になっておりまして……」
 
「ふむ……。詳しくお聞かせ願いますかな」

「はい……」

「じいちゃん。俺、庫裡に戻るよ」

「バカモン!お前も横で聞いておれ!」

「ええ!マジかよ……」

俺はため息をつきながら一度浮かした腰を元に戻した。

細木は落ち窪んだ目で語り始めた。

「又、心霊に関するトラブルのご相談なのですが、今回は2体おりまして……」

「ほう。人霊ですかな?」

「はい。それも外国人の亡霊です。2人とも若い男性でして……京都第ニ縦貫道、大原野附近の中央分離帯の中に深夜の2時頃出没するのです」

「外国人の亡霊とは珍しいですな。して、トラブルの内容とは?」

「それが……。彼らはいつも全裸で出没します。そして大声で愛を語り合いながら淫らな行為を繰り返すのです。走行中に目を取られたドライバーの事故が多発しています。二人とも目の覚めるような美男子のためか、特に女性ドライバーの事故が目立ちます」

「なるほど。彼らに関して何か情報はございますかな?」

「はい。こちらで調査しましたところ、出没ポイントあたりで今年の1月に事故死した外国人の2人組がありまして、その霊と思われます」

「二人のもう少し詳しい情報はございますかな?」

「ええ。《ミハエル・デカマラス 25歳》と《ロリアナ・キャピタラス 20歳》と判明しています。三年前に東欧の社会主義国家ラブラブスタンから京都市西京区に移住していたようです。2人は同性愛者で、かの国はそれが禁じられているため日本に逃れてきたようですね」

「事故当時の状況は?」

「なぜか2人とも全裸で乗車しておりまして、中央分離帯のガードレールに激突して車中から投げ出されて死亡しました。二人は抱き合ってキスをしながら倒れていたようです」

「ふぬう……。事情はだいたい分かりました」

「そういうわけで……あの……今回もご対応お願いしてもよろしいでしょうか?」

「分かりました。お受けしましょうぞ」

「本当ですか!ありがとうございます!」

「そういうわけじゃ。晴朗……今回はお前が行け」

「は!ハァ!冗談だろ!」

俺は腰が抜けそうになった。

「冗談でこんなことが言えるか。お前もこの荒石神神社の当主じゃ。これぐらいのことはこなしていかねば……」

「無理だって!人霊なんて扱かった事ねえよ!」

「何事も経験じゃ!わしも老い先は短い。四の五の言わずに行け!」

「う……ぐう……」

こうして俺は、外国人変態カップルの亡霊退治を任される羽目になっちまったってわけだ。

次回 

晴朗は、激しく愛し合う美男変態カップルと対峙する

次の日の深夜、早速俺は道路巡回パトロールカーに同乗して現場に向かった。

京都第ニ縦貫道の大原野附近は亀岡インターチェンジからそう遠くない距離である。

30分ほど走行すると、やがて現場の中央分離帯が見えてきた。

腕時計に視線を落とすと2時を少し過ぎている。

「あれ……お分かりになりますか?」

細木さんが小刻みに震えながら指をさす。

俺は指先の方角のガードレールに挟まれた場所に目を凝らしてみた。

「ええっと……あっ!なんか……男ニ人が抱き合ってる!」

「はい。今夜もいますね。近くに駐車します」

パトロールカーは中央分離帯に横付けした。

規制車線をコーンで絞り、電光掲示板と警告灯が設置される。

そして車を降りてガードレール内に入った俺は言葉を失った。

半透明で、かすかに白光りする全裸の男性2人が抱き合いながら、お互いにディープキスを繰り返しているのである。

そしてキスの合間に 2人は見つめ合い、何やら激しく情熱的に言葉を交わしている。

「嗚呼!ロリアナ!愛しい ロリアナ!君はなんて可憐で美しいんだ!君の瞳を見るとき……私の心は張り裂けそうになる。いや!全身もバラバラになりそうになるんだ。君は全身が美の刃なんだ!」

長身で彫りの深い顔立ちの黒髪男がそう言い放つと、小柄で金髪の美男子の唇にキスの嵐を浴びせた。

「ミハエル!嗚呼!ミハエル!そんなに激しくされたら僕は壊れてしまうかも……でもそれでもいい!僕はミハエルの情熱を!愛を全て受け止めるよ!」

ロリアナはまつ毛の長い大きな瞳を潤ませながら、自ら背伸びしてミハエルに接吻し返した。

「嗚呼!至福だ!愛の津波だ!ロリアナから放たれる巨大なバイブレーションに僕は飲み込まれ 、パラパラになり、そして生まれ変わるんだ!そして私は新しい体で再びロリアナと1つになるんだ!さあ背を向けて!君の桃尻を僕に見せてくれ!」

「うん……分かった!恥ずかしい……。お尻を向けるなんてとっても恥ずかしい。でも嬉しいよ!愛してくれるんだね!1つになれるんだね!全てミハエルに委ねるよ!僕の体は全てミハエルのものだ!もうどうなったっていいんだ!」

俺はこの時点でかなり嫌な予感がした。

しかし亡霊の怒涛の勢いは止めようがなかった。

恥じらいながらお尻を突き出すロリアナ。

それに向かってミハエルは突撃した。

「クアアァァ――!私たちは一つだ!愛の結晶体の完成だ――!」

「ミハエル―!愛!愛!アイ――――!!」

 
――やりやがった…………。

――ついにやっちまいやがった………。

「晴朗さん!晴朗さん!」

「はっ!細木さん……。」

「大丈夫ですか?」

​「すいません、あまりの光景にフリーズしてしまって……」

「その……何か手立てはありそうですか?」

「うーん……。ひとまず霊に話を聞いてみることにします」

「え!彼らにですか?」

「はい。霊の考えていることがわかれば、なにか解決につながる手立てが得られるかもしれません」

「分かりました。でも気をつけてください」

「ええ。ありがとうございます」

そう言うと俺は意を決して、必死に腰を動かしているミハエルに向かって声をかけた。

「あの。ミハエルさん……。お取り込み中大変申し訳ないんですが、ちょっとよろしいですか?」

「な、何ですか!君は!」

「あの……ここは公道なんで。2人で乳繰り合うのはやめてもらっていいですか」

「なぜだ!なぜ君は私たちの崇高な愛の営みを邪魔するんだ?私はロリアナを愛しているのだ!」

「いや……その……愛し合ってもらうのは全然結構なんですけども……ここではやめて欲しいんですよ。あなたがたに気を取られて事故も起きてるし、はっきり言って迷惑なんです」

「私達の愛に一点の曇りなし!この崇高で美しき 交わりの姿を皆に見られる事こそ天使の祝福、我らの願い!」

「あの……。あんたらもしかして露出狂の変態さんですか?良くないですよそれ!」

「ミハエル!こんな奴の相手は止めて!僕だけを見て!」

「おお!ロリアナ……すまない!私はいつだって君だけを見つめているよ。好きだ好きだ好きだ―――!」

「嗚呼!ミハエル!愛!愛!アイ――――!!」

2霊は晴朗を無視して激しく絡み始めた。

(駄目だこりゃ……)

ため息をつく俺に細木さんが恐る恐る声をかけてくる。

「あの……差し出がましい様ですが……あなたのお祖父様はお札の様な物をよく使われていたと思います。そんなのはダメなんですか?」

「《退魔の札》ですね。あるにはあるんですが……今回は二体いますからねえ。《七人ミサキ》が良い例なんですけども、数が複数になると難易度があがるんですよ」

「しかしこのままでは……。一応試してもらえませんか?」

「仕方ありませんね……」

俺は気乗りしなかったが、他に手立ても思いつかない。

懐から呪文の書かれた紙の札を二枚取り出し、中指と人差し指で挟んで、2霊に向かって投じた。

札は滑るように飛び、性行為に夢中になっているミハエルとロリアナの背中にピタッと張り付いた。

「オンタタギャトウトハンパヤソワカ……」

俺はそれに合わせて指で印を切り退魔の呪文を唱える。

「く!くあああああ!」
「きゃ!く、苦しい!」

2霊は身をよじって苦しみだした。

「お!いける!いけますよ!晴朗さん!」

細木さんは歓喜の声を上げる。

しかし、2霊は強く抱き締め合うと互いの名を絶叫した。

「ロリアナ――!」
「ミハエル――!」

すると、2人の体が白く発光して、背中の札が2枚共剥がれ落ちてしまった。

「え……なぜ?」

唖然とする細木さんに、俺は冷めた声で説明する。

「二人の愛の力で退魔の札に打ち勝ったんですよ。やっぱり無理だったか……」

「そ、そんなあ……」

細木さんはがっくりと肩を落とした。

「嗚呼!嗚呼!二人の愛をさえぎるものなど存在しない!ロリアナ!好きだ好きだ――――!!」

「ミハエル!そうだね!僕たちの愛は永遠だね!愛!愛!アイ――――!!」

また激しくディープキスをし合う2人。

(こいつは弱ったことになったぞ……)

激しく絡み合う亡霊の姿を見ながら、俺は唇をぎゅっと噛み締めた。

次回  晴朗は《第三の霊》を呼び出す。

三日後の昼過ぎ、細木さんは再び神社にやってきた。

その顔には疲労と苦悩の色がありありと浮かんでいる。

「どうですか?あれから良い案は浮かばれましたか?」

「いや……正直どうしたらいいか……まだ分かりません」

「そうですか……。その……おじい様にも御相談いただきましたでしょうか?」

「はい……でも『お前がやれ』の一点張りで。ただ……」

「ただ?」

「霊に関して見落としている情報はないかもう一度確認しろとだけ言われました」

「なる程。彼らに関する他の情報ですね」

「そもそもあいつら、日本語上手くないですか?」

「それについては調べがついています。元々彼らは日本オタクで何度も渡航歴があるようです。移住してからはさらに言葉が上達したんでしょう。自分達を弾圧する母国の言葉を憎んでいた節もあります」

仕事柄とはいえ細木さんの情報収集能力にはいつも舌を巻く。

警察や探偵などの情報調査会社とも顔が利くようだ。

「でも……そもそもどうして日本に移住してきたんでしたっけ?」

「確か母国で同性愛が禁じられていたのもありますが、二人とも露出性癖の持ち主であったことも分かっています。ラブラブスタンでは公衆猥褻罪の最高刑は死刑だそうですから……。それともう一つお伝えしていない情報があります!」

「え!」

「二人を執拗に追い回す男がいて、そいつから逃れる意味もあったようです。彼は2人が日本へ移住した直後、後を追うように日本へ渡っています」

なに……!

その話に俺は喰らいついた。

「細木さん!その男の情報についてもっと詳しく教えてもらえませんか!」

「え!はい。結構ですが……実は彼は2人の事故の翌日に自殺していまして……」

「自殺!」

さらに俺の目が光る。

「構いません!頼みます!」

「分かりました。なんとか解決に向けてよろしくお願いします!」

細木さんは祈るように俺に対して頭を下げ、《第三の男》について詳しく教えてくれた。

(こいつは使えるかもしれない!)

俺はこの男に望みを託すことにした。

1週間後の満月の夜。

俺はパトロールカーに同乗して再び現場に向かっていた。

「あれから毎晩出没しているようですね」

「はい……。二人の行いは益々エスカレートしてまして。言葉に言うのも憚られるような状態です」

(あの晩以上って……一体どんな状態なんだ)

俺の身がかすかに震えた。

「このままでは通行止めしなくてはならなくなります。なんとか……よろしくお願いします」

「ええ。今宵はこいつにかけてみます……」

そう言って俺は狩衣(かりぎぬ)の袖から、青白く光る人形に切られた紙を取り出した。

中央分離帯に近づくにつれ、変態カップルの激しい 嬌声が響いてくる。

「オオオオオ!!ロリアナ!君の唇はバラとルビーの至高のコラボレーション!君の瞳は1億カラットのダイヤモンドも平伏させる!君の尻は東洋の天上界に実るという蟠桃(ばんとう)も及ばない!全ては!全ては私のものだあぁぁぁ―!」

「アアアアア!そうだよ!そうだよ!全部あげる!全部ミハエルにあげる!髪の毛 一筋まで全てあげる!だからミハエルのも僕のものだ!全部僕のものだ!愛!愛!愛!愛!アイアイアイアイ―――ン!!」

やばい……。

こいつら本当にやばい……。

俺は正直逃げ出したくなってきた。

しかし落ちくぼんだ目で……祈るような顔で俺を見つめてくる細木さんの顔を見るとそういうわけにもいかない。

「行くっきゃない!」

俺は中央分離帯に横付けされたパトロールカーから気合を入れて飛び出した。

奴らはこっちに目もくれず、激しく絡み合ってやがる。

俺はド変態カップルの前に立ち睨みつけた。

そして懐から先ほどの形代(かたしろ)を取り出した。

「見てろ!お前らの営みをぐちゃぐちゃにかき乱してやる!」

そう言って形代を右手で前に掲げ、左手で印を切りながら呪文を唱えた。

ぼーっと形代の光が増し、煙のようなエクトプラズムが吹き出してくる。

それは人の姿を形取っていく。

やがて、磨き上げられた筋肉に全身が覆われた、全裸髭面の男が発現した。

「ほ、ほう!これが霊体召喚ですか!」

細木さんがメガネを整えながら興味深げに凝視する。

そしてマッチョマンを見た変態カップルは二人とも同時に絶叫した。

「ジュリアーノ!」

「おお!愛しのロリアナ……。会えて嬉しいよ!」

ジュリアーノは艶のある重低音で嬉しそうな声をあげる。

ロリアナは眉間にしわを寄せて全裸マッチョマンを睨みつけた。

「一体何しに来たの!もう顔を見せないでって何度も言ってるじゃない!」

「ロリアナよ……。つれないことは言わないでくれ。こうして自ら命を絶ってまでお前に会いに来たのに。あんなに愛し合った中じゃないか!」

「そんな昔の話は言わないで!今、僕にとって……ミハエルが全てなんだ!死ぬことによって二人は永遠に結ばれたんだ!君はもう関係ない!」

「美の天使よ……。私はお前が死んだと聞いた時、深い悲しみに落ちた。そしてあの世まで追うことを誓い、お前の写真を胸に抱いて全裸で東尋坊の崖から飛び降りたんだ。しかしお前は……そんなつまらない男と寄り添っている!」

「あの……晴朗さん。彼は全裸になる必要があったんでしょうか?」

「しっ!聞こえるよ!細木さん。黙って見守りましょう」

こいつら同類なんだって……細木さん……。

「うるさい!もう僕はミハエルのものだ!君なんかあっちに行け!」

「そんなわけにはいかない。お前はそいつと別れて私と天国に行くんだ。さあ……こちらにおいで!」

手を差し伸べるジュリアーノ。

(よし……頑張れ!その調子だ!髭面全裸マッチョマン!)

俺は思わず手に汗を握った。

しかしその前にミハエルが立ち塞がった。

「私の愛しいロリアナに迫るのはやめろ!ジュリアーノ!」

「邪魔するな!ミハエル!この泥棒猫め!」

「未練がましいぞ、ジュリアーノ!もうロリアナの心はお前にはないのだ!」

「そんなわけはない!ロリアナ……お前の本当の気持ちを聞かせてくれ」

ロリアナはミハエルの背中に隠れて顔だけをそっとのぞかせた。

「本当だよ……。僕の心は君から完全に消えた。もう君とはとっくに終わってるんだよ……」

「そんな……ロリアナ!嘘だと言ってくれ!」

「嘘じゃない……。ジュリア―ノ。さようなら」

それを聞いたマッチョマンは愕然として目を見開いた。
 
そして天を仰ぐと絶叫しながら泣き出した。

「ロリアナ!嗚呼、ロリアナ!うがあぁぁ――!」

ところが ジュリアーノはひとしきり泣いた後、ロリアナの前に立ちふさがるミハエルの裸体をしげしげと眺め始めた。

「しかし……ミハエル。君の肉体も……こうしてじっくり見れば……なかなかに美しいな!」

(はぁ!何をうっとりしてやがる……)

 
「ジュリアーノ。僕の裸はそんなに美しいかい?」

「ああ!均整の取れた素晴らしい体だ。君はこんなに素敵だったんだね。もしかしたら……君を愛せるかもしれない」

(マッチョマン!お前、何を言い出すんだ!)

「どうだろうロリアナ。お前がミハエルと別れる気がないなら、私が彼も愛そう。そうして3人で愛を深めないか?」

(マッチョマン!頼むからそんなこと言わないでくれ)

「僕……ミハエルと別れなくて済むならそれでもいい」

「ミハエルはどうだ?」

「私も、もしかしたらジュリアーノの肉体に魅了されてしまったのかもしれない。君を受け入れるよ」

(だ、駄目だ!駄目だ!駄目だあ!)

「おお!ミハエル!」
「キャハ!ジュリアーノ!」
「嗚呼!ロリアナ!」

3人は激しく交互に抱き合い愛の咆哮を上げ始めた。

 
(う、嘘だろ……何でこうなるんだ……)

凄まじく繰り広げられる地獄の3 P狂宴を前に、俺と細木さんはなすすべもなく茫然と立ち尽くすしか無かった。

次回  晴朗は最後の手段に打って出る

あの悪夢の夜から一週間後。

相変わらず霧が深い神社の朝。

俺は竹箒を手に持ったまま本殿 入口の階段の1段目に腰掛けたまま、落葉が散っている境内を虚ろな目で見つめていた。

京都第ニ縦貫道は緊急工事と称して通行止めになってしまった。

細木さんの魂の抜けたような顔が忘れられない。

(嗚呼!俺のせいだ……)

俺は竹箒を乱暴に地面に打ち付ける。

地面の落ち葉が跳ね上がって散乱した。

「おいおい。物は乱暴に扱うな。箒が壊れてしまうぞい」

いつのまにかじいちゃんが後ろに立っていた。

「何だ……居たのかよ……」

「何をやさぐれておる?沈んでおっても物事は進まんぞ!」

「そんなことは分かってるよ。でも……どうしたらいいかわからないんだよ。俺には人霊を三体も消し去る力なんてないし……」

「晴朗。お前はいい線行っておったんじゃぞ」

俺は顔をゆっくり上げて目を見開いた。

「どういうこと?じいちゃん」

「力ずくで霊を消し去るのは大変じゃ。それを理解してマッチョ霊を嗾(けしか)けたではないか」

「それはそうだけど……うまくいかなかったよ」

「一度や二度の失敗でくじけるな!ダメなら次の手を考えればいいんじゃ!」

「でも……一体どうすれば?」

「今回は霊同士の強すぎる愛情が問題となっておる。それをなくしてしまえば良い」

「じいちゃん……そんなに簡単に言うなよ」

「仕方無い。今回は力を貸してやる」

「ほんとに!?」

俺は思わず立ち上がって目を見開いた。

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ!ただし一回だけじゃぞ。わしについてこい!」

「あ!どこに行くんだよ!」

「来てみればわかる!」

こうして二人が向かった先は本殿の裏にある神庫(しんこ)であった。

大社造りで檜皮葺の屋根が苔に覆われている。

中に入ると、祭祀の道具や神輿、提灯などの他、わけのわからない物が雑然と置かれている。

「じいちゃん……こんなところに何があるんだよ?」

俺はカビ臭さに顔をしかめながら尋ねた。

「お前は黙って見ておれ!お!有った有った!」

じいちゃんは桐の箪笥から埃まみれの数枚の札を引っ張り出した。

「こいつはあんまり使わん札じゃからの。 たくさん残っておったわ」

じいちゃんは札に息を吹きかけて埃を払い、ニンマリしながら俺に見せてくれた。

何だこの札……

意味不明の呪文に囲まれてハートマークがついてるぞ……

俺はジト目で尋ねた。

「じいちゃん……そいつは……一体何?」

「これはのう《霊性反転の札》じゃ!」

「……どんな効果があるの?」

「聞いて驚くな!こいつを霊に貼り付けて呪文を唱えれば、その男女の性が入れ替わるのじゃ!」

「じいちゃん。ごめん!俺ちょっと用事思い出したわ……」

「待て!晴朗!どこに行くんじゃ?」

「俺にはじいちゃんのおふざけに付き合ってる時間はないんだよ!」

「ふざけてなどはおらん!」

「ふざけてるだろ!何なんだその札は!」

「全く物のわからんやつじゃ……。仕方無い。この札の力を実際に見せてやろう!稲荷の前に来い!」

「まじかよ……」

半信半疑の俺は、嫌々ながら境内の隅にある稲荷明神の祠の前に連れて行かれた。

「甚助!甚助はおるか!?」

じいちゃんが祠に向かって大声で呼びかける。

すると間の抜けた声がした。

「へ~い!あっしはここに!」

祠の扉がバンっと開き、中から煙状のエクトプラズムが悶々と湧き出してそれが人の形に変わっていく。

そして、手もみをしながらニヤニヤ笑っているちょんまげ姿の小男が姿を現した。

彼は江戸時代にこの境内で行き倒れになった町民の霊である。

浮遊霊となって彷徨っていたのを先代がみつけ、稲荷明神の祠の中に居場所を作ってやったのである。

「今日は若様もご一緒で。このあっしに一体どんな用件でござんす?」

「お前に頼みたいことがある。この札をお前の背中に貼らせてくれ」

それを聞いた瞬間、甚助は顔を激しく強張らせた。

「それは……何の御札でございましょう?」

「どうということはない!早く背中を向けるんじゃ!」

「い、いやでござんす……。この前はカエルに変えられやした。怪しい霊体実験はまっぴらでござんす」

「居候の身でぶつぶつ言うでないわ!お前の寝床を 厠に替えるぞ!」

「そ、そいつはたまんねえ!わかりやした……分かりやしたよ」

甚助はしぶしぶ背中を向ける。

じいちゃんは札を指に挟んでピッと投げると滑るように飛び、甚助の背中にピタッと張り付いた。

「えろえるじいびいていきゅうそわか……」

そしてじいちゃんが呪文を唱え出すと、甚助の体に驚くべき変化が現れた。

顔は細面になり、胸が大きく膨らんできた。

ウエストは細くなり、お尻がどんどん丸みを帯びる。

俺はみるみる女体化していく甚助を見ながら言葉を失った。

「え……あちきは……どうなっちまったんで?」

「甚助。自分の体をまさぐってみよ!」

「へ?まさぐるって………。あっ!この胸の膨らみは何でさあ!」

「又ぐらも触ってみるんじゃ!」

「ま、まさか………!ひい!無え!おいらの大切な一物が無え!」

「甚助。おめでとう。今、お前は立派な女じゃ!」

「そ、そんなあ!あんまりでさあ!こんな体じゃあっしはもう……生きていけませんや」

「心配せんでもよい。お前はもう死んでいる」

「へへへ!そうでやんした……って!どうしてくれるんでやんす、この体!」

甚助はまつ毛の長い大きな瞳を見開きながら、真っ赤に艶光りする唇で絶叫した。

「慌てるでないわ甚助。晴朗……これからお前に呪文を授ける。札はたくさんあるからこいつで十分に練習してから勝負に赴くんじゃ!」

「まっ、待ってよ!じいちゃん!これをどう使えばいいんだ?」

「それはお前が考えることじゃ。そんなに難しいことではなかろうて。ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ!」

高笑いするじいちゃんを、俺と甚助は恨めしそうな顔で睨んでいた。

次回  三度目の対決

「えろえるじいびいていきゅうそわか!」

晴朗が呪文を唱えると、甚助の体に再び変化が起きる。

「どうだ!甚助?」

「駄目でさあ……胸は膨らんでやすが……イチモツが付いたままでさぁ」

「ハァ……。また失敗か……。もうちょっとなんだけどな。」

​「若様!呪文の抑揚の付け方がご隠居とちょっと違う気がしやすぜ?」

「同じようにやってるつもりなんだけどな。仕方がない……。 もう1回だ!」

「若様。別に構わねえでやすが……最後はちゃんと元に戻してくれるんでやんすよね?」

「大丈夫。それは絶対約束する!だからもうちょっとだけ付き合ってくれ」

「はぁ……。仕方ねえでござんす……」

甚助も諦め顔だ。

俺が甚助の背中の札を張替えようとした時、遠くからこちらを呼ぶ声がした。

「晴朗さ―ん!」

俺は鳥居の方に目をやると、ちょうど細木さんが、右手に書類ケースを抱えて駆け寄ってくるところだった。

彼は俺の前で立ち止まると肩を揺らして息を切らす。

「ゼェ!ゼェ!遅くなってすみません!」

「こちらこそ急かしてすみません。それじゃあ社務所でゆっくり話をしましょうか」

「ええ。――おや!甚助さん、中々の美人じゃないですか」

「てめえ、道路屋!ジロジロ見るんじゃねえ!見世物じゃねえんだ!」

甚助が顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。

細木さんは感心したように頷いた。

「晴朗さん。術の仕上がりは上々では?」

「それが……。男性化は完璧なんですけど、女体化がもう一歩でして……」

「まぁまぁ。焦らず行きましょう。では中へ……」

「おや!あっしはどうすればいいんで?」

「お前はそこで待っていろ。戻ったら特訓の続きだ!」

「ああ……今日は厄日だねえ……」

巨乳を両手で下支えして嘆く甚助を稲荷の前において、俺と細木さんは社務所に入って行った。

「で、どうでしたか?」

俺は座布団に座るなり細木さんに問いかけた。

「はい。まずはこれを。ミハエルとジュリアーノが生前収集したり閲覧したメディアのリストです」

細木さんは黒革の書類ケースからレポートを取り出す。

俺はそれを受け取り目を皿にしてリストに目を通した。

「『薔薇族』、『アドン』 『さぶ』、 『Badi』 、『サムソン』 、『G-men』 ……。これって……全部ゲイ向けの雑誌ですか? 」

「そうです。他に写真集やネットの閲覧記録なども調べましたが、全て男性の肉体美や同性愛に関するものばかりでした」

「とすると、黒髪と髭面は筋金入りのゲイであることは間違いなさそうですね」

「はい。バイセクシャルの線も調べましたが、そちらも大丈夫でした。女性に対する関心を一切示していません」

「となると細木さん……、ターゲットは決まりですね」

「その通りです。晴朗さん」

二人は顔を見合わせてニヤリと笑った。

(後は、術を完璧に仕上げるだけだな……)

​俺は稲荷の方向へ視線を向けた。

​その瞬間、外から「へックショィ!」と甚助のくしゃみが聞こえた。

それから一週間が過ぎた。

深夜の静まりかえったハイウェイをパトロールカ―が疾走する。

ぐっと口を引き締めながら前方を凝視する俺の顔をオレンジの外灯がなぞる。

「いよいよですね。晴朗さん!」

ハンドルを握っている細木さんの周りも空気が張り詰めていた。

「ええ。今度こそケリをつけましょう!」

そう言って俺は妖しくピンク色に光る形代を握り締めた。

中央分離帯に到着して降車した俺は、こちらにお構いなしに電車のように1列になって絡み合う三人組を睨みつけた。

最後尾のミハエルが艶のある美声で叫ぶ。

「嗚呼!嗚呼!いいぞ!とてもいい!肉の宮だ!まさしく美肉の城だ!ジュリアーノ!さあ!君の美尻の門を開けてくれ!」

真中のジュリアーノが低音の渋声で喘ぐ。

「おお!おお!ミハエル!君の大砲に攻められて我が門は崩壊寸前だ!しかしそれが待ち遠しいのだ!早く!早く攻め落として我が城を開放してくれ!」

先頭のロリアナが甘い嬌声を上げる。

「愛!愛!ジュリアーノの愛!君の愛が、君の肉体が……今迄僕には重すぎたんだ。でも今なら受け止められる。大丈夫だよ!来て!来て!アイ――ン!」

――ちくしょう……!好き勝手やりやがって!

――でも今宵でそれもお終いだ!

俺は狩衣の袖から《霊性反転の札》を取り出して指に挟んだ。

それを見た瞬間、変態トリオは動きを止めた。

三人共警戒心をあらわにして俺を睨んでいる。

狙いは金髪だ。

俺は札をかざしながらジリジリとロリアナに接近する。

だがそれを察知したミハエルとジュリアーノが、肉体の壁となって金髪を庇うように立ちふさがった!

「邪魔だよ!」

俺は駆け足で背後に回ろうとする。

それに合わせて黒髪イケメンと髭面マッチョも移動して再びロリアナの前を塞ぐ。

「魔道士よ!何を企んでも無駄だ!」
「愛しのロリアナには一切手を触れさせない!」

「なあ……裸のお二人さん。そこをどいてくれないかな?」

「駄目だ!ロリアナを消すつもりだろう!」
「我々は死んでも天使を守る!もう死んでいるがな」

「へえ。そうなんだ……。そこを動くつもりはないんだね」

「当たり前だ!」
「しつこいぞ!」
 

「じゃあ仕方ないな……。甚助!やれ!」

「へい!がってんでさあ!」

驚愕した三人が後ろを振り向くと、いつのまにか巨乳をたゆらせた甚助が立っていた。

その足元には光を失った形代が落ちている。

あっという間もなく甚助は、ピンク色の札をロリアナの背中に貼り付けた。

「良し!今だ!」

俺は素早く呪文を唱え出す。

「えろえるじいびいていきゅうそわか!えろえるじいびいていきゅうそわか!」

「きゃ……!きゃあ!僕の!僕の体が!」

慌てふためくロリアナの胸が膨らみ出し、股間の一物がしぼみ、サラサラの髪が伸びて腰にまでかかる。

あっという間に全裸金髪美女が出来上がった。

「よし!術は完璧だ!」

思わず俺はガッツポーズを取る。

「ほほう!なんと……あでやかな!」

細木さんは鼻血をたらしながら眼球でメガネを突き破らんばかりに凝視した。

ロリアナは半泣きになりながら自分の身体をまさぐっている。

「ぼ、僕のが無い……!無い!無い!僕の体……どうなっちゃったの?」

「ロリアナさん。貴方は立派な女子になられたんですよ。とっても綺麗です」

細木さんが優しく諭すように教えてあげた。

「え、嘘!いや……!いやぁぁぁ――!ミハエル!ジュリアーノ!助けて!」

ロリアナは絶叫して、二人の方に振り返る。

「え……!」

彼(彼女?)は愕然として立ちすくんだ。

女体化したロリアナの姿を見る二人の目つきは、まるで汚物でも見ているかのようであった。

「な、なぜ……そんな目で僕を見るの?」

ミハエルは薄目でため息をついた。

「ロリアナ……。失望したよ。すっかり変わってしまったね……」

「ミ、ミハエル……?」

ジュリアーノは眉間にしわを寄せて睨みつける。

「無様な姿だ……。吐き気がする。我が天使はどこに行ったのだ?」

「ジュリアーノ。なんで……そんなことを言うの?」

「あの美しいロリアナはもういないんだね。さようなら」
「さらばだ、忌まわしきメスよ。もう二度と会うことはないだろう」

二人はロリアナから背を向けるとすっと姿が消えた。

「い、嫌!待って!僕を一人にしないで!いやぁぁぁ――!」

ロリアナも二人を追うように姿を消した。

あたりは静けさを取り戻した。

「やりましたね!晴朗さん!」

細木さんが嬉しそうに駆け寄って来た。

「はい!でも、細木さんの力がなければ今回は無理でしたよ。本当にありがとうございました」

「とんでもない。霊を相手にするなんて私には無理ですからね。これからもよろしくお願いします!」

細木さんは俺に向かって丁寧に頭を下げる。

俺は照れくさそうに頭を掻いた。

「あのう……。お取り込み中すいやせんが……あっしのこともお忘れじゃないでしょうね?」

「もちろんだよ、甚助!お前がいて助かったよ!」

「えっへっへ!そいつはどうも。ではお約束通り、あっしの体を元に戻してくだせえ」

「それがなあ甚助。お前が使った札が最後の一枚 だったんだ」

「へ!でも今、若様は一枚持っておいででは?」

「これは使用済みなんだ。囮だったんだよ」

「げげ!ということは……!」

「お前はしばらく女だということだ!」

「ひええ!そんな殺生な!」

「そんなに嘆くなって。札はまた作れるみたいだから……それまでの我慢だ」

「とほほ……。情けねえ……」

甚助は渋い顔で豊かな胸を両手で揺さぶった。

それを見て俺と細木さんは思わず大きな声で笑った。

その笑い声は、静まり返ったハイウェイの満天の星空に吸い込まれて行った。

あれから一年が経った。

霧深い荒石神神社の朝。

俺はいつものように竹箒を持って境内の掃除にかかった。

その時であった。

「晴朗さん!晴朗さん!大変です!」

細木さんが息せき切りながら鳥居をくぐって境内に駆け込んできた。

「細木さん。おはようございます。こんな朝早くからどうしたんです?」

「ハァ!ハァ!また出たんです!」

「また?まさか……!」

「はい!そのまさかです!あの三人組です!」

「は、はひ!!」

俺は顎が落ちそうになった。

「今度はロリアナを挟んで男二人が前後から攻める構図です。男性ドライバーの事故が急増しています!」

「あいつら……女にも目覚めやがった!」

俺はめまいがした。

「もう夜が明けているのにまだ痴態を繰り広げています。今から緊急同行をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「わ、わかりました!準備するのでちょっと待っててください」

「はい。すいませんが急ぎでお願いします」

まいったね……。

俺は社務所に荷物を取りに戻ると、神棚に置かれた父ちゃんと、そしてじいちゃんの遺影に手を合わせた。

「晴朗さん!早く!早く!」

外から細木さんの泣きそうな声が響く。

「やるっきゃないな!」

俺は力強く駆け出した。

――完――

── 了 ──

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