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黒髪-改訂版

戸川治

2,294 字

独白劇、猟奇、耽美、どんでん返し

"黒髪...それは、甘美な狂気を宿す、禁断の美。"

先に黒髪、初版からお読みください。

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黒髪...それは大変美しく、それはそれは
もうね?...

人には、誰にも明かせない事の
一つや二つあるものです。
あなたもそうでしょう?
私は、その中でも
厄介な秘密なんですよ。

ほら...見て下さい、この御髪を
とても綺麗でしょう?
ただ単に綺麗と言う訳でもありません。
黒髪...それは大変美しく、それはそれは、
もうね...呑み込んでしまいたい程に。

ですから今日は、
この髪が抱えた秘密の話をするんですよ。

あれは—私が遊郭に何度も、何度も
訪れていた頃でした。

私は、湯水のように、
家の金を注ぎ込んでいましてね。
そのせいで、とうとう両親に勘当されてしまって、
家族は離散。
私は行く先もなく、
あなたに頼み込んで一室を借りる羽目に
なりましてね...
あぁ、すまない、
一室を借りている身だというのに、
こんなに、偉そうにパイプなんぞを
蒸してしまって...
嫌ならば、火を消しますが、
ーーどうします?
……あっ、そうですか。
そこまで寛大だと、
私も、きちんと話さなきゃ、駄目ですね..

あれは三年前、あなたに拾って貰う、前の話です。
当時の私は、ある遊郭に入り浸って、
快楽に堕ちたんですよ。
その時に、ある花魁に一目惚れしたんですよ、
黒髪の......それはそれは大変美しく、
一度、身を重ねたいと思いました......
身を重ねる為には、
いつもの花魁の数倍....いや十倍ほどの金が必要だったんです。
気づけば父の金はすっからかん。
それでも二、三回しか会えない、
しかしその魅惑的な、
黒髪に初めて触った、滑らかで、触ってしまえば
まさに、絹とでも言いますか......
あぁ!そう言えば、
龍のひげ飴に似ていると感じたんだ、
触れれば、ふわりとほどけてしまいそうで、
口に入れば、全てが溶けてしまいそうで......
ですが、あれは口に含むことよりも、
大事な事を秘めているんですよ。
それは、見た目こそ甘味な龍のひげ飴
されど実は、燃える情熱でした。
夜を重ねていく内に、
普通なら、初夜で飽きてしまいます。
しかし、彼女は違いました。

飽きるどころか、初夜で彼女は艶やかな、
長い黒髪を靡かせて、私にこう言ったんです。
「貴方が動くのではありません。
 私が貴方を手中にしたいのです。」
そう言って、
彼女は抗えない欲を持って
私を押さえつけたんです。
やはり、
こんな私にも、くだらない意地というものが、
ありましてね、
最初こそ、抗おうとしても、
どうしても堕ちてしまうんですよ。
そうして夜を重ねて、
別れの日に私はこう言ったんだ。
「これで、最後になってしまう、まだ会いたい」
泣きながらな。
その言葉を聞いた彼女は、おもむろに匕首を取り出したんです。
その匕首で、彼女の長い黒髪の先を切ったんです。
そして、甘い香華のついた、彼女の下着……と
言いますか、裾をたくし上げて、細紐を取り出し、
彼女の御髪を一つの束にしたのです。
「私を忘れないように、もしくは欲を抑えるために、お使いください。」
そして今、
この私の手の中にこの一束の御髪があるのです。

……なんですって?
まだ内容が終わってないように見える?
まぁ人には隠したいことが山々なんですよ。
……良いです。
とりあえず、全容をお教えします。

この手の中にある、
御髪は勿論、彼女の髪そのものです。
しかし、
私は惚れてしまったら、そうそう離れない性分でして。
御髪をもらった後でも
まだ夜は明けないのです。
私は、それを手にしても、
なお満足できなかった。
いや……満足することをとうに、
忘れてしまったのです。
その夜も、
私は彼女の傍を片時も離れませんでした。
しかし、明けない夜は、無いもの、
私は、彼女の衣を解いて、
光を反射する匕首の鞘を投げ捨てて、
やがて彼女を果てさせることができたのです。

別れの時、
私は御髪と一つの土産をもらいました。
これにて全容は語り終えました。

え?……もう一度言ってくれ。
土産を見たいって?…なんて破廉恥な!!
……まぁ…いっか。

そう言った彼はパイプの火を消して、
その「お土産」を取りに押入れへと、
よろめきながら歩いて、
「ここだ、ここだ」といって
黒ずんだ箱を取り出した。

私は息を呑んで固まってしまった。
それが禍々しいのかどうか、私にはわからない。
しかしそれは、まさに禁忌としか言えない。
 
彼は、いまにも箱に、抱きつかんとしてる、
まるで犬のように、
私が覗くのを待っているようでした。

私は恐る恐る、箱の中を覗き込みました。
そこには、一つ。
長い黒髪。
花魁のような化粧。
それだけで、私には十分だった。
私は恐怖のあまり、
箱を蹴り飛ばしてしまいました。
箱が床へ転がる。
すると
彼は待ちわびたように手を伸ばし、
それを大事そうに取り上げました。
そして、嬉しそうに言ったのです。
「佳代さん、いつまでも一緒にいましょう。」
その言葉を聞いた私は、
とうとう耐えられなくなりました。
私は走って逃げた。
あの忌まわしい、
男の地獄から。

「なんで毎回、逃げてしまうかな…」
彼は首を抱えたまま、ぽつりと呟きました。
「これ、家業の人形造形の賜物だったのに。
褒めてほしかった……」
少し考えてから、
彼は愛用のパイプに火をつけた。
「次の居候先でも見つけようかな……」
そして最後に、独り言のように呟いたのです。
「次は……
 自分の人形を褒めてくれる人がいいな……」

── 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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