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猫失格

赤間世穹

1,432 字

アイデンティティの揺らぎを描く幻想ショートショート

"人間だと思っていた僕が猫だと知った日、僕は猫としても失格になった。"

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――はぁ。

近所のおばさんに、また「かわいい」を言われた。
いっつもだ。毎回毎回同じ事しか言わない。まあ、おいしいものくれるから、いいんだけど。

でもでも、僕のこと、「かわいい」というのだけは許せない。僕は「かわいい」ではない、「かっこいい」んだよ!

足はすらっと長くて、長身。顔はもちろん整っている。そして、綺麗な青い瞳!黒髪だって忘れちゃあいけないさ。僕は至って〝普通〟の男子高校生なんだからね。

でも、幼馴染の女子も、僕の事を「かわいい」って。おかしいだろ!僕の方が絶対身長高いはずなのに!
た、高いはずなのに、いっつも頭を撫でるんだ。その子はいつもおっとりしてて、とても人がいい子だけど、此ればかりは許せないな。

まあ、いいや。もうすぐ学校だし。

――よ、るな。相変わらず不機嫌そうだなあ!

友達の「和」だ、僕の事を「るな」って。誰だよ!僕の名前は「月人(つきと)」だ!決して「るな」って名前なんかじゃない!

なんでみんなして頭を撫でるのかなあ。
――はぁ・・・・・・。

とまた盛大な溜息を吐いていると、猫が僕の隣をすいーっと横切った。
と、思ったら立ち止まり、「ぷっ」とにやけた。

・・・・・・ん?猫って笑うっけ?

すると、他の学生ではない、〝猫からの声〟らしきものが聞こえてきた。
――おまえ、もしかして、自分が〝猫〟だってこと、しらにゃいんでしょ?

コイツは何を?

――まだわからにゃいのかい?おまえは、〝猫なんだよ〟。足見てみ?手見てみ?肉球あるだろ?な?

その猫のいわれるがままに、僕は自分の手足を交互に見遣る。

――!?
――な?おまえも、おれと同類ってわけさ。

僕は、いままで何を勘違いしていたんだろう。だからか、猫の声が分かるって。
猫はしゃべらない。

違和感があると思った。僕は、まわりの、他の学生たちと同じだと思ってた。けど、結局違った。僕は……。

人間なんかじゃなかった。

或る日僕は、殺人を犯してしまった。不気味なくらいに薄暗く、狭い路地に、僕は突っ立っていた。

鋭く、太陽の光を反射して鈍く光る爪。鋭い牙。僕は、とんでもない事をしてしまった。と、のちに後悔した。

爪の先には今も滴り落ちる真っ赤な液体――血。
そして、歯と口の周りにはこびり付く血と肉片。不味くて吐き出すも、匂いに敏感な鼻だけはごまかせない。蝿が集るのを他所に、僕は身を引いた。

――と、その瞬間。目の前に、一部だけ肉が剥がれ落ちている人が立ち上がった。まだ、生きていたんだ。僕は、殺人犯なんかじゃなかった。

けれど、ぼたぼたと血を傷口が吐いている状態で、その人はふらふらと僕に向かって、ゆっくりと歩いて向かってくる。

僕は恐怖を覚えた。
その人は、僕に、牙をむいた。爪をギラリと光らせ、飛び乗ってきた。そして、僕の耳を切った。少しの切り傷が残る程度だったが、悶えた。とてつもない痛みと恐怖。――そして不安。

近くで「にゃあ、にゃあ」と激しく鳴く声が聞こえる。とても近い場所だ。

これは、……僕なのだろうか?

――!

僕は真っ白な天井の下で目が覚めた。隣には、一部だけ肉が無い〝ねこ〟。

僕は手を見た。――肉球がある。
僕は足を見た。――肉球がある。

やっぱり、夢では無かった。

あの猫は、僕に〝猫だって教えてくれたヒト〟なのに。どうして、僕は……。

――ああ、僕は、〝猫失格〟だあ……。

── 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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