# 1
モニター画面をじっと見つめ、スクロールをしてまた見つめる。それを繰り返している。画面上に映し出される数字が少し、ほんの少し動くと瞳孔が一瞬動く。それを繰り返している。
「マスター」
甘ったるい香りを吐き出しながら名前を呼ぶ。狭い部屋の中、布団の上でKAITOはお気に入りの電子タバコを吹かしながら画面と向き合い続けている主人を見上げていた。マスターはその声に反応しない。ヘッドホンをつけているからではない。ただ周囲の音が耳に入らないほど、その「数字」にあてられていた。
「マスター」
今度は立ち上がって耳元で呼んだ。それでも主人は一切振り向こうとはしなかった。
タバコをしまい、舌打ちをして主人のヘッドホンを取った。
「おい」
ようやく顔を上げ、振り向いたマスターの顔はどこか疲れていた。瞳の揺れる様にぐっと息を呑むと、そっと主人の頭に手を置いた。今日一日ほとんど部屋から出なかった彼女の髪は一切手入れされておらず、寝起きのままの状態でぐしゃぐしゃになっていた。その髪を丁寧にほぐすように頭を撫でる。どうしたのかと状況を理解できていないマスターはただKAITOを見つめるしかなかった。
「こっち来て、良いから」
頭から手を離し、そのまま主人の手を引いた。KAITOは布団の上に座ると、自分の足の上に主人を抱き抱えるような形で座らせた。
「全く……」
KAITOは呆れたように呟き、目を逸らす。体温など感じない機械の体と声に、包まれたマスターの目からは涙が溢れた。なぜかは分からなかった。
「もういいでしょ。時間まで付き合ってやるから」
だからもうあの画面を見るな、そう言った。
定期的にこういうことが起こっていた。この人間は自分の感情を理解できていない。コントロールが苦手、現実と乖離している部分が多々ある。だから放っておけないと思った。
「マスター! ……あれ? 兄さん、マスターは?」
ミクは部屋をきょろきょろと見渡す。
「疲れて寝たみたいだな。明日仕事だってのに」
「あららーじゃあ起こさないと! マスター!」
「まだそっとしとけよ。まだ大丈夫だろ、多分」
「んー……ん? 兄さん珍しいね!」
「あ?」
「ふふ♪」
「なんだよ」
楽しそうに笑うと「ばいばーい」と手を振って部屋から出て行った。ミクの言動に首を傾げていると、腕の中で眠る主人が寝返りを打った。KAITOの胸元をぎゅっと掴み、すりすりと頬擦りをした。
「はぁ……」
少しの間、ただ満足するまでKAITOはその場をじっと動かなかった。
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