或昼下がりの事である。寝室で寝転んでいると、下の階から祖母の呼ぶ声が聞こえた。その嗄れた声に、また何か用事でも頼まれるかと、重い身体を起こして階段を下りた。その踊り場に来た時、僕は己の眼を疑った。
何と玄関に、見慣れない三匹の猫がいたのである。靴箱の上の一匹は、茶色の虎のような猫で、丸くなって眠っていた。もう一匹は、真っ白な毛色の猫で、階段横にある台の上の碧い林檎を転がしていた。そして式台にいる、日の光をすべて吸いこんだような真っ黒の猫は、身体を低くして左右をうろうろしながら、じっとこちらを睨んでいた。その眼はまるで琥珀を縦に割ったように、煌々と輝いている。はっと息を呑んで、僕は踊り場で立ちすくんだ。黒い方は妙にでかく、胴の長さだけでも四十センチはあるように思えた。その獣がごろごろと呻くような声をあげて、こちらの容子を伺っている。
祖母の姿は見えないが、近くでタマと名付けて呼ぶ声がする。どの猫にその名がついているのかわからないが、そんな事はどうでも好い。早くこの猫を表へやって欲しいと願いながら、恐る恐る階段を一段ずつ下りていく。そのぎぃときしむ足音を聞いて、靴箱の上にいた虎猫が丸くなりながら、黄色い眼をぎょっと開いてこちらを見た。碧林檎を転がしていた白い猫もまた、手を挙げながら、青い目をこちらへ向けていた。
僕はまるで蛇に睨まれた蛙のように、身体がかたまって動けなくなった。一歩出してしまった足ががくがく震えている。手すりを握る手にも、冷や汗が滲みはじめた。
すると、下からこちらを見つめる黒猫が、左へ動いたと思うと、そっと動きを止めた。ごろんと碧い林檎の落ちる音がした。その瞬間である。黒い猫は、身体を少し低くして腰を上げるような動きをするが早いか、一気に跳び上がった。そして下まで四五段はあったのをすべてすっとばすようにして、僕の手の方へとびかかった。手の甲に温かさを感じた僕は思わず、手すりを離して段に座りこんだ。がりがりと木を削るような音をたてながら、猫はそのまま下へ落ちていった。
ふと手すりを見ると、四本の筋が走っていた。もし咄嗟に手すりを離さなかったなら、その筋は僕の手の甲についていたかも知れなかった。胸がまだ鼓動を打ちつづける中、はあとため息をついた。
さて階段を下りようと玄関を見ると、いつの間にか三匹の猫は、忽然と姿を消していた。
猫
幻想掌編小説
"日常に潜む、琥珀の瞳が誘う異界の気配。"
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