わたしの家の天井裏には夏になるとよくいたちが走りまわる。朝方にゴソゴソと汚れた黄色い壁の方から音がしたかと思うと、ドタバタと天井を走ってどこかへ消えていく。そうかと思ったらまた戻ってきてはきゅうきゅうと声を出していた。木張りの天井は端の方が雨粒で腐って、雨漏りしていた。そんなこともあって、走りまわる姿の見えないその動物が不意に落ちて来ないだろうかと胸の奥が冷たくなった。
眠っている時、ふと腰に何か尖っているものの当たる感触がした。目をあけると、部屋の中はまだ夜の暗闇に包まれて、しんと静まりかえっていた。腰に冷たいものが何度も突いている感触がして、わたしは恐る恐る首を後ろへ回した。はっと息が詰まった。
そこには、二十センチくらいの、蛇のような顔をした、四足の動物が、わたしの桃色のパジャマの裾に鼻を擦りつけていた。細長い身体は全身鱗で覆われていて、カーテン越しに入ってくる月明かりに艶やかに白く照らされている。しなやかな鞭のような尻尾が垂れ下がっていた。目は怪しく黄色に光っていた。気づくとあたりは腥い臭気が漂っていた。
わたしはあっと声を上げようとした。が、唇が震えて息が出たきり、声は出なかった。奇妙な生物は獲物を狙う猫のように姿勢を低くして、ちろちろと舌を出している。白い三角の頭には灰色の銭形模様が斑に浮かび上っていた。
ふとわたしは天井の端を見た。木張りの天井には大きな黒い染みがついているだけで、特に穴は空いていなかった。奇妙な生物を手で払おうと考えて身体を動かすが、なぜか身体は重く、手も小刻みに震えるだけだった。息が苦しくなってきて、目もだんだん霞みはじめた。三角の頭はこちらに気づいたと見え、尻尾を高く上げてきゅうきゅう鳴き出した。いざ飛びかかろうとした所で、わたしの意識はなくなった。
目が覚めると、奇妙な生物はもういなくなっていた。まだ部屋はうす暗かった。頭の所に置いていた時計を見ると、四時を指していた。わたしは紺色のカーテンをあけようと窓の方へ向った。朝ぼらけの空は地平線に近づくに連れてオレンジに染っていた。そこから日がゆっくり顔を覗かせて、思わず目を細めた。遠くの方でカラスの鳴き声が響いている。がららと勢いよく窓を開けると、初夏の冷たい風が草の匂いと共に前髪を揺らした。突然壁の方からゴソゴソと音がして、天井を駆け出した。わたしは「また来たか」と、苦笑をこぼしながら、布団の上に座った。
いたち
幻想ホラー、日常の異変
"天井裏の気配が、夜の闇から這い出る時。"
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