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蜂

こうよう

1,546 字

少年心理、日常の恐怖、成長小説

"あの羽音が、僕の日常を壊す。"

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 僕は蜂が嫌いだ。あの羽音が、あの腹の黄色と黒色の交互の線が、あの紡錘形のかたちが、妙に恐ろしい。
 僕の通っていた小学校の運動場の、体育館の入口の近くには、樫の木が一本生えていた。僕と友達は絵を描く授業でその辺をうろついていた。そこは丁度体育館の壁と樫の枝葉によって陰になっていた。まだ暑さの残る秋晴れは、僕たちを苛立たせていた。その苛立ちをぶつけるように、砂の上に転がっていた石ころを一つ見つけては、サッカーボールのように蹴り飛ばして遊んでいた。石ころはぱちーんと軽い音を立てながら、どこか運動場の遠くへ飛んで行った。
 ふと僕は何かの拍子に、樫の木の幹に、蜂の巣があるのを発見した。黄色く丸い形をした巣は、確かに雀蜂のものに相違なかった。そこからぶんぶんと何匹か出ている雀蜂に僕ははっと驚いて、すぐに友達に助けを求め、後ずさるようにして木から離れた。雀蜂も暑さで気が立っているのであろうか、大きな羽音をたてながら、友達のまわりを飛んだ。
 友達はその近づいてきた内の一匹を足で軽々と踏み潰した。僕はそれを、少し遠くの、体育館の入口にある庇の方から見ていた。安心すると同時に不安を覚えた。確か蜂は仲間に危険を知らせるフェロモンを出すことで知られていたからであった。
「まあ、大丈夫だろ。」
 友達は呑気にも笑って見せた。他に飛んでいた雀蜂は、友達に怖気づいたのか、いつの間にかどこかへ飛び去っていた。僕は不安を抱えつつも、胸を撫で下ろした。
 すると今度は己の後ろの方から、何処から迷いこんだか蜜蜂が一匹飛んできた。僕ははっとして、咄嗟にそれを手で払った。攻撃をされたと思ったらしい蜂は烈しくぶんぶんと羽の音を立てて僕のまわりを飛びまわった。僕はわあと声をあげながら、先生や他のみんなのいる、ピロティの方へ逃げた。
 幸い、蜜蜂はもう追ってきてはいなかった。安心した僕は、荒い呼吸を整えながら、ピロティにあった自分の席に向かった。そうして絵の続きを描こうと画用紙を太ももの上に乗せて、顔をあげた。そこから見える、駐輪場と白文字でスクールゾーンと書かれた坂道、高速道路、それから青空、──その光景を、画用紙に色えんぴつで落としこむというのが今回の授業の試みであった。僕は最初、遠くにある青空を眺めた。それから徐々に、下へ身近へ、視界を動かして行った。薄雲混じりの青い空、灰色の人工的なコントラストのある高速道路、その下に平行している往来、往来に接続するスクールゾーンと書かれた小路、そして目の前にある駐輪場、──その頃には荒い呼吸もようやっと落ち着いて、僕は徐に鉛筆を取り出すと、画用紙を擦りはじめた。
 しかしどうであろう、よく見ると駐輪場の軒下にも、雀蜂の巣が垂れているではないか。又不安になった僕は、まだ気づいていないらしい女の先生に、「蜂の巣がある。」と指をさしながら声をかけた。先生は丁度その駐輪場の近くを歩いていた。
 巣にはやはり雀蜂が沢山群がっていた。中にはもう飛んでいる蜂もいた。年増な女の先生は自分の頭の横あたりにあった大きな巣に気づくと、不思議と冷静に、笑顔を浮かべて「一旦体育館に行こうか。」と言った。しかしそこは、先程蜜蜂のいた所を通らなければ行けなかった。僕は嫌々ながらも、その命令に従うしかなかった。が、実際そこへ向かうともう蜜蜂も友達もいなかった。その代わりにいたのは、さっき踏み潰された蜂──その仲間と見られる雀蜂が、樫の木の幹から何匹か、ぶんぶんとその樫の木の周辺を飛びまわっていた。
 それを見た僕は一人、愈パニックになった。そうしてとうとう、わあと又大きい声で喚いて、両手を頭に乗せながら、ぎゅっと目をつぶって、体育館の裏の砂利道を一生懸命に駆けた。

── 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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