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幽けき青い和邇

連載中(書きかけ)

赤間世穹

5,878 字

瑞々しい青春のきらめきを描く学園ロマンス

"臆病な私の世界は、海の色をした君と太陽みたいな彼女に出会って、色づき始めた。"

お相手様のOCの夢小説です。

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 ほとんど散ってしまった桜の下を歩いて向かう。一週間も経っていないのにもうグループができてしまっていて、既に乗り遅れていると言う実感が湧いていた。
 高校生活くらい楽しんでやろうと思っていた。しかし人は簡単には変わらないようで、行動が伴うことがないまま変わりたい意志だけが残った。何かに飢えた状態でただ何も考えずに足元を見ながら歩いていると、儚く散った桜の花弁が嫌と言うほど目に入った。
 枝ごと落ちている桜を見つけた時、後ろから思い切りぶつかられてしまい、よろけてしまった。
 「あ」と声に出ることもなかったが、誰かに支えられた気がした。急いで顔を上げると、長身の男子生徒が体を支えてくれたようで、「大丈夫?」と優しく微笑んだ。
 咄嗟の出来事で上手く言葉が出なかったがどうにかして「大丈夫です」と答えられたと思う。男子生徒は良かった、と微笑むと直ぐに歩き去ってしまった。
 入学式にはいなかった気がする。先輩だろうか。長身で顔立ちの整った男子であれば噂されていてもおかしくないと思った。だが生憎、話せる友人は一人もいなかった。一人でも話せる相手を作っておけば良かったなとたった今後悔した。
 ほとんど散っている桜並木の下を歩く後ろ姿はとても綺麗だと思った。そんなことを思い出しながら学校に着くと下駄箱で履き替えて教室へ向かう。
 まだ校内の地図が頭の中に入りきっておらず、同じクラスメイトも迷路みたい、などと言っているが教室までは流石に覚えられた。だが今日は移動教室がある。孤独な自分は一人でどうにかしなければならない。勿論、クラスメイトについていけばいいだけの話かもしれないが、そういうものでもない。自分で呆れてしまうが方向音痴だった。
 授業が始まるまでの十分で辿り着かなければいけない。しかし、私は教科書やらノートやらを抱えたまま立ち尽くしていた。どうしよう。クラスメイトを見失ってしまった。
 もはや涙が出そうだった。心細い、遅れたらどうしよう、これ以上動いて余計迷子になってしまったら、そんなことが頭の中でぐるぐる回っている。唇を噛み締めてどうにか決断しようとしたその時、背後から今朝聞いた声が降ってくる。
 「どうしたの? もしかして迷っちゃった?」
 「あ……」
 朝はほとんど意識していなかったが、海のような綺麗な青い髪や瞳に気がついた。自分よりずっと背の高い男子生徒は少し体を曲げて目線を合わせようとしてくれた。
 「あ、えっと、視聴覚室に、行きたくて」
 足や声が震える。不安で仕方がなかったし、この人にまた迷惑をかけてしまうと思った。
 「視聴覚室か、それならこっちから行ったほうが早いよ。一緒に行こうか?」
 「え? で、でも」
 「良いよ、俺も次の移動場所近くだし」
 「そ、そうですか、じゃあ……」
 彼の言葉にひどく安堵した。時間もそれほど経っていないし、間に合うだろうと思った。気付かれないように小さく息を吐いた。
 「新入生だよね? この学校って最初は迷いやすいと思うから誰かと一緒に行ったほうがいいと思うけど、友達はいないの?」
 「は、はい、まだ……」
 「そっか、まあじきに慣れると思うし、そこまで不安がることないよ」
 後ろをついていきながら優しい言葉に背中を撫でられているような感覚を覚えた。ここまで親切な人がいるものなのかと思ったが、実際に今目の前にいるこの人はとても優しかった。
 「朝も会ったよね、名前なんていうの?」
 「え、あ、えっと、閖原(ゆりはら)游(ゆう)、です」
 「游ちゃんって言うんだ、良い名前だね。俺は三年の白郡って言うんだけど、呼びづらいだろうし、さめくんって呼んで」
 初っ端から下の名前で呼んできたと思いきや自分からあだ名で呼んで欲しいなんて、距離の詰められ方に動揺したが、この学校で唯一の「味方」ができたと言っても過言ではないのではないだろうかと思えた。
 「あ、えっと、さ、さめくん……?」
 「そう」
 先輩に対してこう呼んでもいいものなのかと言う疑問があるが本人がいいと言うのならいいのだろう。
 そんなやりとりをしているといつの間にか目的地についていた。
 「じゃあね、游ちゃん」
 「あ、はい、あ、ありがとう、ございました」
 少し頭を下げて礼を言うと小走りに視聴覚室へ入って行った。
 「……」

 無事に席に着けた上にクラスメイトに特に白い目で見られることもなかった。ほっと胸を撫で下ろし、呼吸を整え授業の準備をする。
 さめくん、か。彼には助けてもらってばかりだと思う。何か礼ができたらいいがと考えるも自分にできることはほとんどないに等しい。入学してきたばかりで日が浅い自分に何ができるのだろう。そんなことを考えているうちに授業は終わった。特にメモを取らなければならないようなものでもないし、クラスメイトもほとんど全滅していることから自分を納得させて再び思考を巡らせることにした。
 授業がいくつか終わって昼休みに突入した。がやがやと騒がしい教室の中、一人黙々と弁当を食う。
 誰かに助けてもらってそのまま、きちんと礼を返したことなどそういえばあっただろうかと思った。こんな自分に優しくしてくれたあの人に何かしたい、そう思ったのは初めてな気がしていた。
 とはいえ迷惑ではないだろうかとも同時に考えてしまう。あの距離の詰め方をされて、ましてあのルックスの男子に二度も助けてもらって、勘違いを引き起こしているのではないかと思った。ただ彼は優しい人なだけで、自分に好意があるわけではない。きっとそうだ。
 しかしそれで誰にでもあのような態度であると考えても少しモヤモヤとしてしまうのは何故だろうか。
 「……」
 どうすれば、近づけるだろうか。
 すぐに弁当が食べ終わってしまうとまた悩み出した。次から次に悩みが溢れ出てくる。人との関わりで面倒なものは避ける傾向にあった自分もこればかりは避けようがなかった。誰かに話したい、とは言っても自分から切り出せるわけもないどころか相手がいない。
 悶々としていると肩を優しく突かれた。振り向くと髪の綺麗なクラスメイトがこちらの顔を伺っていた。
 「え、っと」
 「ずっと難しそうな顔してるから、どうしたのかなって思って」
 クラスメイトは空いている席から椅子をひいてきて目の前に座った。
 「どうしたの?」
 何か重い悩み事でもあると勘違いされているのだろうか。しかし好都合ではある。優しそうな目の前のクラスメイトにある程度打ち明けてみることにした。
 「……そうだったんだ。その人って、確か鮫牙先輩だよね? 前にうちの男子バスケの助っ人入ってたみたいで超人気あるって」
 「助っ人?」
 「うん、背高いし運動できるって言うから結構運動部からスカウトされてるみたいでね。手伝いくらいはしてくれるらしいけど」
 「そうなんだ」
 「もしかしてさ、その先輩に恋してるとか?」
 先程の声量より少し小さくしてそう言ってきた。
 「え? こ、恋?」
 「うん、恋の悩みって感じだなあって思って」
 「恋……」
 恋なんてしたことがない。どんなものなのか、どんな感覚なのか、どんな感情なのか、解らないから理解ができなかった。好きと言う感情も、いまいちピンとこない。
 「今何考えてる?」
 クラスメイトから不意に聞かれた。
 「え?」
 「先輩のことでしょ」
 「……」
 あの後ろ姿に、廊下で見た姿。あんなに綺麗な人がいるんだと思った。
 「あの先輩に恋しちゃうと敵が多そうだなあって思っちゃうな」
 「そう……?」
 「あのルックスで運動できるってだけでモテてそうだしねー、あ。お礼がしたいなら直接行っちゃえば? 三年の教室行けばいるんじゃない?」
 思い出したかのようにそう言うが、そんな行動力があれば最初からしているとも思った。
 「で、でもそんな」
 「一緒に行ってあげようか?」
 「えっと……」
 「じゃあ私が代わりに話してあげるよ」
 「ど、どうして、その」
 「ん?」
 「そ、そこまでしなくても」
 「だって恋する乙女って可愛いもん。応援したい」
 「……?」
 「じゃ、行くか!」
 「え?」
 今行くのかと聞こうとしたところで腕を引かれてしまった。
 クラスメイトに手を引かれて三年の教室があるフロアへやってきたが好奇の目に晒されているだけな気がしていた。物珍しそうなこちらをチラチラと見ている三年生の一人に果敢にもクラスメイトは話しかけた。
 「鮫牙さんっていますか?」
 「あーあそこのクラスだよ」
 いるかな、と言いながら教室の中を覗き込んだそれに続いてクラスメイトと一緒に覗き込んでみる。
 退屈そうに頬杖をついて本を読んでいるその姿が目に映った。
 「いた……」
 その三年生から小声で「がんばれ」と声をかけられたが、また何か勘違いされているのかもしれない。
 クラスメイトは何でもないようにさめくんに声をかけた。
 「鮫牙先輩ー」
 驚いた顔をした直後、ばっちり目が合ってしまった。少し微笑んだように見えた。本を閉じてこちらに向かってくる。座っている時と印象が変わる。
 「どうしたの?」
 緊張してなかなか声が出せない自分に代わってクラスメイトが「いろいろ助けてもらったからお礼がしたいんだって」と代弁してくれた。
 「そう? でも別にお礼なんていらないよ」
 困ったように笑う先輩を見てやってしまったかもしれないと思った。だがクラスメイトが小突いてきて「連絡先もらったら?」と耳打ちしてきた。
 「え?」
 「じゃあ代わりに連絡先交換とかどうですか? って」
 「え、ちょ」
 「いいよ」
 「え?」
 戸惑っているだけの自分をよそに交渉成立していて、結果的にクラスメイトの助けによってLINEの交換をすることができた。
 「いつでも連絡していいからね」
 そう微笑んでわかれた。一部始終を見ていたのだろう他の三年生が小さく歓声を上げていた。とても恥ずかしい気持ちはあるが呆然としていた。
 「こ、こんなあっさり……?」
 「良かったね! 先輩ってやっぱり優しいね」
 「私……ど、どうしよう」
 「どうしようって、帰ったら連絡してみたら?」
 「れ、れんらく」
 「一言くらい送ってみるとか」
 「……う、うん」
 自分から誰かに送ることは滅多になく、一言送るにしてもそのあとどうすればいいのか皆目検討がつかなかった。
 その後の授業も清掃の時間も何一つ集中できなかった。
 帰りのホームルームが終わって帰宅準備をしていると、昼休憩に話しかけてくれたクラスメイトが話しかけてきた。
 「一緒に帰ろ」
 「え? う、うん」
 彼女と並んで帰ることになった。部活やら何やらで忙しない廊下を掻い潜り、昇降口へ向かう。
 「そういえばさ、閖原ちゃんって部活決めた?」
 階段を降りていると不意にそう聞いてきた。
 「何も……」
 「そっかぁ。私もどうしようかなぁ」
 部活はどれかには入らなければならないらしかった。けれど特別やりたいこともない。
 「運動部はちょっと大変そうだしね、文化部かなやっぱり」
 「うーん、そうだね」
 「ね、一緒に同じとこ入ろうよ。どこがいいかな、私絵が好きだから絵描けるとこがいいなあって思ってたんだけど、閖原ちゃんはなにかある?」
 彼女からの積極的なアピールに気圧されつつ、そして申し訳ないと思いつつ首を横に振って「特にない」と答えた。
 「じゃあ一緒に美術部入ろうよ」
 「絵別に描けない、けど」
 「ここの美術部って確かそこまで厳しくなかったと思うし、なんだったら私も教えるし」
 「そ、そう?」
 「うん。閖原ちゃんと一緒にいたいしね」
 照れ臭そうにそう微笑んだクラスメイト、もとい詩野は前を歩いた。「じゃあ明日一緒に用紙書いて出しに行こうよ」
 自分も彼女の横に並んだ。「うん」そう言って頷いた。
 駅まで並んで歩き、乗る電車も同じだったのでその間にLINE交換をして駄弁った。行動力があって勇敢でかっこいいなと思う彼女は「同じ電車だったからずっと声かけてみたかったんだよね」と言った。
 「閖原ちゃんの恋路をね、傍で応援したいなって思ったの」
 「ありがと、詩野ちゃん」
 「いいのいいの、はーでもさすがに三年の教室に突撃するのはちょっと怖かったなあ」
 「怖いよね、でも、かっこよかった」
 「へへ」
 電車が来て一緒に乗る。降りるところまでほとんど喋っていた。まともに楽しく話せる友人ができたことが本当に嬉しかった。少しだけ自信がついたような気がした。
 楽しい時間はあっという間で詩野は先に降りてしまった為、一人で時間を潰すことになった。少ししてから「明日の朝も一緒だといいね」と詩野から連絡が来た。「そうだね」とスタンプと一緒に送る。
 トーク画面を閉じた後に手が止まった。
 先輩に送るか否か。
 この時間なら迷惑ではないだろうか、本人はいつでもいいと言っていたが、と不安な気持ちが押し寄せてきた。これなら彼女にまた付き合ってもらって送ったほうがいいのではないかとも思ったがそれはそれで彼女にまた迷惑をかけてしまう。これは自分の問題だ。メッセージを一言送るだけ、それすらできないでどうするのか。
 深呼吸を何回か繰り返し、先輩にメッセージを送ることにした。自分の名前と助けてもらって安心した旨、それについての礼と昼休みに邪魔してしまったことの謝罪を書いた。送信ボタンを押すのに少し躊躇したが、誤字脱字を確認するとようやくボタンを押した。それだけの作業でどっと疲れてしまった。スマホをしまい、降りる準備をした。
 返信を見るのが怖くて結局自宅へついてもなかなか見られずにいた。夕食を取り終え、風呂も済ませた後でようやく深呼吸をしてスマホの画面を開いた。
 通知が来ていた。それを見つけた瞬間心臓がうるさく高鳴った。
 LINEを開いてみると、「連絡ありがとう。礼はいらないよ。昼休みのことも気にしないでね、退屈していたところだったから」そう書かれてあった。
 何度も読み返し、どう返信しようか迷った。この時間に送るのは失礼ではないだろうかとも考えた。考え悩んだところで何かが変わるわけもないか、そう考えるとまた頭を悩ませて返信することにした。

── 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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