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Irgendwo auf der Welt

連載中(書きかけ)

赤間世穹

4,137 字

不条理サイコロジカル・スリラー

"世界のどこかで、誰かの不幸は、僕の暇つぶしだった。あの日までは。"

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1

 駅で電車を待っていた。そこには色々な人がいる。その中で、赤ん坊を連れた女性がいた。乳母車の車輪に鍵をかけ、飲み物を買おうと少し歩いた。
 しかし、乳母車に鍵がしっかりかかっていなく、固定されなかったため、斜めになっている駅のホームから今にも線路に落ちそうなほどの勢いで乳母車の車輪が回っている。もう少しすると、通過する列車が通るはず。それまで、母親らしき女性は気付くだろうか、それとも周囲にいる人の誰かが止めるだろうか。
 私はそれを観察した。
 ちょうどいい暇つぶしだと思った。
 乳母車は勢いを失うことは無く、線路に落ちそうに、そして猛スピードでやってくる電車とぶつかった。赤ん坊の声はしなかった。女性は飲み物を買おうとしたその手をとどめ、乳母車が無い事に気が付き、同時に電車にはねられた我が子を見て発狂した。今迄に聞いた事が無い発狂、悲鳴、どたばたと周囲にいた人々は慌てふためいている。面白い。これが人間か。
 暇つぶしには良いが、しかし仕事に遅れてしまう。このままではだめだ。しっかり会社に連絡を取っておかないと。私は携帯電話を取り出し、勤務先の会社に連絡をした。「今日は事故を目前にしまして会社を休ませてもらいます」と。

 駅のホームを出て、改札を出ようとするも、先程の騒動で色々な人が慌てている様子だ。うるさい駅が更にうるさくなった。ストレスはたまる一方だ。どこかで発散したいな。そんな事できるか分からないが、思うくらいはタダだろう。
 私は駅を出て、真っ直ぐに家に帰ろうと思った。バス停につき、時間が来るまでじっと本を読んで待つ。私はこの時が好きだ。じっと本を読んでバスが来るのを待っているこの時間が。ゆっくりと時間が過ぎて行くように感じる。時が経つのが遅く感じるのが、とても心地が良かったのだ。しかし、それもまた、周囲の人の叫び声によって、私の憩いのひと時が潰れてしまった。
 「おい!車が横転したぞ!」
 男性の声だ。
 確かに目の先では青い車が横転して火をあげていた。その車の数体後ろには私が乗る予定だったバスが。
 くそ。今日は最悪な日だ。家に帰って寛ぐことも許されないとでもいうのか。これは暫くは無理そうだ。
 電車も、バスも無理ならば、致し方が無い。近道を通って徒歩で行こう。
 徒歩は嫌いだ。大好きな読書だってできやしない。歩くのは疲れるし良い事はない。知ってる道を歩くのは苦痛だ。山道など、何度通っても新たな発見ができるような道ならば、多少は良かっただろうに。普通の街路地。住宅街が見えてくる。林が見えたり、畑が見えたり。いたって平凡な風景だ。面白みがない。何か変化でもあればいいのに。そう、例えば、角度によって違うものに見えるトリックアートのような物。そんなものが道端にあったら、それこそ若者がそこに居座って通れそうにないだろうな。
 良い事を考えていればいいのか。ストレス発散が自由にできない私は頭の中で発散すれば良いと言う事に気が付いた。そうだ。そうすればいいのだ。最初からそうすればよかったものを。
 物思いに耽りながら歩くのは多少気がひけるが、家まではまだ掛かる。少し、面白い事でもしよう。

  *

 ある男がいた。男は殺人鬼だった。ナイフ一つで色々な人を刺し殺してしまう。警察に足がつかないように慎重に。丁寧に。几帳面な彼は水滴一滴でもきれいに拭き取り、万が一捕まったとしても分からないような工夫を施して、殺してはそういった処置をしていた。
 彼は医学の道を歩んでいた者だった。しかしある事を境に、その道は閉ざされ、いつしか殺人鬼として世に出てしまっていた。
 彼が最初に殺したのは少女だった。初めて殺人を犯したのは、十代半ば頃、少女を殺害。理由は、「誘いに断られたから」だった。理由にしては度が過ぎていると感じるが、彼はそれをやってしまった。
 次の殺人は二十歳になってから。今度の理由は「自分だけを見てほしいのに邪魔だったから」だと言う。
 そして彼は三十代になり、結婚をした。初めてのその行為で、子供を授かる事が出来た。彼は幸せ者だった。
 しかし、妻は、男をまたつくっていた。
 殺人鬼である彼はそれを知り、妻を虐殺。
 子供が学校に通う事も無く子供も殺した。子供を殺した理由は、「かわいそうだった」から。母親が殺された子供はかわいそうだと思った彼は、母親の所へ連れて行ってあげたかったのだ。
 次に殺したのは、自分の親だった。殺した理由は、「介護が面倒だから」。
 次は通り魔殺人をした。誰でもいいから斬りたかったのだ。心の君の悪さをもみ消したかったのだ。彼はその靄を消すためにあらゆる手を使ってでも殺人をした。完璧な殺人だった。医療の道を目指していただけはあって、専門的な処置を素早く施し、警察は犯人が分からず仕舞いで事件は迷宮入り。
 彼は笑っていた。愉快で、快楽に満ちた、気持ちが良いとでも言うように。
 そして彼は、五十代を過ぎ、ついには身を投げた。ビルの屋上から、その生涯を終えた。屋上には、拙い字で、「おれがはんにんだ」と書かれていた。

  *

 家に着いた。我ながら力作だ。
 中に入り、スーツから寝間着に着替え、ソファに腰かける。特に見たいテレビも無いのでただじっと座る。目を瞑って、また妄想した。殺人鬼が死んだあと、世間ではどのようになったのかを。

  *

 ニュースでは彼の遺書が大々的に放送されていた。犯人が死んだ事により、迷宮入りした事件は呆気なく解決された。しかし暴かれていないことがある。動機だ。殺人の動機に関しては本人しか分からないし、死んだ人間の中には彼の身内がいた。彼の事を知る人間がほとんどこの世に存在しないのだ。
 そのことが分かった世間は色々な番組で彼について考察を始めた。誰も彼の本意など知る由もないので、皆適当な御託を並べている。犯罪心理に詳しい専門家やニュースのコメンテーターは同じような事を言っている。皆、口を合わせて「ただの快楽殺人ではないか」「殺人に対して何の抵抗もなかった」など。そう言った事ばかり口にする。最終的には霊能力者とか言う人物も出てきて、霊の言葉を聞くとか言い出す始末。
 世間は面白い。
 転がすと思った通りに転がる。
 ボールみたいに。

  *

 目を瞑っていたからか、寝てしまったようだ。時計に目を遣ると、時間は三時間ほど過ぎていたようだ。もうすぐにランチタイムだ。
 そう言えば冷蔵庫には食べれるような物が無かった気がする。平日の昼休みは外食だから、家で食べることがほとんどなかった。それを思い出し、寝間着から外着に着替えた。ラフに行こう。ただ近所のスーパーに少し寄るだけの話だ。

2

 スーパーまでの道は朝とは違い普通だった。いや、平和だった。事故もなく、事件もなく、滞りなく着く事が出来た。このまま何事もなければいいのに。そう思えば思うほど、きっと何か起きてしまうのかもしれない。嫌な考えはよそう。今は平凡なランチを送りたい。ただそれだけだ。
 しかし、神様と言うのは意地悪なようで、私に平和な暮らしをさせたくないらしい。
 スーパーで暢気にカートを押して弁当などを見ていると、突然店内のシャッターが全て閉ざされた。何事かと客が慌ててシャッターを開けようとしているがびくともしない。ジャックでもされたか。これがよくある立てこもり事件と言うのか。なぜこんなちんけなスーパーでやるのか不思議だが、巻き込まれたものは仕方が無い。周りにいる客の反応を見て愉しむとするか。
 「ちょっと!どうしてシャッターが閉まっているの?」
 「おい!開けろ!」
 シャッターをどんどんと叩いているが、店員らしき人も何人か見えるが、「お、落ち着いてください!」「慌てないでください!」など一番店員の方が慌てている様子だ。
 私は弁当売り場から一歩も動かず、その場に座り込んでその一連のやり取りをずっと眺めていた。しかし、妙だな。立てこもり事件だと思ったが、違うのか?
 不思議に思いつつもどうする事も出来ないようだから、ただひたすら待つことにした。本でも持っていればよかったが。私は腕を組んで、棚の合間から見える客のやり取りや店員の慌てふためく様子を眺めた。
 かれこれ数十分はこうしていたがさすがの私も疲れた。歩き回った方が逆に健康的かと思い、立ち上がる。私が立ち上がり辺りを見てみると、先程まで荒れていた店内は、静寂に包まれていた。客も諦めたのだろう。皆疲れ果てて座り込んでいる。私はそんな彼らを横目に端から左の方へと歩き進めた。私の靴の音だけが聞こえる。店内には音楽さえ流れず、放送さえなく、ただただ静けさが増すばかり。
 食品棚の間は一通り歩いた。最初の位置までまた戻って来てしまった。また暇な時間が来るものだと思ったが、そうでもないみたいだ。突然、放送が流れた。
 「大変長らくお待たせ致しました。間もなく開場です」
 意味が分からない放送がそう告げると同時に、映画が上映する時の、ブーっという音が流れた。
 シャッターに囲まれている私以外の人は皆混乱している。先程以上の大きな声が飛び交ってる。
 「おい!どういうことだ!説明しろ!」
 「早く開けて!」
 客のその声とほぼ同時に、シャッターがゆっくりと開いた。
 そして、開いた先には。

  *

 「…」
 朦朧とする意識の中で最後に見た物は、大きな狼の様な、それでいて蛇の様な、キメラの様なものが、人を食べていた。人ひとりつまんでは大きな大きな口に運んでいた。
 夢かと思った。しかし、実感がある。私は這いつくばっている。手を少しだけ伸ばしてみた。痛い。赤い物が滲んでいる。痛い。腹に痛みがある。他の人は、皆、私が見える範囲で言うと全滅だった。

 次に目が覚めたのは、全てが終わった後だった。
 視界がまだぼやけているが、微かなにおいで分かった。私がいるのは病院だ。呼吸器を付けられている。
 ああ、駄目だ。頭が朦朧としている。一度開けた瞼を、私はもう一度閉じた。

── 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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