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気象神群

連載中(書きかけ)

赤間世穹

4,299 字

神話ファンタジー・戯曲

"これは、空と大地が織りなす、恵みと災厄の神話劇。"

天空と地上の神々は、今日もまた人間を嘆き見る。 四季折々と共に語られるは自然と人々との距離、互いの存在理由、そして自身の心境の変化にあった──

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# 第一幕・春季

○(ある山奥にて)
 原種(静かに風に揺れながら)「始まりの⁠
調べ、微風に揺られ、種子は地を割き芽吹き⁠
始める。この木漏れ日から差す熱は、温かな⁠
栄養となり、育まれていく。木々は揺らぎ、⁠
葉を落とし、香りは風に乗せて飛んでいく。⁠
青く美しい……」
   (だんだん視界が曇っていく)
 原種「なに? ……ああ、靄もや⁠
か」
 靄(靄から姿を表す)「おはよう、原種。⁠
好い朝だね、春は好きだよ」
 原種「そう、けれどここ十数年ほどは春と⁠
呼べる様な気候ではないの。 ……(ため息⁠
混じりに)建辰月三月も、梅たちの季⁠
節から遠のいてしまった」
 靄「どこか暖かいと、桜が勘違いして芽吹⁠
いてしまうのがなんだか勿体ないよね。彼ら⁠
は儚さの象徴だから」
 原種「それはそうと、どうしてここに来た⁠
の?」
 靄「いや、特に用は無いよ。ただ“彼ら”⁠
の呼吸を感じに来たのさ」
 原種「そう、霧靄は人が好きなのだと思っ⁠
ていたけれど」
 靄「まさか! 人間なんてこれっぽっちも⁠
興味ないよ。沢山惑わせてあげなきゃ、僕た⁠
ちがいる意味なんてないからね」
 原種「相変わらず性格が悪いわね」
 靄「地上の薄雲はただそこに在るだけ、何⁠
も出来ないというのも、虚しい物だからさ」
   (原種、靄が捌け、暗転)

○ (同時刻、天空にて)
 曇天「花を咲かせる雨を降らせ、雲は過ぎ⁠
行く。
   脚光を浴びる草木は茂り、青々と輝か⁠
   せる。
   満開の傘は彩りを与え、人々を惑わ⁠
   す」
 晴天(曇天の背後から覗き込む様に声をか⁠
ける)「素敵な詩だこと」
 曇天(背後から声がして肩を震わせる)⁠
「えっ、いつからそこに」
 晴天(楽しそうに笑いながら)「あら、い⁠
てはいけませんか?」
 曇天「お恥ずかしい……」
 晴天「人々を惑わす花々を傘と表現するな⁠
んて、とても風流じゃない?」
 曇天「僕には、そう見えただけです。特に⁠
意味はありませんよ」
 晴天「それでいいのよ。 ――ああそう⁠
だ、主しゅはまた“選別”を行うみた⁠
い」
 曇天「春の嵐のことでしょうか。 ……ま⁠
あ、“選別”と言うのは、些か物騒と言う⁠
か」
 晴天(胸に手を当て一礼して)「あなたた⁠
ちに託しましたからね」
 曇天「なんだか……必要以上に期待されて⁠
いませんか?」
 晴天「当然。彼らに知らしめて差し上げな⁠
くてはね、春が来たぞ、とね」
   (暗転)

   ×     ×     ×

○ (地上にて)
 大地(天に向かって両手を掲げて)「恐る⁠
るにあらず、我ら星の大地。受け止める準備⁠
は出来ています」
 河川(空を見上げて)「雲がうねっている⁠
ね、そろそろ降りそうだ」
 大地(地面に両手を広げながら)「雨は栄⁠
養ですわ。たーくさん飲んでちょうだいね我⁠
が子達!」
 河川「飲みすぎは禁物だよ」
 大地「それにしても、大海はどこかしら?⁠
 彼の水が溢れ出てしまえば、こちらにも被⁠
害が出てしまうわ」
 河川「それほど降らないんじゃないか⁠
な?」
 大地「いいえ! そんなの分かりません⁠
わ。気象の気まぐれは誰にも読めません。そ⁠
れに、あの小娘はすぐに大雨を呼ぶの! ⁠
こっちはもう大変なのよ! 可哀想な我が子⁠
たちを、ただ見ているだけだなんて!」
 大海(舞台袖から顔を覗かせながら)「な⁠
んだか呼ばれたような気がしたけれど、俺の⁠
事かな?」
 大地(大海を指差しながら)「大海! 話⁠
があります。こちらに来なさい」
 大海(歩いて向かいながら)「まるで母親⁠
だな」
 大地「黙りなさい。 ……それで、水位は⁠
どうなっているの?」
 大海「少し高いけれど、いつもの事さ。雨⁠
が降る時はね」
 大地「そう。こちらに被害がなければそれ⁠
でいいの。河川はどう? そちらも溢れ出る⁠
ことはないでしょうね?」
 河川「保証はできないかな。雨で土壌が緩⁠
んでしまえば、河川に木々が雪崩れ込むこと⁠
だって考えられるし、一方的に大地が脅かさ⁠
れるわけでもないよ」
 大地「何? わたくしを罵倒する気⁉︎ ⁠
いい度胸じゃない!」
 大海「違うだろう、被害は地上皆それぞれ⁠
大小に関わらずあるものだと」
 大地「お黙り! ──原種! こちらへ来⁠
なさい」
 原種(舞台袖から軽やかに駆け寄り)「は⁠
い。かあさま、こちらに」
 大地「ああ、可愛い我が娘……何がなんで⁠
も守り抜いて差し上げますからね」
 原種(首を傾げて)「はあ」
 河川「呆れてるみたいだね」
 大海「だな。こちらも対処できる様にしよ⁠
う。お互い、最善を尽くそう」
 河川「ああ、そうだね」
   (暗転)

   (吹き荒れる風、地面を叩きつける雨⁠
   の音が響く)
   (暗い雲が足元を覆う)
○ (天空にて)
 風(歌う様に)「吹き荒ぶうねりの声、星⁠
の涙は大地を潤し、やがて種子を運び、新た⁠
な生命を宿す。
        嵐は循環、そして――選別⁠
の祈りの儀式」
 曇天「春の嵐は、季節の始まりのためのも⁠
のとも言えます。生命活動を始める為の、大⁠
事な資源を補充する為の儀式、とか」
 風「いいや、それにしては、だいぶ酷いも⁠
のだと思うけれど」
 曇天「……確かに、台風とそう変わりませ⁠
んから」
 風「君の現象ちからのおかげもあっ⁠
てか、あの二人もやる気が溢れ出ている様だ⁠
ね」
 雷「がっはははは! おらぁ! もっと⁠
もっとぉ! もっと流れろぉ! したらオレ⁠
さまの雷電が火を吹くぜぇ‼︎」
 雨「全く品がないわ! 雷兄さん、(杖を⁠
掲げて)もっとこう、優雅でないと!」
 雷「なんだって? (後方転回して)こう⁠
だろ!」
 雨「本当に下品! 野蛮! 不潔!」
 雷「不潔はちげえだろ!」
 風(二人を遠目から眺めながら)「相変わ⁠
らず仲がいいね」
 曇天「あれを見て仲がいいと思います⁠
か……本当に」
 風「とはいえ、これがあと|二月《ふたつ⁠
き》定期的に続くとなるとね」
 曇天「まあ、弟妹はきっと喧嘩しながらも⁠
楽しむことでしょう。彼らにとっては、楽し⁠
みの一つのようですから」
 風「うんうん。ではここで一句――“荒ぶ⁠
声、和気藹々と、空模様”」
 曇天「風さんに座布団一枚」
 雷(挑発的に)「下手くそ!」
 雨(子供っぽく挑発的に)「下手くそ!」
 風「泣いていいかな」
 曇天「(風の頭を撫でる)よしよし」
 雨(舞台袖を指差して叫ぶ)「あっ、ね⁠
え! ちょっと!」
 雷「あっ、おい! 晴天!」
 晴天(舞台袖から中央に歩きながら)「そ⁠
ろそろ終盤です。下をご覧なさい、土砂崩れ⁠
や河川の決壊があちこちに。これ以上はいけ⁠
ません!」
 風(晴天から離れる様に舞台袖へ向かう)⁠
「やはりやりすぎてしまったようだね」
 曇天(風についていきながら)「なぜあな⁠
たも止めなかったんですか?」
 風「風は、気の向くままに吹くからね」
 晴天「(風と曇天を指差しながら)ほらそ⁠
こ! 逃げないでください。あなたたちにも⁠
非があります!」
 雷「オレたちだって言われたことやってた⁠
じゃんか!」
 雨「そうですわ、晴天さま! 何も悪いこ⁠
となどしていません!」
 晴天「空は循環の中、其の激しい感情は、⁠
大地を荒らすのみ。 ――ただ言われたこと⁠
を、ただ成せばいいとは限りません」
 曇天「それはそうですね、しかし嵐ともい⁠
えば、これくらいは想定できることでは?」
 晴天「いいえ、曇天。機を見て止ますこと⁠
はとても重要なこと。 ……この私が、晴ら⁠
してみせます(杖の端を地面に叩きつけ⁠
る)」
   (明るくなり、鳥が羽ばたく音が響⁠
   く)
 雷「ちぇ、強制終了かよ!」
 雨「美しいですわ、晴天さま……本当に、⁠
太陽を背負っている神の様」
 雷(肩を震わせ、雨の肩を叩く)「おい、⁠
それはまずいって」
 晴天「“神”? 今なんと? 主は我らを⁠
導く星そのもの、私はそれに従うまでのこ⁠
と。あなた、軽々しく神の名を口にしたわ⁠
ね?」
 雨「も、申し訳ありません! けれど、本⁠
当に美しくて」
 晴天「もういいです。 ――さあ、我ら天⁠
空の民、鎮まりなさい(再び杖の端を地面に⁠
叩きつける)」
   (暗転)

   (勢いよく流れる川の音、都心の人々⁠
   の声が響く)
○ (地上にて)
 原種(空を見上げながら)「仕事を終えた⁠
ようね」
 大地(大股で袖から歩み出て)「全く野⁠
蛮! 知性の欠片もないわ!」
 原種(大地に振り返り)「かあさま」
 大地「ああ、愛しの我が娘。大丈夫だっ⁠
た?(原種の頬を両手で包むようにして)も⁠
う、こんなに可愛い我が娘が脅かされてしま⁠
うなんて」
 原種「問題ありません。少し……(足元に⁠
落ちている枝を拾いながら)木々の手が折れ⁠
ているところがあるだけ」
 大地「大問題よ! ああ、かわいそう⁠
に…」
(原種は周りに落ちている枝葉を拾い集めて⁠
いる)
 大地「どうしていつもこうなるのかしら!⁠
(落ちている枝葉を踏みつけながら大股で歩⁠
き回る)まだ春は始まったばかりでしょう⁉⁠
︎」
 河川(肩を回しながら舞台袖から登場)⁠
「ああ、参ったね」
 大地「ちょっと! 河川! こちらにきな⁠
さい」
 河川「お母様がお怒りのようだ」
 大地「氾濫しているじゃないの! 我が子⁠
たちが痛い目に遭っているんですのよ!」
 河川「とんだとばっちりだ。河川は受け皿⁠
でしかないんだよ、こちらとしてもどうする⁠
ことも」
 大地(被せるように)「あなたが! それ⁠
ほど降らないんじゃないかって言ったのよ!⁠
 責任とってちょうだい!」
 河川「とても重い責任だな」
 原種「これも試練ですわ、かあさま」
 大地「…なんですって?」
 原種「流れてしまった種子や枝葉は耐え得⁠
る器ではなかった、それだけのこと。人々も⁠
そう、生ける総べては耐え得る試練にすら落⁠
ちてしまうのなら、それまでのことだったん⁠
です。そうでしょう?」
 大地「…ああ、本当に愛しの娘、あなたは⁠
本当に賢い子ね」
 河川「原種ありがとう、助かったよ」

── 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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