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夜の小話

Makoto Yaoi

2,261 字

現代ミステリ、不穏な日常譚

"日常の隙間に潜む、夜の帳が暴く人間の深淵。"

ちょっと怖い掌編小説を3つセットにしました。

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第一章 『俺俺』

西に傾きかけた日差しが、 
掃き出しの窓から部屋を照らす。

リビングには洗濯物が積み上げられ、
その向こうで芳子はバスタオルを畳んでいた。

差し込まれた日差しは
芳子の頬にへばりつき、額には汗がにじんでいた。

リリリ!リリリ!

電話の呼び出し音に、
芳子の肩はびくりと小さく上下した。

芳子はゆっくりと足を伸ばし、
受話器を取った。

「もしもし?」

「……もしもし、オレだけど」

若い男の声が聞こえる。
電話越しに、ほんの少しの緊張が伝わる。

受話器を持つ芳子の手に力が入った。

「……康太?」

聞き取れるか取れないかくらいの
小さなつぶやき。

「そうそう。コウタだよ……」

静かな部屋に漏れる
コウタの明るい声が空回って聞こえる。

小さく息を吐く音が聞こえる。

「あのさ、実は俺……」

ほんの一瞬の間。
コウタが言い淀んだそのときに、

芳子が絞り出すように声を出した。

「……なんで……あの時殺したはずなのに」

「……」

幾分かの沈黙の後、切断音が受話器から流れた。

芳子は静かに受話器を置き、
洗濯物の向こうへ戻った。

「ただいま〜」

ドアを開ける音とともに
大きな声が室内に響く。

リュックがドサリと床に置かれる。

「あ、康太お帰り。今日、塾でしょ」 

康太は冷蔵庫に直行し中をのぞいている。

「うん。お腹空いた。なんか食べるもんない?」

「冷蔵庫にシュークリームあるでしょ?
それを食べなさい」

「はーい!」

── 第1章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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