鳴り止まない拍手は個を知らず、一定のリズムで刻み続けている。その中心にあるのは人の形をした何かで、それが生命体かどうかは判断出来ない。まるで舞台のスポットライトのようにそれだけを照らす蛍光灯は時折点滅しつつ、その役目を果たさんとしている。そこに近づく一頭の蛾は、光に導かれたばかりに熱気に身を焼かれて体は朽ち落ちた。
それを画面越しに見ている感覚に陥っていた。その場にいるはずが、第三者視点で横や上から眺めている。何の感情も持たず、拍手喝采を浴び続ける。耳は次第にそれを拒み、耳鳴りがして無音になっていく。視界はぼんやりとして、これは夢だろうと判断するようになった。しかし夢を見ている間に夢と認識したことなど一度もなかった。これを思考出来るだけの冷静さを何故か持ち合わせているようで、身動きが取れなくなっていた体とは反対に頭はのんびりと動き続けている。体は外界を拒み続ける。一定の拍手はばらつくことを知らない。ここから踏み外せばどうなってしまうのか想像することすらない。全体の調和を重んじ、個々の多少の不具合は固く罰せられるような気さえする。
瞬間、はっとした。景色が変わっていた。どうやら意識が途中で途切れていたらしい。見慣れない和室、梁には縄を強く擦ったような跡がついている。次に目についたのは上体を起こした際に目に飛び込んできた、閉ざされた襖。木の棒で人為的に閉ざされている。そこから音が聞こえるような気がしていたが、あまりにも小さな音で聞き取れない。もしくは本当は何も聞こえていないかもしれない。和室特有の畳の匂いに混じった他人のにおいが鼻をくすぐる。障子の外は明るかった。鳥の軽やかな声と、木々のざわめく音が聞こえてくる。
布団から出ようとして気がつく。足が重い。何かに掴まれているような感覚がして布団を剥ぎ取った。あの場面で見た、人の形をした何かだった。掴む力自体は弱く、体重をかけて立たせないようにしているだけのようだった。人の形と言えどそれはまるで赤ん坊のようだ。気持ちが悪かった。目は見えておらず、髪も生え揃っていない。ぼてっとした体は異常に熱い。必死に掴む足を次第に揉むようになり、顔を近づけ、まるで乳を探すように口を動かしていた。簡単に払えるだろう、異常な光景に混乱と吐き気がして急いで脚を振るった。赤ん坊のような何かはその衝撃で畳の上に投げ出され、何が起きたのかわからない様子で動きが止まった。かと思えば途端に大声で泣き始めた。泣きながらまたこちらへ向かって四つん這いで何かを求めてくるので、必死の思いで逃げた。和室の外がどうなっているのかはわからないが、それでも逃げるために障子を開けた。
目の前には女が立っていた。
無題
不条理ホラー、幻想文学
"目覚めれば、悪夢はすぐ隣にいた。"
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