← 作品ページへ戻る

literalconnotation ─ なみだの魔法円から現れたのはあたしでした。

連載中(書きかけ)

有城 砂卯

33,329 字

異世界ファンタジー、自己再生の物語

"涙の魔法円から現れたのは、新しい『あたし』だった。これは、傷つき、そして再生する魂の物語。"

← 右から左へスクロール

・prólogo≠sorto:始まりは宿運ではない

「分かった。異世界に行く」
「はあぁ?……」

日常の、些細な言い争い。

……些細?
些細なんだろうか?

旦那が……
婚姻関係を結んでいる相手が。
あたしでない女と、ラブホに入っていく姿を見た、ということは。

「流行りでしょ?異世界」
「おまえ、頭大丈夫か?」
「死んだら行く天国とか地獄とか。実は異世界なんじゃないかって思うのよね」
「……」
「あたしね、あなたのこと好きなのよ。だから、あたしを好きじゃないあなたはもういいかなって。一緒にいなくてもいいのかな、って思うのね」
「……っ!」
「あなたの居ない所……ここじゃない、どこかに行きたいのよ」

 旦那の顔をじっと見る。

 我ながら、なに言ってんだろ?
 旦那の顔は、食っちゃいけないもの――――大嫌いなカキを口にした時みたいな顔してる。

「……ごめ……」
「何に対して?」

 また、黙る。
 んー……それはそれで困ったな。
 言い訳は要らないけど、言い訳があるなら聞いてあげるのに。
 って、ぶったぎったのあたしか。
 はあ。

「ねえ?楽しかった?あたし以外を抱くの」
「……!」
「ねえ?気持ち良かった?あたし以外を抱くの」
「……」

 不思議だな。
 あんなに大好きだったあなたの、辛そうな顔。
 ちょっと前までは、笑わせてあげなきゃ、って躍起になってたのに。
 ちっともそんな気が起きない。

 何でそんなに、辛そうなんだろう。
 でも、ああ、そうか。
 あれか。
 思い当たる節は、確かにあるわ。
 キレイな肌を、抱きたかったんだね。

 はああ。
 溜息しか出ないわ。
 カワイソウなの、あたしじゃない?
 あなた、いい思いしただけだよね?

 目も、鼻も真っ赤っか。
 鼻水垂れてる。
 汚いなぁ。

「――――君は……俺が好きだったの?」

 途切れ途切れに、ようやっと吐き出された言葉。
 この人、あたしの言った事、ちゃんと聞いてたのかな?
 それ、言ったよね?

 頭がじんじんする。
 目頭がぎゅってして、
 眼球がちくちくして、
 喉がぐっとなって、
 お腹がもやもやして、
 両手がびりびりして、
 足が…………凍りついたみたいだ。

 魔法陣でも出てこないかな。
 聖女でも、奴隷でもいいや。
 違うところに行きたい。

 ──あたしの目が、水を噴き出してる。
 涙か。

 霞んだ視界で、朧気な旦那を捉える。
 ねえ?あたし、どうすれば良い?
 どうして欲しい?
 どう……したい?

 ぽたぽたと流れ落ちた雫が、足元に溜まっている。
 ふと、縛られて足でネズミを描いた小坊主の話が浮かんだ。
 足元にネズミがいたら、助けてくれる?
 な、わけないか。

 二進も三進もいかない沈黙。
 ほとほと飽きたあたしは、水溜まりを足の指で伸ばすことに熱中する。
 ネズミは……無理か。
 あたし、絵心無いなあ。

 線と線が重なって、魔法陣みたい。
 ホンモノとか知らないけど。

 そうしてあたしは、――――

── 第1章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

作品ページへ戻る

コメント

まだコメントはありません。最初のひとことをどうぞ。

しおりを挟みました