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タンクのなかのこと、

有城 砂卯

3,333 字

寓話SFファンタジー

"子供たちの「観察」が、宇宙の秘密を解き明かす。無邪気な瞳が捉える、生命と世界の奇妙な真実。"

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「二年生では、恒例の観察をします!」

 先生が楽しそうにしてるけれど。
 でもね。
 みんな知ってると思うんだよ?

 この観察って、ととさまもかかさまも、あんちゃんもねえちゃんも、じいちゃんもばあちゃんも、みぃんなやってきたことだもの。

 話は聞いてるよ。

 みんなの前には、タンクと生成キットがあるしね。

「もう、みんなノリが悪いなーみんなー頑張ろうねー!」

 頑張るものなのかな?

 んー。でも、毎日、日記をつけるのか。
 ボク三日坊主なんだよねー。
 ちゃんとやれるかな?

「では、キットの中のをタンクに入れてください。入れればいいですよぉ。失敗とかないからねぇ、思いきっていこー!」

 先生がそんな風に言うもんだから、そっちでばざばさ入れて砕けてる子もいるし、こっちは変なガス発生させてる子もいるよ。

 ほら、あっちでは爆発してる!

 まあ、タンクの中だから大丈夫なんだけど。

「わあああああんっ!」

「あー!エムくん!大丈夫だから!落ち着いて!ほら!泣かないの!ちゃんと混ぜてあげて!」

 て、先生がわたわたしてる。

 エムくんが、泣きながらタンクの中をかき混ぜてる……かき混ぜすぎなのでは?

「ん!面白いのが出来ましたねー」

 いいんだ。

 ボクはそぉーとやりすぎたのか、何も起こらない。

 いいのかな?
 ちゃんと出来てるのかなー?

「ああ、これはこれで大丈夫ですよ。
 スナくんらしいのが出来ます」

 て、先生に言われたから大丈夫なんだろう。

 そして──教室の中では、まだまだ中々のカオスが繰り広げられてるよ。

 正直、一度できて"安定"してしまえば状態はそう変わらないんだって。
 でも、出来かたはみんな違う。
 早くて、その日。
 遅くても五日以内。

 同じタンクはひとつもない。

──三日目。

 ボクのタンクに、大きく燃えてるのが出来た。
 大きいのを中心に、いくつかのちっちゃいのが現れて、その周りを回ってる。

 最初はそれぞれ、ふらふらしてあぶなっかしかったけど。

 でも、だんだんと決まったように動きして。

「へぇ。中々綺麗だねー」
 先生が覗いてきた。

「こんなにぐるぐる回って、ぶつからないの?」

「大丈夫だよ。通り道も安定してるみたいだし。ぶつかることは…滅多にない、と、思う。たぶん」
 頼りないなー。

「同じキットを使うのに、この状態になるのはいつもひとつなんだよ。今年はスナくんのなんだねー」

 ボクはきょろきょろと周りを見た。

 エムくんのは、ぽやぽやしてばらばらして、すごくたくさんだし。
 ガラキシオくんのはタンクからはみだしそう、にみちみちしてるし。
 お花みたいのや、動物みたいのが出来てる子もいる。

 エムくんのもばらばらだけど、ボクのとはなんか違う。

「こっちのちっさいのは、その年によって数は色々で──まあ、だいたい十コ前後だけど。スナくんのは九つだね」

 一つの大きいのと、ちっさいの九つ……
 全部で十コ!十コ?!

「先生!十コを一つずつ、観察日記つけなきゃいけないの?!」

「観察日記をつけるのは、この燃えてる大きいのだけでいいよ。ちっさいほうはしても仕方ない」

「ちっさいほうは要らないの?」

「そんなわけでもないんだけどね。
 無きゃ無いで、面白いけど。
 おっきいのほど変化はないから。
 ただ……」

「ただ?」

「この三つ目のやつ。これね。青くなったら腐りやすいから気を……つけたところで、腐るんだけどね。まあ、見てるといいよ」

「腐っちゃうの!!どうにも出来ないの?!」

「んー…どうだろうねー。まあ、見るのは大きいのだけでいいよ」

 て、言うと先生は別のタンクを見に行った。

 
──五日目。

 みんなのタンクを、先生がひとつひとつ確認してる。

「よし。では展示板に並べましょう」

 先生の指示通りにタンクを重ねて、タンクの壁を作る。

 壁の手前に透明の扉をつけて、閉める。

 すると、タンクの境がすーっと消えて、扉の向こう側で、広がる。

「おおー」

  みんなでひとつひとつ作ってたのが、おっきなひとつになった。

 でも、みんなの名前が出てるから、自分のはちゃんと分かるようになってる。

 ボクのは……随分、隅っこだなー。

 タンクに入っていた時から、いっぱいいっぱいだったガラキシオくんのやつが、めきめきとぐぉーって大きくなって…。

 なって…

…………あれ?

「先生!ガラキシオくんのが、ボクの食べちゃったー」
 半べそをかきながら、先生に訴える。

「ああ。大丈夫だよ、食べられた訳じゃない。
 くっついちゃったんだ。
 ほら、ここにちゃんとあるよ」

 先生が差したところを見ると、ボクのあった!

「へへっ!先生!ボクの、あったよ!」

「ん!あったね。ちゃんと観察するんだよ。みんなもね!」

 みんなで、はぁーいと返事した。

 ボクはもう一度、ボクのを見た。

 九つのちっさいのは、相変わらずおっきいのの周りをぐるぐるしてる。

 ガラキシオくんのは、エムのとも、お花みたいのやら、いろんなのとくっついた。
 

 三つ目が青くなった。

──半年後。

 観察してるのはボクだけになってしまっている。

 みんなのは展示板に展示されてから、あんまり変わらなくて、つまらないみたい。

 ボクのだって、でっかい燃えてるのの周りを、ちっさいのがくるくる回るだけでおもしろいものではないけど。

 あ、外側のやつが時々順番を代えてるのは、面白いかな?

 三つ目の青いの。

 ホントに腐っちゃうのかな?

ーーそうだ!拡大鏡を使って中を見てみよう!
 そしたら、原因が分かるかもしれない!

――――!!!!!

 えっ?!なにこれ!!
 ゆっくりと動く、黄色と緑のわさわさしたのと、それより数は少ないけど黒いうじゃうじゃしたやつ。

「先生!先生!これ!先生の言ってたやつ?うじゃうじゃしてるの!!気持ち悪い!」

「え?中、見ちゃったの?――――あー。やっぱりいつものだ。多分その黒いうじゃうじゃのせいで腐るんだよねー」

 一緒に拡大鏡を覗いた先生は、なんだか呆れてるみたい。

「ねぇ、先生!この黒いうじゃうじゃ、取っちゃったらいいんじゃないの?」

「取ってもみてもいいけどねー。その、黒いの、取っても取っても、いつの間にか増えちゃうんだよねー」

「そうなの?取れないの?」

「それが不思議とね。
 どうにもならないんだよねー。
 青いのが腐っても、おっきいのには影響ないから、成績には支障はないよ」

「そうなんだー。ならいいか」

 
──八ヶ月目。

 青いのが、青くなくなってきた。
 赤とか黒とかが混ざった感じ。

「先生。これが、腐ったってこと?」

「中はどうだい?」

「わさわさが無くなってる。黒いのがうじゃうじゃしてる」

「どうなるかなー。自然にうじゃうじゃがなくなって、わさわさがまた増えたら青くなるかもね」

「取るとダメなのに、無くなるといいの?」

「そう。無理やり取ってもダメなのに、無くなったら戻るかも知れない。戻らないかも知れない」

「わかんないの?」

「分からないんだ、ごめんね」

 ふぅん。そうなんだ。

──一年後。

 二年生がもうじき終わる。
 観察も終わり。

 展示板は、撤去される。

「みなさん、よく頑張りましたね!特にスナくんは熱心でした」

「でも、青いの腐っちゃった」

「あれは仕方ありません。
 多分どうしようもないんです」

 扉の向こうにあったボクたちのは、すっかり無くなった。

 次の二年生が、ここにまた新しいのを作るんだ。

 ボクたちは三年生になって、別の違うことをする。

 三年生でやることは、みんな教えてくれないから、まだ知らない。

 楽しみにしときなさい、て。

 空っぽの教室を見ながら、三年生でやることを考えて、わくわくしたんだ。

── 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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