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ヘラクレスオオカブト

黒羽たかまる

1,388 字

私小説的掌編、ノスタルジックな贖罪の物語

"子供の日の残酷さと、大人になった「僕」が紡ぐ、ささやかな贖罪の物語。"

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 子供の純粋さはときに残酷だ。

 たとえば、小学3〜4年のころ、僕らのクラスではコーカサスオオカブトを飼っていた。日本の野生では見られない海外産の特別なカブトムシとなれば全少年の憧れの的で、それを持ってきたクラスメイトはもちろんみんなのヒーローだった。ところが、ある日、そのカブトムシは失踪した。本来、閉め切った飼育ケースから彼らが逃げ出すことは不可能である。誰も何も言わなかったが、おそらく嫉妬して逃したか盗んだ者がいた。自身の宝物を失って、無言で拳を握りしめ飼育ケースを見つめていたクラスメイトの表情は今でも忘れられない。

 また、当時、僕ら小学生の間ではトレーディングカードゲームが流行っていたが、同時に他人のモノを盗むのはかっこいいという不良みたいな品のない考え方も一部で流行っていた。僕も高額なレアカードが何枚も含まれたお気に入りのデッキを何度か盗まれている。遠い地区から見知らぬ子がこっちの遊びにきた時はみんなぴりぴりしていたし、そうでなくとも、同じ地区の友人だろうとお構いなしにカードを盗むやつもいた。
「今日、Kからカード盗むわ」
 Y君は、K君の家へ2人で向かう途中、唐突に犯罪の予告をした。そしてその通りに、話しているK君の横で、彼のバインダーからこっそりカードを抜き去り、自身のポケットに忍ばせてみせた。帰り際にK君が見せた「カードがない」と焦る表情もまた忘れられない。そして、Y君の犯行の一部始終を見届けながらもそれを咎めるということを知らなかった当時の僕の純粋さもまた忘れてはならない。

 そんな、子供の頃の純粋さや、その残酷さによる犠牲者の供養のために、僕はまだ捨てていなかったおもちゃを集めてタイムカプセルにしようと決めた。
 小さい段ボール一箱ほどのそれを庭に埋めた。
 一年ばかり経つとそこに低木が生えてきたので、僕は何が育つのか楽しみに待った。それは懐かしい思い出のような切ないものかもしれないし、子供の頃の残酷さのような人を傷つけるものかもしれなかった。
 夏。まだ何の種類か確かめていないその低木の様子を見に行くと、細い幹に空き缶ぐらいの大きさのものがとまっていた。
 ヘラクレスオオカブトだったので僕は驚愕した。まず日本の野生には存在しないし、どこかから脱走したにしても僕の庭に現れるのは奇跡的な確率だった。
 とりあえず。現実的に考えて、これがここにいるということは、宝物を失った可哀想な子供がいるはずだ。だとしたら居ても立っても居られない。僕は飼い主を探して近所の家庭を訪ね歩くことを計画した。最悪の場合、近所の学校に問い合わせることも考えた。
 幸いにも、3軒隣の家で飼い主の子供は見つかった。段ボールの中のヘラクレスオオカブトを見て、泣き腫らした目を丸くする少年を見届けた僕はそこでようやく安堵した。
 ついでに尋ねてみた。
「君、怪獣は好きかい?」
「毎週テレビにかじりつくほど好きです」
 と代わりに母が答えた。
 後日、僕は大きな段ボールいっぱいに怪獣のソフビ人形を詰めて少年の家を訪ねた。この量は流石に迷惑かも、と思わなくもなかったが、母親は喜んでくれた。そして少年は、まだ喜びや感謝を表すすべを知らなかったようだが、僕に飴をくれた。
 僕の少年の日の思い出がよその家へ運び込まれていくのを僕は最後まで見送った。

── 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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