夜の海には幾つもの星が瞬いていた。僕は波の満ち干きの音を聴き流しながら、白い砂浜を歩いていた。白の半袖シャツは暗い空で燻んで見えた。
僕の隣には月明かりを肌に反射させた少女がいた。オニキスのような目を持った、真っ白のワンピースを着ている少女は空を見上げていた。麦わらで編まれた青リボンの帽子をどうにか頭から離れないように押さえていた。その目には星の輝きが映っていた。
僕は黒い波を避けるように岸の方へ寄りながら、少女の姿を眺めていた。「わあ……」と少女は小さく声を漏らしていた。不思議と少女のまわりだけ明るく見えた。のみならず白く霞んでいるようだった。
僕は左手で目を擦って、少女を見なおした。やはり少女のまわりだけ白く照らされていた。ふと少女がこちらに気づいて振り返りざまにニコ、と明るい微笑みを浮かべた。僕は思わず星の方へ目を逸らした。
少女とは学校ではほとんど話すこともなく、僕らの間に机一列分はあった。僕がたまたま少女の席の隣を歩いていた時、不意に手からプリントが落ちた。
「はい」
第一声はそんな感じだった。少女はわざわざ立ち上がって、木の薄汚れた床の上のプリントを綺麗な爪で浮かせて拾った。そうして少女は輝くような笑みを浮かべながら、冴えない僕の顔を見つめていた。
「ありがとう」
僕は小さい声で答えた。そのまま後ろに行って机の列を超えて、自分の椅子に座った。話をしたのはそれぎりだった。
今夜は友達と花火をする予定だった。バケツを持って海岸へと集まったのに、友達は「花火を買いに行く」とどこかに行ってしまった。仕方なく海岸を歩いていると、目の前に少女がいた。教室では制服姿しか見たことがなかった。
「やあ」
僕が少女に声をかけると、こちらを向いた。黒い目は僕の心を見透かすようだった。そっと微笑みを浮かべた。
空には星が瞬いていた。白いワンピースの裾が風で舞っていた。
白いワンピース
青春小説、幻想文学
"夜の海辺に現れた、白く輝く少女の幻。"
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