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勝医者

神影零

1,532 字

日常系コメディ

"歯医者は「敗者」にあらず。「勝医者」が贈る、痛快デンタルコメディ!"

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いやー、とんでもないことが起きたんですよ。
私ね、生まれながらにして歯肉炎がひどくてですね。毎月決まって歯医者に行くんですよ。
だから近所の歯医者だったりは大体全部行きました。そこの病院はアシスタントに厳しい、あそこの病院は歯磨きが上手、だなんてね。
それで私はまたいつものように、あそこの歯医者には行ったことがなかったなあなんて思いながら、車で十数分走って向かいました。
それで入って受付で「すみません、歯のメンテナンスできますか?」って聞いたんですね。
まあ結論から言ったら、その。歯医者だと思ったら、受付の人の胸元にある文字を読んでみたら、正しくは「勝医者」だったんです。
勝医者。「しょいしゃ」と読むらしいです。なんとも妙ちきりんな読み方ですね。
話を戻しますね。その勝医者の受付の人は、「ああ、メンテナンスですか?できますよ〜、すぐ準備しますね」って言って、まあすぐ奥に引っ込んだんですね。ちなみに名前は「勝沼」でした。あ、脈絡ないですよねすみません。
勝医者という意味について悶々と考えながら、ふと思ったのは「歯医者」は「はいしゃ」、つまり「敗者」に転ずる。だから「勝医者」にしたのか?だなんて。いや、無理矢理だなと思いましたよ。無理矢理だなと思ったんですけど、こういうところでそんなこと言ったら、奥歯が何本か抜かれそうなものなんでね。言い出せるわけないんですね。
それで早速呼ばれたわけですから、荷物を持って行きました。
目の前にあったのはどう見ても歯医者の設備でした。
あれ?私、疲れてるのかな?と思ったわけですね。だって普通はそんな名前の施設なんてないし。見間違いかなーなんて思いながら、これまた歯医者でもよくあるあの椅子に座りました。
「今日は歯肉炎に打ち勝ちたいということで、診察を担当させていただきます。」
やっぱり疲れてなかったわけですね。打ち勝ちたいだなんて普通の歯医者では言わないし、そりゃ勝医者だな、これはと思いましたね。
なんなら名札には「勝山」と書かれてましたから。どんだけ勝ちたいんだこの人。
まずは歯を軽くブラッシングされるんですけど、まあこれが意外と気持ちいい。しゃこしゃこと小気味好い音を立てて、それはもう丁寧に丁寧に、まるで絶対に歯肉炎に勝ってやるという様な執念すら感じられましたね。
口を濯いで吐いた後、「ブラッシング、すっごい丁寧ですね」って言ったんですよ。
まあ無視されまして。「勝山」だけに「右から左に受け流された!」だなんて思ったんですよね。あ、伝わんないか。
それからフッ素塗布もしてもらいました。そのフッ素、なんでかすごく葡萄味がしたんですよね。これは受付の人の「勝沼」から来てるのかなって。ほら、勝沼って山梨県の地名でしょ?だからそこからブドウが…いいや、なんでもないよ。うん。忘れていい。
治療を受けて思ったんだけど、まあこんなのも悪くないかなーって。また来ようかなとまで思ったくらいなんですよ。
それで治療が終わった後に勝山先生に聞いて見ました。「なんで名前、勝医者にしたんですか?」って。
そしたら先生は「歯医者に来ることをマイナスだなーと思ってる人が多くて、なんとかそのイメージを払拭させたかったんですよねー」なんて言って。ああ、確かにそうだなあ、遊び心あるなあ、まあ語呂は悪いけど。感心しちゃったわけですね。
それでやっぱりこれは聞いておきたいなって、思い切って私は質問しました。
「儲かってますか?」
勝山先生は頭を掻きながら、ぼそっと漏らしました。
「いやー、残念ながら同業との競争には負けてるんですよね。」
お後がよろしいようで。

── 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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