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坂の上で

ミッチ

886 字

青春ファンタジー、内省的物語

"夕暮れの坂道で、少年は未来への鍵を見つける。"

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坂の上で
夕暮れは、いつも少しだけ世界を優しくする。
少年は坂の途中で立ち止まり、街を見下ろしていた。
昼間は騒がしい住宅街も、この時間になると静かだった。遠くの窓に灯りがともり始め、湖の向こうの町も、小さな星を撒いたようにきらめいている。
空は紫から橙へ、橙から淡い金へと溶けていた。
少年はポケットの中の古い鍵を握った。
祖父が亡くなった日にもらったものだ。
「いつか帰りたくなったら使え」
意味は教えてもらえなかった。
家の鍵でもない。倉庫の鍵でもない。どこにも合う場所が見つからないまま、何年も持ち歩いていた。
今日も学校でうまく笑えなかった。
友達はいる。でも、本当のことは誰にも話していない。
将来のことも、家族のことも、自分が何者になりたいのかも。
まるで自分だけが透明になってしまったような気がしていた。
少年は鍵を空にかざした。
すると不思議なことに、夕焼けの中で鍵がかすかに光った。
風が吹く。
街の灯りが揺れる。
その瞬間、鍵穴が現れた。
空のど真ん中に。
雲と夕焼けの境目に、小さな金色の鍵穴。
少年は驚きながらも鍵を差し込んだ。
かちり。
小さな音がした。
次の瞬間、空いっぱいに無数の光が広がった。
それは星ではなかった。
未来だった。
笑っている自分。
誰かと旅をしている自分。
失敗して泣いている自分。
夢中で何かを書いている自分。
知らない街で夕暮れを見上げる自分。
どれも確かな未来ではない。
けれど、どれも確かに生きていた。
少年は気づいた。
未来は一本の道じゃない。
閉ざされた扉でもない。
無数の扉があって、その鍵は最初から自分の手の中にあったのだと。
光はゆっくりと消えていった。
気がつけば空に鍵穴はなく、手の中の鍵もただの古びた鉄の塊に戻っていた。
街には夜が降り始めている。
少年は坂を下り始めた。
答えはまだ何も見つかっていない。
それでも足取りは少し軽かった。
遠くの家々の灯りが、まるで「おかえり」と言っているように瞬いていた。

── 了 ──

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