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捕まえたep.リクリ

ユロ

2,719 字

青春と再生のヒューマンドラマ

"虐待、孤独、そして出会い。傷ついた少年が掴んだ「普通」と未来への希望。"

虎澤リクリ。男。B型 3歳の頃に母親が行方不明になる。 中学入学の際に、塾へ行きたいと言ったことを境に父親に暴行をふるわれるようになる。

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「医者になれ」

褒められたことよりも、こう言われたことの方が多かった。
俺はどんな日でも勉強漬けにされたな。
幼い頃母さんは山梨?かどっかに行くって言ってから音信不通だし、父さんは安月給で、不機嫌になれば俺を殴るし、蹴るし、正直好きではなかった。

中学一年の夏、体育祭があった。
他の親は子供の名前を呼びながらカメラを構える中、父さんだけは来ていない。

まあ……わかってたけど。

運動が1番得意なのにな。

徒競走にて、俺の番が回ってきた。
小学1年生からの徒競走1位連続記録。
ここで負けるわけにはいかない。
そう、思っていた。

「よーい……ドン‼︎」

空砲が鳴り、走り始める。
スタートダッシュの時点で、もう既に全員を超していた。
ゴールは目前。勝ちを確信し、後ろを振り返る。
すると、泣きそうな顔で走ってるやつがいた。
ユウヤ……だっけか?
何を思ったのか。俺は速度を落とし、

「行け!」

小声でそいつに言った。
結局そいつはゴールテープを切って、一位になった。
そして俺は初めて二位になった。
負けたはずなのに、何故か心地よかった。
俺、おかしくなったのかな。

それから月日は流れて、俺は二年生になった。
クラスも変わり、新しいメンバーとの生活。
「友達」がいなかった俺には
関係のない話だった。

始業式が終わり、帰りのHRでチラシが配られた。
「◯◯塾生募集中!」
だってさ。俺に塾は無縁なのに。
そう思い、カバンにチラシを入れ、家に帰る。

家に着き、宿題をやろうとカバンを開ける。
ノートを取り出していると、勢い余ってさっきのチラシが飛んでいく。
それは父さんの目に入る。
それを拾い上げて、ビリビリに破き、
俺を見ながら言う。
「なんだこれ?」
父さんはこれまでにないような顔だった。
俺は咄嗟に
「全員に配られたやつだよ」
と説得を試みる。

「嘘つくんじゃねえ‼︎」

隠し持っていたマイナスドライバーで襲いかかってきた。
必死に防ごうと手を前に出す。
1秒もしなかった。
手のひらに鋭い痛みが走る。
父さんのドライバーは俺の左手を貫通していた。
痛みに悶えるも、誰も心配しない。
病院なんて行く金もない。
俺は今にも失神しそうな意識で、救急箱を開け、震える手で包帯を巻いた。

巻き終わった頃にはもう夜だった。
父さんは酒を飲みながら、何事もなかったようにテレビを見ていた。

「明日、テストだろ。満点取れよ。」

息子の怪我よりテストの点数を気にする父さんを見て、ここにいればいつか死ぬと思った。

深夜、缶詰とライターを持って、家を出る。
左手は脈を打つたびに激痛が走るが、それでも歩き続けた。
が、とうとう限界が来て、
小さな街頭の下で倒れた───


目が覚める。
コーヒーの香り、コンクリートの壁。
古い扇風機まである。

辺りを見渡した衝撃で、
左手に電撃のような痛みが走った。
手元を見ると、
包帯が巻きなおされていた。

不思議なこともあるな。と
呆然としていると、声が聞こえた。

「起きた?」

声のする方向を振り返ると、
若い男が立っていた。

「大丈夫。縫ってないよ」
「……は?」
「いや、暴れるから縫えなかったな」

改めて、自分の意志の強さに驚いた。
まさか意識がなくとも拒否するとは。
いや、そんなことより

「……誰」

俺が問うと、男は不満そうに答えた。

「自分から名乗るべきか……そりゃそうか。」

彼は机の上に置いてあった帽子を被った。
金色の紋章に、
「白金第一交番」
と書かれていた。
俺は少し胸がざわついた。

「僕は『黒田コウタロウ』一昨年に刑事になって、今は交番勤務をやってる。」

刑事……交番……
どうやら俺は警察官に保護されたらしい。
警戒心は安心へ変わった。

それからというもの、俺はコウタロウさんの家で暮らすこととなった。
学校が終われば、塾へ行く。
塾が終われば、夕食がある。
当たり前なんだろうけど、それでも
心地よかった。
“普通”に初めて出会えた気がしたから。

中学三年生の受験期になると、
コウさんに将来を聞かれた。

「柘榴高校を卒業して大学に入って、
そして…………」
「そして?」

答えられなかった。
実の父からは「医者になれ」と言われてきていたから。
本当の自分の花は、すでに枯れていたんだろう。
でも、今見つけた。

「俺、警察官になりたい」

コウさんは少し驚いていた。
俺は少し照れくさくて、
勉強部屋に戻った。

2月になり、いよいよ受験は本番。
柘榴高校で、試験を受ける。
受験番号は54番
環境を作ってくれていたおかげか、
そこまで難しくはなかった。
むしろ、簡単に感じた。

試験が終わって数週間が経ち、
合格発表の日になった。
緊張感、そして期待。
俺の心は渋滞していた。
探す間もなく、54という数字が見えた。
50番台の合格者は俺だけだったから。

見るもん見たし、帰ろうとした。

「合格だ!」

誰かが叫んだ。
驚いて、身体が一瞬だけ震えた。
まあそう珍しくないだろう。
10秒ほどの沈黙の後、
止めた足はまた動き出した。
すると今にも消えそうな震えた声で

「どうだったの?」

と誰かに声をかけられた。
ふり返り顔を見ると、
見覚えのある顔だった。
俺は

「合格した」

と答えた。
そう答えたと同時に、彼の顔はどんどん赤く染まっていく。
気になって、それについて聞く。

「顔、赤いぞ。なんかあったか?」
「いやあ…合格した時、思わず叫んじゃって…周りからの注目の的になって…………」

さっきの声は彼のものだった。

「ユウヤらしくていいな」

何故かはっきりと覚えていた名前で
俺は言った。
すると彼は大粒の涙をぼろぼろと零した。
何か悲しませるようなことを
してしまったのだろうか。
焦りながら、言った。

「おい!なんで泣くんだよ!」

彼は答えることもなく、
わんわんと子供のように泣いた。

この日の出来事を
俺はずっと忘れられなかった。

── 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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