そこには、茶色と灰色があった。
それ以外は何もなかった。
地面はひび割れ、コンクリートが避け、水が吹き出していたり、炎が吹き出していたり。
赤ちゃんが泣く。老婆が這う。服はただれ、泣き叫ぶ。
愛していた街を壊され、愛していた家族を壊され、怒り狂う。
慟哭と憤怒。
コンクリートが崩れ、がしゃあああああんとけたたましい音が鼓膜を叩く。
何も思わなかった。
自分の服には、汚れも何もなかった。
呪いの言葉も、祈りの言葉も、記号でしかない。
水を飲ませてくれ、炎を消してくれ、そんな言葉が日本語として入ってくる。
でも、手を伸ばしても、その言葉には届かない。
紙を捲る。
ここは図書館。
本の中で、数千人が焼け死んでいる。
からん、とブラインドが音を立てた。
2026年7月5日。
81年前の今に、私は身を置いている。
焦土
歴史フィクション、静謐な追憶
"過去の焦土と現代の静寂が交錯する、痛切な記憶の断片。"
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