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デジログ・ディバイデッド

35,649 字

SFディストピア・青春群像劇

"デジタルとアナログ、分断された世界を繋ぐのは、友情か、それとも――。"

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プロローグ 〜新時代の分断〜
 今まで、世界で国が分断されたことはどれほどあっただろうか。
 資本主義と社会主義、紛争とか、色々あると思うが、207X年、日本国は今、全く新しい分断の真っ只中に居た。

「新しい生活も慣れてきたし、確かにこう、両極端に分離されてたら生きやすくもあるが……なんか、違うんだよな」

 そう独り言を放ったのは新島キョウ、以前からとある会社でシステムエンジニアをして働いている。
 この世界では、日本が以前は都心だったキョウ達の住んでいるデジタル派地域と、田舎だったアナログ派地域というものに政治的に分離がなされてしまっていた。
 各地域も名称が改定され、リョウは現在、デジタル派地域第2新東京部A区域という名称の地域に住んでいる。
 また、海外からの観光客は、基本デジタル派地域に区分された空港から、どこでも電子機器を使いながら観光ができるように整備が進められている。
 原因はスマートフォンなどの電子機器が、キャッシュレス限定やデジタルの会員登録など、ネットのサービス前提に変わってきてしまったことによる高齢者や現金派、デジタル反対派が数十年単位で不満を募らせたことによるものだった。
 2065年辺りからか、各地で署名活動や団体による活動が増え、政治家内でも派閥の分断が激しくなった上で暴動まで発生し部隊配備や特別対策委員会をもってしても収集がつかなくなった為、2068年から政府が緊急で一時的な国家の分断の形をとり対応したのである。
 現在では、その当時に仲の良さで有名な元総理大臣、現アナログ派総理と、元デジタル担当大臣、現デジタル派総理、正式名称を臨時デジタル派閥地域統括総務という役職に別れそれぞれ分断した地域をふたりが総理として統括している。
 今現在国としてひとつでいられるのはこのためでもある。
 今のところ互いに法律や国際的な国としては共通しているが、既にそれぞれの地域で派閥特別条例が組まれつつあり、異なる派閥との交流は禁止されていないが、堂々と交流していたら冷ややかな目で見られるので反対の派閥の元々友人だった人などと会う場合は密会の形がよく取られていた、デジタルアナログと並べた時の繋がってる中の字から、別目タルアナ会と呼ばれている。
 
 これからの日本社会社会が、再び繋がることはあるのだろうか……
1話 それぞれの世界
 デジタル派地域は、東京都心を初めとする元々栄えていた地域に点在している。
 数十年で、デジタル技術は大幅に進化していった。
 例えば、スマホはもはや人権レベルの必要性と化し、連絡手段としては勿論、決済は商品を手に取り店を出ることによりスマホの決済専用通信規格により全自動で行われるようになった。
 また、物とインターネットを繋ぐ技術、IoTと利便性向上の為の小型化がより顕著に発達しスマホにまで進化した医療技術を詰め込み、中度までの怪我や病気ならその場でスマホから症状に合わせた注射や、意識不明の場合電気ショックまでも自動で行ってくれるレベルまで進化した。
 また、AIバイター制度により、今までバイトがやるような業務を担う店員の8割はAIに置き換わり、その分IT業界やSNSバラエティーの給料と福利厚生がより拡大していき、今や誰もがSNSで自分を売り込み社会進出しながらほぼ一日中スマホやPC、カメラに向き合い仕事をする世の中に変わっていった。

「さてと、時間空いたし久しぶりにタルアナ会行くかぁ、やっぱ電話はいつの時代も便利だなぁ」

 キョウが仕事仲間に言った。

「またか、というより、便利さなら圧倒的にテレパジアプリのほうがダントツだろ」

 そう言ったのは高倉結人、キョウの仕事仲間で、元々デジタルもアナログも理解できるし、バランスよく活用するのがいいと思っていたごく中立的な立場の人間だったが、分断後は家柄もありデジタル派を選んだ。
 だから別にアナログ派がどうということもなくタルアナ会などには寛容な姿勢を見せている。
 ちなみにテレパジアプリというのは、スマホのヘルス機能のひとつであるリアルタイム脳波測定のアクセス権限を利用し、テレパシーをデジタル通信で極限まで再現した、無料アプリである。
 分断後に急激にデジタル技術が成長を遂げた末開発されたアプリであり、日本発で今やたった3年で世界中に普及している。

「わかってないな、人の温かみも便利さのうちさ」

「確かにそうだな、にしても、長らく電話してないと感覚忘れるもんだな」

「あれ、お前って意外とデジ側に知り合いいない感じ?」

「居ないというか、お前はひとりでもお互いに昔から分かり合えてる親友が居るだけで普通に考えてこんな分断が起きりゃ別れた側とは簡単に疎遠になるだろう」

「あー……確かに、すまなかった」

「まあどっちにしろいずれ話さなくなる仲のやつも多かったから今となっちゃどうでもいいんだがな、それよりはよ連絡して行ってきなよ」

「ああ」

 さっきの話で分かる通り、キョウにはアナログ派側にひとり、昔からの友人が居る。
 名前は古山隆二、元々農家と農園の商品で直売所を運営していた経営者で、キョウとはシェアハウスをするほどの中であり、キョウはその直売所の経営のシステム管理を手伝うこともあった。

「もしもし、俺今暇だからちょっとだけ会えたりする?」

『言ったろ、僕はゆっくりのびのびと農業してるからいつでも行けるって』

「そうだったな、じゃあ、いつもの川岸で会うか」

『わかった、すぐ行く』

 アナログ派地域では、SNSやゲーム機能の無い携帯電話で日常の簡単な電話と仕事などの重要なメールに限り送受信が許されている。
 また、アナログ派地域内特別条例対象店舗では、キャッシュレス決済や会員登録を前提とするサービスが一律禁止となり高齢者や現金派などからはアナログ派政府が莫大な支持を集めていた。
 デジタル社会のSNSや娯楽にあたるものはと言うと、今のところは掲示板での情報交換に、昔の遊び体験のアミューズメントや、大きめの筐体のアナログゲームなど、レトロチックなものが多く普及し始めた。
 今のところ、そんな社会に大きな不満は集まっていないとのことだ。

 分断は、デジタルとアナログそれぞれで個別最適化され、直接的な生きやすさは少なくとも飛躍的に上がっていることは明らかだった。
 だが、それと同時に人の分断と長期的な分断による中立派の反発や両極端化することによる片方の崩壊も時間の問題なのかもしれない。
 それでも、こうなってしまった以上それぞれの世界は止まる気配を見せなかった。
2話 モバイルバッテリー
「あっ、やべっ、スマホの充電が……」

 隆二とのタルアナ会に向かっているキョウは急いでスマホとモバイルバッテリーを取り出し、接続した。
 今のデジタル派地域の住民は、スマホはもはや人権レベルで重要になりつつあり、バッテリー容量の増加に比例し新機能の消費電力も急速に増加しているためその充電を切らすものかとモバイルバッテリーも未だ利用者は多かった。
 ちなみに、今でも、昔からあるような貸出タイプのモバイルバッテリーは使われていて、なんなら最近出来た企業のとある貸出モバイルバッテリースポットが話題になるほどだった。

『24時間以内ならどこまで使ってても150円だし、それでも安いのに専用アプリの決済だとクーポンも使えてガチで神』

『今まで落として壊すこと多かったけどこれはガチで他社より頑丈で安心感ある、それでもって充電もめちゃくちゃはやいから設置されるようになってから充電やばい時はいつも使わせてもらってます!』

 など、レビューを見ると、料金、安心感、充電速度共に好評の声が多く、今のところ悪い評判も見かけなくて期待の企業らしい。
 キョウはその日、そのモバイルバッテリーを初めて利用していた。

「やっぱめちゃくちゃ速いなぁ、いや、もはや怖くなるほど速い……しかもあの安さだし…………」

 キョウは、歩きながら何となくそのモバイルバッテリーの規格などを調べてみた。
 長方形でスリムな形と、漆黒に輝くデザインで男心をくすぐるようなデザインだ。
 それでもって上品さがあり、男女問わず気兼ねなく使えるような貸出モバイルバッテリーにしてはだいぶ綺麗なデザイン設計である。
 これも人気の要因のひとつと言われてもおかしくないくらいには良質なものだった。

「会社名は、『ユニファイバッテリー』ってところか、まあできたばかりだし当たり前だけど聞いたことないな」

 次は接続端子について調べてみた。
 充電端子は時代と機器の増加と共に増えながらも、それらをコンパクトに接続できる製品も同時に増えてきた。
 現在メジャーな接続端子は、USBの最終形態と呼ばれている各タイプのUSBPro5.0、導入時のコスパと機能性を兼ね備えた中国発のFADAETs(fast all data and electricity transfers)、通称ファダエッツ端子という規格が2050年辺りからもう既にアジア地域を中心に普及し、それに関してはもう5タイプが展開され、シェアがUSBに次ぐ2位の勢力となって広がり続けている。
 このモバイルバッテリーには、USBの主要なmicro-BとC、そしてファダエッツFS(For
 SmartPhone)とAL(All Link)、そしてFAL(Fast Access Link)の全5種とワイヤレス充電機能が内蔵されていて、端にある小さなボタン1つでコンパクトに、そして速く接続端子を変更して接続することができる。

「特に変な規格は無いな……ん?」

 よく観察してると、モバイルバッテリーの内部がモバイルバッテリーのチャージ用の接続部から少しだけ覗けた、その中の部品に本来充電供給のみなら使わない何らかの記憶装置のような見た目のパーツが見えた。

「どこかで新機能でも追加されるのかな……?それとも……いや、やましい事はないだろ、さすがに」

 違和感を覚えながらも、とりあえずアナログ派地域とデジタル派地域の境界線の方面へ急いだ。
 本当は、移動手段もデジタル派地域ならもはや腐るほどあるが、同時にログも残りやすいのと、たまには運動がてら自分の足で移動したいという人も多いので、基本的に密会やお忍び、完全プライベートの場合は徒歩を使うことも多い。
 ちなみに某アニメのチートみたいなドアはまだない。

「お、いたいた!りゅうじー!」

「おお、久しぶりだな」
3話 暴走
 タルアナ会でキョウと隆二のふたりは、とある境界線の川岸で互いの地域の事や、流行りについて話し合ったり、仕事のことについて話を弾ませていた。
 分断といえど、このデジタルとアナログの境界線では以前のまとまっていた日本と変わらない空気が流れていた。

「じゃあ、そろそろ戻るわ」

「了解、また最新ゲーム教えてな」

「おけおけ!」

 そう言って別れたその瞬間、異変が起きた。
 突然、ポケットにしまおうとしたスマホからノイズが鳴り、普通緊急医療措置機能を起動しないと動作しないはずのコードに繋がれた注射針がキョウの腕に向かって飛んできた。
 キョウとスマホの距離的に、どうにも避けられない状態だ。

「危ない!!!」

 すると、さすがにスマホが正常動作してないことを察した隆二が咄嗟に腰に携帯していた農具を注射針に向かって投げ、その上から急いで押さえつけ、動きを止めた。

「はぁ……はぁ……」

 一瞬の恐怖から、キョウは一気に体力が削られた。

「大丈夫か!?」

「なんとか……にしても、何が起こったんだ……」

 とりあえず、すぐにスマホを確認した。

「あれ……」

 スマホが初期設定画面に変わっていた。

「まさか、モバイルバッテリー……?」

 キョウは容赦なく近くの大きめの石でモバイルバッテリーの外装を叩き割った。
 考えられる原因は、それしかない。

「すまないが、偽名でもなんでもいいから適当にスマホの初期設定を入力してくれ、恐らくSiMがある限りネットには繋がる」

「わかった」

「そしたら、検索窓でユニファイバッテリーと調べてニュースの検索結果を見せて欲しい」

 もしこれがこの新興のモバイルバッテリーによるものなら、自分だけじゃない可能性の方が高いだろう。
 キョウは頑丈な外装を壊すのには苦労したものの、あっという間に中身の部品を分解し、家で解析するためにカバンに保管した。

「おい、もしかしてこれか!?」

 そこには、『ユニファイバッテリー利用者のスマホが暴走、利用者が「ユニファイゾンビ」化』という見出しのニュースがあった。

「やはりか……」

「これって、もしかしてめちゃくちゃヤバいやつか?」

「分からないが、少なくとも単なるお遊びではないな……とりあえず家が安全かとモバイルバッテリーの中身を確認するから急いで帰る」

「あぁ……」

「さっきはマジありがとう、じゃあまた」

「待ってくれ」

 隆二がその手を掴んだ。

「これって、アナログ派の人間ならほぼ感染することないだろ、やろうと思えば物理的に回路を切ることもできる、少なくとも、お前がいるからある程度の知識もある、この件、僕にも手伝わせてくれないか」

「……農園は、大丈夫なのか?」

「ああ、家族が居る……それに、このまま勝手にやられてもらっても困るからな」

「そうか」

「あと、できるかわかんないけど、ダメ元だけど、もしこのふたりでこの件を解決させれば、分断された日本がまた元に戻るきっかけになるかもしれないしさ」

「お前ってさ、真面目かと思ったらいっつもこうやって急に無茶しようとするよな」

「……ごめん」

「いや、そういうお前が好きだから、というか、元からそのつもりだったし」

「嘘つけ」

「とにかく、このままの世界も少し窮屈だからな、乗ったよ、一緒に救いに行こうぜ、世界」

「ああ」

 隆二が微笑む。

「笑ったな、お前のノリに乗ってやったのに」

 キョウが怒るように言う。

「すまんすまん」

「とりあえず、俺ん家行くか?」

「急にデジタル派地域に潜り込んで大丈夫なのか?」

 キョウがスマホのバックアップ作業をしながら言う。

「システムエンジニアであるうちのセキュリティシステムを舐めないでもらいたい、一生お前をかくまえるほどにはしっかりしてるぞ」

『パスワードが違います』

「あっ……」

「頼もしいな」

 隆二が皮肉るように言う。

 かくして、ふたりのデジタル派地域を救う、そして、デジタル派とアナログ派を再び繋ぐ為の戦いが始まった。
4話 スマホから出た錆
 ふたりは、まずニュースの情報の真偽を確かめるため、徒歩で物陰に隠れながら家へと向かおうとした。

「とりあえず、お前はこの帽子を被っておけ、流行りのやつだからこれだけでもゾンビになってない人にアナログ派とは怪しまれまい」

「そんなちょろいのか?この地域の奴ら」

「まあ、デジタル化のデメリットがもろ出てるからな」

 苦笑するようにキョウが言った。

「なるほど」

 同じように隆二が答える。

「もうすぐ都心部だ」

「マジか、ニュースであれほど景色は見たことあるけど、こう実際にお目にかかるのは緊張するな……」

「俺にとっちゃ日常でしかないんだけどな」

「ニュース通りなら、どちらにとっても非日常かもしれないぞ」

「怖いこと言わないでくれ……」

 そう言って、都心の1番人口密度が高い地域に入った。

「これは……」

 そこには、まるで映画で見るような、正しくゾンビパニックのような世界が広がっていた。
 少し違うのは、デジタル的すぎる世界観と、身につけられたデジタル機器の量の分ゾンビとして強そうに見えるのと、ゾンビ化した人のほぼ全員の腕に注射針に繋がれたスマホがぶら下がっているくらいだ。

「人間に戻るか、戻るならどうしたら戻るか、感染者のスマホはどうなってるのか、色々試しておきたいが、まだこのまま戦うのも危険すぎるな……そうだ、隆二、お前目いいだろ、家に着くのが優先だがもしまだゾンビに感染させられてなさそうな人見つけたら教えてくれ」

「わかった」

 そう言って、さっきよりもっと慎重になりながら道を進んだ。

「さすがはデジタル派地域だな、インフラ整備は全然余裕そうだ」

 この状況にしては綺麗な道を見て隆二が言った。

「でも、油断はできないな、トロイの木馬みたいに、安全そうに見えて今にも崩れそうな所があるかもしれない」

「まじか……それならまだ危険が見えてた方がマシじゃねぇか」

「確かにな、これも何か、神様からの皮肉みたいだ」

「デジタル派らしくないぞー」

「過激派の皆様に教えてあげてくれ」

「怖いじゃんあいつら」

「アナログの過激派もな」

「あいつらはあいつらでヤバいやつらばかりだから」

「大変だな」

 笑いながら話をしていたら、キョウの家に着いた。
 見たところ、他の家は中もゾンビの色が侵食しているところもあるが、少なくともキョウの家の室内は安全らしい。

「さすが、お前も突破できない程のセキュリティ」

 隆二が笑いながら言った。

「やめろ、あれはただのミスだ」

「はいはい」

 そんな会話をして、家のセキュリティを解除して室内に入った。

「生存者はここら辺にはもういないのか?」

「ニュースを見ればわかるだろ、少なくともメディアは生きてるはず」

 そう言って、テレビとPCを立ち上げた。

「そんな簡単にデジタル機器を起動しても大丈夫なのか?」

 少し不安そうに聞く。

「ああ、うちはもしもの時のために停電以外でも少しでも異常があるだけで安全が確認されるまで内部電源から機器が運用されるようになっている、あと、テレビはネットに繋いで無いし仕事用のPCは最初はルーターを抜いて必要になったら刺すようにしている」

「なんだか分からないけど、用心はしていると」

「まあ、そんなところかな、ただ、テレビの地上波の受信も完全に安全かは分からないけど、さすがにそこまでやられては無いと思う、というより、少しの危険を犯してでもさすがにテレビくらいは付けておきたい」

「うむ、言ってることはわかるけど久しぶりに聞く概念過ぎて脳が疲れてきてる」

「頑張れ」

「雑だなぁ」

 テレビは、番組表を見る限り特別番組としてどの局も今回の件のニュースが放送されていた。

 生きてる定点カメラの映像が、緊急時だからか局関係なく流れている。

「こりゃ酷いな、なんというか、スマホから出た錆、みたいな?」

 そして、主に情報提供や専門家の見解などは電話が主体として行われていた。 
 今は無事か分からない仕事仲間の結人に向かって話すように誰にも聞こえない小声で言った。

「だから言ったろ、電話はいつの時代も便利だって」
5話 解析
 まず、モバイルバッテリーの分解した内部パーツの型番をそれぞれ確認した。

「えっと……これがバッテリー本体で、電源供給するための基盤……」

 キョウの言葉が詰まった。

「どうした?」

「とんだ技術力だ、まずいな……充電コードからこっそりストレージのデータを抜くプログラムの基盤と、主記憶装置、つまりメモリから直接的どこか指定の場所にその抜いたデータを転送する装置が取り付けられてる……こんな小さな外装でここまで……」

「と言うと?」

「データを抜かれてる時点でセキュリティ的にだいぶまずいし、少なくともただITの知識をかじった素人ではないな、そして、これだけのモバイルバッテリー事業を展開してるあたり、経済力もある」

「つまり、一筋縄ではいかないと……」

「まだ分からないが、少なくともヘマをするようなバカではないな、意味はないかもだが、装置のデータの送信先でも調べるか、てか、今のところそれくらいしかできない」

「僕はどうすれば」

「そうだなぁ……お前は帽子被ったまま外で無事な人を探してきてくれるか?恐らく、今までの情報から考えれば感染の心配はお前にはないだろうし、もし物理的な危険があれば、まずスマホが繋がってる注射針を抜いて、その後の反応をみてもし効果がないなら倒すかすぐ逃げてくれ、あと、その抜いた注射針は持ち帰って欲しい」

「わかった」

「急に色々頼んでしまってすまんな」

「ああ、その代わりに冷蔵庫にあったジュースは貰ってくけどな」

 そう言って、そそくさと飛び出した。

「おい、それ楽しみにしてたやつ……まあいいか、確かあれデジタル派地域限定だったし、飲ませてやろ」

 すると、テレビがとある情報を発表した。

『現在わかっているユニファイゾンビ関連の情報をまとめたものを発表します。緊急時のため、これらは全ての放送局共通で随時発信されるものです。』

「これは重要だな」

『ユニファイゾンビは、現在ユニファイ社の貸出タイプのモバイルバッテリーのユーザーと、そのゾンビが襲った人のスマホがその攻撃で損傷することによりそのスマホも同じような暴走状態に陥り、感染が拡大しているとの事です。
 また、スマホを所持していない人の感染報告はまだおらず、PCユーザーなどは、避難勧告により、ほとんどが既に自宅に避難をしているとのことです。
 また、感染の危険がない人でも、物理的な攻撃で身体的損傷を受ける可能性が極めて高い為、不要不急の外出をするのは避けてください』

 ここまでは、キョウが今までのニュースで見たり聞いたりした情報と同じだった。
 ちなみに、ニュースではこんなことを言っているが、元のデジタル派地域の人間は元から体力や筋力は弱い傾向にある。
 そして、少なくともアナログ派地域のある程度体力がある成人男性がこの地域のゾンビ化した人間の攻撃を食らっても、危なかったら逃げろとは言ったし袋叩きにされなければかすり傷程度だろうと見た。
 ゾンビ化による身体能力強化のリスクはあったが家には物理的な救急箱も念の為置いてあったのと、このまま進展が無いよりか少しリスクを取らないとどうしようもないと考えたので、キョウは隆二を信じてあのお願いをした。

『そして、ここからは新たな情報です、まず、デジタル派地域内で危険な地域を順番にお知らせします。
 デジタル派地域第2新東京部A区域、同じくB区域、旧東京都主要都心部全般、大阪D区域の1部県境周辺、新名駅周辺地域、以上が特に危険な区域となっていますので、周辺にお住まいの方は警戒をしてください。
 また、携帯キャリア各社によると、端末の初期化の動作が確認された端末数が数時間で少なくとも合計30万確認されているとの事です。
 これが感染によるものと仮定した場合、単純計算で、デジタル派地域の人口の約30分の1がゾンビに感染させられているものとみられます。
 そしてこれが最後の情報です、旧自衛隊内組織、現デジタル地域防衛担当局が数人の感染者を保護し調べたところ、感染者は既に身体的に亡くなっており、暴走したスマホにより脳が操られていた事が判明いたしました』

「えっ……」

 キョウは、無いと思っていた最悪の事態がこのニュースで報道され、衝撃と絶望感でしばらく画面の前で固まってしまった。
6話 偽善
 絶望感で唖然とした中で、隆二が注射針がぶら下がっているスマホを数個と、生存者と見られる人を一人家に連れてきた。

「ただいま、とりあえず、できるだけ注射針を引っこ抜いて、1人だけ無事そうな人を連れてきた」

「んっ、離せ!!!」

「怖いかもしれないがもう大丈夫だ」

「違うんだよ、一旦離せ!」

 生存者と見られる人が軽く抵抗をする。
 これは、本当に恐怖から来てる行動なのか。

「わかった、また後で話を聞こうそういえば、キョウ、注射針抜いたやつは全員その場で倒れ込んだぞ、あと、少し時間が経ったら肌色も戻った」

「脈は……?」

「やべぇ、そのまで見てなかった」

「は……?そこが1番大事だろうがよ」

 焦って声が荒くなる。

「すまん……今からにでも確認しに行こうか?」

 ……
 しばらく沈黙が続いた。

「急に怒鳴ってごめん……一応、お願いしてもいいか」

「ああ」

 そう言ったら、隆二が急いで外へ飛び出して行った。

「あと、生存……いや、アナログ派の偽善者さん、なんでこんな所に?」

「はっ、頭のいいデジさんにはお見通しか、そこら辺のデジバカとは違うことはわかったが……なんだよ、居ちゃ悪いか」

 デジバカとは、デジタル機器ばかりに依存し、考えることなくAIや機械に任せっきりにする人を揶揄したアナログ派が生み出した蔑称だ。
 また、反対に、『激情弱』という、感情ばかりで非効率なアナログ派を揶揄する蔑称も近年使われ始めており、分断の強まりを象徴するようなものになっている。

「いや、誰も悪いなんて言ってない、どうしてここにいるのか教えて欲しいだけだ、あと、同じような奴らはあと何人いるんだ」

「お、俺はひとりで来ただけだよ、ただ、昔から交流してたデジタル派の友達をダメ元で助けに行きたくて……」

 キョウの声に怖気付くように言った。

「そうか……ビビらせてすまなかった」

「いや、いいよ、てか、あの言い方的にもしかして冷やかしとかヒーロー気取りのやつとかの存在も既に知ってるのか?」

「まあ、だいたい予測はつく、恐らく、あの例のゾンビパニックに感染しないアナログ派が考えることは、『これだからデジタルは嫌いなんだ』と批判を強めるやつ、そして、君みたいに派閥が別れた友達を助けに行く人達、最後に、さっき言ってた冷やかしやヒーロー気取りのめんどくさいやつらだ」

「まったくその通りだ……よくわかったな」

「まあな、そういう推理ごっこは好きなもので」

 違う、今はそれがわかったとてどうにもならない。
 感染者は必ず死ぬ、メディアはそう言ってる。
 でも、それはもうじき真実がわかる。
 あとは、遊び半分で来るやつのことだ。
 正直、感染者が助かろうが助からなかろうが、この事態をできるだけ早く収束させるのにその存在は確実に邪魔になる。

 キョウは素早く頭を回転させた。

「少なくとも……思想がどうであれ遊び半分で来たやつは助かる可能性があるデジタル派に危害を加えてもおかしくない……か」

「お、俺はそんなことしねーぞ!?」

「大丈夫だ、もしそんなことをしようものならお前を地獄のそこまで追ってやる」

「ひえっ……」

「まあ、それくらい恨むってだけだ、あと、そんなことはしないだろうと思ってるから気にするな」

「おう」

「そういえば、君、名前は?」

「小松拓人って言います、ちなみに、知ってるわけないかもだけど、助けたい友達は黒崎蒼弥っていう明るいいいやつなんすよ、だから、もしこの件に巻き込まれてたらと思うと動かずには居られなくて……」

「そうか、俺は新島キョウ、この地域でシステムエンジニアをしている、もし俺たちに協力してくれるなら友達を助ける手助けと、ここで暫くは安全に過ごせるようにはしてあげるけど、どうする?」

「それならわかった、お願いしたい」

 すると、そのタイミングで隆二が慌てて家に入ってきた。

「大変だ、さっき注射抜いて倒れたヤツら、居なくなってる!!!」

「え……!?」
7話
 既にゾンビ化され侵食された都心のタワマンの屋上に、ゾンビではなくひとりの男がいた。
 スーツに身をまとい、紫の妖しい目をした高身長の男だ。

「今のところ、全て計画通りだ」

 高笑いをして、続けた。

「再び、世界をひとつにする、ユニファイはそのための会社、そのためにはどんな犠牲も厭わんのだよ……そうだなぁ、これにタイトルをつけるとするなら、全てを元に戻す、デジタルアナログなんて、そんなラベルはいらないことを示す……無印、つまり……」

『 』

「名前付けなんかいらないさ、そのせいであいつが……」

 その頃、キョウ達は……

「まさか、じゃあ感染者はどこに……」

「分からない、立つ鳥跡を濁さず……って感じだ」

「くそっ……厄介だな、最初から薄々気づいていたが色々試してもデータ送信装置の送信先がまったくわからないし……」

 すると、突然キョウが叫び出した。

「全員伏せろ!!!」

「え……!?」

 すると、窓を割りながらくわを持った中年の男と、それに渋々着いてきたようなまだ大学生くらいの女性が飛び出してきた。

「なーんだ、ここにゾンビは居ないのか」

「も、もうやめようよ」

「いや、まだだ、もう少しで借金が返せる、ゾンビ一体3万円、こんな地域に出向くことになったのは癪だが、いいバイトを見つけたもんだ」

 中年の男と女性が話す。

「……おい、お前ら」

「な、なんだ!」

「絶対許さん……ここまで、ゾンビ何人倒してきた……?」

「い、いや、倒したも何も、ほら、あれだよ、こっち側のニュースも見ようと思えばあっちの地域で見れるんだ、だからわかるだろ、死んでるやつをハントしようが……」

「黙れ!!!」

 キョウは机を叩き、思いっきり叫んだ。

「だからと言って、メディアの情報があるからと言って、たとえ亡骸でも人を狩っていい訳がないだろ!!!」

 込み上げた怒りのままに、キョウがまくし立てる。

「そうだよ……お父さん、私のためだからと言っても、こんなことは嫌だよ!!!」

「……」

「おい、この話が理解できるなら、さっさとここから去って地元に帰れ」

「チッ、わかったよ」

 そう言って、男が去った。

 その後、少女が去る男の姿を追おうとする前に止まり言う。

「お騒がせしました……あの、もしかして、皆さんって、例の事件の捜査してたり……?」

「まあ、そんな大層なものじゃないが、そんなものかな」

「あ、あの……もし良ければ、お願いがあって、私もそこに加わってもいいですか?」

「え!?」

 隆二と拓人が驚く。
 
「どうしてだ?」

 キョウは冷静に聞く。

「あの、実は、元々さっき居た私のお父さんはこんなんじゃなかったんです」

「……それで?」

「私の、父子家庭なんですけど、大学のお金が足りなくなったのと、今回の事件が重なって、最初はお父さんひとりでこっそりゾンビ狩りに行ってきたそうで……そこから、参加人数が増えれば同じ数狩っても報酬が高くなるからと私を連れてきて……家族がそんなことになってしまったのが許せなくて、犯人が許せなくて……」

「なるほどな」

「あと、元々中学校の友達が3人くらい今のデジタル派地域にいるので、もしかしたらその事件に巻き込まれてるかもとか、助けられないかなとか色々考えちゃって」

「……なら、あんたには何ができる」

「えっと……」

 しばらく沈黙した。

「えっと、私、やれって言われたらなんでもします!今はできなくても、絶対覚えるので、お願いします!!!」

「わかった……そこまで求めたいつもりはなかったし、何かしら答えれる勇気があればOKをだしてたから安心しろ」

「あ、ありがとうございます!」

「名前は?」

「山中ヤナです」

「父は大丈夫なのか?もう行っちゃったぞ」

「大丈夫だと思います、お父さんは一日中農作業してて、何もしてやれない代わりに好きなように過ごしていいと言われたので」

「そうか、大学は?」

「今までほぼ出席してあとは何もしなくても大丈夫なくらい単位あります!」

「ならまだ大丈夫か、わかった、でもそれならできるだけ早くこの事件を終わらせるようにする、今日はとりあえず夕食にするぞ」

 少しだけ重めの空気のまま、この日は夜を迎えた。
 この事件が始まって以来、一気に両派の関係が拗れてしまった、この分断された国の物語は、これからどう進んでいくのだろうか……
8話 声明
 紆余曲折ありながらも、最初のふたりから拓人とヤナが加わり、いつの間にか4人に仲間が増えていった。

「まあ、いないよりかマシか」

 キョウは変わらず険しい顔を浮かべる。

「まあ、死んでいるのなら死んでいるで仕方ないか……そう考えると辛いが、もう、これ以上被害を出すために食い止める行動をしないと……」

 すると、ニュースで速報が鳴った。

『速報です、ユニファイ社からとみられるメッセージが匿名で送信できる窓口からこのテレビ局に届き、『この生放送でここに書いてある声明を発表すること』という旨の要望が記されていたので、ここで発表致します』

「ユニファイ社からのメッセージだと……?偽者か、社長か、なんなんだ、というかどうして急に……」

『以下はユニファイ社からの声明です。
『ユニファイバッテリーの利用者の皆様、ごきげんよう、とはいえもうほとんどが既にゾンビ化していると思う、だからこれは生存者へのメッセージだ、よく聞け』』

 アナウンサーが淡々と読み上げる。

「……」

『私はユニファイ社社長のグロイド・ベールドだ』

「グロイ……ド?」

「知ってるのか?」

 隆二が尋ねる。

「いや、聞いたことあるようなないような……」

 声明が続く。

『まずは、皆が気になってること、何故私がこんなことをしたか話そう、まず、私は悪行を働いているつもりはない』

「……は?」

 キョウからまた怒りが混じった声が出た。

『私は、完全に分断された直前の去年8月のデジログ大暴動の際にひとりのアナログ派地域の友人が巻き込まれ、昏睡状態に陥ってしまった、また、分断によりお見舞いに行こうと思っても、あちらの病院はいい目をするはずがないだろう、だから、こんな世界が嫌だった、だから、unify、つまり、私のような悲しみをわかってもらいもう一度この世界を統合すべく、この計画を実行した、今のところ、全て私の計画通りだ、一部のアナログ派地域の人間は友人を助けに行くべくこちらの地域に乗り込み、調べてみれば、非公式ながら両派和解の運動も起きている様子だ』

「だとしても、こんなやり方……」

 ヤナが怖気付くように言った。

「……チッ」

 拓人が舌打ちをした。

 確かに両派和解に働きかけたのかもしれない、でも、あまりのやり方にそれぞれ憤りを感じていた。

『もし、このゾンビパニックを終わらせたいのであれば、分断前の元の世界に戻すこと、それ以外でこの事態を止めることは無い、そして、これに対する答えは明日の午後10時に予定されている両総理の会見で聞こう、もし、そこでノーが出れば……また更にパニックが広がるかもしれないな』

「くそっ、グロイド……誰だったか……」

 思い出すことができれば、何か出来るかもしれないが、すぐには出てこなかった。

「とりあえず、明日の会見で政府がどんな答えを出すか……だな」

「あっ……!?」

 突然ヤナが声を出す。

「どうした」

「わ、私の友達が……ゾンビの姿に…………」

 涙を流し、膝から崩れ落ちた。

「何人だ?」

「アクセサリー的に、ここら辺にいる4人は私の友達で間違いないと……思います……」

「もし感染時一緒に遊んでたりしたならまとまっててもおかしくないな……隆二と拓人、急いで注射針抜いて家に連れてきてくれ!」

「わかった」

「おう!」

「……ごめんなさい、私何も出来なくて」

「大丈夫だ、気にするな、ちなみに、大学では何をしているんだ?もしここでやれることを見つけたいなら協力する」

「えっと、私は大学で医療を学んでて、と言っても、アナログ派地域特別古代療法研究学院っていう所で、簡単に言えば昔ながらの、またデジタルに頼らない近年の治療法の検証と、応用を学問として研究してるところです」

 すると、キョウがはっとして言う。

「可能性が高い訳じゃないが、もしかしたらそれならゾンビ化した人達を救えるかもしれない」

「でも、死んでるんじゃ」

「希望的観測をしすぎてるだけかもだが、少なくとも確定はしてない、まだ自分で注射針を抜いた後の感染者の脈も確かめてないからな」

「わかりました、少し不安だけど……頑張ります!」

「ああ、頼んだ」
9話 希望
「なんとか連れてこれたぞ」

 隆二が注射針を抜いて人の肌に戻ったヤナの友達と見られる人を背負い込んで言った。

「重いけ……いや失礼か……こっちも大丈夫だ」

「ありがとう、とりあえず適当にベッドに寝かせといてくれ」

「ああ」

 隆二が応える。

「あと、前に注射針抜いた後の人が消えてたはずだよな、だからできる限り見張っといてくれ」

「任せとけ!」

 拓人が言った。

「次は何をしようか……あっ」

 キョウはふと、仕事仲間の結人のことを思い出した。
 もし感染してても電話かけてみるくらいなら大丈夫だと思い、とりあえずかけてみた。

『おお!キョウじゃないか!お前、大丈夫か!?』

「こっちは大丈夫だご、そっちこそ大丈夫かよ」

「例のモバイルバッテリーは使ってなかったのと、事件のタイミングではスマホを家に置きっぱなしにしてたからなんとか、だが家帰る途中で少し襲われちゃって足怪我してるから思うようには動けないがな」

「そうか……他には?」

「他っつったって……あ、そうだ」

「なんだ」

「暴走したスマホの注射器の液体、触れないように瓶に集めて調べてみたんだが、ちょっと前にサンダーエレクトリック社が開発した『医療用特殊帯電注射水』とほぼ同じ成分だったんだよ、確か、元々は筋肉が弱った人のリハビリとかで使われるようになったやつ!」

「サンエレか……あっ、思い出した!」

 キョウの中で一気に考えが繋がった。 

「どうした?」

「ニュースでやってたユニファイ社の社長、グロイド・ベールド、そういうことだったのか」

「それがどうしたんだ?」

「うちらの会社、数年前にサンエレと取引してたじゃん、契約更新の時、お前とふたりでサンエレに伺った時のサンエレ側の取引を担当してた部長がグロイドだったんだ」

 少し考えてから結人が思い出した。

「あっ!そういうことか!」

「ああ、恐らく、日本の分断後にグロイドの友人が暴動に巻き込まれて昏睡状態になり、その出来事からサンエレを辞め、その後あの計画を打ち出したのだろう、元々サンエレはモバイルバッテリーやってたし、それならあの注射の出処も、あの経済力と貸出モバイルバッテリーの急激な普及も説明がつく」

「あと、ニュースであんなこと言ってたが、少なくともあの薬品に人を殺める有害性は無いはずだ、多少手が加えられてゾンビパニックに陥ったとはいえ、確か薬の効果は投与終了後1時間したらほぼ無くなるはずだ」

「確かにな……あれっ」

 だとしたらなんで注射針を抜かれて倒れた感染者が後に居なくなってたのだろうか。

「記憶をなくして何事も無かったかのように帰ったのか、それとも……いや、そこは一旦置いといて、そうと分かれば早めに計画立てた方がいいな」

「よくわからないが、あんたはあんたで色々やってるのか」

「まあな」

「頑張れ」

「ああ」

 そう言って、電話を切った。
 すると……

「おい!ヤナさんの友達が……!」

 隆二が叫ぶ。

「どうした!?」

 キョウが応えた。 

「えっ……?」

 恐れるようにヤナが言った。
 見てみると、ベッドで横になってるヤナの友人のひとりが吐血していた。

「吐血か……ヤナ、原因分かったりしないか?」

「えっと……この感じだと、ゾンビになった時に筋肉が硬直して胃や腸などの内臓に強い負担がかかったもの……かも?」

「治るか?」

「意識が戻るまで横になって入れば、最悪の自体はないかと……あと、寝てる間も口にぬるま湯を含ませてあげてください」

「わかった」

 吐血は驚いたが、仮説通り死んではいないことがわかって安心した。

「とりあえず、明日の会見を待ちながらグロイドの居場所を突き止めてはやく捕まえたいな……やつの要望通りにいって動きをやめたとしても、ここまでやってきた悪行は世間が許そうと俺は絶対に許さない」

「私も、こんなことして、ただですんで欲しくないです!」

「俺もだ!」

「僕も、お前を殺されかけたからな、俺が助けきれなかったらと思うと……」

「とりあえず、明日を待つか」

「ああ」
10話 サバイバル
 朝が来た、今日、運命の会見がある。

「とりあえず、みんなには昨夜作ったこれを渡しておく」

 そう言って、キョウはとあるものを渡した。

「……銃?」

 怖気付いたようにヤナが言った。

「そんな物騒なものじゃない、簡単に言えば、おもちゃの銃を改造して作ったゾンビの解毒剤を発射する装置だ、今僕が持ってる装置に、この解毒剤入りの小型注射を入れれば撃つことができる、そして、それが当たったゾンビは体に回ってるゾンビにさせてる薬を中和して、注射針を抜いたのと同じ状態にさせることができる」

「すげぇなこれ……サバゲーみたいじゃん!……いや、ごめん、そんなつもりじゃなくて」
 
 拓人が咄嗟に謝る。

「まあいいよ、ずっとピリピリさせてしまったし、ゾンビ化した人は死んでないこともわかったし、その気分でいてもいいんじゃないかな。
 とりあえず、何かあったらこれを使って逃げてくれ、一応、ゾンビ以外の悪意を持った敵が来たら持ち手の部分にあるスイッチを切り替えてエネルギー弾を撃ってくれ、ただし、ゾンビに使うな、そして、本当に必要だと判断した時だけ、考えて使ってくれ」

「わかった」

 隆二が答える。

「あ、あの……」

 ヤナが話す。

「どうした?」

「普通、この症状ならそろそろ意識取り戻してもおかしくないんですけど、なかなかその気配がなくて……このまま意識がないと色々と危ないんですよね、他に原因があるかもしれなくて」

「……そうか、もしかしたら、あの注射水以外に加えられてたりなにか細工があるのかもしれないから、引き続き様子を見てくれないか」

「はい」

 その後、会見まで特に何も無く過ごしていたら、いつの間にか時間が来てた。

「……見るか」

 テレビのチャンネルを会見に変える。

『只今より、会見を始めさせていただきます、アナログ派地域総理、西城裕次郎と臨時デジタル派閥地域統括総務、桑田充です、よろしくお願いします』

 緊張が走る。

「正直、急に政治体制を戻すかと言われると、あの例の声明がただの脅しや偽者の可能性も高いし、簡単に応えて来るとは思えない……というか、犯人を確実に捕まえるなら、政府としてあの話に応えず敵対してくれた方が好都合でもある、どちらにしても覚悟は必要だな」

 すると、充デジタル総理がテレビ放送で話だした。

『まず、昨日の声明の件を先にお話すると、政府としてあの要望には答えないことと致しました』

「……まあ、そんな気はしてた」

「これって、本当にこれからなにか起こるのか……?」

 隆二が軽く震えた声で聞く。

「分からないが、少なくとも俺はあの声明が本物の犯人だと思ってるから、もうじきになにか起こってもおかしくないな」

 そう話しているうちにも、会見は続く。

『また、今後の政府の対応についてお話致します、まず、本件に関して、デジタル派地域全域緊急事態宣言を発令いたします、また、無期限の外出規制を行い、不要不急な理由の外出者に対しては、罰金を課せることと致しました』

「大丈夫か?それ」

「政府はどうせ事態の悪化の予防しかしないだろうし、だからこの中でというか、同じような考えの市民が犯人を捕まえるくらいしか道は無いし、勝手に外出てもそこまで厳しく取り締まられないだろう、今はスマホ持ってないからとか、仕事用のPCを取りにとか適当なこと言っとけば大丈夫さ」

「それって、最悪こっちも捕まったりはしないのか?」

 拓人が尋ねる。

「それは覚悟の上だ、嫌ならここで抜けてもらってもいい」

「いや……なんというか、わかった、俺だって最後までやってやるよ」

 すると、急に会見の放送が途切れて仮面を被った男が映った画面が表示された。

「なんだ……!?」

『政府は、誤った選択をしたようだ、ならば私もやることはやらねばならぬ、さあ、ここからは本当のゾンビパニックの、サバイバルの始まりだ!』

 そう言って、仮面の男が手元にあったボタンを思いっきり押した。

「なんだ……!?」

 すると、キョウの家を含め周りの家のセキュリティシステムが一斉に無効化された。

「まさか、スマホから盗みとったデータで……!?」

『既にあらゆる個人情報や、セキュリティコードなどは私の手の中にあるのだ、さあ、このゾンビパニックにおののけ!叫べ!苦しめ!』

 すると、テレビが砂嵐を表示し、受信をすることが無くなった。

「そうか……最初からテレビをジャックすることも、盗んだ個人情報やセキュリティの情報を悪用することも、あのモバイルバッテリーの暴走事件から可能だったのか……僕のスマホもデータ自体は抜かれたし、しかも、時間が経って感染者も増えて、更に情報量は多くなってるだろうし……」

 少し間を置いて、続けてキョウが言った。

「みんな、覚悟を決めろ、この先、ゾンビも強くなってるかもしれない、死ぬ可能性もあるかもしれない、少なくとも、逃げ場は無くなった、友達も、助けられないかもしれない、でも戦え、自分と世界を救うために!!!」

 ここからは文字通り、ゲームのような未知数なゾンビの世界になってしまった。
 果たして、この世界を彼らは救うことができるのだろうか。
11話 ロボットは人の為にあり
「よく考えたら、こうなってしまえば外出規制もくそもないな、とりあえず、ここで感染する危険のある人は僕だけだ、みんなはそれぞれ死なないようにだけしてくれ、こっちはmicroVRっていう機械を装着してモバイルバッテリーにあったデータ発信機の送信先をまた調べてみるから。
 あと、これはそれぞれに聞いた電話番号をまとめたメモだ、1人ずつあるから緊急連絡に使ってくれ」

「わかった、ちなみに、ヤナの友達はどうすれば」

「臨時でセキュリティプログラムを起動した、恐らく寝床から数メートルは仮想バリケードで僕以外のデジタル機器を身につけてる人やゾンビは侵入ができないはずだ、あと、アナログ側の人はセキュリティに引っかからないから、お前らも自由に出入りできる」

「まじか!すげーな、アナログ派地域の人間ってこういう時強いのか、初めて知ったぜ」

「今までの事態を踏まえて逆に言えば、何でもかんでもデジタルに頼ると取り返しがつかないとも言えるな」

 少なくとも、この出来事によってデジタル化の安全性については以前より一層議論されることとなるだろう。

「ダメだ、送信先のプログラムがまるで残ってないし、履歴も全消しされてる……さすがはサンエレ社の元部長だな、やってることがえげつない」

「やばい、装置のおかげで危険はないが本物のゾンビと違って人がだんだん山のように積み重なってて圧死する人が出るのも時間の問題かもしれん」

 険しい表情で隆二が言った。 

「隆二さん、拓人さん!余裕があるならできるだけ、倒れた人は足だけ重ねるようにしてください!特に、肺と顔が重なる形になると呼吸が極めて難しくなって危ないので、お願いします!」

 できるだけ大きな声でヤナが呼びかけた。

「「了解!」」

「あと、この人たちの反応的にキョウさんに教えてもらったゾンビになってしまう薬品とは明らかに違う反応があるので、もしかしたら……というか確実に別の……なんというか、デジタル派地域では珍しい自然由来の毒薬の反応があるので、その解毒薬がもしかしたら別で必要かと」

「わかった、ちなみにその毒薬の候補は?」

「この感じだとバレリアンっていうハーブの中では強い鎮静作用を持つ植物を極限まで濃縮したものを摂取した時の反応と酷似してます……元々教科書のトピックにあった理論値の反応なんですが、この症状と発酵されたような臭いはゾンビだからというよりそのせいかもしれないです!」

「でかした、ちなみに解毒は?」

「水分などを多く摂取させて中和させたらいつかは意識が戻ると思いますが……このレベルだとここからどうなるか分からないのと、今のところ私の知る限り解毒薬が無いのでなんとも……」

「そうか……ただ、グロイドも恐らく元から大量虐殺する気じゃなかった可能性が高いから、もしかしたらだいたいの人が助かる計算をしてゾンビ薬を作ったか、解毒薬があるかもしれないが、でも、政府は要望に応えなかったからこうなったら現時点だとゾンビを全部捨て駒と見てる可能性すらあるか……
 あとは、ボタンだな、ただの演出かもしれないが、もしそのボタンがトリガーとなり今の事態が起こってるならば少なくともその回路をハックしたり物理的に遮断する余地はある、まあ、どうしようにもその大元を、グロイドを探さなきゃ意味ないんだが」

 すると、キョウに電話がかかってきた。

『無事か?電話だけは安全だと思ってひとつ言いたいことを伝えようと思ったんだが』

「なんとか無事だ、で、用件は?」

『今わかったんだが、恐らくグロイドはデジタル派地域新第2東京部C地区のヴィナブルビルに居る、ゾンビは近くにいるがなんとか物陰に隠れてギリギリで政府の株式会社の開業申請のデータのアクセス権限をハックして所在地をコピーすることができた、この事態になりゃ政府も何も怖くないからな』

「それはマジで助かる、あと、わかってると思うがスマホじゃなくてもテレパジもPCも危なそうなら使うな、そしてできるだけデジタル機器のアクセサリは全部外せ、あとは、ゾンビの注射針をもし情報なくて怖くて抜けてなかったらすぐ抜け、大丈夫だから」

『わかった、言われた通りにする』

 すると、後ろから隆二の声がした。

「危ない!!!」

 キョウの後ろに、恐らく薬により身体強化された一体のゾンビが襲いかかってきた。

「ボウリョクコウイ、ケンチシマシタ」

 その声と共に、またそのゾンビの後ろに一機のAIバイターのロボットがホウキを振りかざしてゾンビに一撃を与えた。

「AIバイター……!助かった……」

 ここでキョウは感じた、どれだけデジタルが人に脅威を見せようと、ちゃんとプログラムされた人が作りしAIロボットは、人の為にあるのだと。

「さて、次はビルに潜入か……」
12話 捨て駒
「とりあえず、敵のアジトがわかったから隆二と俺で乗り込む」

「俺らはどうすりゃいいんだ?」

「拓人とヤナは人に戻って倒れてる人を守りながら引き続き装置を使ってゾンビを無力化させてくれ、あと、ゾンビから取れたり落ちたりしたスマホやデジタル機器のアクセサリーはこのゴミ箱にまとめて入れて置いてくれ」

「わかった!」

「が、頑張ります!」

 そのふたりの言葉を聞き、キョウと隆二が走り出した。

「マップすら使うのが怖いからな……少しうろ覚えだが何も使わずに向かうしかない」

「大丈夫か?お前昔から方向音痴だっただろ」

「うるさい、置いてくぞ」

「ごめんて」

「ふん……」

 すると、電話が鳴りだした。

「結人かな」

 電話に出る。

『急にすみません……あの、ヤナです!』

「どうした?」

『なんか、急に明らかに大きな化け物のゾンビが3体くらい襲ってきて……』

「……そうか」

 考えられる可能性は、何らかの形で動物に感染したか、素体がロボットのゾンビか、人を捨て駒にしたかくらいしか思い浮かぶものがない。

「詳しく特徴を教えてくれ」

『えっと……他のゾンビより明らかに大きくて、野生の動物みたいな感じで……きゃっ……!ごめんなさい、一旦切ります!』

「おい、大丈夫か……!?」

 ピー音が鳴り、通話が切れた。

「くっ……」

 一方、その新しい形態のゾンビに出くわしてしまったヤナ達は……

「何発も撃ってるのにまるで効かない……」

「こいつらって、元は人間なのか?これじゃまるで獣だぞ」

「わからない……どうすればいいかも……」

 ヤナが絶望のような表情でその場に立ち尽くした。

「しっかりしろ!この銃打てば少なくとも動きを鈍くできるから、自分の身を守りながら戦え!」

「……もし、身体構造が人間と同じなら」

「どうしたんだ?」

「頸動脈洞を圧迫して、殺さないように気絶させてみます!」

「それって、どうすればいいんだ?」

「この大きさなら……耳の下辺りに思いっきり刺激を与えればいけるかも」

「でもどうやって……」

 ふたりで固まり普通のゾンビに中和薬を打ちながらしばらく考え込んだ。

「エネルギー弾を上手く使えないかな……」

「でも、下手したら気絶じゃすまないだろ……だからといって、こんな図体のやつの隙をついて一発入れるのも現実的じゃないが……」

 すると、さっきキョウを助けたAIロボットが反応した。

「動きのパターンが解析できました、要望通りに巨大ゾンビの耳の下周辺を狙い、中程度の刺激を与えます」

 その説明に、アナログ派地域だったふたりは目が点になった。

「お前みたいなAIって日本が分断されてる間に随分賢くなったんだな」

「ですね……前は決まったことしかできなかったのに」

「臨時プログラム発動、推定所要時間、30秒」

 そう言って、近くの三体の巨大ゾンビに的確に攻撃を与えた。
 その瞬間、そのゾンビ達が白目を向き、急激に力が抜け倒れ出した。
 顔色は変わらないものの、死んではい無さそうだ。
 だが、元がなんなのか、人間だったら、このまま無事に人間に戻れるかも分からないが……

「プロセス完了、緊急事態につき、防衛に関する行動を引き続き無料で行います」

 そう言って、何事も無かったかのように普通に周りをうろつき始めた。

「なんか、新鮮だなぁ……」

 映画やアニメでしか見ないようなロボットの戦闘にヤナが驚くように言った。
 その頃、キョウ達は。

「……なんか、空気が変わったな」

 キョウが言った。
 妙に身体が重いというか、空気もどよめいて、目標のビルに近づく度に何かが変わっていった。

「まさか、電波で!?」

「どうした?」

「おそらくだが、特殊な電波を強制受信させてゾンビを操ってる、何となくゾンビも手強くなってる上に、さっきの電話の化け物ゾンビのことも説明がつく」

「まずいのか?」

「まあ、そんなものかとは思うが、普通にゾンビの形態や状態をほぼ自由に操れることは確定したし、通常の電話以外のデジタル機器は好きに操れる力を持っていてもおかしくない」

「怖いな……てか、デジタルってここまで来るともはやなんでもありじゃないか」

「まあこの世界ラノ……あかんあかん」

「ん?」

「いや、なんでもない、機械の力って良くも悪くもすごいよなって」

「確かに、お前もセキュリティ突破できなくなる程だもんな」

 笑いながら言った。

「……置いてくぞ」

「ごめんって」
13話 惨く散ゆ
 ゾンビが敵のアジトに近づくにつれ強くなっていく気がしたものの、ようやく目標のビルの前までたどり着いた。

「やっぱりセキュリティかけられてるな、しかも解除にめちゃくちゃ時間がかかりそうだ……」

「どれくらいだ?」

「5時間くらい」

「まじかよ……」

「一般人ならな」

 ということは、1時間くらいにでもなるのか!?

「システムエンジニアである俺の技術と知識量を舐めないでもらいたい、一生お前を食わせてやれるほどには出世してるんだからな、事前にいくつかこのビルのセキュリティコードのタイプを予測して、既にここにコピペしてある」

 そう言い、microVR機器から仮想空間上にあるエンターキーを押した。

『システム解除ができませんでした』

「やべっ、1文字ミスってた」

「ぶっ……」

「笑うな!これで行けるはずだ!」

『システム解除成功』

 すると、ビルの扉がゆっくり開き出した。

「ここが、ユニファイ社の、ヴィナブルビル……」

 そこは、ただ建てられたばかりのような、気味が悪いほど綺麗で無機質な空間が広がっていた。
 従業員がいる気配もない、恐らく、グロイドひとりか、居ても数人のようだ。
 タイルの床を歩くと、コツコツと少し大きめに靴の音が響く。
 すると、建物内にアナウンスが響いた。

『ごきげんよう、勇敢な生存者さん』

「おい、グロイド、お前は俺の手で絶対に捕まえてやる」

『そうか、なら、このゾンビを倒してみろ……あ、色々と工作していたらしいが解毒薬なんて効かないから、そこのところは気をつけるんだな』

「ふざけやがって……」

『では、登場させようじゃないか、新型ゾンビ、B66だ』

 すると、ゲートから一体の大きなゾンビが出てきた。

「なんだ……このデカさ……」

 一方その頃、ヤナ達は。

「やっと落ち着いてきた……」

「俺、不安だからあのふたりの所向かっていいか?」

「やめといた方が……私もここでひとりだと心細いし……」

「でも、俺友達見つけにも行きたいし、あのふたりを信用してない訳じゃないけど、何となく嫌な予感がするんだ」

「それならヤナとその友達は僕が守るよ」

「……誰?」

 思わず拓人が尋ねる。

「僕は高倉結人、キョウから聞いたことあるかもしれないが、あいつの仕事仲間だ、怪我はしてるけどある程度は動けるし、臨時のセキュリティを組むこともできる」

「じゃあ、お願いしていいか」

「ああ」

 そう言って、拓人が走り出した。

「くっ、殺したくはないが、倒すしかないか……というか、もうこのゾンビは助からない可能性も、殺される可能性すらある……か」

「僕はどうすればいい」

「仕方ない、農具を使ってもいいから……倒すしかない」

 キョウと隆二は、ゾンビを前に戦慄していた。
 そして、キョウの目からは少し涙が流れていた。

「殺さないように倒してみるから、泣くな」

「……すまんな」

『あらあら優しいね、おふたりさん、じゃあこちらも心優しい君たちに謝らなければいけない』

 そして、声色を変えて続けた。

『このゾンビは、助からないよ』

「えっ……」

 この一瞬で、キョウの顔から、目から完全に光が無くなった。
 グロイドが言うなら、それで間違いないだろう、だから、このゾンビを見捨てる選択肢しか取れないだろう、そんな考えたくもなかったことが、一気に頭の中で展開された。
 すると、そのゾンビがふたりの元へ突撃してきた。

「危ない!!!」

 絶望で立ち尽くしていたキョウを隆二が突き飛ばす。
 それでも尚、今まで罪のない人の死を確定させずに済んでいた分、頭がその現実を拒んでいた。

『解説を忘れてたね、Bはね……』

 その時、ゾンビの身体が膨れ上がった。

『BOMBのBさ』

 ゾンビがお腹辺りから思いっきり爆ぜ、衝撃音と共に爆発し、一瞬にして完全に爆ぜた。
 その破片が、文字通り、ふたりにとって地獄のシャワーとして降り注ぐ。
 その感覚は、あまりにも生々しく、言葉に表せない負の感情を溢れ出させた。
 死だけはない、そう思ってた。

 ここにゾンビ、惨く散ゆ。
14話 余興
『面白くないなぁ、早く起きなよ、そんな顔してないで、まだまだこんなの余興に過ぎないのに』

「余興だと……?」

『ああ、余興さ』

「人の命を玩具のように扱いやがって、余興もクソもないだろ……!」

『ほらほら、うるさいから、また新たなゾンビが目覚めちゃったよ、さあ、どうする?』

 数秒の沈黙の後、キョウが言う。

「お前を捕まえる、絶対に」

『どうやって?わかってると思うが、私はこの高層ビルの最上階に……』

「わかってるんだよ、そこにいるんだろ」

 すると、地面に向かって装置を使い、最大火力でエネルギー弾を床に放った。

「隆二、衝撃に備えろ」

 打った瞬間に小声で伝えた。 
 その瞬間、タイルの床が激しく吹き飛び、地下室が現れた。

「まさか地下室に気づくとはね、やあやあ、初めまして、僕の名前は黒崎蒼弥、まずは僕が相手だ、よろしくね」

 つり目、糸目ににこにこした顔、あからさまに明るいキャラでキョウに話しかける。

「黒崎、蒼弥……!?」

 その名前と性格は、前に聞いた拓人が助けたかった友達そのものだった。

「どうしたのかい?驚いた顔して、僕とは面識ないはずだけど……」

「いや……なんでもない、あと、地下室くらい簡単に気づく、まず、床が誰もいないビルにしてもあまりにも歩く時に響く音が大きすぎた、そして、この会社のやつ自身がゾンビ化を防ぎながら全てをコントロールするなら、最上階より地下室の可能性が高いし、例のテレビをジャックした放送でも、ビル最上階らしい背景ではなかったからな」

「よく見ていらっしゃる、この頭のキレ、少なくとも雑魚ではないね」

 すると、上からとある声が響いた。

「ここか!?」

 その声は、ヤナと一緒にいた時ゾンビが一区切りついてからふたりを追いかけに行った拓人だった。

「……は?なんでたくっちがここにいるんだ?」

 驚いた顔で蒼弥が言った。

「俺はこのゾンビパニックで蒼弥が心配で思わず飛び出してきちったんだ、あんたこそ、なんでこんなところで……まあ、無事でよかったが」

「そんなことより、僕は今からこいつらを始末しなきゃ行けないんだ、すまないがまたあとにしてくれるかい?」

「……は?」

 思ってもなかった事を蒼弥から言い放たれたことで、拓人は一瞬固まってしまった。

「お前……まさかユニファイ社側の人間だったのか」

「この状況みて分からないのかい?拓人は相変わらず馬鹿だなぁ」

 拓人はその場で下を向いて、歯を食いしばり拳を握った。

「まさか、あんたはあっち側だったってこと?」

 すると、拓人が無言で地下室に飛び込み、起き上がってから静かに蒼弥の方へ歩いた。

「もしかして、僕がこっち側だったことを知ったから仲間になってくれたりするのかな!?やったー、うれし……」

 すると、拓人が拳で思いっきり蒼弥の顔面を殴った。

「馬鹿みたいな……ゴミみたいなこと言ってんじゃねえよ、俺はお前を助けたくて周りの目すら気にせずここへ来たって言うのに、家族がゾンビ狩りにのめり込んで、それで、家族をそうさせたユニファイ社を恨んで勇敢に立ち向かおうとしたやつだっているのに、そして、デジタルアナログ同士が助け合って、人の犠牲を出さないように、この騒ぎを止めに来てるって言うのに、俺は確かにバカかもしれねぇ、でもな、ユニファイなんぞに協力するやつはゴミだ、お前は何ゴミみてぇなことやってるんだよ!!!」

 涙を流し、掠れた声で、叫ぶように必死に蒼弥に向き合って話した。

「そう、じゃあ、お前ら全員まとめて殺すね」

 これまでとはまるで目付きが変わった。
 そして、その圧に思わず拓人が数歩引いた。

「これはお前らみたいな玩具のじゃない、本物の銃だ、これくらい隠し持ってることは予測できてなかったのかな?」

「さっき打ったエネルギー弾だって、実弾より少し弱いだけで殺傷能力はあるさ、俺たち三機に適うとでも?」

 キョウが言った。

「ならば、こちらにはゾンビ付きだ、しかも、強化バージョンのね」

 すると、次は地下室の奥から格納されていたゾンビが大量に放出された。
15話 物理
「おいおいまじかよ……まだこんなにゾンビが居たとは……」

 拓人が驚く。

「隆二、耳を貸してくれ」

 そう言って、キョウがなにかを隆二に伝えた。

「わかった」

 隆二がそれに小さく同意する。
 その顔は、何か少し緊張していた。

「うおおおおぉぉぉ!!!」

 突然、隆二が叫びながら携帯してた小型のくわを持ち蒼弥に向かって突撃した。

「おやおや、どうしたのかな?捨て駒みたいなことをするのは嫌いじゃなかったのかい?」

 すると、それを避けようとした蒼弥に全くかまおうとせず、その後ろの壁にあった『高電圧、危険!』のステッカーが貼られた壁に埋め込まれているタイプの金庫を思いっきり数回くわで殴った。

「……!?」

 蒼弥が驚くと同時に冷や汗を流した。

「やっぱりな、もし本当にこれが高圧電流が流れてる電線とかだったらまずかったが、これはそんなんじゃない、ゾンビパニックを起こす為の基盤だろ」

 すると、周りのゾンビが一気に倒れた。

「あと、ここのゾンビは人じゃない、肉付けして動きを学習させたただのロボットだ、恐らくこの基盤をぶっ壊すと既に感染してるゾンビ自体はそのままだが新規感染は起こらないし、システムが停止して薬が切れればもうじきゾンビパニックは終わる」

「くっ……ならばひとりだけでも!!!」

 そう言って、咄嗟に銃をキョウに向け発砲しようとした。

「キョウ!!!」

 拓人がキョウに飛び込み、キョウの急所に当たることは無かったものの、助けようとした拓人の左足に直撃してしまった。

「拓人……!大丈夫か!?」

「気にすんな、死ぬこと以外かすり傷だ」

 微笑みながら拓人が答えた。

「……」

 蒼弥が無言で膝から崩れ落ちる。
 その顔からは涙がポツポツと滴り落ちていた。
 他の人からはまるでなんの感情か分からなかった、後悔なのか、絶望なのか。

「まさか、僕が組んだ最高の基盤が、カモフラージュしたにもかかわらずいとも容易く物理的に破壊されるとは……」

「何でもかんでもデジタルにしてるとそうなる、物理は万物の理だからな、プログラムなんぞに越えられるわけがないんだよ」

 キョウがそう答えた後、しばらく沈黙が続いた。

「完敗だ……」

 蒼弥は膝立ちで下を向き、そのまま動く素振りを見せなかった。

「ブラボー、いい戦いだったよ」

 地下室に声が響く。
 すると、奥の部屋から髭を生やしたスーツ姿の男が出てきた。

「久しぶりだな、元サンダーエレクトリック社部長のグロイド・ベールドさん」

「よく知っているな……もしかして、どこかの取引先の人だったか?」

「まあそんなところだよ、でも、そんなことはどうでもいい……絶対にお前を捕まえる」

「そうか、なら」

 グロイドが両手を上げた。
 
「降参だ、捕まえたいなら捕まえてくれ」

「……え?」

 突然の出来事にキョウが呆気にとられた。

「完全ではないが、やりたいことは出来た、君らもデジタル派とアナログ派でバラバラなんだろ?」

「まあ、そうだが」

「他にも、デジタルとアナログはまた繋がりを強めてきている、一方過激派も以前より浮き彫りになってきたが、確実に世の中は私の、そして君たちの希望通りに動いてきているじゃないか」

「でも、人を悪質なモバイルバッテリーでいいように使って、ただでは許されないぞ」

「それでいい、自分もいくら友人の為とはいえ、やりすぎたと思ってる、この気持ちは決して罠じゃない、そして、この金庫、この中にゾンビの完全な解毒剤が大量に詰め込まれてる、鍵は……」

「どこにあるんだ」

「君とくわを持ってる後ろの君の友達だ」

「……どういうことだ?」

 怪しむように聞く。

「これは、統合の扉と言って、センサーに手をかざした時にデジタル派の人間に慢性的に微弱に纏ってる電磁波と、アナログ派の純粋な人間の信号を同時に検知したら解錠される金庫になってる、君らふたりは、きっとそれにふさわしいのだろう」

「……本当だな?」

 警戒するようにキョウが聞いた。

「中身は見えるだろ、ゾンビなどが格納されてはいないし、見たいならこの扉のシステムプログラムを覗いて見てもいい」

「そこまで言うなら信用する、わかった」

「私は自首しに行く」

「じゃあ、念の為逃げないように俺が連れて行っていいか」

 拓人が提案する。

「頼んだ」

 キョウが応える。
 そして拓人とグロイドが去ろうとしたその瞬間……

「うっ……」

 グロイドが去っていく後ろ姿を銃で撃ち抜かれた。
 頭から血を流し、そのまま倒れた。

「死ね!少し予想外のことが多かったが、最初からお前は裏切るつもりだったんだよ、グロイド!!!」
16話 目的
 グロイドを撃った蒼弥が、高笑いをした後言う。

「元々僕の目的はグロイドと同じじゃない、グロイドの計画に乗っかって裏切った後に日本を征服することが僕の目的だったんだ」

「なんだと……!?」

 再びキョウが戦慄する。

「手始めにお前らを殺す、そしてまた、いや、次はもっと酷い基盤を組んで、ゾンビパニック2を始めようじゃないか」

 蒼弥が再び銃を構える。

「もう……やめてくれよ、蒼弥!」

 拓人が蒼弥に向かって歩き出す。

「うるさい!近づいたら本当に頭ぶち抜くぞ!?」

「やれるものならやってみろ、絶対に俺はお前に屈しないからな」

 蒼弥の手が震える。

「やめろ、近づくな!!!」

 拓人が目の前まで来て、銃口の部分を掴み下へ下ろそうとする。

「もう、馬鹿な真似はしないでくれ」

「くそっ……手が……動かない……」

 友人を前に、動揺が隠しきれない。

「諦めろ」

「無理だ……」

 その瞬間、蒼弥が不気味に微笑む。

「全部ぶっ壊してやる」
  
 そして、ポケットに忍ばせてた薬品とみられるものを自分自身の腹辺りに注射した。

「拓人、逃げろ!!!」

 何かを察したキョウが叫ぶ。
 その瞬間、蒼弥の肌の色が緑と紫が混ざったようなゾンビ色になり、身体の周りにビリビリと電気が纏った。

「ここで使うことになるとは思ってなかったが、まあいいだろう……さあ、新たな戦いを始めようじゃないか」

「……ゾンビになったのか?」

 拓人が震える声で言った。

「ただのゾンビじゃないさ、身体能力、防御力共に10倍、おまけに自我もそのまんま、そうだなぁ、全てのゾンビの頂点に君臨するボスゾンビとでも言おうか」

 場に緊張が走った。

「もちろん、例の装置の中和剤も、エネルギー弾も効かない」

「くそっ……」

 キョウは何か対抗出来る策がないかと考えた。
 だが、装置のエネルギー弾すら通用しないとなったら他にどうすればいいのか、全く浮かばない。

「拓人、一思いに痛みもなく殺してやるよ」

 蒼弥が拓人に向かって殴り掛かろうとした。

「じゃあな」

 すると、見るだけでもわかるめちゃくちゃな威力のパンチが、まるでアニメのようなエフェクトと共に拓人へ向って飛んでいった。

「やはり、この薬は最高だな……」

「まだだ」

 すると、パンチを受けたかのように見えた拓人の声が聞こえた。

「何故だ!?」

「小さい頃からお前との喧嘩で負けたことはなかった、何回も言ってるだろ、隙が多いしわかりやすいんだよ、お前のパンチの癖……とはいえ、衝撃波があったから少し痛えけどな」

 笑いながら言った。
 すると、蒼弥の中で子供の頃の拓人の顔が重なる。

「うるさい、死ね!!!」

 次は連続でパンチを浴びせた。

「だからさ、多少強くなろうが、良けれるんだっつーの!」

 そう言って、隙をついて拓人が蒼弥の股を蹴り上げた。

「うぐっ……!?」

「防御力あの頃と変わんねーじゃん」

 笑いながら言う。

「そこは反則だろ……」

 悶絶しながら蒼弥が言った。

「例え敵だとしてもなんか見てると惨いな」

 隆二が言った。

「確かにな……」

 キョウが応えた。

「いや、昔喧嘩した時みたいに半分ダメ元だったんだが……ガチで効くとは思わんかったんだけど」

「ふざけるなよ……拓人……」

「殺そうとしてたやつが何言ってるんだ」

 拓人が冷静につっこむ。
 すると、蒼弥が悶絶しながらも動き出し解毒薬の金庫の方へ向かった。

「こうなったら、先に金庫の扉のシステムをぶっ壊してやる!」

「やめろ……!」

「嫌だね」

「こうなったら……隆二、行くぞ!」

「行くってどういう……うわっ」

 その意味を察する間もなく、腕を引っ張られ一緒に金庫の元へ走り出した。

「とりあえず金庫だけは無理やりセキュリティ解除させて開けるぞ」

 小声で隆二に言った。

「そういう事か、わかった」

 その間に、蒼弥が急いでシステムの基盤を金庫の扉から探す。

「カッコつけていいか?」

 キョウが聞く。

「いいぞ」

 その意味を理解したかのように、走りながら息を合わせた。
最終話 デジログ・ディバイデッド
 蒼弥が慌てて基盤を探す。

「……ここか!」

 見つけたと同時に、殴って破壊しようとした。

「させるか!」

 そして、ふたりが蒼弥へ殴り掛かり叫んだ。

「「タルアナ・インテグレーションパンチ!!!」」

 ふたりが並び、同時にパンチを繰り出した。
 そのパンチが、まず基盤を壊そうとする蒼弥に当たり、ダメージこそ無いもののその勢いに押され、パンチをモロに食らった。
 その蒼弥越しにもシステムが、キョウと隆二に反応し、基盤が破壊されるギリギリで完全な解毒薬の扉がスライドして開いた。

「くそっ、くそっ!!!もういい、解毒薬ごと自爆だ!!!全員意識を戻さぬまま消えてしまえ!」

 やけくそになりながら、また自分に薬を注射しようとした。

「そう来ると思ったぜ」

「何!?」

「もしかして、探してるのはこれかな?」

 キョウの手には、『B66』と書いてある注射器があった。

「い、いつの間に!?」

「確かに、拓人の言う通りお前は隙が多くて助かったよ、お前がパンチを食らった直後にポケットが無防備だったんだ、少しくらい警戒しとけよ」

「くそっ……くそっ……!この野郎!!!」

 蒼弥がキョウに向かって殴りかかった。

「例え攻撃が当たりにくかろうと、攻撃を食らってもほぼやられることは無い、こうなったらお前が疲れるまで殴り続けてやる!」

 そう言って攻撃を続けるが、かすりはするものの直撃させれない。
 その間に、キョウに誘導されるように蒼弥とキョウは金庫の外まで動いていた。
 その時……

「痛っ……!」

「よし、当たった!あと1発直撃させてやる、死ね!」

 そうして、倒れ込んだキョウに最後の一撃を加えようとした。

「かかったな」

 キョウが笑う。

「……!?」

 すると、キョウがさっき奪った『B66』を素早く投げ、蒼弥の首元に上手く刺した。

「自ら武器になるものをくれるとは」

「おのれキョウ……許さんぞ!!!」

 それだけ言い残し、蒼弥は瞬く間に爆発した。

「キョウ、大丈夫か!?」

 爆発に巻き込まれたように見え、隆二と拓人が心配そうに駆け寄った。

「……なんとか」

 生きてはいたが、薬を投げ、急いで逃げようとしたが思ったより爆発が速く左半身に大きめの火傷を負ってしまった。

「グロイドは……?」

「……ダメそうだ」

 拓人が答える。

「すまんな、拓人、友達守れなくて」

「……まあ、仕方ないさ」

「とりあえず警察呼ぶか、俺たちがどんな対応されるかは分からないが……」

 不安そうにキョウが言った。

「僕はどうなろうと受け入れる」

「俺もだ」

「わかった、じゃあ自分のスマホで通報する」

 通報した後、15分後に警察が到着した。
 事情を話すと、政府や警察側も切迫してたからなのか、思いのほか怒られることもなくむしろ後日表彰がされると言う連絡すらあった。

「ただいま!」

「キョウ!大丈夫だったか!?」

 結人が出迎えた。

「ああ、なんとかな、火傷のあとは痛いけど」

 苦笑いしながら言った。

「みなさん、おかえりなさい!」

 結人の後ろでヤナも出迎えた。

「ただいま、はい、これ友達4人分の解毒剤」

 キョウがヤナに手渡す。

「ありがとうございます……!」

 泣きそうな顔でヤナが応えた。

「残りの解毒剤は政府が管理して、感染者を道端に倒れているような人から順番に治療していくらしい、解毒薬の内容も自然由来のもので危険な化学物質や怪しいものは発見されなかったらしいからほぼ安全と言っていいだろう」

「良かった……本当にありがとうございます」

「気にするな、それより、アナログ派地域のふたりはもう元いた場所に帰るか、どうする?」

「私は早めに帰ります、でも、いつかもしアナログ派とデジタル派が交流できる日が来れば、絶対にまたお礼しに行きます!」

「俺も、そんな感じかな」

「お礼なんて良いよ、そういえば隆二はどうする?このままずっといてもいいんだぞ」

「家族と農場あるから普通に無理」

「そうだったそうだった」

 笑いながら言った。

「では、私はそろそろ」

 ヤナが深くお辞儀をして、その場所を後にした。

「じゃあ、俺も帰るわ」

 ヤナに続き、拓人も帰って行った。

「僕は少しだけここで暮らそうかな、なんか、懐かしく感じてきちゃって、家まだ壊れてる所多いだろうから直すのも手伝うし」

 隆二が言った。

「そうか、じゃあこき使わせて貰うよ」

「お代は貰うぞ?」

「それは勘弁……」

「冗談だ」

「とりあえず、晩飯食って寝るかー」

「ああ」

 数日後。

「貸出モバイルバッテリーによるゾンビパニックからデジタル派地域を勇気ある行動で救った事をここに表彰します、二人とも、誠に感謝する」

「「ありがとうございます」」

 その後、政治的にはまだデジタル派とアナログ派で別れているが、ふたりは世界を救ったデジタルアナログ統合の象徴として称えられ、両派の交流も以前よりか冷たい目で見られることもだいぶ減った。

「はぁ、疲れたなぁ」

「キョウ、お疲れ様」

「おお、結人、おつかれー」

「今日帰ったら電話でもしないか?」

「珍しいな、電話使うなんて」

「電話も便利だろ?」

「そうだった、人の温かみも」

「「便利さのうちだな」」
2章1話 忘れ物
 ゾンビパニックの騒動から二ヶ月後、デジタル派の街は徐々に復旧しつつあった。

「思ったより居心地良くて二ヶ月も居座っちゃって悪いな」

「いや、手伝ってくれて助かったよ」

「にしても、デジタル派の地域がやられた後の復旧してきてる街並みって特殊だな」

「俺もこんなこと初めてだから変な景色とは思ってる」

 窓の外には土木作業員や建築作業員は一定数いるものの従来の日本やアナログ派地域よりか少ない人数で、目立つのは建築されている家に埋め込まれている基盤から接続してセキュリティシステムや家ごとデジタル機器化させるプログラムを組む為にパソコンを打ち込んでいる作業員だ。
 そうなることが予想できなかったと言うより、街の破損状況からそうなる想像はついていたがいざその光景を目にすると違和感でしかなかった。

「じゃあ、農園を家族に任せっぱなしにするのもまずいからそろそろ帰るわ」

「わかった、元気でな」

「お前もな、まあ、あのとっっっても頑丈なセキュリティがあれば少なくとも防犯は大丈夫だろうけど」

 笑いながら隆二が言った。

「しつこいぞ、いつまで擦るんだ」

「すみません」

 そう言って、隆二はアナログ派地域の方へと帰って行った。
 両派の交流に向けられる目も緩くなった今、キョウの家からアナログ派地域の境界線への移動は大して問題にはならないだろう。
 キョウは、ゲーミングチェアに埋まるように深く座りながら、疲れからため息をついた。

「ふぅ……って、あれ」

 その瞬間とあるものを見つけた。

「隆二の野郎、携帯電話忘れてきやがった、仕方ない、届けに行くか……」

 そう言い、重い身体を起こし隆二の住んでいる地域まで向かった。

 その頃隆二は……

「大変だったな……ってあれ、携帯どこだ……?キョウん家に忘れたか?」

 取りに帰るにしてもとりあえず帰宅はしたかったので、そのまま家に向かおうとする。

「こっち側に戻ってみるとやっぱりだいぶ景色が違うな、どっちも善し悪しあるはずなのに、なんで分断なんかしてしまったんだろう、前の世界の方が僕は好きだなぁ」

 そう独り言を言いながら歩いていると、少し違和感があった。
 所々、見える範囲の景色の森や農地が全体的に荒れているような気がした。

「あれだけ離れていたし、害獣か何かが増えてきたりでもしたのか?」

 すると、後ろから声がした。

「おーい、隆二、携帯忘れてるぞ」

「悪いな……って、わざわざ来なくても良かったのに」

「まだ仕事が休業していて暇だったからあっち側の地域の景色も見がてら携帯をさっさと渡しに行こうと思ってな」

「そうか、ありがとう」

「あと、ついでにお前の家族に挨拶しに行ってもいいか?」

「ああ、よくお前の話してるからきっと喜ぶぞ」

「そうか」

 その後、雑談しながら歩き続けていたらあっという間に隆二の家がある村に到着した。

「あれ、お前ん家の村ってこんなに静かな雰囲気だったっけ」

 実は、キョウは分断後に二、三回程度人目につかないルートで隆二の住む村の方に来ていた。
 その時は村の人たちが快く受け入れてくれて、全体的に近所付き合いが活発で元気な地域という印象があった為、多少の違和感を覚えていた。

「まあ、毎日毎日ガヤガヤしてる訳では無いし、そう不思議なことでは無いと思うが」

 隆二がそう言いながら家の鍵を開け、扉を開いた。

「ただい……!?」

 その瞬間、隆二が言葉を失い、思わず何歩かたじろいだ。

「どうした!?」

 その後ろにいたキョウが隆二に声をかけながらすかさずその家の様子を覗きに行った。

「こ、これは……」
2章2話 侵略
「こ……これは……」

 ふたりの目の前には、まとめて手足を縛られて家の柱に縛り付けられて抵抗するように動き回ってる隆二の家族が居た。

「大丈夫か!?」

 隆二が急いで紐を解くためそこに駆け寄ろうとする。
 と、キョウがそれを肩を掴んで止めた。

「おい、なんで止めるんだ!」

 すると、キョウが小声で言う。

「気持ちはわかるが聞いてくれ、この場には見えないがまだ犯人は近くにいる」

 少なくとも家族達は生きている上、体力の消耗も少ないように見える。
 強盗などの目的ならば近くの部屋か建物でまだ物色を続けていてもおかしくない。

「……わかったが、ここからどうする」

「大した護身用の道具もないし、こちらから行動するのも危険すぎるから通報くらいしかないな、俺は下手に関わるのもあれだから、お前の携帯で通報してくれ、まあ、このまま簡単に帰れるとは思ってないから何かあれば協力する」

「わかった」

「ちなみに、この家に隠れられる部屋や場所は?」

「物置だな、元々事務室だったから内から鍵をかけることもできる」

「それはいいな」

 そう言い、忍び足でその物置部屋に入った。

「とりあえず、通報しとくぞ」

「ああ」

 そう言って、隆二は警察に電話をした。
 だが……

「ダメだ……全く繋がらない」

「そんな馬鹿な、番号は?」

「間違うはずがない、警察はどの地域も前と変わらず110番だ」

「まあそうだよな、じゃあなんで……」

 すると、頭の中に一気に嫌な予感がよぎった。

「まさか、アナログ派地域全体がやられてる!?」

「……は?」

 キョウは考えられる可能性を話す。

「アナログ派に属しているチンピラか反社会的勢力がそのアナログ派地域の性質……というより脆弱性を突いて侵略でもしようとしているかもってことだ、あくまで可能性でしかないものの警察が繋がらないのはおかしいし、十分あり得るとだけ……」

「まじかよ……」

「帰ってきたタイミングが今ってことと、俺が偶然同行したのが不幸中の幸いってところか、ここら辺の地域ならデジタル派地域の電波もギリ使えるはずだから、メッセージで俺の同僚に事の経緯を伝えてあちら側の警察に動いて貰えるようにお願いしてみる」

「でも、そうなるとだいぶ時間がかかって来ないか?」

「仕方ないだろ……今はそれしかない」

 そう言って、キョウがその同僚にメッセージを送った。

「ひとまずこれでいいか……」

 すると程なくして返信が来た。

『わかった、警察にどう受け取られるかは分からないがその通りに伝えてみる』

 これでどうにかなって欲しいものだが、と思いつつ、キョウは続けて隆二に尋ねる。

「アナログ派政府はどうなってるんだろうか、おそらく両派首相は連携取れているはずだし、よく考えたらなにか有事があればすぐ互いで対応できるものじゃないのか?」

「それが、政府への諸々の報告書はデータベースじゃなくて紙で書かれて封筒で国営の郵送で送られて行くシステムだから、もしお前の見立てが正しければその組織が敢えて政府組織を直接侵略せず、民家や企業、役所の方で報告書やデータを脅して改ざんさせればいくらでも上の方に正常に国が回っているように見せるのは容易いものになっているとも考えられる、なんせアナログだからな、複雑なセキュリティもなくてそういうことがやりやすいのかもしれん」

 険しい顔で話した。

「尚更同僚から上手くそっち側の警察に話が伝わらないとまずいな……」

「正直デジタル派の人間がここに来てる経緯も含め簡単に信じ難い話ではあるがな」

「……いや、待てよ、俺らって一応あっちの地域ではあのゾンビパニックを収束させ表彰されたまあまあ有名な人になったわけだし、立て続けにそんな有事に巻き込まれるのは現実的では無いが、それと同時に情報の重要性としては無視できないものになるんじゃないか!?」

 そう思い、その点も警察に伝えて欲しい旨のメッセージを再び同僚に送信した。

「どうにか警察に繋がる筋道はできて良かったが、最悪の場合ここで数日は息を潜めなきゃならんと思うと気が滅入るなぁ」

「物置部屋で食料はあるからそこはまだ安心してくれ、それより俺は家族が心配でとてつもなく気が気じゃない……」

── 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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