1956年、日本は岐路に立たされていた。
この当時は東京から大阪まで7時間30分かかっていた。しかし、これではあまりにも遅すぎた。
これからの発展にはさらに素早く人を運べる仕組みが必要だ。そこで考え出されたのが、「ブルー・バレット・トレイン」である。
「ブルー・バレット・トレイン」を使えば、東京から大阪まで向かうのに3時間で済む。この計画は全国の人々の応援を受け、1958年に国からも許可が降りた。そうして1959年に工事が開始し、1961年には一部の路線を使って試しに動いてみることとなった。
〜1962年 神奈川県小田原市 鴨宮モデル線上〜
「出番だ、『セン』。」
その言葉に合わせて、一人の少女が返事する。
「はい、マスター。」
「発進!」
ゴゴゴ、と音を立てて、小田原の線路の上を走り始めた。
「ブルー・バレット・トレイン」を操るのは少女である。どんな運転士も、その少女と心を通わせられなければ、動かすことはできない。
1962年当時、「セン」と呼ばれる少女が「ブルー・バレット・トレイン」を操っていた。
「100キロ…110キロ…120キロ…」
声を合わせながら、少しずつ速度を上げていく。二人とも、未来を見つめながら。
「130キロ……140キロ……」
ドドドォっと音を立てながら、下を走る電車をぬかしながら走っていく。
「150キロ………160キロ………」
これまでの日本の電車が残した最速記録は時速175キロ。その直前まで迫っていた。
「170キロ…………いくぞ…」「わかりました、マスター…」
「180キロ…!」
その時、「ブルー・バレット・トレイン」は日本一早い電車になった。
しかし、未来の景色をさらに美しくしようとしたかったのか、それとも「マスター」ともっと走りたかったからか。「セン」はさらに速度を上げ続けた。
「200キロ…」
ついに、200キロに到達。それは間違いなく新時代の幕開けを告げるものだった。
「セン」はその後も、何度も「マスター」と心を通わせ、速度を上げていった。1963年には時速256キロまで出せるようになった。これは、普段の電車の3倍ほどの速さ。「セン」と「マスター」がいなければできないことだっただろう。
「セン」は言う。
「たとえどんなに私が精密に作られてても、マスターがいなければこんなに早くは走れなかった」と。
その後も「セン」と「マスター」は走り続けた。これから生まれるすべての人のため、日本のために。
そして1964年の7月、全線が結ばれた。「セン」と「マスター」はその上を走った。何度も、入念に。事故が起きないように。
同じとき、もう一人の「ブルー・バレット・トレイン」が現れた。名前は「ゼロ」。「セン」よりも目が大きく、シュッとした顔立ちだった。
「セン」と「ゼロ」は協調して走った。それでも、「セン」の心には一つの疑問があった。
私はみんなを運ぶためではなく、ただただ試しに作られた存在なのでは無いかと。
動けなくなった。自分が消えるのが怖いから、追いやられるのが、忘れられるのが、怖いから。
「マスター」の手を振り払い、部屋の隅で泣く毎日だった。
しかしそれでも「マスター」は、そんな「セン」を放っておかなかった。
「『セン』は頑張りすぎだ。いつだって自分一人で全部やろうとする。忘れたのか?俺がいつだってそばにいるだろ。」
そういって声をかけた。
「セン」は泣かなくなった。「マスター」と一緒に、少しずつ、少しずつ、また動いた。
「ゼロ」もそんな「セン」を見てクスリと笑った。
「先輩が泣いてたら、私まで悲しくなっちゃいますよ」
そう言って、一緒に話したこともあった。
1964年8月、暑い夏だった。「セン」は「マスター」に呼ばれた。
「マスター、どうしましたか?
「もう、速度を求めて走らなくてもいい。」
「…なんで、どうして、まだ走れる、だって私は、まだ…」
「『セン』。君には、線路の安全を守ってもらう。」
「…え?」
「これは俺が考えたんだ。『ゼロ』は明るくて活発だから、きっとお客さんを乗せて動くのが向いてる。でも、『セン』は真面目だ。だからお客さんを乗せるんじゃなく、レールのズレとか、異常を見つけるのが向いてると思う。」
「セン」は、口をつぐんだ。
「俺の頼みだ、受けてくれるか」
「セン」の頬に涙が一滴流れ、そして満面の笑みで答えた。
1964年10月1日。
「ゼロ」は眠い目を擦りながら、運転席に座った。
「…なんでこんな早朝に走るのよ…」
「しょうがないさ、式典の関係だ。」
「こんな早い時間にするなんて…」
「まあまあ、ほら、たくさんの人が見てくれているぞ。」
東京駅を埋め尽くす限りの報道客、乗客、駅員。
全てが期待の眼差しだった。
ひかり1号新大阪行き。発車時刻は午前6時ちょうど。ファンファーレとテープカットが行われる中、一つの声が響いた。
「発進!」
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