← 作品ページへ戻る

『真面目な男と相性のいい女、そしてその秘密』~あるいは世界に広がる寛容さについて~

永遠のコメディ

13,526 字

コメディ・SFロマンス

"真面目さが招いた、時を超えた奇妙な恋のオーディション。"

← 右から左へスクロール

シーン1 自宅(妻の実家に同居)の縁側
海辺の一軒家 広い庭
ちゃぶ台で新聞を広げる男
縁側で足の爪を切る娘
鳥のさえずり
のどかな日曜日の午前10時

男(モノローグ)
俺には昔からなんとなく、いや正直に言おう。
ひどく気になっていることがあった。
そして、まだ17歳の娘がその秘密を知っているであろうことに、
最近気がついてしまったのだ。
俺は思い切って、が、さりげなく口を開いた。

男
(新聞に目をやりながら)
なあ、お前「タイムリープ」って知ってるか?

娘
(爪を切りながら)
おう、知ってるぞ。

男
(若干慌て気味に娘を見て)
なんで知ってるんだよ、そんな言葉

娘
(爪を切りながら)
まぁ、なんとなくだな

男(モノローグ)
(新聞に目を戻し)
「なんとなく」じゃないよ
「なんとなく」知ってたらダメなんだよ、その言葉だけは
頼む!嘘でもいい「時かけ」で知ったと言ってくれ

男
(新聞をたたんで)
「時かけ」で知ったんだよな

娘
何だよ「時かけ」って

男
「時をかける少女」だよ「時かけ」

娘
観たことねーし、そんな古い映画

男
流石に原田知世さんとは言わないよ、ほらアニメのやつで、
最近あったじゃんほら

娘
(ちょっとバカにしたように)
それだって生まれる前の映画ですからー
観てるわけないじゃん

男(モノローグ)
(驚愕の表情で娘の横顔を見つめ)
えっ!?アニメも…なのか
仲里依紗が声優やってるあのアニメさえもが…生まれる前…

男
(気を取り直して)
じゃあなんで知ってるんだよ
パパに嘘は無しだからな、いつも言ってるだろ嘘はダメ
嘘をついて「得」したって碌なことないんだからな

娘
相変わらずというか、当然というか・・・真面目だよねぇ

男
なんだよ、気になる言い方すんなよ
で、「タイムリープ」なんで知ってんの?

娘
まぁ、生まれた時からなんとなくだよ

男(モノローグ)
生まれた時から・・・家系?
やっぱり・・・やっぱりなのか、あの時のあれは…
タイム・・・リープ・・・?なのか・・・?
⸻

シーン2 アパート外観 深夜
男(モノローグ)
事件が起きたのは二十年ほど前のことだった

男の部屋
画面暗い。目覚ましのデジタル数字「4:30」

部屋に入ってくる男
布団の上でコンビニの制服をハンガーにかけながら、
独り言のように
ぶつぶつ言い出す

男(モノローグ)
明日は俺の運命が決まる、超大事な日だ
念願だった専務のお嬢さんとの食事会、しかも専務夫婦同席
ほとんどお見合いと言っていいだろう
真面目一点張りで損ばかりしてきた俺の
人生最大のチャンスタイムだ
⸻

シーン3 会社オフィス
(デスク周りを片付けている男・ドアを開けて専務が入ってくる)
男
あっ!専務おはようございます

専務
おはよう
(専務近づいてきて)
明日はよろしく頼むよ、
裏表のない君の真面目さを高く買っての食事会だからね

男
ハイ!それはもうハイ!
万事問題なく、ハイ!

専務
(男の肩を抱き込むように)
あっちの方は大丈夫だろうね?

男
あっちと申しますと・・・どっちのあっち・・・というか

専務
身の回りの整理だよ

男
身の回りの・・・整理・・
あーそれはもう、整理整頓は子どもの頃から厳しく、ハイ!

専務
(小指をだして)
こっちだよこっち
こっちの整理は大丈夫かってことだよ
いくら真面目とはいえ30過ぎの男、やっぱり一人や二人は・・・
なっ

男
それはもう!万事、ハイ!
万事申し分ないほどの整いようでありまして、ハイ!
⸻

シーン4 コンビニ・バックヤード 深夜
コンビニ外観、狭いバックヤード、ロッカー、段ボール
制服に着替えた男が、鏡に向かって髪を整えている

男(モノローグ)
こうなると是が非でも避けなければならないのが、
迂闊な女性関係のもつれだ
真面目一辺倒の人生を送りながら、
真面目からくる博愛主義のおかげなのか、
変にモテるせいで少々ルーズな俺ではあるのだが・・・

別れ回想シーン①
男(モノローグ)
アーパーではあるが、正直だけが取り柄の
長年付き合った彼女とは断腸の思いで別れたし

(男の部屋で「笑っていいとも!」を見ている二人)
男
別れてくれるかな!

彼女
いいとも!!

別れ回想シーン②
男(モノローグ)
都合のいい女にも、大人らしくビジネスライクに因果を含めた

(男の部屋で「いいとも」を見ている二人)
男
というわけでぇ、ね

彼女
(右手を差し出して)
ん

男
(慌てて財布を取り出して)
1万と・・・
(少し悩んで)
5千・・・8千円でいい?

彼女
釣りがないから2万!

男(モノローグ)
あとは明日のお見合いを迎えるのみ!
最後の仕上げとして今日の俺は、
女性客には必要最低限しか接客しない
目も合わせない。笑顔も封印。真面目も封印。
安全第一。人生第一。

(顔を両手でパンパンと叩き)
さぁ最後のバイト気を引き締めて行って来るか

(鏡に映ったコンビニの制服を見ながら)
今夜限りで、こんなチンケなコンビニ夜勤ともおさらば──

ノックの音(コンコン)

男
あっハ、ハイ

男(モノローグ)
……の、はずだった

バイトリーダー
(バックヤードに入って来て)
うぃっす

男
うす

(在庫の検品を始めるバイトリーダー)

男(モノローグ)
こいつはここのバイトリーダー
俺とは高校時代からの腐れ縁だ
俺と違って勉強ができたこいつは、
都内の有名私立大学に進学したものの2年で中退
理由は分からない
以来ここでバイトを続けている
三流大学卒業後、就職先が決まらなかった俺を
ここに押し込んでくれたのもこいつだ

バイトリーダー
(検品しながら)
あー、ちょっとレジ頼むわ

男
うす
そのかわり、例の件しっかり頼むぜ

バイトリーダー
そーいや明日が本番だったよな、専務とのお見合い

男
専務の娘な

バイトリーダー
アホか、分かってんよそんなこと
お前の真面目さは、もはやアホ級だな

男
とにかく今夜さえ面倒な女絡みの厄介起こさなきゃ、
俺の真面目人生、遅まきながら明日から右肩爆上がりなんだから
見張りの方しっかり頼むぜ

バイトリーダー
はいよ、変な女に絡まれないように見張ってれば良いんだろ
真面目すぎて女にモテるなんて、羨ましい限りだけどな
ほら早くレジ頼むよ
⸻

シーン5 コンビニ店内 深夜(1回目ループ)
男、レジに立つ 客はまばら
店内BGM
やや古いJ-POP

ラジオアナウンス(女性)
「時刻は午前1時をお知らせします」
(時報)

ラジオアナウンス(男性)
「番組の途中ですが、ここでミッドナイトニュースをお届けします」
(ニュースジングル)
「昨夜午後8時過ぎ、東京都新宿区の・・・」

ドアのチャイムが鳴る
女が入ってくる
傘をたたみながら、店内をぐるっと一周
小さなカゴに、サンドイッチ、おにぎり、
缶コーヒーなどを丁寧に入れる
女、レジにやって来る

男は「女性客には近づかないモード」で、必要最低限の声かけだけ

男
(女を見ずに)
いらっしゃいませ──

ピッ、ピッと無言でバーコードを通す

女
(男をじっと見て、意を決したように)
すみません

男
(怖いものを見るように女に目をやり)
……はい

女
(どこかオドオド)
ちょっといいですか?
お話通じそうな方とお見受けしたので・・・

男
(嫌な予感・警戒しながら)
はい、いかがいたしましたか?

女
たまに、ごくたまになんですけど
レジにはどなたもいらっしゃらないのに、
棚の前でずーっと品出ししてる店員さんっていらっしゃいますよね

男
はあ……

女
急いでいる時とか、実はあれ困ってしまって
仮にいま品出しから手が離せないとしても「少々お待ちください」
の一言をいただけると、
少なくても“いま私が待っている”ってこと、
分かっていらっしゃるんだな
「大人しく待っていれば大丈夫なんだな」と思えて
とても安心するんです
分かってくださいます?

男
(少し姿勢を正す・真面目に共感を示し始める)
あっ、わかります
私もお客として来店した時に、そう感じることございます
おっしゃる通りだと思います

女
(ホッとしたように、彼女は彼を見つめる、不自然なほどジーッと)

男
(真面目モードオン)
ご不快な思いをさせてしまって、申し訳ございません
いつまで待てばいいのか分からない、
でもここで文句を言って「クレーマーと思われたら嫌だな」
と感じるお客様のお気持ち、
痛いほど理解できます
真面目な方ほど言えないんです!
そうしていつも「損」するんです真面目な側が!!

(はぁはぁと息を切らし、はっ!と我に返りバイトリーダーを見る)

(変に嬉しそうに親指を突き出すバイトリーダー)

女、少しビックリした顔

男
嫌な思いをされてまでご指摘くださって、ありがとうございます
店員に周知して改善いたします・・・少なくともこの店では

女
いやだ私、そんなつもりで言ったんじゃ無いんです
でも、とっても真面目でいらっしゃるんですね、ビックリしちゃった

男
(レシートの裏にペンを走らせながら)
いえクレームは、改善案ですから。
それにしてもあなたとは感じ方が似ていて、
相性が合うのかな・・・
(言いかけて・・・気が付く)
いや、なんでもないですごめんなさい

女
そんなメモまで取られて、根っから真面目でいらっしゃるんですね
初めてお会いしましたけど、おっしゃる通り私たちって
相性いいのかしら
(意を決したように、男の手をとって胸に当て)
ほら胸がドキドキ

男
え、いや、ダメですダメ!その……
(さっきの誓いを思い出す)
本日は、その……笑顔を封印しておりましてですね
これは絶対ダメなやつです!

(バイトリーダーを見る、腕を組んで自分の胸を揉むジェスチャー
 実に嬉しそうなバイトリーダー)

女
(かぶせて)
私じゃご不満?

男
いや、不満とかじゃなくて・・・私真面目ではあるんですが・・・
元来の博愛主義が・・・ウズウズと・・・
(胸に当てた手のひらで乳房をグッと握って)
うん!確かに相性もサイズもバッチリかもです!!

彼女が両腕を男の首に回して、2人の距離がグッと縮まる

ラジオアナウンス(女性)
「ここで一曲お届けします、
ホイットニー・ヒューストン”オールウェイズ・ラヴ・ユー”」

バックのBGMが、ふっとボリュームアップ。

1回目のキス: 両腕を回した彼女が男の首を引き寄せて、
        正面からの王道キス?
(ショートムービーの見せ場です、演出さん渾身の王道キスシーンを お願いします)
(クレーンカメラ、キスする二人の足元から回り込みながらティルトアップ)

ちょうどその瞬間、ドアチャイム
専務の娘が入ってきて、二人を目撃

専務の娘
キャーー!!ひどいです、誠 実(まこと・みのる)さん!!

男
ち、違うんです専務のお嬢様、こ、これは──

女
「ちっ!邪魔が入った」という表情になり、密かに指を鳴らす
(指パッチンアップ)

店内の照明がバチンと落ちる
真っ暗闇
⸻

シーン6 男の部屋 ベッドの上(1回目起床)
男、ベッドの上で飛び起きる

男
ビックリしたぁぁぁ……

しばし呆然

男
今の、夢……だよな?
知らない女性とキスまでして、専務の娘さんに見られるとか、
真面目な俺としてはありえんミスだろ

額の汗をぬぐい、時計を見る。

男
……とにかく、明日のバイトは気を付けよう
心苦しいが、女性客に優しく接客するのはやめておこう
真面目も封印!!
なんてったって、俺の一生がかかってるんだからな

暗転
⸻

シーン7 コンビニ・バックヤード 深夜
コンビニ外観、狭いバックヤード、ロッカー、段ボール

男
……っていう夢見ちゃってさ

バイトリーダー
夢の中で知らない女とキスして専務の娘さんに見られるって、
真面目なお前がなぁ

男
お前全然止めてくれないし、つーか嬉しそうだったし

バイトリーダー
お前の夢の中身まで責任持てんわ

男
俺、真面目に生きてきたじゃん?

バイトリーダー
うん、真面目に女癖悪いよね

男
そこは否定しろよ
報われたいのよそろそろさ、頼むよ

バイトリーダー
まぁ、真面目はお前の美徳だからな
今日はちゃんと見張るからさ、なっ
⸻

シーン8 コンビニ店内 深夜(2回目ループ)
男、レジに立つ、客はまばら
店内BGM
やや古いJ-POP

ラジオアナウンス(女性)
「時刻は午前1時をお知らせします」
(時報)

ラジオアナウンス(男性)
「番組の途中ですが、ここでミッドナイトニュースをお届けします」
(ニュースジングル)
「昨夜午後8時過ぎ、東京都新宿区の・・・」

男、デジャブ感に眉をひそめる

男(モノローグ)
……あれ?
このラジオ、夢とまったく同じ?思い違いか?

ドアのチャイム
1回目とまったく同じ服装・同じ傘・同じ買い物をする女
一連の動きまで同じ

男(モノローグ)
嘘だろ!まさか……予知夢?
いやいやいやありえない
真面目な人間として断固信じられない!
真面目に現実を拒否する!

女
(キョロキョロと当たりを見て)
ちょっといいですか?
お話通じそうな方とお見受けしたので・・・

男
(先回りして)
あのですね、もしかするとですが・・・
急いでるときにレジに誰もいないの、本当に困りますよね
真面目な人ほど何も言えない!ってやつだったりしますか?

女、一瞬ポカン

女
……え、どうして?
前にもお会いしましたっけ?

男
(1回目の反省から「優しすぎない」方向へ舵を切る)
いえ、単なる一般論です
決して相性が良すぎるってことでもないですし、
今日の私は真面目援護派でもないです

女
あなたになら言えそうなので、勇気を出してお話するんですが・・・

男
いえ言わないでください。
いつもの真面目な私ならいざ知らず、
本日の私はお貸しする耳を持ち合わせてございません
大変申し訳ございませんが、一生がかかっているものですから
奇しくも「予知夢」という形を持って、
ご先祖様が忠告してくれている きらいさえもございまして

女
(男の目をじっとみながら)
でもあなたになら言えそうなので、一つだけ、ねっ

男(モノローグ)
どうする秀樹!おい!止めに入ってくれおい!!

(バイトリーダーを見るとニヤニヤ、男しばし躊躇した後に)

男
(くそっ!役立たず!!)
では本当に一つだけ・・・ハイ!

女
サンドイッチ買ってもレジ袋をお断りすると、お手拭きが付かない
お店ありますよね
あれ本当に困ってしまうんです
こちらとしてはレジ袋代が・・・

男
(話に割って入って)
レジ袋代が惜しくて断っているのではなく、
エコのために断っているだけなのに、
鯨さんや海洋生物のために断っているだけなのに、
お手拭きがもらえないという不利益を被る、つまり「損」をする
(うんうんと頷く女性)
(真面目魂に着火)
そしてこれも真面目な方ほど文句が言えない!
ごもっともです、本来は私も全く同じ意見です、激しく同意します
言ってしまえば「禿同」です

(禿同的に激しく頷く女性、もう首がどうにかなってしまいそうだ)

バイトリーダー
グー握りで「行け!そこだ!!」のポーズ

男
(大きく息を吸い込んで)
しかしですね、今日は私も一生がかかっているので、心ならずも言わ
せていただきます

バイトリーダー
「あらら残念」のポーズ

女
(あれ?なになに??という表情に変わって)

男
つまりですね、そもそも深夜シフトは人が少ない
品出しも清掃も、全部一人でやってることが多い
急いでるお客様には大変申し訳ございませんが、
そういう事情もあるんです
(女、少しだけムッとするが、言い返そうとするのを男が制す)

男
とにかく深夜は人手が足りない!
お客様のように真面目すぎて文句を言えず
「損」をしてしまうお客様もいれば、
深夜勤務を真面目に務めすぎて「損」をしている店員もいます
つまりですね⸺ある意味“お互い様”ってやつです
(一瞬、空気がピリついた気がした男、少し後悔しつつも)

男(モノローグ)
よし、これで嫌われた、女絡み、回避成功

(バイトリーダーを見る、バイトリーダーはつまらなそうに拍手)
クソ秀樹の役立たず!

(女はじっと男を見つめたあと、諦めたようにふっと笑う)

女
確かに真面目すぎて「損」だなって感じることあります
でもよく考えると、私ちょっと「損」しているくらいが
心地いいんです
根っからの真面目人間って事なのかしら
なのに「損」していることに不満を感じて、
あなたにお伝えしてしまった
「私はタチの悪いクレーマーなんだ」ということに気がつきました
ごめんなさい、ありがとうございます
(走って立ち去ろうとする女の手首を握りしめる男)

バイトリーダー
「どうなる?どうなるんだこの先?」の顔
ハラハラドキドキのバイトリーダー

男
(真面目着火)
いやいやいやいや、そういうつもりでは無いんです
あなたがクレーマーなんてとんでもありません!
ましてや、あなたのような真面目な方が
「タチの悪いクレーマー」なんてありえない!
世界中が認めても私の真面目が認めません!

女
(目を潤ませながら男を見つめて)
私たち真面目な側って、いっつも「損」ばかりですわね

男
いま日本中の、いや世界中の私たち真面目人間が
試されてるんです
いや「損」することを厭わない
「寛容な人間」「寛容な社会」が試されていると言っていい!
私たちは相性バッチリです!そうでしょ!!

バイトリーダー
(拍手しながら)
ブラボー!
なんだか分からないけど真面目最高!寛容最高!!

男(モノローグ)
で、結局・・・

ラジオアナウンス(女性)
「ここで一曲お届けします、
ホイットニーヒューストン”オールウェイズ・ラヴ・ユー”」

バックのBGMが、ふっとボリュームアップ。

2回目のキス:彼女の腰に手を回して、ハリウッドミュージカル王道
       キス?
(ショートムービーの見せ場です、演出さん渾身の王道キスシーンを
 お願いします)
(クレーンカメラ・天井から滑らかに回り込みながらティルトダウン)

ちょうどその瞬間、ドアチャイム
専務の娘が入ってきて、二人を目撃

専務の娘
きゃあああああっ!!
ひどいです誠 実さんっ!!

男
だから違うんですってこれはその──

(バイトリーダーの方に歩きながら指を指して)

秀樹テメェ!俺止めろって言ったはず・・・

女
しめしめ顔で密かに指を鳴らす
(指パッチンアップ)

バチン、と照明が落ちる。真っ暗。

女
(真っ暗な映像に女の声)
あと1回・・・
⸻

シーン9 男の部屋 ベッドの上(2回目起床~気づき)
またしても飛び起きる男

男
これ・・・オールユー・ニード・イズ・キル的な?
タイムループ? これ??
だとしたら・・・出口はどこ・・・

男、真剣に何かを考え始める

カット
⸻

シーン10 ファミレス
男がバイトリーダーに相談している

男
俺 今回つくづく思ったんだけど、真面目ってやっぱダメかな?

バイトリーダー
(あきれつつ)
知らねえよ。
でもさ、高校時代から見てきて、当時から気にはなってたよ
真面目なお前、というかお前の真面目さ

男
なんだよそれ、俺が気になってるのか、真面目が気になってるのか
どっちだよ

バイトリーダー
お前何かって言うと、言うじゃんか
「俺は真面目で損してる」って
本当かね、本当に真面目って「損」ばっかなのか?
ってお前を見てると、ときどき俺は思うよ
聞くけどさ、具体的に真面目で何を「損」した?

男
まぁそう言われてみると・・・

バイトリーダー
よく考えてみろよ「損」をしないとは言わない、
だけどな「得」したことの方がずっと多い!はずだ!!
真面目なお前は、思いやりを持って人に接することが出来る
だから華々しくはないが地味にモテるんだ
そして真面目なおまえは会社で信頼されてる
専務の話だってその真面目さを認められてだろ
真面目は「得」だ、けど真面目な奴はそこをわかってない!
真面目は性格だから治らない、
けどそのせいで「損」したりしない!
その証拠に俺みたいないい奴に好かれてる

男
彼女のことはどう思う?

バイトリーダー
あの真面目な彼女か?

(男頷く)

はっきり言っていいか?

(男大きく頷く)

お似合いだと思う

(考え込む男)

男
秀樹、聞きたいことがある
⸻

シーン11 コンビニ店内 深夜(3回目ループ)
男、レジに立つ、客はまばら
店内BGM
やや古いJ-POP

ラジオアナウンス(女性)
「時刻は午前1時をお知らせします」
(時報)

男(モノローグ)
来た、3周目

1回目2回目とまったく同じ服装・同じ傘・同じ買い物をする女
一連の動きまで同じ
女、レジにやって来る

男
(女を見ずに)
いらっしゃいませ──

ピッ、ピッと無言でバーコードを通す

女
(男をじっと見て、意を決したように)
すみません

男
……はい

女
ちょっといいですか?
お話通じそうな方とお見受けしたので・・・

男
(先回りして)
急いでるときにレジに誰もいないのに一言もない、
レジ袋代が惜しくて断っているのではないのに、
お手拭きがもらえない、
そしてどちらも真面目な人間ほど文句が言えない!
というお話しですか?

女、一瞬ポカン

男
もうその手続きの必要はないんです

女
……え、どうして?
前にもお会いしましたっけ?

男
お分かりのはずですよ、今夜が3度目です
ですが、数少ない出会いながらも、
私たちの相性は最高だと思いますし、
何より今日の私は真面目そのものです、
一体この3日間何が起きたのか、彼の考えはこうです

バイトリーダー
(男に向かって)
今回の一連の事象、俺にはなんつーか戦略的なものが感じられる
試されてる?
ある種のオーディションだったんだよコレは、
いわば真面目な男を探すオーディションだ
結局お前は試されてたんだよ、
問題は・・・問題はお前が選ばれたかどうかだ!

男
(女に)
お名前をお聞きしていませんでしたね

女
淳子です

男
いかがでしょう、淳子さん
私は選ばれたんでしょうか?

女、そっと手を伸ばす
男のほうが自然に身を寄せる。

ラジオアナウンス(女性)
「ここで一曲お届けします、
ホイットニーヒューストン”オールウェイズ・ラヴ・ユー”」

バックのBGMが、ふっとボリュームアップ

3回目のキス:突然雨が降ってきて「ティファニーで朝食を」
       的なキス?
(ショートムービーの見せ場です、
 演出さん渾身のティファニーキスシーンをお願いします)
(手持ちカメラでブレながら臨場感あるカット)

一番地味で、一番静かで、一番長いキス、長回し気味に

ドアのチャイム
専務の娘が入ってくる

専務の娘
きゃ──

しかし、男も女も、もうまったく気づかない
専務の娘の悲鳴は、BGMにかき消される

今回は、停電しない

キスは続く
⸻

シーン12 自宅(妻の実家に同居)の縁側
海辺の一軒家 広い庭
ちゃぶ台で新聞を広げる男
タブレットを見ている娘
鳥のさえずり
のどかな日曜日の午前10時30分

娘
(何かに気づき)
あっ!(手を振って)
きたきた、秀樹おじさんきたよ

秀樹
(庭に入ってくる)
うぃっす

男
うす、久しぶりだな

秀樹
50歳の誕生日と聞いてな

娘
私が呼んだの

(縁側のタライから水で冷やしたスイカを持ってくる)
(ちゃぶ台の上にまな板、スイカを切る)

男
おい、台所で切れよ
ちゃぶ台がビチャビチャじゃん

秀樹
いいんだよな、ここで

娘
そ、いいのいいの、分かってるな秀樹は

(切ったスイカを一切れ皿に乗せ、仏壇に運ぶ、淳子の遺影)
私が呼んだんだ、秀樹おじさん
私も知らない当時を知る、重要人物の一人だからさ
そして我が家の秘密も・・・っと

(淳子の遺影の前にスイカを置き、仏具を鳴らすチリーンチリーン)
お母さんがね、パパが50歳になってもよく分かってないようなら
教えてあげなさいってさ、私が小さい時から言ってた
パパはのんびり屋さんだからって

男
パパだってなんとなくは分かってるんだぞ、
そうだな、君らはタイムリーパーである

娘
ピンポーン、当ったり!
うちは代々タイムリーパーの家系なの

男
なぜ?いつから?

娘
知っらなーい、昔から

男
タイムリープが発生したから結婚した
これは真面目なパパも今となっては
認めざるを得ない事実なのだが、
パパがずっと気になっていたのは、ママがそれを起こしたのか?と
言うことだ

娘
それも当ったり!

男
と言うことは、君らは自分の意思でタイムリープが出来る
お前もなのか?

娘
そう、まだ練習中
18歳になったら自分の意思でどこへでも、つーか、いつにでも行ける

男
やっぱり練習が必要なのか?

娘
あったりまえじゃん 子どもが行ったっきり帰ってこれなかったら
まず見つからないんだって
そんなこと昔はたまにあったってよーって言ってたよママが

男
毎回、ああやってタイムリープを起こして婿を選んでるのか?

娘
まさか
翌日がパパのお見合いだったでしょ
ママは無理してでもパパが真面目だってこと、おばあちゃんに証明
する必要があったの
一族の決まりは 真面目さを3回証明することだったからさ
ママはもともと、
あのコンビニで働いてた 真面目なパパが大ー好きだったんだってさ
ヒューヒュー!良かったねパパ

秀樹
そうだぞ、ここ大事だぞ
お前はまず淳子さんに選ばれてたってわけだ
どうしてもお前と一緒になりたかった淳子さんが
一族に証明するために仕込んだのが
あの一連の3回のタイムリープってわけだ
良かったな ただのお婿さんじゃなくってさ

娘
これが愛じゃんねー

男
なぁ秀樹 お前知ってたってことか

秀樹
わりぃ 実は知ってた
お前にいつホントのこと教えるべきか?
淳子さんから相談受けてた

男
ちょっと複雑ではあるが・・・逆に言えば鈍感な俺の代わりに
淳子の相談に乗ってくれてたってことで
まぁ ありがとな

秀樹
おぅ たださ 淳子さん前からあのコンビニで働いてた
真面目なお前が大好きだったって言うけどさ
お前心当たりあんの?

男
いや それがさ
俺的には淳子と会ったの あの事件ん時が初めてなんだよなぁ

秀樹
だよなぁ 俺もあのコンビニで淳子さん見た記憶ねぇもんな

(娘に向かって)
歩(あゆみ)ちゃんなんか知ってる?ママから聞いてない?

娘
んーまぁ聞いてはいるけどぉ
パパの前で言うのもなぁ まぁ大した話じゃないんだけど
ちょっとなぁ 結構恥ずい話なんだよなぁ

秀樹
いやぁー そこまで聞いちゃったら
秀樹さんもう聞かずには帰れんよ
ちょっと ちょとこっちおいで
(手招きしながら部屋の隅まで移動して)

教えて 教えて
(娘が秀樹の耳に手のひら当ててゴニョゴニョ)

秀樹
(ひっくり返って大笑い)
分かる それ分かる 高校ん時からやってたぞ それ!

男
なんだよ 仲間はずれかよ当事者なのに

秀樹
(戻ってきながら)
そりゃそうだ 今は亡き妻が 自分のどこに惚れたのか
そりゃぁ聞く権利はあるよな
言ってやんなよ 恥ずかしくないよむしろいい話 ぷっ!
(口を手のひらで覆って噴き出す)

娘
(観念したように話し出す)
あのね ママは高校3年間 毎日あのコンビニの 向かいのコンビニ?
あそこに学校の行き帰りに通ってたんだって

男
はー そりゃ見た事ないはずだな

娘
それでね 毎年あんじゃん アレ ほら赤い羽根のアレ

秀樹
募金だよな

娘
そうそう ママも真面目だから募金すんじゃん絶対
そうすると必ず向かいのコンビニのお兄さんが
わざわざ反対側のコンビニの前まで募金しに来るんだって

男
あーそう言えばやってたな毎年

秀樹
それでな あのコンビニの前の道路って片側一車線で
車通りもまばらな道だったじゃんよ それなのに ぷっ!
(口を手のひらで覆って噴き出す)
歩ちゃん言ってやって

娘
道の反対側なのに わざわざ渡ってきて
偉いなぁ って思ってたんだって
みんな普通に横切っちゃうとはいえさ
わざわざ渡ってくるのって面倒じゃん
と思って見てたら
募金終わったら 全員の子供に「ありがとう」って握手してさ
そのあと子供たちが通学路に使ってる100メートルくらい先にある
歩道橋まで行って 道渡って
また100メートル戻ってきて
向かいのコンビニに入っていくの見てさ ぷっ!
(口を手のひらで覆って噴き出す)

男
当たり前だろ 子どもたちの目の前だぞ 歩道橋使うだろ普通

娘
(涙拭きながら)
で ママは素敵だなって思ったんだって
こんな人と結婚したいなって ぷっ!
(口を手のひらで覆って噴き出す)
(笑いながら)
私にはよくわかんないけど

秀樹
こいつさ高校ん時も校門の反対側で募金やってて
おんなじ事してたよ 本当すげぇなお前はさ

男(モノローグ)
この日はこの他にも いくつか分からなかったことを知ることができた
まずは、なぜこの一族の婿の必要絶対条件が
「真面目」であることなのか?

娘
まぁ、あまりこれは大きな声じゃ言えないんだけどさ
未来を知っていると、
手っ取り早くお金につながること多いじゃない?
我が家はそれで生活しているから

男
ビフ・タネン的なことか?

娘
そう、ビフ・タネン的なこととか
だから彼みたく欲をかきすぎて、目立ちすぎることなく、
目の前の「得」を見過ごせる人。
かつ我ら一族がタイムリーパーであることを口外しない
真面目なお婿さんが必須条件だったの

男(モノローグ)
もう一つは、俺が乗り損ねたのは”玉の輿”ではなかったと言うこと

秀樹
お前がいた会社な、お前が結婚して退職してちょっとして潰れたぞ
そもそも何で玉の輿と思ったんだよ、
お前が就職出来るような会社の専務なんて、
世間的には吹けば飛ぶよな存在だぜ

娘
でも結果的にはママがパパを、
専務の娘さんから略奪しちゃったわけでしょ

秀樹
(笑って)
こいつあの後コンビニで娘さんに土下座して謝ってな、
真面目だから(笑)
淳子さんもペコペコ頭下げて謝ってたな、真面目だから(笑)

男
(笑って)
あなたのことなんて、好きでも何でもないから全然平気って言われた
パパに言われたから仕方なく
お見合いする羽目になっただけだってさ

秀樹
これも後日談があってな、
後で聞いたんだけどあのお嬢さん、こいつの事大好きでお見合いの件も
パパに泣いておねだりしたんだと

男
誰から聞いた?

秀樹
(笑いながら)
本人から直接 
お前の真面目さが気に入ってたんだってさ
あの時あのコンビニには、知られざるもう一人の優しい
真面目なお嬢さんがいたってこったな

(秀樹ハッと気がつき)
おっと忘れてた、淳子さんに怒られちまう

(秀樹仏壇前に移動して仏具をチーン)
それにしても淳子さんあんなに早く亡くなるなんてな
前から気になってたんだが、
タイムリーパーって自分の死期分からないのか?

娘
自分の生まれる前にも、
死んじゃった後にもタイムリープできるから、
自分の死期を見張ってなきゃ分からないんじゃないかな?
私だったらそんなことしたくないし、ママもそうだったと思う
ママはパパと結婚できて幸せで
「思い残すことはお前だけだけど、真面目なパパがついてるから安心だ」
って言ってた

男
それが本当だったら良いけどな

娘
ママは真面目な正直者だから本当でーす!
じゃあここで質問でーす、真面目に生まれ育ったパパは、
真面目なママと結婚できて幸せでしたか?

男(モノローグ)
(笑っている娘と秀樹)
俺はむかーし昔こいつに言われたことを思い出していた
真面目は「得」だ、けど真面目な奴はそこをわかってない!
真面目は性格だから治らない、けどそのせいで「損」したりしない
その証拠に俺みたいないい奴に好かれてる
おまけに抜群に相性のいい妻にも、
そして二人の間に生まれた大切な娘にも愛されて・・・
そう、俺は真面目で「幸せ」だよ

男
(立ち上がって)
さぁ、そろそろ腹減ったな。

(娘に)
みんなで寿司でも食いに行くか!

娘
いいね、行こ行こ
秀樹おじさんも行くよね

(三人連れ立って縁側から庭に出る)

淳子の遺影が三人の後ろ姿を見ている

END

── 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

作品ページへ戻る

コメント

まだコメントはありません。最初のひとことをどうぞ。

しおりを挟みました