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四十歳の同窓会

奥井晴弥

2,650 字

現代小説、郷愁と喪失の物語

"四十歳、あの頃の輝きは、誰の記憶に宿るのか。"

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「ちょっと待て前田。この中の誰も、佐々木と連絡とってないってこと?」
「うん、たぶん。ていうかちょっと待てじゃねーよ。連絡とってないのは鈴村も一緒じゃん」
「まあそれはそうなんだけどさ……どうする?」
「仕方ないな……とりあえずみんなにLINEするか」

《久しぶり、前田です。この中で同級生の佐々木と最近連絡とった人いますか?鈴村も安藤も、連絡とってないみたいで》

送信。

来年、俺ら四十になるし、同窓会やらないか?
という話になったのは去年の暮れ、
仕事納めの日に中学の同級生の鈴村と安藤と三人で、居酒屋で飲んだ時だった。
通っていた中学は地方都市の、当時すでに過疎化が始まっていた郊外にあり、二クラス合計七十三人で卒業した。

それから二十五年が経った今、当時と同じ生活圏内に残っている同級生は俺ら三人を含めて十人。
その十人で「四中地元会」というLINEグループを作っている。
地元の同級生とはいえ、十人に一斉に連絡するような出来事なんて、滅多にない。
最後の履歴は、夏に近くで線状降水帯が発生して大雨が降って、状況を確認しあった時だった。

LINEグループの存在を忘れないギリギリの頻度で、何かが起こっている。
表示名のRYOJIが誰なのかわかるよう、念のため自分の苗字を本文で名乗る。
そういう感じだ。

年が明け、三が日を過ぎた四日が日曜で、早速三人で俺の家に集まり、同窓会の相談を始めた。
その時にまずわかったのが、三人とも同級生の佐々木の連絡先を知らないということだった。

LINEグループに、返信が届き始める。

《佐々木君?ごめん、連絡先知らない》

《最後にやりとりしたの、十年ぐらい前だったかな。その時の履歴は残ってないな……》

《いつだったか、海外赴任っていう話、聞かなかった?》

《SNS調べてみたけど、名前では見つけられなかった》

《後藤が仲良かった気がしたから聞いてみたけど知らないって》

《たしか前の同窓会で勤め先聞いたんだけど、ダンナの会社の取引先だし聞いてみようか?》

《前の同窓会、って十五年前でしょ?もう、いないかもよ》

《とりあえず、みんな知らなさそうなことはわかった。もしわかったら教えて。》

中学を卒業して十年、二十五歳の時の同窓会の幹事を務めたのが、佐々木だった。
たしか当時佐々木は県内でも地元から少し離れた街中の会社に勤めていて、
その近くのアパートで一人暮らしをしてるって言ってたっけ。

一学年でたったの七十三人でも、仲良しグループや派閥のようなものはできる。
佐々木は中学時代、誰とでも仲良くできる奴だった。
佐々木が嫌いだとか苦手だとかいう話は記憶にない。

昼休みにサッカーをして遊んでもいたし、放課後に教室で女子たちの雑談に混ざってもいた。
マンガもゲームもテレビも好きで、中学生男子らしい下ネタにも自然に乗っかっていた。それでいて勉強ができる子たちとも話が合っていた。
俺はよく知らないが、部活の後輩にも慕われていたらしい。

今振り返れば、狭い世界での話だ。
それでも中学での佐々木の定評は「顔が広い」だった。

だから、卒業十年の同窓会の幹事を佐々木が務めたことも、
十年の時を経て、多くの同級生が地元を出て、
それでも七十三人のうち五十人以上が集まったことも、
当然のように受け取っていた。

俺は卒業の時、クラス担任の先生の連絡先を押さえておこうなんて、考えもしなかった。
でもあの同窓会に、先生はちゃんと来ていた。二つのクラスの担任と、学年主任の三人。
もちろん佐々木が呼んだはずだ。

三年生の時のクラス担任、久保田先生は当時、まだ二十代だった。
それでも十五歳の俺たちには十分、大人に見えていた。

俺は三年生の時、佐々木とは別のクラスだった。
だから佐々木の最後のクラス担任は久保田先生じゃなかった。
それでもあの同窓会で佐々木は、
久保田先生とも妙に対等な感じで、
それでも敬意と節度に満ちた口調で、話していた。
それが少し、羨ましかった。

だから俺は、今回もまず佐々木に声をかけてみようと提案した。
中学時代、佐々木は鈴村と安藤ともよく喋っていた。
二人が佐々木の連絡先を知らないなんて、思ってもみなかった。
俺は佐々木の連絡先を知らなかった。
それでも、三人とも知らないなんて、思ってもみなかった。

あの同窓会で、俺は佐々木と何を話したか、あまり覚えていない。
別れ際に、次はいつになるかな、また十年後かな、次は前田も幹事手伝ってよ。地元なんだからさ。
そんなことを冗談ぽい口調で言われたかもしれない。
でも、あまり覚えていない。

「前田?佐々木に連絡つかなかったらどうする?」
鈴村の声で、我に返った。
「いや、佐々木はもういい。まずはいつやるかを決めよう。みんなが帰ってきやすいように、ゴールデンウィークでいいよな?幹事は俺たち三人でやればいい。地元会のみんなにも手伝ってもらおう」
「わかった。みんなにはどうやって連絡する?」
鈴村がそう聞くと、安藤が答えた。
「まず全員で連絡先知ってる奴全員に連絡すればいいんじゃね?俺らが連絡先知らない奴は、知ってそうな奴に声をかけてもらって、こっちに連絡もらえるようにして」

──結果、ゴールデンウィークの同窓会は、それなりにうまくいった。
さすがに五十人以上とはいかなかったが、半分以上、四十人近い同級生が集まった。
四中地元会の誰も先生方の連絡先がわからなくてヒヤヒヤしたが、
クラス委員だった北村さん……今は永野さんか。永野さんが知っていた。

だけど結局、誰も佐々木の連絡先を知らなかった。
永野さんも、佐々木の連絡先を誰も知らないわけがないと思って油断してた、って言ってた。

俺は同窓会のパーティ会場で、佐々木の姿を探した。
幹事なんだから、来ないことぐらいわかっていた。
なのに、誰かが繋がっていて、誰かが呼んでくれていた。
そう思いたかった。

パーティーの最中、久保田先生に話しかけられた。
久保田先生は五十歳とは思えないほど若々しく、十五年前とそれほど変わっていないように見えた。
「前田君、幹事お疲れ様でした。佐々木君が来れなかったの、残念だね。あの子のことだから忙しいんだろうね」

なんとなく、先生はまだ繋がっている、そんな気がした。
でも、聞けるわけがない。
──俺はただ、曖昧な笑いを返すしかなかった。

── 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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