辺り一面に広がるがらくたの山に、笛吹の少女が暮らしていました。
少女は、曲は何一つ覚えていませんでしたが、かわりにあらゆる"モノ"を吹くことができました。
少女が長い金属の棒に唇をつけると、その金属の棒からは、まるでその棒同士を打ち合わせたような、それでいてよく澄んだ一つの音が奏でられました。
また、少女がゲームのコントローラーらしきものへ口を添えると、まるでプラスチックのおもちゃがいっぱいに入ったおもちゃ箱をかき混ぜるような、陽気で軽快な音が鳴り響きました。
ある時は、少女が男の皺のある指を咥えたところ、軟体動物の交尾のような気持ち悪い音が漏れたので、その男は悪人ということになりました。というのも彼は元から嫌われていたためです。
しかし、未だ彼女は、自分の身体を吹いてみようと試みたことは、ただの一度もなかったのでした。
しかし、とうとうその日が来ました。
少女は積み上がったガラクタの頂上、家具の残骸らしき、平で厚みのある板の上に腰を下ろしていました。その日、彼女の周囲には、彼女の興味を引くものは一つもありませんでした。ガラクタの山の間を練り歩き、そこに転がるガラクタの数々を見るには見ていたのですが、少女は一つも拾うことはせず、また一つも口をつけることはしませんでした。
そこで彼女は自分の指をまじまじと見つめました。細く、しなやかで、肌は白く、それでいて薄汚れた指。もし、この指を吹いたら……私はどんな音を奏でるのだろう。
右手の人差し指を唇に当てました。それから大気を肺に溜め込んで、ゆっくりと唇の先に吹きました。
すると、放屁のような汚らしい音がガラクタの山に一面に響いたので、彼女は驚いて飛び上がりました。
少女はショックでした。そんなはずはない、ともう一度自身の指を吹きました。
すると、今度は髪をかきあげた時のような、あるいは獣と獣がすれ違い毛皮がかすかに触れ合ったときのような、かぼそい、それでいて生々しさという厚みのある音が聞こえました。
少女はまた驚きました。一つの"モノ"を吹いて、異なる音が奏でられるのは、初めての経験だったからです。
そして彼女がもう一度自身の指を吹くと、最後には、まるで黒い夜空に満点の星空を散りばめたような、見たことも聞いたこともない音が奏でられました。それは、漆黒の夜空を滑らかな布地にしたような手触りのある音と、煌めく星々が囁くような神々しい音とのニ重奏でした。
次の日も、その次の日も、彼女は自分自身を吹き、自身の中に新たな音を発見していきました。
また、少しずつですが、狙った音を奏でることもできるようになり、彼女の名声は、ガラクタの山の向こうの街まで、そのさらに外の世界の人々にまで届くようになっていきました。
そうして、齢60を過ぎた頃には、彼女はたった一人のオーケストラでした。
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