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悪い意味で良い人

NOB

2,961 字

切ないすれ違いを描く現代恋愛劇

"その優しさが、恋を終わらせた。誰も悪くない、だから、どうしようもなく切ない。"

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「悪い意味で良い人と呼ばれて」

 ◽️とあるレストラン、円卓に男性Nと女性Sが向き合って座っている。
 Nは、重苦しい固い表情
 Sは、貼り付けたような笑顔で、無理に明るく振る舞っている

S「久しぶりだね」

N「うん、2ヶ月くらいかな?前に会ったの、バレンタインだったし」

S「(視線落として)そうだったね、元気だった?

N「うん、君も元気そうで良かった」

 飲みものが運ばれてきて、グラスを合わせる
 しばし沈黙。

S「(意を決して)あの留守電の返事...聞きたい?...よね」

N「もちろん。だけど...」

N「(溜め息混じりに)良い返事じゃないことは、わかるよ」

N「その様子を見てたら」

 一度テーブルに顔をついて、Nを見上げるS

S「ぜんぜん気づかなかったから」

S「いつも、踏み込んでこようとしなかったから」

S「あなたは、私に興味ないかと思ってたから」

S「お付き合い...してる人が、できたの」

 天を仰ぐN、グラスのビールを飲み干す。

N「だと、思ったよ」

 心配げにNを見るS

N「電話もなかなか繋がらなくなったし、誘って断る時の声も弾んでたし」

 テーブルに置いた指先を見つめるN

S「なんで?」

N「何が?」

S「知り合って半年だよ。なんでもっと早く言ってくれなかったの」 

N「(グラスにビールを注ぎながら)距離を、詰めているつもりだった」

S「距離?」

N「うん、君は、ちゃんと自分の将来の事を考えて、自分のやりたい事のために、仕事も辞めて、資格も取って、努力して、今はそこで頑張ってるじゃないか」

S「それは、あなたが後押ししてくれたからで...」

N「君はずっと遠くにいて、まだまだ追いつけないと思ったんだ」

S「だけどさ、コンクールで最終選考に残ったんでしょう?あなたの脚本、それってすごいことだよ」

N「(窓の外のネオンを見る)あれだって、まだ入賞したわけじゃない。でも、あれを書けたのも、最近仕事にも身が入って、そこそこ契約も取れるようになってさ」
N「あれが賞を取って、映画になったら、やっと対等になれると、思ったけど、間に合わなかったね」
 
S「対等って……あなたが見てた私って、そこまでなの?」

N「最後までチャンスが残ったのも、全部おかげ様だよ。ありがとう」

S「あなたは、自分が思ってるより、ずっとちゃんとしてるよ」

 目を閉じて、深い溜め息をこぼすS

S「...なんか、悔しいな」

N「(苦笑)なんで?君には、決まった人がいるんだろう?」

N「...気にする必要ないよ」

S「変なの」
S「あなたは、優しいし、色々知ってるし」
S「普通にちゃんと伝えれば、断る人いないよ」

N「でも、11人目だよ、君で」

S「なんのこと?」

N「フラれるの」

S「あれ、大袈裟に言ってると思ってたけど、なんか、わかる気がする……」

 店内にまた、沈黙が訪れる。
 重い空気に、Sが口を開く。

S「あのさ、今夜、これから」

 じっとSを見つめるN

S「もう、最後だし、色々連れて行ってもらって楽しかったし、その、最後までは言わせないで」

 Nは目を見開いて、Sの顔を見る。
 Sは、俯きながらも、チラチラとNの様子を伺う。

N「その申し出はありがたいけれど、それはだめだ」

S「え?」

N「君には、もう決まった人がいるんだろう?申し訳ないよ。」

N「君にも、その人にも」

S「それは、貴方が気にすることじゃないよ」

N「同じ人を好きになった相手だ、その人に、嫌な思いはさせたくない」

S「なんで?」

N「何より、君に、そんな自分を安売りするような真似をして欲しくない」
 
S「何よ……それ、ここまできて、考えてくれるんだ、私のこと」
 
N「君が、それだけ大切だったし、自分を大事にしてほしいからね」

S「じゃあ、私はどうなるの?」

N「え?」
 
S「ちょっとはさ、甘い誘いにホイホイ乗ってくる、みたいな感じになってよ」
S「マイナスなところ見せてよ」
S「そうじゃなきゃさ、わたし」
S「あなたが、しっかりした人だと辛いよ」
S「気づけなかった、選べなかった……」
S「こんなに、自分を大切に思ってくれた人を」

N「……当たり前のことだよ」

 また、天を仰ぐN

S「良い人だ、悪い意味で」

S「(口調がきつくなる)あなたは、それじゃあこのままだよ。ずっと良い人のまま」
S「何人と出会って、何回恋しても、男の人が、ただの良い人になったらおしまいなんだからね」

N「うん(グラスのビールを飲み干す)ありがとう」

 店を出て向き合う二人

S「じゃあ、ここで」

N「待って、駅まで送るよ」

S「いいよ」

N「送らせて、ください」 

S「(噛み締めるように)...はい」

 映画を見終わったあと、ミラーに巻かれた黄色い札。
 交番で切符を切られてる間にみた、ベンチに座る退屈そうな姿。

警察「彼女待ってるから、早く行ってやんな」

N「まだ、違うんですよ。なって、くれますかね?」

警察「あちゃあ、これはポイントさげたね」

 水族館、イルカショーに夢中で、満面の笑みでNに顔を向けるS

S「かわい〜」

N(あんたもな)

 千葉側からアクアラインの、海中トンネルの入り口を、真正面にした時。

S「(テンション高く)ねえ、見て見て!凄いよ」

N「(ハンドルを握り、目を泳がせて)いや、危ないから」

 Nの肩をバシバシ叩くS

S「だって本当に凄いから、ほら」

N「(にやけて)だから、危ないって!」

 地下鉄の改札前で、向き合うふたり

N「今まで、ありがとう、元気でね」

S「うん、あなたも、遠慮しないで、何かあったら電話...してね」

 改札をくぐり、ホームへと降りて行く
 Sの背中に向かって呟くN

N「.....さようなら」

 それから、5年後。
 駅前の雑踏の中、携帯を耳に当てるN

N「もしもし?あの...わかるかな?」

S「N...くん?」

N「(微笑む)覚えていてくれたんだ、嬉しいな」

S「どうしたの?久しぶり」

N「実は、東京離れて、故郷に帰る事になってさ」

S「そうなんだ」

N「だから、最後に会いたいな、なんて、無理だよね」

S「うん、あ、ちょっと待ってね」

 受話器の向こうから、赤ん坊の泣き声。

N「赤ちゃん、いるんだ。おめでとう!それじゃあ無理だね」

S「ごめんね、私も東京にいないんだ」

N「そうなの!?」

S「うん、北海道」

 時は三月

N「それは、また、なまら寒いっしょ?」

S「うん、なまら寒いよ」

N「幸せなんだね」

S「まあね」

N「俺、こっちに12年居たけど、君との思い出が一番楽しかったよ。ありがとう」

S「こっちこそ、でも、そっか(少し寂しげに)
帰っちゃうんだ......」

N「君がずっと幸せでありますように」

S「あなたも、頑張ってね」

N「いつまでも、明るく笑って暮らす君が大好きです」
N「それじゃ、元気でね」

おしまい

── 了 ──

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