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暗転する短編

M46

930 字

戦場文学、心理スリラー

"絶望の淵で、一瞬の希望が裏切られる戦場の暗転。"

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 背の高い枯れ草を踏み倒して走る。背嚢は置いてきた。小銃は弾切れ。投擲弾の類いは持たされなかった。物入れを探ってみる。刃物でもなんでもいい、ないよりましだと二度やって、見つかったのはマッチが一本だった。正真正銘の丸腰、途端に背筋が寒くなる。戦場で一つも武器がないことなんて、一度の経験もない。それに隣に誰かしらがいたし、上官の指示もあった。今は一人、敵に背を向け逃げている。
 だめだ、勝てない。どうにも虚しい気持ちがして膝が折れる。いや違う、俺は帝国軍人だ。こんなことで諦めたりしない。命が終わるその時まで、誇り高く戦い続けるのだ。勝てないなどと考えてはならぬ。お国のために、内地の家族のために、徹底抗戦せねば。
 黒色をした森がさっきよりも近い。思ったより痩せているらしい、あそこで近接に持ち込むつもりでいたのに。体術の成績は良かったとは言えない。木々があれば多少銃を封じられるはずだった——まて、なぜ既に撃たれていない。向こうも銃が無いのか。ならば武器を奪って、
 出そうとした右足が支えて、青黒かった視界が枯草色に反転する。小銃を抱えた手では固い地面を受け止められずに、頭から突っ込んだ。
 まずい。立たないと。走らないと。起きあがろうとし、地面に引き倒されて気づいた。視界が回る。額から血が出ている。頭を打ったのだ。
 青い土と血の臭いに、俄かにかっとなった。何でこんな時に限ってゲートルが解けるんだ。何でこんな所に丁度石があるんだ。あと少しで森だったのに。勝機があったのに!
 さく、さく、敵が俺の轍を辿って歩く音が聞こえてくる。ああ、もう追いつかれたっていうのか。両手で小銃を構えたいが、支えなしではひっくりかえりそうだ。向こうは銃こそないといえ、こちらは全くの丸腰、まともに起き上がれさえしない。こんなのでは、抵抗さえ出来るか——。乱れた自分の息の合間に、勿体ぶるように間を開けた足音が、一歩一歩、俺の指先を冷やしていく。
 その顔を拝む前に、銃口と真っ直ぐ目があった。顔を背ける。避けられない。
 二秒、三秒——なぜ撃たない。
 情けでもかけられているのか。庇からゆっくり見上げる。もう少しで表情が分るというとき、銃床で強かに殴りつけられた。

── 了 ──

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