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蹉跌の月──Deseo la luna.──

有城 砂卯

47,759 字

現代ファンタジー恋愛小説

"月を望む少女の初恋と、交錯する夢と現実。これは、諦念と希望が織りなす、大人のためのファンタジー。"

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4・豆栗

「なんか、違ったか?近々でゲームの仕事はそれしかしてないから、確かだと思うが?」
 と、勢雄さんは言う。
 
 ええ、専ら舞台ばかりに出演されて、中学生のあたしには敷居が高うございましたから、よく承知しておりますとも。
 クリス様が勢雄さんなんじゃ?と思いはしたものの、確かめる術はなくて……あれ?

「デイムメイカーって、勢雄さんクレジットされてないじゃないですか。クリス様も巧妙に隠されてるし。なのに、なんでイベントには出てるんです?」
 
 あたしの言葉を聞いた、勢雄さんはそっぽを向いてるし、志山さんは笑って、
「そのイベントで、情報を公開する筈だったのよねー」
 なんですと!
 
「あの、中止になったイベントですか?あ!だから、公式にも“誰が”倒れたのか書かれて無かったんですか!」
「そんなとこまで見てるのかよ。そうだよ、俺と共に発表したいんだと。……ったく迷惑な話だ」

「では!またイベントがあるんですね!」
「いや、今度はネット限定だと。リアイベはやらないって、聞いてるぞ?」
「…くすっ。また、血でも吐かれたら大変ですものね」
 と、言う志山さんの突っ込みに、
「あぁ、たまたま会場にフットワークの鮮やかな看護師がいて、吐血と同時にステージに駆け寄って、息をするように応急処置を繰り広げる、なんてないだろしな。まあ、その節は世話になった」
 勢雄さん、それじゃあ、言い訳したいのか、お礼したいのか分かんないよ。

「私も、救急車で出勤させていただいて、一石二鳥でした」
「志山さん!勢雄さんの命の恩人!」
「命って…そんな現場を目の当たりにしたら、医療関係者なら当然だと思うよ」
「それでもです!ありがとうございます!」
「…ったく、お前は俺のなんなんだよ」
「ファンですけど?何か?」
「あー、ソウデスカ」

「ぷっ!あはは、おっかしい…!勢雄さんって渋さ売りにしてますぅって、顔してるのに、こんな若い子と漫才できるんだ。いやー意外な一面を見せていただきましたわ。息ぴったり!」
 って、吹き出した志山さんは、目尻を拭いながら大笑いしている。

 あたしはなんとなく勢雄さんの顔に目が行って。
 そしたら勢雄さん、なんだか間の抜けた顔してて。
「ほら、勢雄さん。笑われてますよ?」
 って、突っ込んであげたら、
「お前さんだろ?」
 って、返された。
 
 あらら。志山さん、笑いすぎて咳き込み出したよ…。

 と、勢雄さんはすっとウォーターサーバーから水を持ってきてた。
 い、いつの間に。
 志山さんに渡して、背中とんとんして。
 …………う、羨ましくなんか無いもんねっ!

───で。
 
 擦り合わせな訳ですよ。
 まず、
「スーラって、分かります?」
「クリスのとこの、メイドだろ?そうそう、そいつが二番目の子、生んだんだ。たしか旦那は……なんてったかな?」
「ラドス」
「そう!ラドス。でも変なんだよな?ラドスって、クリスの親代わりの執事をしてた記憶もあるんだよな?なんでだ?」
 質問返しされちゃった。
 
 この人、ちゃんと設定を理解してるんだろうか?それとも設定の理解と演技は別物ってことなんだろうか?わかんないけど。

「それ、ゲーム公式の設定じゃないです。まず、クリスの…メリクリオス家の使用人に名前はついてません」
 ウィキに情報もなく、攻略したあたしをなめんなよ?
「クリス様の家庭環境は、クリス様が話すだけでビジュアルはないんです」
「…?じゃあ、わらわらといた…いや、四人か。茶髪のねーちゃんたちはなんなんだ?」
 
「少なくても、ゲームではないですね。……もしかして、設定資料的なんじゃないですか?ほら、キャラとか世界観とか、表に出てない情報ってことないんですか?」
 知らんけど。

 すると、勢雄さんは言いにくそうに頭を掻いて、
「俺、そういう資料で深掘りするタイプじゃねーんだよな。だから、見てない。台本と現場のノリ。あとはディレクションで補完、でなんとかなんだよ」
 
 そういうものなのか?
 あたしは分からない世界だ。
 プロってすごいのね
 
「考えるな、感じろって訳ですか?」
と、志山さんがコロコロと笑いながら、あたしにウィンク。
 
「さすがにそれは雑じゃねーか」
勢雄さんの探るような視線で、頭ポンポンされて。「セクハラじゃねーぞ」って、手を引っ込めたけど――寧ろ御褒美。
 
 あ、…気遣われてるんだ……?……もう…自己嫌悪。
 うー! えっと…
「プロのお仕事、ってことですね!」
 なんて素頓狂なこと、言っちゃった。
 勢雄さんと、志山さんはきょとんとしたあと、「そうそう、そんなとこ」って言ってくれた。

「……で?結局それがなんなんだ?」
 ん。そうですよね。
 核心を見失うところでした。

 志山さんとあたしは顔を見合わせて、頷きあった。
「スーラやらなんやらは、あたしも夢で見たんですよー。で。」
 
 バラエティー宜しく、手の平を志山さんに向ける。次どうぞ。
「図らずも、私も夢で見たんですよ。物語ゲームで殺される子視点で、クリス様の二番目の子、ミリアの。」

 ん。わかるよ、勢雄さん。
 中二病を目の当たりにして、二の句が継げないだね。
 呆れてるのか、可哀相なのか。
 そんな顔。
  
「……流行りのどっか行っちまう系か?お前ら、大丈夫か?」
「……まあ…私も実際、仕事中この病院でセイレン様見るまで、ただの夢なんだと思ってました」

「――はあぁ?病院で?この?」
「はい。この病院で、です――」

 すると、勢雄さんは拳で、とんとんって唇を叩いて黙ってしまった。
 長考。
 談話室のテレビの音。
 他の人の話し声。
 エアコンの音、がノイズのように流れ出す。
 ぼこっと、ウォーターサーバーが音を立てたとき、ようやっと勢雄さんが口を開いた。

「……殺される子って、ラウノか?」

 志山さんの目、後ろからぽんって叩いたら、ぽろって落ちそうなくらい見開いて頷いた。
 
 スーラあたしが、いなくなった後のお話展開。
 ――――あたしは、勢雄さんに何を教えたいのだろう?
 何を、分かってもらいたいんだろう。

「…はあぁ……」
 って、勢雄さんの深く長い溜め息。
 ご自分の頭をぐしゃぐしゃって掻きむしって。
 勢雄さんはあたしの顔をじいって見て、
 ふわって頭に手を置くと、ワシワシしてきた。
 お風呂の回数制限があるから、きれいじゃないですよ?とでも言いたかったけど、言えなくて。

「ま、そんな不思議なことも、あっていいじゃねーか?」
 って、ひどく優しい顔で微笑んでくれた。
「……それに」
 って、神妙な面持ちに変化して続けたのは、
「今更、合わせるようでなんだが、俺のも夢だ。ここに運ばれて治療するのに痛み止め打たれて、朦朧としてて。たぶんあれだな、イベントの流れで、ワケわかんなくなってたのかな?」
 
 話を合わせてくれてるのかな?とも思ったけど、勢雄さんの手はずっとあたしの頭に置かれていて、むず痒い、
「で、たぶん脳内電波かなんかで共通の夢を見ましたな、お話なのか?」
 あ、勢雄さん、頭ワシワシ止めないで。
 離された手を名残惜しく眺めていたら、
「ここだけの話なんですけど」
 と、志山さんは、勢雄さんとあたしを引き寄せて、内緒話体勢をとった。
 
 うんと、声を落として
「私が見たセイレン様が消えた時、ひとりの患者さんが亡くなったんです。きらきらと光って、天使みたいに消えたんです」

 昨日話してくれたことと、内容こそ同じだったけど、志山さんの言葉は熱を帯びていた。

「んー…その、なんか違うゲームの世界があるとしてよ?じゃあ、クリスが流行りのループしてるってのは、一体何なんだか検討つくか?」
 
「ループ?」
 あたしは、志山さんと顔を見合せる。
「デイムメイカーに魔法はないですよ?」
「魔法かはしらん。黒髪の子と結婚して、その後――巻き戻った?そういや、いつもと違うって思ったっけ?白い霧みたいな靄に包まれた」
 馬鹿話と一笑しないどころか、顎に手を当てて集中する勢雄さん。
 
「なかなかに、壮大でしんどそうな夢見てますね」
「だから、設定って思ったんだろ。俺が声を録ってない部分の――必要最低資料って勘違いしたんだろうよ。スチル見てるみたいだったから」

 ――スチル、か。
 あ、もしかして、そう思ってあたしはスマホを探った。
 
「奥の手、になるかは謎ですが、これ見てみません?」
 

── 第4章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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