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蹉跌の月──Deseo la luna.──

有城 砂卯

47,759 字

現代ファンタジー恋愛小説

"月を望む少女の初恋と、交錯する夢と現実。これは、諦念と希望が織りなす、大人のためのファンタジー。"

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『独り言ち──変若水/ヲチミズ』side;勢雄

 ───ああ、そうだ。
 
 役者になりたかった。
 舞台でも、映画でもいい。
 重厚な、存在感のあるそんな役者。
 
 食うために受けた吹き替えのオーディションで、うっかり役がついちまって、うっかり人気なんか出てしまって、ずるずると抜け出せなくなって。

 果ては歌ったり、芝居しない舞台ステージに引っ張り出されたり。
 そんで、まぁ、俺もちやほやされて、舞い上がって。
 
 でも、芝居は芝居。
 それなりに楽しんだが、ある時すっと、熱は覚めた。

 チマチマと貯めた金が、そこそこの額になり、ちょっと休むかと、セーブしながら仕事してたら、嫁が出ていった。
 人の縁の脆さに、それなりの衝撃を受けて鬱気味になっていたら、親父が死んだ。
 
『男はね、人生に三度泣くの。
 一に産声、二に親が死んだ時、三は…財布を落とした時かしら?』
 とは、母の言い分。
『…財布?』
『昔は主君を亡くしたときとか言ったみたいだけど、そんなご時世でもないでしょ?よっくんは二つ使ったから、あとは大事なものを失くした時だね』
『……お袋の時は、どうすんだよ』
「笑えばいいんじゃないかな?」
……それ、使い方が違うんじゃないか?

『家なんて継がなくていいから、戻ってらっしゃい。……わたしと、妹だけじゃ物騒でしょ?よっくんがいたら魔除けにくらいなるから』
 っていうお袋の言葉に実家に戻った。

 ──そんな風にあっという間に十年経っていた。
 
 ふらふらと小劇場の客演やらを渡り歩いて日銭を稼いでたら、お子さま向けの番組を見ていたやつらがいい年になり、俺を表舞台に引っ張り出したがる。
 
 ……で、何で女子供のオモチャの仕事なんだよ。
 溜め息しか出ないが、金払いはいい。
 仕事は、仕事だ。

 と、割り切ろうとしていたが、気持ちは割り切れてなかったらしい。
 
 一昔前は、観客席なんざ見えもしない、でっかい小屋劇場でやってたイベントとやらは、最近ではCD屋の店頭でやるらしい。

 芝居をしない空間。
 はっきり見える客。
 押し出される苦痛。
 そりゃ、血吐いて倒れもするってもんだ。

 胃潰瘍、だと。
 ぽっかりと穴が胃に開いた。
 酒?タバコ?悪いか。

 イベント会場CD屋で気を失って、
 目覚めたら、シラナイ天井ってやつだ。
 年は取りたくないねー。

 病院でタバコ吸える場所を探してうろうろしてたら、談話室があった、が禁煙かよ。
 ったくよ。

 車椅子で、もたもたしてる子供がいたから声かけてみたら、コイツ、俺を知ってやがる。
 …中学生か?
 余所行きの顔して誂ってみりゃ、涙ぐんでやがる。
 やりすぎたか?

 何だかんだで翌日も変な縁があるのか、談話室前で声をかけられた。
 いい加減、煙草ヤニ切れが甚だしい。
 いらっとしたまま振り返ったら、怯えとる。
 すまん。
 ジュース買ってやるから、勘弁してくれ。

 なんというか、不思議な子だと思う。
 俺のファンを声高にするが、要求がない。
 もしかしたら、知らないだけなのかもしらんが、「何かやって」がない。
 いや、『だいこうかいものがたり』のキャプテンは遠回しで熱望されてるみたいだが、声にしない。
 若い子特有の、くるくる変わる表情というのは、誰のものでもいいもんだな。
 なんて思えるほどには、年食ったわけだ。
 あーあ…

 いつの間にか、看護師が合流している。
 吐血の際に、たまたま客としていた看護師。
 看護師は健全に、セイレン石舘推しらしい。
 
 ん。そうだよ。一昔前の俺のファンとか、おかしいぞ?中学生お嬢ちゃんと、思ったら高校生かい!
 入学式に入院とは気の毒なこった。
 よし、おっちゃんが遊んじゃる。
 いい暇潰しだ。
 

 ――――なんだそりゃ?
 同じゲームをやってる、嬢ちゃんと看護師。
 同じゲームに、声を入れた俺。
 ま、俺は俺の出てるところしか知らんが、それにしても、だ。
 記憶と一致しない。

 ひとつしか用意されていない結末。
 知ってる。
 そう聞いたし、台本にもそう書いてあった。
――「奇跡の聖女が見いだした、運命の救世主<メシア>」
 …………なんじゃ、そりゃ?だけど。
 聖女が出来たことで、宗教のない世界に教会が発生し、概念さえなかった物語で《《結婚式》》が行われる。
 
 じゃあ、俺が知ってる、違う物語はなんなんだ?
 二次創作なんて、見たこともないし、もちろん作らない。
 仕事は仕事。
 録音してしまったら終わり。
 その筈だ。

 でも、確かに続いている。
 
 セイレンを引き取った。
 スーラが子供を生んだ。
 ミリアと名付けた。
 ラウノと会った。
 セイレンがラウノを殺した。
 
 ――――夢?

 馬鹿げてる…で、片付けていいものか?
 
 セイレンの殺した子、ラウノ。
 それが、この看護師だとしたら?
 
 ───ラウノが霧のように消えたのは、帰った戻っただけ、とでもいうのか?

 俺は、ラウノが消えて、震えるセイレンの肩を抱いたことを思・い・出・し・て・いた。

── 第5章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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