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物語る少女とストーリーテラー

彩野リン

30,578 字

ファンタジー学園サスペンス

"物語の力で世界を紡ぐ少女と、その相棒フィンが織りなす、学園都市の光と影。"

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第5話  終業式

 警察署での事情聴取も終わり、季節は夏休みを間近に控えた一学期の終わりとなった。気温は普通に歩いても汗ばむ暑さに変わり、頭上から降り注いでくる『冷却装置』からの霧吹きの水滴が気持ちいいと日々感じるようになった。今年の夏は実家に帰省するとして、家族とどこか旅行に行こうかと奈桜は計画を考えていた。
 そして今、相も変わらず、奈桜は『ビブリオバトル』を申し込まれている。
 結果は当然のごとく、奈桜の圧勝だった。
 これで奈桜は、前半期の防衛タイトルを守り切ったことになる。
 終業式の表彰台には奈桜も成績優秀者の一人として登壇するだろう。また、隣には彼も同じように並んでいるかもしれない。
「強さに磨きがかかってきたな」
 後ろから彼の声がし、奈桜は振り返って「もちろん」と堂々と答えた。
「まだまだ、フィンの可能性を見出さなければいけない立場ですから」
 彼――朋はその言葉を聞き、感嘆と取れるような嘆息をする。
「今日の試合は、相手の力不足もあったが、前に俺と戦った時より、さらに戦況の読み方が上手くなった気がする」
「……ありがとうございます!」
 奈桜は素直にお礼を言った。朋に褒められるのはとても嬉しい。
 あの日以来、朋は頻繁に奈桜の様子をうかがいにやってきた。こちらの体調を慮おもんばかったり、『ビブリオバトル』の時には必ずと言っていいほど観客席の見晴らし席を陣取ったりしている。
 この人は本当に義理堅い性分だ。世話焼きな兄貴肌の側面もある。実に先輩らしい先輩だった。
「鈴ヶ丘先輩、そんなに気を遣わないで大丈夫ですよ。私はあの日を忘れたわけじゃないけれど、柴崎のような人を放っておかないためにも、自分を強くする鍛錬を怠らないつもりです。やわな少女ではいられません。先輩も、自分のために時間を割いてください」
「あー……、その、名前でいいから」
「はい?」
 奈桜がきょとんとすると、朋は気恥ずかしそうにそっぽを向く。この動作は彼の癖のようで、しょっちゅう見かけた。
「朋、でいいから。俺の名前」
 いちいち名字で呼びづらいだろ。鈴ヶ丘って長いし。
 ボソボソとつぶやく朋の口調は珍しく歯切れが悪くて、顔は心なしか赤くなっていて、その意味を完全に理解するには、奈桜の心は少々幼かった。
「はい、わかりました。朋先輩」
「…………ん。まあ、いいや」
 朋は頭をかき、しぶしぶと言った感じで返答した。
「俺も、奈桜って呼ぶから」
 続いて紡がれた彼の言葉を聞いて、奈桜は一瞬、心の奥底が甘い疼きを覚えた気がし、しかしそれの理由がわからず、
「はい。奈桜と呼んでください」
 と無難な答えを返した。
 朋は「相変わらずクールというか、何というか……」とブツブツ言いながらも、照れ笑いに似たクシャリとした笑みを浮かべ、踵を返す。
「じゃ、フィンの鍛錬に行く」
「あ、私も行きます」
 朋を追う奈桜の背中を、夏の風が熱く吹き抜けていく。
『学園都市』の一角、『桜ノ学園』は本日も平和にのどかに、その一方でより強固な警備AIの包囲ネットワークを張り巡らせ、生徒たちの安全を徹底完備していた。
『フィン』は、どこまで成長するのだろう。
 そして、成長した先に、どこへ行くのだろうか。
 奈桜は近くで二人、キャッキャッとはしゃいでいるデスとアリスにかまってやりながら、『フィン』の不思議な神秘性について考えていた。
 もしも、自分が大人になっても、彼らが離れないでいてくれるなら。
 それに越した幸せはないはずだ。
 だからこそ、柴崎のような人を、自分は野放しにはしないだろう。そのために、強くなりたいから、ここで良きライバルたちと一緒に切磋琢磨していきたい。
 奈桜は決めた。進むべき将来の道を。
 ――私は、この『学園都市』を、守りたい。
 決意を新たに、朋と肩を並べて歩く奈桜の頭上には、夏の盛りを迎えようとするまぶしい日の光が降り注いでいた。

   了  (原稿用紙九十一枚)*フォントサイズ11 (原稿用紙九十七枚)*フォントサイズ12

── 了 ──

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