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手のひら大の言い分

玖条詩季

945 字

日常系ユーモア掌編

"マカロン一つに込められた、少年の壮大な葛藤と、愛すべき言い訳。"

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大きなトレイに鎮座する、小さなマカロン。
 ある日の部活終わり、ケーキ屋の前で僕は激しく葛藤していた。ショーケースの中、ケーキと一緒に色とりどりのマカロンが並べられている。いつもはただ通り過ぎるのだが、今日何気なく目をやると、無性に食べたくなってしまった。
 白銀に輝くバニラ味、鮮やかなカナリア色のレモン味…。それらはまるで、宝石のようにキラキラとしている。マゼンダ色のラズベリー味は、ルビーのようだ。抑え切れない欲望が腹の中で甘く渦を巻いていく。
 しかし、だ。言うまでもなくマカロンは割高である。特にこのケーキ屋では、一つでいい値段がするのだ。しかも、今日は文房具を買ったばかりで、財布の中身も減っている。一時の小さな欲望に駆られ、無駄使いするべきではない。
 しかし、だ。そう思うほど、欲望はどうしようもなく、膨れ上がるのである。
 そんなことを考え、僕はかれこれ二十分近くショーケースの前に立ち尽くしていた。そろそろ帰らなくては…だが、このまま通りすぎる決意ができない。
 隣では、一人、また一人と買い物客が通り過ぎていく。当然その中にマカロンを買っていく客もいる。皿の上のマカロンは、刻一刻と無くなっていく。
「マカロン三つ」
「はーい」
 聞き慣れた文言に顔を上げると、母子がマカロンを買っていった。僕の母親よりもう少し若いだろうか。小さな子供を連れた母親と思しき女性は、楽しそうに子供と話していた。子供にねだられたのだろうか…それとも何かのご褒美なのだろうか。家族の分のおやつを買っていた。
 僕は家族を思い出した…そうだ、帰らなくては。もう三十分もここに止まっている。母は、今頃帰りが遅いと心配しているだろう。そして、温かいご飯と一緒に待っているに違いない。父もすでに帰っている時間だ。きっと一緒に僕を待ち侘びているのだ。
 僕は家に帰って、ご飯を食べながら今日あったことを話すのだ…そうだ、今何か食べたら、夕飯を食べ切れなくなってしまう…。
 そこまで考えて、僕はハッと膝を打った。完璧な解決策を思いつき、ようやく決意が固まったのだ。



 家族のために食後のおやつを買っていくという口実を得た僕は、マカロンを三つ買っていったのである。

── 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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