地の底から這い上がる炎が眼前を黄金に染め上げた。握られていた掌が終に力尽き、自らの掌は雲を掠め灼熱に敗れて垂れ下がる。支えを喪った身体は自重に従い地へと誘われていく。黄金は次第に煤ばみ、やがて闇と同じ色の血となって魂を焼いた。倒錯していく意識の端に身と共に沈む一粒の光が瞬く。遠ざかっていく天空の忘れ形見に縋り願う。まっていて。声なき声が溢れ出る。
この蒼い光が燃え尽きるまで待っていて。
言の葉は天高く舞い、業火に捉われた身はただ深くふかく堕ちていった。
遥かに澄み渡る蒼穹に見下ろされ、一人の少女が足下を覗いていた。また向こうを見ているの、と耳馴れた声に呼ばれ少女が振り返ると、千切れ雲の端に腰掛けたまま微笑まれる。この蒼と乳白の世界で出会った古馴染みだった。少女は瞳の奥を微かに歪め、虚空を見やる。細く唇が震えた。
私は待っているのです。
色褪せた声に、古馴染みはどうして、と問うた。少女は暫しの逡巡の後、淋しく洩らす。
貴方は聞いてくれますか。
首肯に導かれ、少女は淡い追憶に耽る。悠久の時の果てに溺れながら、静かに語り始めた。
大切なひとがいました。もうずっと前、この乳白の上の永遠(とわ)に帰らぬ旅に発つ前から。私たちは契りを交わしました。共にいようと。共にいつまでも旅をしようと。契りのしるしに蒼穹の欠片を双つに割って、どんな時も身に着けることにしました。きっと私たちを照らして繋ぎ留めてくれると思ったから。
少女は胸元から蒼い粒を取り出した。硬い光沢に映し出された瞳は、暗く朱を宿す。
けれど浮かぶ世は残酷でした。薄墨の水面(みなも)に覆われて春陽を夢む泡沫(うたかた)がひと知れず消えるようにあっけなく、私は透けてゆきました。あまりにも唐突な別れでした。いいえ、私はそれでも善かったのです。この世界で僅かばかり待っていれば必ず逢えると解ったから。なのに。
瞳の中の炎が柔く溶けてゆく。雫は少女の紡ぐ言の葉を濡らし、雲の透間から零れ出た。
あのひとは罪を犯しました。深いふかい罪を。魂の重さがこの乳白に耐えられなくなって、戒めに焼かれ烈火と共に堕ちてゆきました。遠いとおいところへ。そうして永い時が経ちました。何度沈むことのない日が廻っても、再び逢うことは叶いませんでした。
けれど――
刹那、眩い程の光が射した。少女の掌の中で蒼く輝き、壮麗に辺りを描いてゆく。幾らもしないうちに何かを告げるように震え揺らめいた。
けれど。少女の声は秘色の饗宴に包まれ、狂おしく舞い踊る。
けれど私は待っているのです。この蒼い光が燃え尽きるまで。この世界の最果てまでも待っているのです。
光が絶えた。掌の玉は煌めきを喪い、鈍く揺蕩い濁ってゆく。来し方の贖いを閉じ込めるように、朽ち果てた炎の彩(いろ)をした。
もう一粒、燃え尽きた蒼玉が雲に落ちた。
蒼に待つ
幻想悲劇、叙情詩的ファンタジー
"永遠を誓った魂の、果てなき待望と絶望。"
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