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親友の日記

玖条詩季

2,105 字

幻想文学、喪失と友情の物語

"死者が綴る、生者との最後の対話。"

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親友が死んだ。半年程度とはいえ、家族のように仲良くしていた親友が死んだ。
 
 四十九日である今日、私は親友の家を訪れた。身寄りのなかった親友の部屋を掃除することになったのだ。
 小さなアパートの一室をくまなく掃除し、親友の荷物をまとめた。親友の家をあとにしようとした時、バサリ、と何かが落ちた。私はそれを拾い上げた。一冊のノートだった。
 
 「日記」
 
 表紙にはボールペンでそう書いてあった。やたらとはらいが長い、乱雑な字。これは親友の字だと、すぐに分かった。
 私はそれを開いてみた。親友を亡くした寂しさからか、それとも単なる好奇心か、妙に気になったのだ。表紙をめくると、罫線のノートに短く書いてあった。
 
  九月十九日
   特に何もなかった。
 
 たった一行。
 ペラリとめくると、また同じ一行が書き殴ったように書かれていた。
 
  九月二十日
   特に何もなかった。
 
 何ページかめくっても、全く同じ文面だ。
 またページをめくると、そこには今までと違う一行が綴られていた。
 
  九月二十四日
   初めて友達ができた。
 
 前のページとは全く違う、丁寧な字。
 ――思い出した。親友と初めて会った日。友達になった日。あの日は、九月二十四日だった。
 次のページにはこうあった。
 
  九月二十五日
   友達が気遣ってくれた。
 
 この後もずっと、一文字一文字丁寧に綴ってあった。大抵は一行だったが、時には数行書かれていることもあった。
 
  十一月三日
   友達が俺のことを親友だと言ってくれた。
   嬉しかった。
 
 ――そういえば、親友と呼んだ時彼はとても驚き、嬉しそうだった。そうだ、確かに十一月三日だった。
 
  十ニ月十三日
   親友が俺の誕生日を祝ってくれた。
   おめでとうと初めて言われた。
   嬉しかった。
 
 ――親友の誕生日を祝った時も、彼は涙が出るほど喜んでいた。十二月十三日。間違いない。
 
  十二月二十一日
   親友が土産を買ってきてくれた。
   感謝を伝えたら、当然だと言ってくれた。
   嬉しかった。
 
 この日は修正跡が多く、紙がクチャクチャになっていた。何度も書き直したのが分かる。
 この後から、何行も書かれていることが多くなった。
 
  十二月三十日
   親友が俺の家に来た。
   そんなことは初めてだった。
   たくさん話をした。
   楽しかった。
 
  一月八日
   親友と一緒に定食屋に行った。
   美味しかった。
   親友も気に入ったみたいだ。
   俺も好きな店だから、嬉しかった。
 
  一月十ニ日
   親友の家に行った。
   人の家に行くのは初めてだったから、緊張した。
   親友はすごく丁寧にもてなしてくれた。
   いろんな話をして、楽しかった。
   また行くと約束した。
 
 この後のページは、白紙だった。次のページにも、何も書かれていない。ここで終わりなのかと思ったが、数ページめくるとまた日記が続いていた。
 
  一月二十ニ日
   久しぶりに親友の顔を見た。
   何だか疲れているみたいだ。
   何かあったんだろうか。
   俺は何を言っていいのか分からなかった。
 
 この後も、今までと同じように続いていた。とりわけ丁寧な字で書かれているページもある。
 
  一月二十五日
   親友の顔を見た。
   やっぱり疲れているみたいだ。
   それなのに、俺は何も言えなかった。
   親友なのに……
 
  二月二日
   親友が俺の家に来たらしいが、俺は眠っていたみたいだ。
   親友が残していった食べ物だけがあった。
 
  二月十三日
   何だか外が騒がしい。
   覗いてみたら、近くで事故か何かがあったらしい。
 
  二月十四日
   事故の被害者は亡くなったらしい。
   可哀想に。
   近くで葬儀が行われていた。
   そういえば、親友にしばらく会っていない。
 
  四月二日
   親友が久しぶりに家に来た。
   でも、何だか慌ただしい。
   よく分からないが、邪魔しないでおこう。
 
  五月五日
   親友と会った。
   久しぶりに顔を合わせて会話することができた。
   親友は辺りをキョロキョロと見回していた。
   動揺していたのだろうか。
   よく分からないが、嬉しい日だ。
   やっと約束を果たせる。
   また家に行こう。
 
 
 ――ピロン
 何かの通知が鳴って、ふとスマホを見た。
 
 「四月二日 十七時二十八分」
 
 もうこんな時間になっていたのか。早く帰らなければ。
 私は日記を片付け、親友の家を出た。
 

── 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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