罪と罰を天使に
ダークファンタジー、青春、サスペンス
11,574字
77.0
/ 100点
引き込み力
8.0
文体・声
7.0
人物・存在感
8.0
物語の流れ
7.0
情感・共鳴
7.0
世界・雰囲気
8.0
読後感
7.0
この評価モードは、同じ本文をもう一度評価すると総合点が平均 ±3.3点 動きます(実測)。点は帯として読んでください。
■ ジャンル・作風
ダークファンタジー、青春、サスペンス
■ キャッチコピー
死を望んだ少年少女と、堕天した天使。罪と罰が織りなす、美しくも残酷な物語。
■ 総評
『罪と罰を天使に』は、冒頭から読者を掴んで離さない、強烈な引き込み力を持ったダークファンタジーである。日常の風景から一転、少年少女が死を望み、そして一人が天使に変貌するという衝撃的な導入は、この物語がただのファンタジーではないことを雄弁に語る。ルオと恵美のパートが描く、絶望と救いの狭間にある純粋な愛と、一希とソラのパートが展開する、軽妙な日常の中の非日常という二つの時間軸が巧みに交錯し、物語に多層的な深みを与えている。特に、ソラが語る「人間が天使になる条件はね、人殺しになることと、そして自殺すること。」という真実は、従来の天使のイメージを根底から覆し、読者に倫理的な問いを突きつける。登場人物たちはそれぞれが個性的で、特にルオの恵美への献身、恵美の無邪気さの中に潜む闇、そしてソラの飄々とした態度と隠された目的が、物語に豊かな色彩を与えている。平角大我という謎多き敵役の存在も、物語のサスペンス要素を強化し、読者の好奇心を刺激する。文体は平易で読みやすく、会話文のテンポの良さがキャラクターの魅力を引き立てている。しかし、二つの時間軸の切り替わりが時に唐突に感じられる点や、登場人物たちの感情の機微がもう少し丁寧に描かれることで、より深い共鳴を生み出す余地があるだろう。終盤の夏祭りでの衝突は、今後の壮大な物語の序章として機能し、読後には強い続きへの期待感が残る。本作は、生と死、罪と罰、そして人間の存在意義といった普遍的なテーマを、独自の「天使」の概念を通して問いかける、意欲的で魅力的な作品である。その独創的な世界観と、登場人物たちの織りなすドラマは、読者の心に深く刻まれるだろう。
■ 各基準の評価
1. 引き込み力(8/10)
本作は冒頭から読者を強烈に引き込む力を持っている。「ルオ、これって靴脱ぐべきかな?」という日常的な問いかけから、一転して「立ち入り禁止のビルの屋上からルオと恵美は手を繋ぎながら全力で飛び、重力に身を任せていった」という衝撃的な展開へと雪崩れ込む。この緩急のつけ方が見事であり、読者は瞬く間に物語の世界へと誘われる。さらに、恵美が「白くて大きな羽を生やした」天使に変貌する幻想的な場面と、それに対するルオの「……きれー」という純粋な反応は、非日常の幕開けを鮮やかに告げ、読者の好奇心を強く刺激する。二つの時間軸、すなわちルオと恵美の現在、そして一希とソラの過去が並行して語られる構成も、それぞれの謎が絡み合いながら読者の探求心を煽り、物語の深層へと誘う。特に、ソラの正体や「堕落した天使」の存在、そして「怪物」の謎が次々と提示されることで、読者は真相を知りたいという強い欲求に駆られ、ページを繰る手が止まらなくなるだろう。
2. 文体・声(7/10)
本作の文体は全体的に平易で読みやすく、物語のテンポを損なわない。特に会話文は自然で、登場人物たちの個性が生き生きと表現されている。ルオと恵美のパートでは、どこか詩的で幻想的な描写が混じる一方で、一希とソラのパートでは、日常的なやり取りの中に皮肉やユーモアが散りばめられ、軽妙なリズムを生み出している。例えば、一希がソラを「クソ居候羽男」と呼ぶ場面や、「棒読みなら黙ってろっ…!」といった掛け合いは、キャラクターの関係性を鮮やかに描き出し、読者に親しみやすさを与える。地の文は、感情の直接的な描写よりも状況説明や客観的な事実の提示に徹している部分が多く、読者に解釈の余地を与える構造となっている。しかし、時折、感情の機微を捉えきれていないような、やや説明的な表現が見られる点も指摘できる。例えば、ルオが恵美の言葉を「救いの言葉にしか聞こえなかった」と語る場面など、もう少し内面描写に深みが加わることで、文体全体にさらなる奥行きが生まれるだろう。
3. 人物・存在感(8/10)
登場人物たちはそれぞれが強い個性と存在感を放っている。ルオは親友の死によって「光の方向から外れた」少年であり、恵美との出会いによって再び「笑いが込み上げてきた」経験を持つ。彼の恵美への深い愛情と献身は、「恵美、俺はね。恵美がどんなでも…ずっと側にいたいよ。」という台詞に凝縮され、その純粋さゆえの危うさが魅力となっている。恵美は無邪気な印象から一転、「ルオ、一緒に死なない?」と誘う衝撃的な一面を持ち、天使に変貌した後の「…あぁ…知られちゃったなぁ……言わないって、決めてたのに」という台詞と、その「目の奥は笑っていなかった」という描写が、彼女の抱える深い闇と秘密を暗示し、読者に強い印象を残す。一希は、ソラを「クソ居候羽男」と呼ぶなど反発しつつも、怪物の出現に際して「時間は稼がせてもらうぜ?」と立ち向かう姿に、彼の根底にある正義感と勇気が垣間見え、物語の良心として機能している。ソラは「白く、大きな羽根の生えた小柄な男」という外見と、「飛ぶの疲れるし」という飄々とした言動のギャップが魅力的であり、「人間が天使になる条件はね、人殺しになることと、そして自殺すること。」と語る彼の言葉は、物語の核心を突き、その正体と目的への興味を掻き立てる。平角大我もまた、冷静沈着な敵役として、物語に深みを与えている。
4. 物語の流れ(7/10)
物語は冒頭のルオと恵美の「飛び降り」と「天使化」という衝撃的な導入から始まり、読者の心を一瞬で掴む。その後、一希とソラの日常パートに切り替わり、世界観や設定が徐々に明かされていく構成は、読者に情報を整理させながら物語に没入させる効果がある。平角大我の登場により、物語の伏線が回収され始め、ルオと恵美のパートと一希とソラのパートが交錯する展開は、緊張感を高め、物語に奥行きを与えている。特に、ルオの過去の回想が挿入されることで、彼の行動原理や恵美との関係性が深く理解できるようになっている。しかし、二つの時間軸の切り替わりがやや唐突に感じられる箇所もあり、読者が時間軸の把握に集中力を要する場面も見受けられる。例えば、ルオと恵美の過去が語られる部分と、現在の彼らの状況が交互に描かれることで、物語の連続性が一時的に途切れる印象を受ける。終盤の夏祭りでの対決シーンは、複数の登場人物の思惑が絡み合い、今後の壮大な展開への期待感を高める見事なクライマックスとなっている。
5. 情感・共鳴(7/10)
ルオの親友の死による深い絶望と、恵美との出会いによる救い、そして共に死を望むに至るまでの心の動きは、読者に深い共感を呼び起こす可能性がある。「こんな単純な言葉をかけられたのは久しぶりだった。親でさえずっと気遣って、同情と心配の言葉だけだったのに。」というルオの心情描写は、孤独を抱える若者の内面を鮮やかに描き出し、彼の感情に寄り添うことを促す。恵美の「ルオ、一緒に死なない?」という台詞は、一見すると衝撃的だが、ルオにとっては「救いの言葉」として響くという逆説的な感情が、読者の心に強く訴えかける。ソラの「天使はね、存在しない方がいいんだ。」という言葉や、平角の「人間は、天使に憧れるものだろう?」という問いかけは、生と死、罪と罰、そして人間の存在意義といった普遍的なテーマを提示し、読者に深く考えさせる。ただし、登場人物たちの感情の機微が、もう少し丁寧に描かれることで、より深い共鳴を生み出す余地がある。特に、恵美がなぜ「死」を望んだのか、その背景にある具体的な苦悩が描かれることで、彼女の行動への理解が深まり、読者の感情移入を一層促すだろう。
6. 世界・雰囲気(8/10)
本作は「立ち入り禁止のビルの屋上」から飛び降りるという冒頭の場面から、非日常的な「天使」の存在、そして「怪物」の出現に至るまで、一貫してダークファンタジーの雰囲気を漂わせている。田舎ののどかな風景と、そこに突如現れる「白く、大きな羽根の生やした小柄な男」ソラという対比が、独特の幻想的な雰囲気を醸し出し、読者の想像力を刺激する。「堕落した天使」「回収役」「人間が天使になる条件」といった設定が、物語の世界観に深みを与え、読者をその独自のルールへと引き込む。特に、人間が天使になる条件が「人殺しになることと、そして自殺すること」という衝撃的な真実が明かされることで、この世界の倫理観や価値観が大きく揺さぶられ、物語の持つダークな側面が強調される。しかし、世界観の提示がやや説明的になる部分もあり、もう少し描写を通じて自然に理解させる工夫があると、より没入感が高まるだろう。例えば、天使の能力や怪物の詳細な描写など、視覚的なイメージを喚起する表現が加わることで、世界観のリアリティがさらに増すはずだ。
7. 読後感(7/10)
物語の終盤、夏祭りの場面で複数の勢力が衝突する展開は、今後の壮大な戦いを予感させ、読者に強い余韻を残す。「一希、どうするかは君次第だよ。僕は構ってあげないから。」というソラの言葉と、一希が怪物に向かって走り出す場面で物語が閉じられるため、読者は続きを強く期待する。この物語が提示する「天使」の概念は、既存のイメージを覆すものであり、その独自性が読者に強い印象を与える。「罪と罰を天使に」というタイトルが、物語全体に深く響き渡り、登場人物たちの行動や選択が持つ意味を再考させる。特に、人間が天使になる条件が「人殺しになることと、そして自殺すること」という衝撃的な真実が明かされたことで、ルオと恵美、そしてソラの抱える「罪」の重さが読者の心に深く刻まれる。全体として、多くの謎が残されており、回収されていない伏線も多いため、読後には続きを強く求める気持ちが残る。この作品は、読者に思考の余地を与え、物語の深淵へと誘う魅力に満ちている。
■ この作品の「いちばんの輝き」
本作で最も印象的なのは、ルオと恵美がビルの屋上から飛び降り、恵美が天使に変貌する場面である。絶望の淵からの飛翔が、まさかの幻想的な変貌へと繋がるこの描写は、物語の核心を象徴する。「ルオは落ちる景色が完全に完全に止まって見えていた。恵美は軽かったからか、恵美と繋いでいた右手はルオよりも高い位置にあった。ふと、上を見上げてみた。そこには、白くて大きな羽を生やした恵美が空中に留まっていた。」という一連の描写は、時間の感覚が歪むほどの衝撃と、現実離れした美しさを同時に表現しており、読者の脳裏に鮮烈なイメージを焼き付ける。そして、ルオが驚きや恐怖ではなく、最初に発した言葉が「……きれー」であったという点に、彼の恵美への純粋な感情と、この物語が持つ独特の美意識が凝縮されている。このシーンは、読者を一瞬で作品世界へと引き込み、その後の展開への期待感を最大限に高める、まさに物語の幕開けを飾るにふさわしい珠玉の一節である。
■ 次作への期待と提言
本作は、その独創的な世界観と魅力的なキャラクターによって、読者を強く惹きつける力を持っています。しかし、さらなる高みを目指すために、いくつかの点について考察を深めてみてはいかがでしょうか。まず、二つの時間軸の切り替わりについて、もう少しスムーズな移行を意識することで、読者の混乱を軽減し、物語への没入感を高めることができるでしょう。例えば、章立てや視点人物の明示をより明確にする、あるいは、各パートの終わりに次のパートへの橋渡しとなるような示唆を盛り込むなどの工夫が考えられます。次に、登場人物の内面描写、特に恵美が「死」を望むに至った具体的な背景や、彼女が抱える苦悩をさらに掘り下げることで、キャラクターへの共感を深めることができるはずです。彼女の行動原理に説得力が増し、読者はより感情移入しやすくなるでしょう。また、「天使」や「怪物」といった存在の描写を、説明的ではなく、より感覚的・視覚的に訴えかけるものにすることで、世界観のリアリティを増し、読者の想像力を一層刺激することができます。例えば、彼らの動き、質感、発する音など、五感を刺激するような描写を増やすことで、物語世界がより鮮やかに立ち上がるでしょう。これらの点を踏まえ、次作では、この素晴らしい物語の可能性をさらに広げ、読者の心に深く響く作品を創造されることを期待しております。
ダークファンタジー、青春、サスペンス
■ キャッチコピー
死を望んだ少年少女と、堕天した天使。罪と罰が織りなす、美しくも残酷な物語。
■ 総評
『罪と罰を天使に』は、冒頭から読者を掴んで離さない、強烈な引き込み力を持ったダークファンタジーである。日常の風景から一転、少年少女が死を望み、そして一人が天使に変貌するという衝撃的な導入は、この物語がただのファンタジーではないことを雄弁に語る。ルオと恵美のパートが描く、絶望と救いの狭間にある純粋な愛と、一希とソラのパートが展開する、軽妙な日常の中の非日常という二つの時間軸が巧みに交錯し、物語に多層的な深みを与えている。特に、ソラが語る「人間が天使になる条件はね、人殺しになることと、そして自殺すること。」という真実は、従来の天使のイメージを根底から覆し、読者に倫理的な問いを突きつける。登場人物たちはそれぞれが個性的で、特にルオの恵美への献身、恵美の無邪気さの中に潜む闇、そしてソラの飄々とした態度と隠された目的が、物語に豊かな色彩を与えている。平角大我という謎多き敵役の存在も、物語のサスペンス要素を強化し、読者の好奇心を刺激する。文体は平易で読みやすく、会話文のテンポの良さがキャラクターの魅力を引き立てている。しかし、二つの時間軸の切り替わりが時に唐突に感じられる点や、登場人物たちの感情の機微がもう少し丁寧に描かれることで、より深い共鳴を生み出す余地があるだろう。終盤の夏祭りでの衝突は、今後の壮大な物語の序章として機能し、読後には強い続きへの期待感が残る。本作は、生と死、罪と罰、そして人間の存在意義といった普遍的なテーマを、独自の「天使」の概念を通して問いかける、意欲的で魅力的な作品である。その独創的な世界観と、登場人物たちの織りなすドラマは、読者の心に深く刻まれるだろう。
■ 各基準の評価
1. 引き込み力(8/10)
本作は冒頭から読者を強烈に引き込む力を持っている。「ルオ、これって靴脱ぐべきかな?」という日常的な問いかけから、一転して「立ち入り禁止のビルの屋上からルオと恵美は手を繋ぎながら全力で飛び、重力に身を任せていった」という衝撃的な展開へと雪崩れ込む。この緩急のつけ方が見事であり、読者は瞬く間に物語の世界へと誘われる。さらに、恵美が「白くて大きな羽を生やした」天使に変貌する幻想的な場面と、それに対するルオの「……きれー」という純粋な反応は、非日常の幕開けを鮮やかに告げ、読者の好奇心を強く刺激する。二つの時間軸、すなわちルオと恵美の現在、そして一希とソラの過去が並行して語られる構成も、それぞれの謎が絡み合いながら読者の探求心を煽り、物語の深層へと誘う。特に、ソラの正体や「堕落した天使」の存在、そして「怪物」の謎が次々と提示されることで、読者は真相を知りたいという強い欲求に駆られ、ページを繰る手が止まらなくなるだろう。
2. 文体・声(7/10)
本作の文体は全体的に平易で読みやすく、物語のテンポを損なわない。特に会話文は自然で、登場人物たちの個性が生き生きと表現されている。ルオと恵美のパートでは、どこか詩的で幻想的な描写が混じる一方で、一希とソラのパートでは、日常的なやり取りの中に皮肉やユーモアが散りばめられ、軽妙なリズムを生み出している。例えば、一希がソラを「クソ居候羽男」と呼ぶ場面や、「棒読みなら黙ってろっ…!」といった掛け合いは、キャラクターの関係性を鮮やかに描き出し、読者に親しみやすさを与える。地の文は、感情の直接的な描写よりも状況説明や客観的な事実の提示に徹している部分が多く、読者に解釈の余地を与える構造となっている。しかし、時折、感情の機微を捉えきれていないような、やや説明的な表現が見られる点も指摘できる。例えば、ルオが恵美の言葉を「救いの言葉にしか聞こえなかった」と語る場面など、もう少し内面描写に深みが加わることで、文体全体にさらなる奥行きが生まれるだろう。
3. 人物・存在感(8/10)
登場人物たちはそれぞれが強い個性と存在感を放っている。ルオは親友の死によって「光の方向から外れた」少年であり、恵美との出会いによって再び「笑いが込み上げてきた」経験を持つ。彼の恵美への深い愛情と献身は、「恵美、俺はね。恵美がどんなでも…ずっと側にいたいよ。」という台詞に凝縮され、その純粋さゆえの危うさが魅力となっている。恵美は無邪気な印象から一転、「ルオ、一緒に死なない?」と誘う衝撃的な一面を持ち、天使に変貌した後の「…あぁ…知られちゃったなぁ……言わないって、決めてたのに」という台詞と、その「目の奥は笑っていなかった」という描写が、彼女の抱える深い闇と秘密を暗示し、読者に強い印象を残す。一希は、ソラを「クソ居候羽男」と呼ぶなど反発しつつも、怪物の出現に際して「時間は稼がせてもらうぜ?」と立ち向かう姿に、彼の根底にある正義感と勇気が垣間見え、物語の良心として機能している。ソラは「白く、大きな羽根の生えた小柄な男」という外見と、「飛ぶの疲れるし」という飄々とした言動のギャップが魅力的であり、「人間が天使になる条件はね、人殺しになることと、そして自殺すること。」と語る彼の言葉は、物語の核心を突き、その正体と目的への興味を掻き立てる。平角大我もまた、冷静沈着な敵役として、物語に深みを与えている。
4. 物語の流れ(7/10)
物語は冒頭のルオと恵美の「飛び降り」と「天使化」という衝撃的な導入から始まり、読者の心を一瞬で掴む。その後、一希とソラの日常パートに切り替わり、世界観や設定が徐々に明かされていく構成は、読者に情報を整理させながら物語に没入させる効果がある。平角大我の登場により、物語の伏線が回収され始め、ルオと恵美のパートと一希とソラのパートが交錯する展開は、緊張感を高め、物語に奥行きを与えている。特に、ルオの過去の回想が挿入されることで、彼の行動原理や恵美との関係性が深く理解できるようになっている。しかし、二つの時間軸の切り替わりがやや唐突に感じられる箇所もあり、読者が時間軸の把握に集中力を要する場面も見受けられる。例えば、ルオと恵美の過去が語られる部分と、現在の彼らの状況が交互に描かれることで、物語の連続性が一時的に途切れる印象を受ける。終盤の夏祭りでの対決シーンは、複数の登場人物の思惑が絡み合い、今後の壮大な展開への期待感を高める見事なクライマックスとなっている。
5. 情感・共鳴(7/10)
ルオの親友の死による深い絶望と、恵美との出会いによる救い、そして共に死を望むに至るまでの心の動きは、読者に深い共感を呼び起こす可能性がある。「こんな単純な言葉をかけられたのは久しぶりだった。親でさえずっと気遣って、同情と心配の言葉だけだったのに。」というルオの心情描写は、孤独を抱える若者の内面を鮮やかに描き出し、彼の感情に寄り添うことを促す。恵美の「ルオ、一緒に死なない?」という台詞は、一見すると衝撃的だが、ルオにとっては「救いの言葉」として響くという逆説的な感情が、読者の心に強く訴えかける。ソラの「天使はね、存在しない方がいいんだ。」という言葉や、平角の「人間は、天使に憧れるものだろう?」という問いかけは、生と死、罪と罰、そして人間の存在意義といった普遍的なテーマを提示し、読者に深く考えさせる。ただし、登場人物たちの感情の機微が、もう少し丁寧に描かれることで、より深い共鳴を生み出す余地がある。特に、恵美がなぜ「死」を望んだのか、その背景にある具体的な苦悩が描かれることで、彼女の行動への理解が深まり、読者の感情移入を一層促すだろう。
6. 世界・雰囲気(8/10)
本作は「立ち入り禁止のビルの屋上」から飛び降りるという冒頭の場面から、非日常的な「天使」の存在、そして「怪物」の出現に至るまで、一貫してダークファンタジーの雰囲気を漂わせている。田舎ののどかな風景と、そこに突如現れる「白く、大きな羽根の生やした小柄な男」ソラという対比が、独特の幻想的な雰囲気を醸し出し、読者の想像力を刺激する。「堕落した天使」「回収役」「人間が天使になる条件」といった設定が、物語の世界観に深みを与え、読者をその独自のルールへと引き込む。特に、人間が天使になる条件が「人殺しになることと、そして自殺すること」という衝撃的な真実が明かされることで、この世界の倫理観や価値観が大きく揺さぶられ、物語の持つダークな側面が強調される。しかし、世界観の提示がやや説明的になる部分もあり、もう少し描写を通じて自然に理解させる工夫があると、より没入感が高まるだろう。例えば、天使の能力や怪物の詳細な描写など、視覚的なイメージを喚起する表現が加わることで、世界観のリアリティがさらに増すはずだ。
7. 読後感(7/10)
物語の終盤、夏祭りの場面で複数の勢力が衝突する展開は、今後の壮大な戦いを予感させ、読者に強い余韻を残す。「一希、どうするかは君次第だよ。僕は構ってあげないから。」というソラの言葉と、一希が怪物に向かって走り出す場面で物語が閉じられるため、読者は続きを強く期待する。この物語が提示する「天使」の概念は、既存のイメージを覆すものであり、その独自性が読者に強い印象を与える。「罪と罰を天使に」というタイトルが、物語全体に深く響き渡り、登場人物たちの行動や選択が持つ意味を再考させる。特に、人間が天使になる条件が「人殺しになることと、そして自殺すること」という衝撃的な真実が明かされたことで、ルオと恵美、そしてソラの抱える「罪」の重さが読者の心に深く刻まれる。全体として、多くの謎が残されており、回収されていない伏線も多いため、読後には続きを強く求める気持ちが残る。この作品は、読者に思考の余地を与え、物語の深淵へと誘う魅力に満ちている。
■ この作品の「いちばんの輝き」
本作で最も印象的なのは、ルオと恵美がビルの屋上から飛び降り、恵美が天使に変貌する場面である。絶望の淵からの飛翔が、まさかの幻想的な変貌へと繋がるこの描写は、物語の核心を象徴する。「ルオは落ちる景色が完全に完全に止まって見えていた。恵美は軽かったからか、恵美と繋いでいた右手はルオよりも高い位置にあった。ふと、上を見上げてみた。そこには、白くて大きな羽を生やした恵美が空中に留まっていた。」という一連の描写は、時間の感覚が歪むほどの衝撃と、現実離れした美しさを同時に表現しており、読者の脳裏に鮮烈なイメージを焼き付ける。そして、ルオが驚きや恐怖ではなく、最初に発した言葉が「……きれー」であったという点に、彼の恵美への純粋な感情と、この物語が持つ独特の美意識が凝縮されている。このシーンは、読者を一瞬で作品世界へと引き込み、その後の展開への期待感を最大限に高める、まさに物語の幕開けを飾るにふさわしい珠玉の一節である。
■ 次作への期待と提言
本作は、その独創的な世界観と魅力的なキャラクターによって、読者を強く惹きつける力を持っています。しかし、さらなる高みを目指すために、いくつかの点について考察を深めてみてはいかがでしょうか。まず、二つの時間軸の切り替わりについて、もう少しスムーズな移行を意識することで、読者の混乱を軽減し、物語への没入感を高めることができるでしょう。例えば、章立てや視点人物の明示をより明確にする、あるいは、各パートの終わりに次のパートへの橋渡しとなるような示唆を盛り込むなどの工夫が考えられます。次に、登場人物の内面描写、特に恵美が「死」を望むに至った具体的な背景や、彼女が抱える苦悩をさらに掘り下げることで、キャラクターへの共感を深めることができるはずです。彼女の行動原理に説得力が増し、読者はより感情移入しやすくなるでしょう。また、「天使」や「怪物」といった存在の描写を、説明的ではなく、より感覚的・視覚的に訴えかけるものにすることで、世界観のリアリティを増し、読者の想像力を一層刺激することができます。例えば、彼らの動き、質感、発する音など、五感を刺激するような描写を増やすことで、物語世界がより鮮やかに立ち上がるでしょう。これらの点を踏まえ、次作では、この素晴らしい物語の可能性をさらに広げ、読者の心に深く響く作品を創造されることを期待しております。
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